売れっ子作家だと嘘をついたクラスメイトにスケープゴートになってもらうことにした
「神崎さん、昨日更新したの読んだよ!」
「あの後どうなるの!?」
「こっそり教えてよ!」
朝のホームルーム前、神崎さんが女子達に囲まれているのを僕は横目に見ていた。
「ダメダメ、そんなの言えないって」
彼女は耳より下で結んだ小さなツインテールを大きく左右に揺らして女子達の要望を全て断っていた。
「ええ~良いじゃん、どうせ今晩また更新するんでしょ?」
「そうそう、少し早くなるだけだって」
「大体で良いからさ!」
しかし女子達は諦めようとはせず、神崎さんにぐいぐいと詰め寄った。
「だ~か~ら~、ダメだっていつも言ってるでしょ。契約とかあるんだから」
契約って便利な言葉だよね。
こう言って大人の事情を匂わせれば続きを口に出来なくても仕方ないって思えてしまうから。
「ぶーぶー」
「少しくらい良いじゃ~ん」
女子達も本当はそのことが分かっている。
それでも食い下がるのには理由があった。
「ほらほら、そろそろ先生来るよ。後で少しだけ教えてあげるから」
「やった!」
「約束だからね!」
強く押せばいつも何かを引き出せるからである。
全く、困るのは自分なのに何でそんなこと言っちゃうかなぁ。
そろそろ僕のスマホに例のアレが届くはずだ。
『ごめんなさい』
『本当にごめんなさい』
『今後の展開を教えて下さい』
『ほんの少しだけでも』
『なんでもしますから』
『私のこと好きにして良いです』
『ごめんなさい』
『迷惑ですよね』
『本当にごめんなさい』
『なんでもしますから』
『先っぽだけでも』
『教えて下さい』
『先生助けて!』
ネット小説全盛期。
彗星のごとく現れた大人気作家『たぬ吸い』。
その人物は主に異世界恋愛ジャンルで活躍し、多くの女性を虜にした。
女性心理を巧みに表現し、昼ドラのようなドロドロとした恋愛模様が世の女性達の琴線に触れたらしい。
ネット小説で好まれる爽快な展開とは真逆のタイプの作風にも関わらず、『たぬ吸い』の作品は社会現象になるほどまでに人気を博した。
新作ネット小説『罪をなすりつけられ処刑された悪役令嬢はタイムリープして真実の愛を探し求める』は今まで以上にファンタジー要素を取り入れたことで男性読者も取り入れることに成功し、不動のランキング一位の座を守り続けている。
その『たぬ吸い』の正体は僕だ。
作風的に作者は間違いなく女性だと言われているけれど、ホントなんでだろうね。
想像で書いてるだけなんだけれど、偶然女性の内面を的確に捉えてしまったらしい。
世間の夢を壊せないから作者が冴えない普通の男子高校生だなんて絶対に言えないよ。
言ったところで信じてもらえないか。
そんな『たぬ吸い』だけれど、僕が通っている高校ではクラスメイトの神崎さんが正体だと言われている。
話の流れで冗談で自分が『たぬ吸い』だと言ったら、本気で信じられてしまって引き返せなくなったパターンだ。
本当ならすぐにボロが出て嘘だとバレるはずだったのだが、そうはならなかった。
「どうしようどうしようどうしようどうしよう」
神崎さんが勘違いされた日、彼女の顔が真っ青になり一日中怯えていたのを僕は見てしまった。
それがあまりにも可哀想に思えて、彼女が離席している間にこっそりと手紙を忍ばせた。
『今後の展開を教えてあげる by本物のたぬ吸い』
手紙には少しだけ未発表の部分の文章も書いてあげた。
彼女が僕の作品を熟読しているのであれば、本物かもしれないと思ってくれるはずだ。
その手紙を見た神崎さんはビクっとして分かりやすく挙動不審になって教室中をキョロキョロと見渡した。
