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目が覚めカーテンを開けると、太陽はかなり昇っていた。
マスターの家に置いてある時計は10時45分を指していた。
マスターの家の案内が終わったのは9時過ぎくらいで、それから部屋へ行き、そんなにかからずに眠りについたので12時間以上寝ていたみたいだ。
それから屋敷を出て、タルアさんの防具屋さんに向かい、タルアさんに防具の説明を聞いて、いくつか購入した。
冷静に考えると攻撃より防御だと思う。僕みたいな初心者なら特に。
残念ながら、『ウルウルフ』の牙や爪は、防具作成に不向きみたいで効率の良い使い方ではないようだった。
そのため作成済みの防具を購入した。
初心者らしく頭から靴まで皮装備だ。
タルアさんは良いものを薦めて、サービスするとまで言ってくれたが断った。
それに良いものは僕には大きく、子供用のものしか装備出来なかった。
皮の装備だが思ったより高かった。全部で約50万リルだった。
やはり装備品はやはり高い。
それでもなんか強くなった気がする。
というか戦闘力を確認すると、14になっていたので強くなったのだろう。
それからゲルマールさんのお店にも行った。
その際にタルアさんから聞いていないかと確認をとられたが、正直に教えてもらっていないことを説明すると安心していた。
実際は何度か聞かないでいいのかと言われていたが…
それからお店にある短剣を貰ってお店を出た。
購入でよかったのだが無理矢理渡された。
装備すると戦闘力が18まで上がったので、良い短剣なのかもしれない。
とりあえずの装備品は手に入れたので、クエストを受けるために冒険者ギルドに行った。
屋台で軽食を購入して向かった。
Gランクのクエストボードを確認すると、薬草採取の依頼があったので、それをはがして受付に向かった。
やはり最初は薬草採取だろう。魔物退治なんかできる気がしないし…
ギルドには昼過ぎとあってかあまり人がいなかった。そんなに時間がかからず受付にいけた。
「おそようにゃ。テリーは寝ぼすけにゃ。もう昼過ぎにゃよ」
ぐっ…確かに昼過ぎだけど…
それは一昨日寝ていないからと、装備品を購入したからでと言い訳も出来たが、寝ぼすけなのは事実なのでのみこんだ。
なぜかミリムさんが嬉しそうだったし…
「…ははは。すみません。それでこの依頼について教えてほしいんですけど…」
「任せるにゃ。これは━━」
説明を聞いて僕にも出来そうだったので、クエストの受注を頼んだ。
ようやく僕も冒険者らしくなった。…気がした。
それから町を出て、薬草が採取できるところへ緊張しながらむかった。
僕なりの『気配察知』をしながらだ。
無事にミリムさんに教えてもらったところへ、たどり着いたのでホッたした。町から体感3キロくらいの位置にあった。
無事に到着できたのは『覇運』の効果かもしれない。
それから辺りを探すとすぐにいくつか見つかり、防具屋さんで買ったカバンにいれた。
採取目標数を達成できた。他にも見つけたが、乱獲を注意されていたので帰ることにした。
帰ろうとした時に木の陰から頭に角が生えたウサギが飛び出してきた。
はやっ!
