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冒険者ギルドを出ると、雑談をしながら晩ご飯を食べるところを探した。
そこでミリムさんは僕の二つ上の18歳だとわかった。
そしてミリムさんは五つ下だと思っていることも…
抵抗してもウナクさんの二の舞になりそうだったのでしなかった。
夕ご飯の時にホーンラビットの強さはどれぐらいなのか聞いた。
もしかすると強い魔物だったのかもしれない…と淡い期待をこめて聞くと、比較的弱い魔物だった。ですよね…
正直にホーンラビットの戦闘で死にそうになったことと、運が良くて勝てたことを話した。
ミリムさんは冒険者を辞めた方がいいと言われたが、冒険者くらいしかやれないことと、冒険者として生きていきたいことを話した。
それに納得してくれたのかは分からないが、反対はされずもっと先輩を頼れと言われた。
それならばと早速頼りにした。
自分が納得するまで鍛えたいので、僕が覚えているコモンスキルとレアスキルを話して、教えてくれそうな人を聞いた。
すると、ミリムさんが『短剣術』と『気配察知』、『隠密』を教えてくれることになった。
ちなみに僕が覚えている『暗視』『脚力強化』『健脚』はパッシブらしい。
それにより多く使うことで強化されるらしい。
さすがにスーパースキル以上は厄介事の匂いしかしない。
もしかすると、スーパーくらいなら大丈夫かもしれないが、ウルトラ以上だと奴隷になってこき使われるか、またはスキルを得るために殺される未来しか見えない。
そんな騒動にミリムさんが巻きこまれたら嫌だ。
この気持ちは本心だが、ただそれは信じることをできない言い訳なのかもしれない。
閑話休題。
「本当にありがたいです」
「お礼はもう何度も聞いたにゃ」
「いえいえ。足りないくらいですよ。いつ頃教えてくれそうですか?」
「明日は休みにゃから、明日はどうかにゃ?」
「もちろん大丈夫です。お願いしてもいいですか?」
「任せるにゃ。明日はビシバシ行くから覚悟するにゃ」
「お願いします。それじゃあ師匠ですね」
「にゃ、にゃ…師匠かにゃ?」
「教えてくれるなら師匠です」
「師匠かにゃ…先輩と迷うにゃ…」
しばらく悩んでいた。晩ご飯を食べた後くらいに結論が出たみたいだった。
訓練をつけている時が師匠で、普段は先輩でいいと思うことにしたようだ。
「代わりに今日も奢らせて下さい」
「ダメにゃ!今日は師匠でもあり先輩でもある私が奢るにゃ!嫌ならこの話はなしにゃ!」
「なんかおかしくないですか?」
「おかしくないにゃ。テリーよりおかしい人はいないのにゃ」
グサッ
おかしいのかな?
うーっ…抵抗してもやぶ蛇になりそうだ。
お願いして奢ってもらうと満足そうにお店を出た。
それから10日間鍛えてもらった。
結論からいうと戦闘力が32になり、コモンスキル『回避』を覚えた。
しかし『気配察知』と『隠密』はあまりよく分からなかった。
これはミリムさんの教え方が悪いわけではなくて、本当に人それぞれらしい。
『回避』は初日に覚えた。
なんでも『回避』の取得条件はギリギリの攻撃を、10回連続で避けるもので、これを得るために一日が終了した。
10回避けたと思っても、ミリムさんが加減を間違いたりすると、1回にカウントされないのか取得出来なかった。
30回以上連続で避けた時にアナウンスが流れた。
本当にギリギリの攻撃を10回連続で避けなければならないみたいだ。
訓練内容は、『短剣術』ならミリムさんとの模擬戦、『気配察知』と『隠密』は鬼ごっこをした。
ちなみに一度も勝てたことがない。
ミリムさんはどのくらい強いのかと聞いたら、村では一番弱かったらしい。
だから冒険者じゃなく、ギルド職員をしていると言われた。
ミリムさんで弱い方なら僕はザコのなかのザコじゃないか…
ここの世界の人強すぎない?