僕はわざと目を合わせて、手紙の送り主が自分であると教えてあげる。
そしてこれまたわざとらしく教室の外に出て人気の無い場所に移動したら彼女もついてきた。
これが僕と彼女の歪な関係の始まりだった。
「関口君が『たぬ吸い』先生だなんて嘘……だよね?」
彼女は開口一番にそう言った。
そりゃあそうだ。
誰だって『たぬ吸い』は女性だと思っているのに、男子高校生でしかもクラスメイトが本物だなんて言うのだから。
普通なら絶対に信じられない。
でもあの手紙には『たぬ吸い』の特徴を良く捉えた文章が書いてあった。
『たぬ吸い』に似せただけの文章の可能性が高いが、無視することは出来なかったと言ったところか。
「はい、これ」
「!?」
だから僕は執筆中のページを見せてあげた。
これまでの投稿履歴も分かる、いわゆる作者用ページだ。
それは正真正銘『たぬ吸い』のアカウントでログインされたページだった。
「う……うそ……」
あまりにも信じられないことだったけれど、これほどに分かりやすい証拠を見せられたら信じるしか無かった。
神崎さんはしばらくの間、事実が受け入れられずに混乱していた。
百面相みたいな顔の変化がちょっと面白かったな。
その変化は唐突に止まり、先程以上に真っ青に変わった。
「うわああああああああん! ごめんなさああああああああい!」
そして泣き出したのだった。
「ええ……」
高校生がこんなに簡単に号泣するのか、とドン引きするくらいに。
「許して下さああああああああい! なんでもしますからああああああああ!」
「こ、こら、女の子がそんなこと言っちゃダメでしょ」
「だって、だって、それ以外に許してもらう方法が分からないんだもん!」
「だもんって……」
普通の女の子だと思っていた神崎さんは、実はメンタルがやや幼かったのだった。
「別に僕は気にしてないよ」
「え?」
「だって僕は困らないし」
匿名のネットで巧妙な偽物を作って作者の品位を貶めようとするならまだしも、現実世界で嘘をついたところで僕には何も被害は無い。
だって簡単にバレるし。
実際、神崎さんだってそう思っていたから焦っていたわけでしょ。
「それより神崎さんはどうするの?」
「…………」
「あの手紙に書いてあったことは嘘じゃないよ。神崎さんが望むなら僕のフリをしてても良いけど……」
「お願いします!」
即答したけど良いのかな。
「いいの? 今すぐに謝った方が被害が少ないと思うけど」
「そんなことしたらカースト最下位になっちゃうじゃないですか!」
「えぇ? そうかなぁ」
「そうなんです! なんで『たぬ吸い』先生なのに女子の気持ちが分からないんですか!」
「いやだって、あれは想像上のお話だから。現実もそうだなんて思えないし……」
というか、現実の女性の考え方があんなにドロドロしてるなんて嫌なんだけど。
「お願いです。本当になんでもしますから助けて下さい」
「だからそういうこと言わないでよ」
「本当にしますよ? なんならここで脱ぎましょうか?」
「絶対にやめて!」
カースト最下位に落ちるより、僕に体を捧げる方がマシってことだよね。
女子の世界こわぁ。
ああ、でも確かに似たようなこと書いてるかも。
「本当に良いの? ここで謝らなかったら後には退けないよ?」
「はい!」
気持ち良い返事だ。
嘘をついた彼女が百パーセント悪いのだけれど、ここまで情けないと少しだけ同情してしまう。
「分かったよ。それじゃあ差し支えない程度に話の続きを教えてあげるね」
「ありがとうございます!」
この程度で神崎さんが助かるなら……って服に手をかけてる!
