エアコンが壊れた日
エアコンが息を引き取った。
父の部屋のエアコンが壊れた。2階にある私の部屋と母の部屋、1階のリビングにあるエアコンのみ働き続けていた。
今月は猛暑日を毎日更新しているほど暑かった。朝から夜にかけて汗が仕事しない時間はない程であった。それほど、1日中暑い日が続いていた。そんな地獄を共に生き抜いてきた相棒の訃報であった。
今夜は1人で地獄に挑まなければいけない。父の部屋は2階にあり、熱がこもる。そのため、1階のリビングで寝たらどうかという案が上がった。
だが、父は渋っていた。我が家には布団がなかった。そのため、リビングで寝る場合、硬いソファーで寝るしか無かったのだ。
結局どうするのか聞かないまま夜を迎えていた。父と母が風呂を上がり、私の番がきていた。私はリビングを通り抜け、お風呂場に向かう。今日1日の汚れを流し切り、リビングに向かうと電気が消えていた。
真っ暗でよく見えなかったが、ソファーに人影のようなものが見えた。そこで私は、父はリビングで寝ることにしたのだと悟った。
いつもは、リビングでドライヤーをする。だが、起こしてしまったら悪いと思い、ドライヤーを片手に自分の部屋に向かった。階段を登っていると、何か音が鳴っている事に気が付いた。私は音の発信源を求め、耳を澄ませる。
音は2階から鳴っていた。「ボー」 と低く不気味な音が響き渡っていた。その不気味な何かに誘われるように、歩みを進めた。私は、ある部屋の扉の前で立ち止まった。
父の部屋だ。意を決して恐る恐る扉を開ける。部屋に目をやると、父がフルパワーの扇風機を浴びて寝ている姿があった。
その時、私の全身の毛穴から汗が吹き出す。
『さっきリビングで寝ていたのは……』
全身を恐怖が覆う。私は身体を震わせながら、1階に戻る。階段を下る度に、湿った足が「ペタペタ」と静寂を切り裂いていた。
リビングへの扉に手をかける。中々開ける勇気が出ない。母だろうか、泥棒だろうか、それとも……
意を決して扉を開け、素早く電気をつけた。ソファーに目をやると、大きなぬいぐるみが横になっていた。シルエットしか見えていなかったため、見間違えてしまったようだった。ホッと胸を撫で下ろし、自室に戻った。
緊張の糸が解け、髪を乾かさずにベッドに飛び込んだ。抱き枕を抱きしめ、ウトウトしていた。
その時、あることに気が付いた。ソファーにあったぬいぐるみは、私のものであった。それをベッドで抱き枕として愛用していた。抱き枕はあれしかない。
『じゃあ、今、私が抱いているものは……』