野球部のピッチャーが投げる球よりも速く感じた。
実際にはそんなことはないと思うけど…
『気配察知』と『覇運』仕事しろ…
もちろん逃げの一手だ。
しかし逃げられる気がしない…
背を向けずに短剣を前にさしだして一歩一歩下がった。ウサギも警戒しているのかすぐには襲いかかってこなかった。
しかし、なにかにつまずき転びそうになった。
その隙にウサギが角をだして飛び込んできた。
その瞬間、時間がゆっくり流れた。
ウサギが近づいているスピードは遅くて、避けられそうなのに体が倒れているせいか制御がきかない。
これが走馬灯なのか…
無理だ。避けられない。頭に当たる…
恐怖で目をつぶった。
グサッ
皮の兜に角が刺さった。
ドサッ
僕は倒れた。
しかし僕は無事だった。
無敵時間が適用されたのか、『覇運』が効果を出したのかはわからないが…
ウサギは皮の兜に突き刺さっていて、身動きがかなりとり辛くなっていた。
大きくなった心拍数を落ち着かせるように、ゆっくりと近づき、ウサギの後頭部に短剣を振りおろして刺した。
一瞬ビクッとなってかなり驚いた。
【ピコンっ。レベルが上がりました。コモンスキル『健脚』を獲得しました】
【ピコンっ。武器が短剣の状態で、短剣を使い魔物を一撃での討伐を確認しました。コモンスキル『短剣術』を獲得しました】
【ピコンっ。魔物に攻撃を気づかれず一撃での討伐を確認しました。コモンスキル『隠密』を覚えました】
レベルが上がったアナウンスが聞こえたので少し安心した。少し安心したと同時に吐き気をもようした。
しかし安全ではないのでウサギを背負って町へ戻った。
ウサギを放ってすぐに逃げたかったが、皮の兜からウサギが抜けなかったので仕方なくだ。
『気配察知』と『隠密』を自分なりに使いながら帰った。
行きは早く感じたのに、帰りは体力がなくなり、ウサギを背負っているためか、『隠密』が発動して魔力が減っていたせいかは分からないが遅く感じた。
『健脚』取得したのに…
夕方くらいに無事に町へ到着した。
その時は戦闘を思い出して、吐きそうで泣きそうだった。
ゲルマールさんのいうとおり、確かに魔物を倒すのは命懸けだし、短剣だけで倒すのは変態だ。片腕で倒すのは無謀だった。
今回はたまたまだ。しかも目をつぶってしまっていたので倒せた原因も分からない。
こんな幸運がいくら『覇運』があるからといって、いつまで続くか分からない。
運はやるべきことをやったから、良くなるものだと僕は信じている。
そんなことを考えながら冒険者ギルドへ向かった。
町へ到着しても心拍数はしばらく戻らなかったが、冒険者ギルドに到着する頃にはだいぶ落ち着いた。
冒険者ギルドに入ろうとすると、その前に職員さんに誘導されて、ウサギと薬草を預け、ウサギからはずしてもらった皮の兜と木札をもらった。
普通に考えて、死体をギルド内へ入れるのはなしだよな。
ちなみにあのウサギはホーンラビットというらしい。
穴が空いた皮の兜を被る訳にはいかないので、カバンに入れてギルドのなかへ入った。
冒険者ギルドには昼間が嘘のように混んでいた。
ウナクさんじゃない男性職員の方が並んでいなかったので、そちらに並ぼうとした。
しかしミリムさんとたまたま目があってしまい、かなりガッカリした顔と耳が垂れ下がった姿を見てしまった。
仕方なくミリムさんの方へ並びなおすと、ミリムさんが喜んだように見えた。
そして、またあの目線と舌打ちを受けた。
混んでいた場合、これからは資料室で勉強をして、時間を潰してから受付をしようと心に決めた。
待っている間、ステータスを確認した。
テリー(仮) レベル4 戦闘力 23
称号 『小さな英雄』
スキル
固有ユニークスキル 『覇運』
『フリーフライ』※一部封印
『時空魔法+アルファ』
ウルトラスキル 『下克上』『不撓不屈』
スーパースキル 『最俊足』
レアスキル 『暗視』『脚力強化』
コモンスキル 『気配察知』『健脚』『短剣術』