「だから脱がなくて良いよ!?」
「それじゃあどうやってお礼をすれば!?」
「お礼とか別に……あ、じゃあ彼女にな」
「なります!」
冗談で言ったのに食い気味で即答されちゃった。
神崎さん可愛いから男子にも人気があるんだよね。
でも自分で提案しておいてなんだけど、弱みを握って付き合うようで心が痛む。
「あの、本当に僕で良いの? 僕だよ?」
冴えない普通の男子高校生で、可愛い神崎さんには不釣り合いだ。
「何言ってるんですか! 大先生の彼女になれるなんて最高です!」
あぁ、売れっ子作家補正があるのね。
小説書いてて良かった。
しかし根本的な問題は解決していなかった。
「あ、これじゃあお礼にならない……」
神崎さんはどうにかして僕にお礼をしたいと思っている。
しかも付き合ってもらうのはお礼にすらならないと思っている。
このままだと彼女は全財産を僕に渡してきそうな予感があるけど、そんなのは困るから何か考えよう。
「それじゃあさ。僕のフリをしながら感想を聞いてくれないかな」
「え?」
「だって生の感想もらえたら嬉しいもん。でも作者が僕ですなんて言えないし、神崎さんが僕の代わりに聞いてくれないかな」
これなら神崎さんも『たぬ吸い』として振舞うのが後ろめたいだけじゃなくなるはずだ。
僕からの依頼で演じているって気持ちになるだろうから。
そんなことを言ったら、またお礼にならないなんて言われるから秘密だけれど。
「分かりました! 頑張ります!」
ようやく神崎さんの憂いは晴れたようだ。
ただ一つだけ心配なことがある。
「悪い感想が来るかもしれないけれど大丈夫?」
感想は必ずしも良い物だけとは限らない。
時には心を抉るような不快なものや言葉の暴力とも言えるものが来ることすらある。
現実で酷い感想は言われにくいとは思うし、作者本人では無いけれど、もし否定的な感想を聞いてしまったならば嫌な気持ちになってしまうかもしれない。
「全然大丈夫です! むしろ私がそんな感想から先生を守ります。ええと、こういうの何て言うんでしたっけ。スケープゴート?」
いや、別に生贄にするつもりは無いんだけれど。
こうして僕達の秘密の関係は始まった。
なお、付き合う件に関しては、まずはお友達からという話になった。
仲が良かったわけでもない僕らが突然付き合うことになったら不自然だから。
というのは建前で、僕が神崎さんに釣り合う男性だと自信がなかったからだけど。
――――――――
神崎さんに『たぬ吸い』のフリをしてもらって分かったことは彼女がポンコツだったということだ。
例えば反射的にありもしない展開を認めてしまうことがあるんだ。
「ステラってもうすぐ婚約破棄するんだよね!」
「え、うん」
そんな予定はしばらく無いんだけどなぁ。
他にもクラスメイトのお願いを聞いてしまうような発言をすることもある。
「マリーが超ムカつくんだけど、早くざまぁしてよ」
「だよね、分かった」
読者の意見で展開を左右させちゃダメでしょ。
少し希望を聞くくらいなら良いけれど、ざまぁみたいな大きな展開を強引にいれたら物語全体の流れに絶対に齟齬が生じてしまうもん。
後は困ったら露骨に僕の方をチラ見するのも止めて欲しい
「この後の展開どうするつもりなの? 教えてよ!」
「え? あの、ええと……」
こっち見ても助けてあげられないよ?
『先生助けて!』
『先生助けて!』
『先生助けて!』
うっそ、皆に話しかけられながらポケットに手を入れて僕にメッセージ送って来てる。器用だな。
クラスメイト達と話した内容と実際の展開が違って謝る羽目になるのは神崎さんだから、もう少し発言には気を付けた方が良いと思うよ。
いくら神崎さんが困ってるからって展開を変えるなんてことは絶対にやらないし。
この調子だと僕が少し先の展開を教えてあげる程度だと偽物だってすぐにバレちゃいそうだな。
そして実際、彼女が『たぬ吸い』で無いことはすぐに明らかになった。
でもそれは僕が予想していた流れとは全く違うものだったんだ。
その日も彼女はいつも通りに女子達に囲まれ、作品の感想を伝えられていた。