模擬戦の時間も鬼ごっこをする時間もあまり変わっていないので、成長している気がしないが、それでも戦闘力は上がっているので成果はあるのだろう。
戦闘力が増えているから頑張れている気がする。
変わらないとしても頑張らないといけないのに、いい気なものだとは思うが、やる気の向上になるのであって良かった。
ミリムさんの戦闘力が気になって聞いてたが、乙女の秘密らしい。
訓練する時間は、ミリムさんが休みの日が三日間あったが、全て夜まで付き合ってくれた。
休みの日は本当にキツイ。
ミリムさんの休みの翌日は訓練を休みにした。
というか動けない…朝はトイレですら動きたくない気持ちになる。
仕事の日は夕方まで教えてもらった自主練をして、夕方になると冒険者ギルドに行き、ミリムさんの仕事の補助をした。補助といっても計算するだけだが…
早く終わった分、貸し切り状態の訓練場で模擬戦をして、マスターの家まで鬼ごっこをした。
自主練は『気配察知』と『隠密』を練習しながら走ることと、ジャンプをすること等、足に負荷をかけることを主にした。
それが終わると右腕の筋トレをした。
体のバランスを保つためだ。
『短剣術』を習いだして、左腕が筋肉痛になったからだ。
長くて少し固いゴム製の輪っかを右腕に通して、右足で踏み、ダンベルみたいに腕を上下した。ゴムはタルアさんから購入した。
お陰で毎日筋肉痛だ。それでも自主練は、走る距離や出来る回数が増えたので成長を感じやすい。
走る成長は間違いないが、筋トレの方は少し不安だ。ゴムが伸びただけの可能性がある…
晩ご飯は『ウルウルフ』の燻製肉を焼きながら塩を振っただけのものとパンを食べた。
なんでも魔物を食べると強くなりやすいらしい。
「効果が高いのは晩ご飯にとること」とウナクさんに聞いていたので、燻製にしてもらっていた。
料理をしているとミリムさんが羨ましそうに見ていたので、分けると言ったが僕が強くなるためにと断腸の思いで断られた。
味は美味しかった。塩だけなのに…
しかし、10日間も同じものを食うのはキツかった。
そんな感じで生活していたので、勘違いで周りの冒険者の目が一時期凄かったが、3日前にミリムさんの僕の胸をえぐる否定で、今では同情の目を頂いてる。
なかには訓練を応援してくれるいい人もいる。
そんないい人もいるが、残念ながら敵意の目を見せる人が2、3人いる。
あれを聞いたか知っているはずなのに、敵意の目をみせる意味がどこにあるのか僕には分からない。
まぁ全ての人に期待するのもなにか…
そして遂に今日、ケリーラークさんが出張から帰ってくる。
これで気になっていたことが判明する。
夜の7時に治療院に集合になった。
ミリムさんには昨日のうちにギルドに行けないことを話しておいた。
昨日はミリムさんが休みだったので辛い。
寝ていても楽にならないので、マスターの家の庭を歩いた。
楽になる時間が早くなる気がする。気がするだけでも十分だ。
それから柔軟だ。前屈で遂に左手の指先が地面についた。
まだ全然固いがコツコツやっている。
昼ご飯は近くの屋台ですませて、夕方まで部屋でぼーっとしたり、文字の勉強をした。
夜の6時の鐘がなったので治療院へ向かった。
それから治療院へ到着して、設置してある置き時計をみると6時38分くらいだった。
受付をすると部屋に案内された。受付てくれた人に案内された部屋を開けてもらった。
そこには既に全員来ていたので驚いた。
そこにいたのは鍛冶屋『ゲルマール鍛冶』主人のゲルマールさん、防具屋『タルアーマー』主人のタルアさん、治療院院長のケリーラークさん、それとあの道具屋さんの店員だった。
なんで?
「おいっ、早く入ってこい」
「すみません。お待たせしましたか?」
「いえ、大丈夫です。私達が早過ぎたんです。ゲルなんて6時の鐘の前に来ましたからね」
「うるせぇ!お前らだって、あまり変わらないじゃないか!」
「まぁいいじゃないか。無事に全員揃ったんだし…ねっ!テリー、それとリーナ」
道具屋さんの主人はリーナというらしい。
『はい』と被って返事してしまいお見合いして、すぐに目を逸らされた。
「それで皆さんお久しぶりです。僕も楽しみにしていました」
「おお、そうか。忘れているんじゃないかと心配したぞ」
「いえいえ忘れてませんよ」
「そうか。それならいい。『短剣術』を習っていると耳にしてな。少し心配だったんだ」
ホーンラビットとの死闘の話をした。
四人は話の合間合間に心配や驚きの反応をしていた。
「ゲルマールさんの言う通り、短剣だけで魔物に挑むのは変態という意味を深く理解しましたし、ゲルマールさんに頂いた短剣のお陰です。」
「そうだろそうだろ」
「それで、運良く『短剣術』のスキルを獲得したので、教えてもらったんです」
四人の表情が明るくなった。
「なるほどねぇ。納得したよ」
「さっき話で、今回の事は無くなった可能性が高い。なんて言うもんだから…私のワガママのせいで提案出来ずに無くなったと思ってたんですから…」
「すまねえな。正直俺もお前のワガママのせいだと少し思っていたからな。ガハハッ」
「ゲル!あんたも変わらないじゃないか!」
「そうだったかな?」
「全く、ゲルは変わらないね」
「お前は変わったな」
「ゲルぅ、それはどういう意味だい?」
「それはそのままの意味だ。ケリーもそう思うよな」
喧嘩が始まりそうになった。
喧嘩が良いほど仲が良いのかもしれないが、周りはとても困ることになることを知った。
お読みいただきありがとうございます。