『隠密』
結構戦闘力が上がった。5も上がった。
町へ来た頃の僕一人分強くなった…なんかあまり強くなってないような…
それでも嬉しかった。Gランクの平均には届いてないがかなり嬉しい。
あてにならないけど『健脚』と『隠密』を確認するか…
『健脚』 足が丈夫になる。
『隠密』 見つかり辛くなる。
はい。分かっていました。
ステータスの確認が終わっても、僕の番まで結構かかりそうだ。なので文字を頭のなかで復習して時間を潰した。
僕の番になるまであと一人だったのか、ミリムさんと他の冒険者の会話が聞こえてきた。
「いらっしゃいにゃ。本日はどのような用件かにゃ」
「今日は魔物を8体も討伐したぜ」
30代くらいの冒険者は木札をさしだしていた。
「確認するにゃ。少し待つにゃ」
ミリムさんは机の上の魔道具?に木札を入れていた。
ミリムさんは全員にあの感じで喋っているのか…
「レッドウルフが3匹とゴブリンが5匹で間違いないかにゃ?」
「あぁ問題ないぜ。それで合ってる」
「持ってきたレッドウルフの素材はどうするかにゃ?」
「全部売るぜ」
「牙と爪で間違いないかにゃ?」
「あぁ。毛皮をはぎとれる状況じゃなかった。すまねぇな」
「いいのにゃ。無事に帰ってくることが大事にゃ。牙と爪だけでもありがたいにゃ。嬉しいにゃ」
「今度は任せておけ!」
「お願いにゃ。…えっとレッドウルフの討伐が1匹12000リルでゴブリンが5000リル、レッドウルフの牙が全部で7000リルで牙が全部で4000リル…合わせて…」
72000リルです。
「ちょっと待つにゃ…えっと、レッドウルフが…」
…ミリムさん72000リルです。
「ゴブリンが全部で25000にゃから…」
冒険者もそわそわしていた。
…
沈黙に耐えきれなかったので、持っていた紙に72000と書いて、冒険者の後ろで紙を見せた。
「72000リルにゃ…ちょっと確認してくるにゃ」
奥の職員の人に聞いてきた。
「ミリムちゃん…計算速くなってる…いや間違ってるかもしれない…」
冒険者が驚いていた。
速くはないだろ…結構時間かかっていたから教えてあげたんだし…
確認が終わったのか、職員の人もミリムさんを褒めていた。
それを冒険者が見たのか絶句していた。
なるほど…
ミリムさんのところが並んでいる理由が、人気だからだけじゃないことがわかった。
ミリムさんが受付へ戻り、間違いないことを言って冒険者に報酬を渡した。
受け取った冒険者は苦笑いしながら、受付から離れていった。
「助かったにゃ…テリーのお陰にゃ。計算速いにゃ。尊敬するにゃ」
お礼を受け取り手続きをした。
僕のは薬草のクエストが3000リル、ホーンラビットの報酬が2000リル、素材が全部で3000リルだが、解体料金が2000リルかかるので全部で6000リル。
さっきよりは簡単だったので口を出さずに任せてみようとしたが、「えっと…」と何度かつぶやきそのたびに期待した顔をしていたので教えた。
それを職員さんに確認して帰ってきた。
「助かるにゃ。報酬は6000リルにゃ。どうするにゃ」
「今回は受け取ります。教会や屋台なんかで現金があまりないんです」
「わかったにゃ。6000リルにゃ。ここにサインするにゃ。代書するかにゃ?」
「大丈夫です。一応書いてみるので、間違っていたらごめんなさい」
「わかったにゃ。やってみるにゃ」
テリーとサインしてみた。こういうのは使わないと覚えない。
「大丈夫ですか?」
ミリムさんが残念な顔をしたので不安になった。
左手で書いたからなのか少しおかしいのかな…
「大丈夫にゃ…それで今日も資料室を借りていくにゃか?」
「いえ。今日はそのまま帰ろう…としたけどやっぱり借りていきます」
仕方ない。
「仕方ないにゃ。許可は先輩に任せるのにゃ」
お願いすると走って許可をとりにいった。
許可が下りたので、昨日と同じように時間を過ごして、昨日と同じようにギルドを出た。
お読みいただきありがとうございます