「クズ皇子のざまぁっぷり最高だったよ!」
「スカっとした~」
「どうせならもっと破滅させようよ」
今回のざまぁは好評っぽいけれど、もっと酷い結末を望んでいる女子もいるって感じか。
作品の感想欄の雰囲気とだいたい似ているかな。
僕の作風的にはあの程度が普通なんだけれど、次の作品ではもう少し過激な表現にチャレンジしてみるのも良いかも。
ネット小説だと色々なチャレンジが出来るのも良い所だよね。
その分ネガティブな意見も貰いやすくなるけれど、新たなファン層の獲得にも繋がるから良し悪しだと思う。
「あんな話の何処が良いのよ」
あれ、なんか雲行きが怪しくなって来たぞ。
神崎さんの所に普段は近寄ってこない別のグループの女子がやってきた。
「リアリティなんて全く無いし、都合良すぎだし、作者の気持ち悪い妄想の垂れ流しじゃない」
いるいる、こういう感想書いてくる人。
ネット小説を書いていると様々な否定的な意見をもらうことがある。
ひたすらに悪感情のみを並べるもの。
現実ではあり得ない点について長文でひたすら指摘するもの。
作者の人格否定をするもの。
ネット小説というくくりとタイトルだけで判断して中身を読まずに貶めるもの。
それこそ挙げたらキリがない程に様々な批判を頂くことがあって、その中には到底納得できないものや不愉快なものも多い。
でもそれにいちいち反応していたらネット小説なんて書いてられないよ。
メンタルが弱めの人は作品の感想欄を閉じた上でエゴサとかしない方が良いと思う。
僕は今ではかなり慣れて来たから平気だけれど、それでもやっぱり気分は良くない。
その大きな理由は、僕が攻撃されたことでは無くて、その感想を読んだ他の人がネガティブな気持ちになってしまうのが嫌だからだ。
「…………」
「…………」
「…………」
ほらね、さっきまで和気藹々と楽しく会話をしていた女子達が暗い空気になっちゃった。
好きな作品が貶められて気分が悪いのは作者だけじゃなくて、その作品を好きな人も同じなんだ。
だから僕はそういう空気を読めない感想は大っ嫌いだ。
どうしても言いたければ別の場所で言うかダイレクトメッセージで送って来なよ。
「せっかく楽しく会話してたのに、そういうのは皆の前で言わないでよ。空気読んで」
嫌な空気を打ち破ったのはまさかの神崎さんだった。
いつも流されて失言してしまう彼女ならば、納得出来なくても納得するような言葉を発してしまうかと思った。
でも彼女は否定的な意見を言って来た女子に向かって真っ向から反論している。
しかもその内容は僕が感じていたものと全く同じだった。
「感想を言ってあげただけじゃーん。「たぬ吸い」様は自分に都合の悪い感想は受け付けないってか」
「言いたいなら好きなだけ言えば良いじゃない。でもそれを皆に聞かせる必要なんてないでしょ。そもそもあなたのは感想なんかじゃなくてただの誹謗中傷よ」
うわぁブチ切れてる。
神崎さんもこの女子みたいな感想を読んで不快に感じてた人なのかも。
「そうよ、どうせ読んでないんでしょ」
「あれが感想だなんてマジうける。全然中身が無いし、小学生に戻って読書感想文書き直したら?」
「ダメダメ、永遠に再提出が終わらないから」
「「「キャハハハ」」」
神崎さんが堂々と言い返したと思ったら、ここがチャンスだと思ったのか他の女子も一気に攻撃し始めた。
女子って怖い。
「きゃーこわーい。いじめられちゃったー」
だが攻撃された女子は全く効いていないようでニヤニヤして不自然な演技をしている。
「SNSで『たぬ吸い』と取り巻きにいじめられたって言っちゃおー」
「なっ!」
なるほど、彼女は炎上目的で煽ったのか。
こうなるから悪意のある感想はスルーが基本なんだよね。
どうせ本物だなんて信じてもらえず彼女が炎上するだけだと思うんだけど、神崎さんは我慢出来るかな。
ここで熱くなって反論でもしようものなら彼女の思うつぼだよ。
「別にすれば良いじゃん」
おお、我慢出来た。
と思ったら全くそうじゃなかった。
「だって私『たぬ吸い』先生じゃないから嘘つき呼ばわりされるだけだし」
「は?」
「え?」
