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目を覚ますとまさに「知らない天井だ」だった。
あぁやっぱり右手がない。ということはあれはたちの悪い夢ではなく、現実だということか…
少し泣きそうになった。
いや、めそめそなんてしてられない。
今の状況を確認しないといけない。
とりあえず『ステータス』や『ステータスオープン』などと心で唱えてみたが出てこなかった。
声に出さないといけないのかと小声で唱えてみたがダメ。
声をあげないといけないのかと思い普通の声で唱えてもダメだった。
仕方なく大きな声で唱えたら変化した。残念ながらステータスがあらわれた訳ではない。
「おいっ!大丈夫か?俺を見ろ。私が分かるか!?」
昨日の門番のおじさんが部屋へ入ってきて状況が変化しただけだった。
確かにおじさんが心配するのはわかる。
元の世界で片腕無くした人を病院に運んで、目を覚ましたと思えば、いきなり「ステータス」や「ステータスオープン」と叫んだら別の病院をすすめられるだろう。
少し前に治療院の人が目を覚ましたことに気づいたが、ブツブツなにか言った後に声を出したので、このおじさんを連れてきたらしい。
恥ずかしい。それに治療院の人ごめんなさい。奇行や悪魔憑きに見えましたよね。
うん。ここはあのパターンでいこう。
「えっと、確か…門で助けてくれた方ですよね?…狼に襲われて…なんとか倒して、あれっ、僕は誰ですか?ここはどこですか?なんで僕はここに…それに僕の右腕は…」
そう記憶が無くなったパターンだ。
おじさんが僕に抱きついてきた。
少し臭い。
「いや。無理に思い出そうとするな。ゆっくりでいいんだ。それだけショックなことが起きたんだ。大丈夫。ここは安全だ」
僕の背を揺すりながら言ってくれた。優しい人みたいだ。
それから治療院の人が少し遅い朝ごはんを持ってきてくれたので、それを食べながらいろんなことを教えてくれた。
まず僕が倒れて三日目になること。おじさんの名前はケルトというらしい。『ウルウルフ』を倒したお礼もされた。
ここはストローカー帝国にあるシウマ領のローク町というらしい。
公爵領だが息子のシウマ子爵が治めているらしい。
お金は銭貨、鉄貨、銅貨、銀貨、大銀貨、金貨で大体それぞれ十倍の価値があるみたいだ。十銭貨で一鉄貨って具合に。
大体っていうのは、金属なので摩耗するため多少の誤差があるらしい。
単位はルンだ。一枚の銭貨で1ルン。多少誤差があるが日本円と同じで良い。
『ウルウルフ』の討伐報酬を貰った。大銀貨が八枚。8万ルンだった。
やっす。安すぎだろう。命をかけた値段で、しかも相手はユニークモンスターだ。それを倒して8万円とは…と悲しんでいたが…
報酬は200万ルンだったが、あのポーションが50万、入院費用が約100万。クラスメートの遺品や、『ウルウルフ』の運搬を冒険者に頼んだのでその費用。それらを差し引いて残ったのが8万になった訳だ。
それに素材を売れば300万くらいは貰えるらしい。状態がかなり良いそうだ。毛皮に傷一つついていないし、牙や爪も全て揃っているので高値がつくだろう。と言っていた。
本当に優しいおじさんだ。
普通、ボロボロな格好をした他人を高価な薬を使って助けるだろうか?しかも返ってくる保証なんてなにもないのに…
素材を売ってもう50万のポーションを渡すことを決めた。
それからステータスの見かたを教えてくれた。
ステータスを見るには身分証がいるらしく、身分証はギルドに入れば貰えるらしい。
詳しい見かたは身分証が手に入った時に教えてくれるらしい。
「それでお前のことはなんて呼べばいい?三日前はいろいろ言っていたからな。例えば━や━、それに━他には━とも言っていたな。どれが本当の名前なんだ?」
えっ…僕そんなこと言っていたの?
ケルトさんが言った名前は、僕がゲームをするときのニックネームやアニメのキャラの名前だった。
「お前他国や他領の密偵ってことはないよな?」
さっきまでの優しそうな声はどちらへ?
ケルトさんが怖い顔をしながら、威圧感な低い声だった。
「すみません。思い出せません。密偵ってことはないと思いますが…断言できません」
「そこは断言しろよ。まぁその線はないと思うがな。密偵が持ちそうな道具をなに一つ持っていなかったし、まぁ大丈夫だろう」
それでいいのだろうか?いや良くないよね。僕は違うし助かるけど…
そんな簡単に信用する門番で大丈夫なのか?