「え?」
「え?」
我慢どころかブチ切れたままだったらしく、鋭い目で相手を睨みつけながら自分が偽物だって堂々と言い放った。
「やっぱり嘘だったんじゃない! あんたたちこの女に騙されてたのよ。酷いと思わない?」
神崎さんの弱みを握ったことが分かりクレーム女子は勢いづく。
そして神崎さんが『たぬ吸い』だと思っていた女子達も、彼女に否定的な目を向けて離れようとしている。
「そうだよ、私は皆を騙した最低な女なの。無視するなりいじめるなり好きにしたら?」
でも神崎さんは全く退こうとしなかった。
「『たぬ吸い』先生が侮辱されることに比べたら、そのくらいどうってことないもん」
いやいや、どうってことあるだろ。
そんなの僕が嫌だよ。
「だって私は『たぬ吸い』先生の作品が大好きだから」
そのあまりにも堂々とした物言いに、神崎さんの周囲の女子達は唖然としていた。
クレーム女子も何も言えずに戸惑っている。
神崎さんはいつもは気弱な感じなので、まさかこの状況で開き直って刃向かってくるとは思わなかったのだろう。
それにしても神崎さんがクレームに対して堂々と言ってくれたのはスカっとしたな。
大好きって言ってもらえたのも凄い嬉しかった。
普段の彼女とは違って格好良くて、少しドキドキしちゃった。
結局この戦いはチャイムによって勝敗つかずで終わった。
――――――――
「先生ごめんなさい、せっかく助けてくれたのに台無しにしちゃった」
その日の放課後、神崎さんは僕に謝って来た。
「気にしてないよ。むしろありがとう」
「ふぇ?」
「大好きって言ってくれて嬉しかった」
「大好きです!」
「あはは」
僕の作品が、だよね。
いつも通りの妙な勢いがある感じ、凹んでは無さそうだ。
「それよりこれから大丈夫?」
「う~ん、大丈夫じゃないです」
「やっぱりそうなんだ……」
あの事件以降、神崎さんの周囲には女子が近づかなくなってたから心配だったんだ。
「でも気にしないでください。私が悪かっただけなので自業自得ですから!」
「神崎さんってネガティブなのかポジティブなのか良く分からないね」
「そうですか?」
嘘をついてしまったときはあんなに慌ててたのに、今では肝が据わっているように見える。
「それはきっと先生にお会いできたからですよ」
「え?」
「尊敬する『たぬ吸い』先生とこうしてお話出来ると思うと、それ以外はどうでも良いって言うか……」
「っ!?」
ああもう女子ってずるい!
こんなこと言われたら嬉しくてどうにかしてあげたくなっちゃうに決まってるじゃん。
「神崎さんは僕の知り合いってことにしなよ」
「え?」
「嘘をついたことをちゃんと皆に謝って、そして『たぬ吸い』の話で盛り上がれば良い。これからもお話を教えてあげるからさ」
彼女が完全に嫌われてしまったのならば話など聞いてもらえないかもしれないが、多分そうはならないと思う。
それだけあの時の彼女の態度は力強く、『たぬ吸い』のことが本気で好きなのだと思えたから。
きっと彼女と同じくらい『たぬ吸い』のことが好きな仲間がいれば、誠心誠意謝ればまた以前のように僕の作品の話で盛り上がることが出来るはずだ。
僕の作品が本当にリアルに近いのであれば、間違いなくそうなるだろう。
「どうしてそこまで気にしてくれるのですか?」
どうしてってそんなの決まってるじゃないか。
「だって僕達は友達だろ」
「!」
あの時ヘタれなければ恋人だったけどね。
というか恋人って言っておけば良かったなぁなんてちょっと後悔している。
『だって私は『たぬ吸い』先生の作品が大好きだから』
この時から彼女に友達以上の気持ちを抱きつつあったから。
なんて曖昧な表現を使ってしまうのは、やっぱり僕がヘタれってことなのかな。
ちなみに数日後。
彼女は以前のように女子達に囲まれることは無かったが、二人の女子と一緒に静かに談笑していた。
その顔は以前よりも遥かに生き生きとしていたように僕には見えた。
短編なのであっさりと嘘だってばらしちゃいましたが、口滑らす系女子と売れっ子作家とのコンビ話なら普通に長編コメディ描けそうですね(描きません)