ケルトさんは優しいけど仕事ができないのかもしれないな。
「うーん。困ったな…さすがに名前がないと、どのギルドも登録出来ないぞ」
「とりあえずテリーって名乗ります」
決してあの国民的RPGやアーケードゲームに出てくるキャラをぱくったんじゃないぞ。
「まぁ良いんじゃないか。だがギルド員に事情を話すんだぞ。もし本当の名前を思い出した時に変更がスムーズになるし、いらぬ誤解をうまない」
「いらぬ誤解とはなんですか?」
「密偵だよ。愛称でもないのに登録している名前じゃなくて別の名前を呼んでいたら怪しいだろ?」
確かに。
「まぁ魔物の被害にあった奴のなかには、お前みたいな奴をたまに聞くからな」
まぁそうなる気持ちもわかる。
「それで身分証はどこで作るんだ?」
「どこって…なにがあるんですか?」
「まぁ有名なのは冒険者ギルドだな。商売始めるつもりなら商人ギルド、それから兵士に…まぁお前には無理そうだが…」
バツが悪そうに頬をかいた。
「はっきり言ってもらって助かります」
「まぁ、それがなくても無理だがな。兵士は十五歳してからだ」
「そうなんですね。十八歳じゃあ無理ですね」
「まぁ二年くらいすればそのくらいになるだろ」
「そうですね。分かりませんが、そのくらいだと思います」
初めて見ただけで年齢を当てられた。いつも2、3歳くらい下にみられるのに…
うちの高校は私服だった。高校入学して間もない頃、小学生に間違えられた時はこたえたな…
しかも一回や二回じゃない。
閑話休題。
「そうだな。俺は冒険者ギルドで登録した方が良いと思うぞ。素材をどうするか顔を出さないといけないし、ついでに登録してもらえ。」
「そうですね。そうしようかと思います。場所を教えてくれませんか?」
ケルトさんは治療院からの道順を教えてくれた。
道順を教えてくれた後「じゃあ、俺も仕事に戻るかな」と言って僕がお礼をすると出ていった。
少し…いやかなり僕は驚いていた。
コミュ障でボッチの僕が普通に喋れた…
死ぬ目にあうとなんか変わるのかもしれないな…
それにこの世界では死が隣あわせだ。そんななかでは人との繋がりは前の世界より大事だ。
それなのにコミュ障といって他人と関わらないようにすることは贅沢だ。
コミュ障でも生きていける日本ってかなり良い国だったんだな…
僕はいつもなくなって気づくんだよな。
それから部屋を出て治療院の人にお礼を言ってから治療院を出た。
その際、治療院の人に今日までの入院費用が払われているようで、今日はここに泊まれるらしい。
それから教えてもらった道順を進み、問題なく冒険者ギルドにたどり着いた。
大変だった。かなり歩きにくい。何度転びそうになったか。早く慣れないとな…
町の風景はTHE異世界って感じで、普通の人だけじゃなく動物の耳が頭の上についていたり、エルフやドワーフらしき人達もいた。しかし僕のテンションは下がっていた。
あの態度は嫌だな…右肘がないのでなのかは分からないが奇異の目で見られ、そんな目をしながらコソコソ話をしていた。
あぁコミュ障が再発する…頑張ろうと思っていたのに…
もしかするとただの被害妄想なのかもしれないが…
冒険者ギルドでもテンプレはなく受付に足を運んだ。
しかし僕を見る目は外と変わらない。
「いらっしゃいませ。本日はどのような用件でしょうか?」
「はい。三日前に討伐した『ウルウルフ』の話と冒険者登録に来ました」
「あぁ、よくなられたのですね。良かったです」
「ありがとうございます」
「まずは冒険者登録ですね。字はかけますか?」
「すみません。どうやら自分の記憶が曖昧で…自分の名前すら分からないんです」
「分かりました。私が代筆しましょう。しかし名前が分からないと登録出来ないですね」
「はい。ケルトさんにも言われました。それで…」
こんな会話をしながら、登録に必要だということで水晶に手を当てた。
その水晶は戦闘力が分かるそうだ。それも基準にしてランクが決まると説明してくれた。
すると受付けの人が一瞬驚き、同情した顔をしたので、登録に問題があるのか不安に思い聞いてみると、我に返ったのか首を振り「大丈夫です。手続きしてきますね」と言われ席を立った。
しばらくすると無事冒険者の登録が完了したので冒険者のことを聞いた。
僕のランクはもちろんGだ。
まぁそこはテンプレ通りだった。
G~Sまでランクがあって、ギルドの基準で昇級や降級をする。Cランクから試験があり、それに合格しないと昇級しない。
注意事項はまぁ常識的に行動すれば問題ない。
ちなみに親身になって担当してくれた受付してくれたのは……
ウサ耳の……
おじさんでした。
名前はウナクさんで、ギルドの副マスターを次ぐNO.3で意外に偉い人だった。
もちろんギルドの受付に、エルフらしき綺麗お姉さんや、猫耳をつけた可愛いお姉さんもいたが、そんなお姉さんと話すのはハードルが高すぎる。
それに言い訳をするなら、お姉さんのところには列が出来ていたしね。