第3章 集中治療室での再会
まお「あ、どうもー。まおでーす♪」
りお「りおでーす♪」
まお&りお「2人合わせて、根深草まお&りおでーす!」
まお「更新が滞ってしまってすみません」
りお「だいたい、もう全部書いちゃってるんだからアップすればいいだけの話じゃない!」
まお「そりゃわかるんだけど…」
りお「次にお前は『年末の忙しい時期でパソコンに向かう時間がなくて』と言う」
まお「年末の忙しい時期でパソコンに向かう時間がなくて……ハッ!しまった!っていうかジョジョネタに走るな!」
りお「まったくもう!そう言いつつ年中寝っ転がってスマホぽちぽちやってたじゃない!」
まお「ぐぬぬ……それを言われると反論できない」
りお「はい、というわけで『アングローン底辺団シリーズ フィフス・ロンドンを遠く離れて』引き続きお楽しみください!」
ヨアヒム・アーリッシュ医師が朝食を摂っていると、看護師に声をかけられた。
「アーリッシュ先生」
「ん?」
「昨日ジェーンの様子を見てたんだけど、彼女、全然寝てないみたいなの」
「ほう」
「ずっと起きてるみたい。夜中にも時々うなってるし」
「ふむ……」
ヨアヒム医師は少し考えた。
「わかった。ありがとう」
「いえ」
看護師が出て行ったあと、ヨアヒム医師は再び食事を再開した。
「あの子も、なかなかタフだな」
ヨアヒム医師はコーヒーを飲み干すと、立ち上がった。
「さて、そろそろ仕事を始めようか」
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ヨアヒム医師が向かったのは応接室だった。
そこにひと組の夫婦が案内されていた。
「ああ先生。この度は娘を助けてくださってありがとうございます」
ヨアヒム医師が入室するや否や、その夫婦は感謝の言葉を発した。
どうやらジェーンとは別に、担当した患者がいたようだ。
「礼には及びませんよ。それで、お嬢様のオペはこのようにして…」
ヨアヒム医師は夫妻に治療の全容を説明した。
「本当に、娘の命を助けていただき、ありがとうございます。」
「治療費は振り込んでおきましたから。本当にありがとうございます」
夫妻はもう一度、ヨアヒム医師に感謝を述べた。
===
「さてジェーン、いいニュースだよ」
ヨアヒム医師が再びジェーンを訪れた。
「私が先日オペをした患者の家族が治療費を支払ってくれた」
そう言ってヨアヒム医師が手元の端末を見せた。
言語は分からないが数字は分かる。そこに膨大な数字が表示されていた。
「これだけあれば、君の分の治療費も賄える、というわけだ」
そう、ヨアヒム医師は裕福な患者から倍以上の治療費を徴収することで、
ジェーンのような難民たちの治療に充てていたのだ。
「…でも…良かった。」
まだ呼吸が苦しく、か細い声しか出せなかったが、ジェーンが話し始めた。
「…ちょっと…怖くなったんです…」
「怖く?」
「…だって…なんで…生かされてるのか…わからなくて…もしかして…誰かに…移植…するために…内臓とか…取られるんじゃ…ないかって……」
突飛な発言に思わずヨアヒム医師も吹き出しそうになった。毎晩うなされていたと言うのはそういうことだったのか。
「あはははは、まさか!いやむしろ誰かの肝臓の一部をちょっといただいて君の損傷していたところに移植しておいたよ」
ジェーンはギョッとした表情でお腹の当たりに目線を動かした。
「いや、冗談だよ」
「…でも一度、どうしようもないほど業突く張りな成金がやってきてね、ご多聞に漏れず『金はいくらでも出すから病気を治してくれ』って言うんだ。ちょうどその時に爆発に巻き込まれた子供が搬送されてきた。そこで、その子のために成金から健康な臓器をちょっと拝借したよ」
「え…?」
「成金の方はそんなことも知らずに『おかげで良くなりましたありがとうございます』と喜んでいたよ。その時に払ってくれたお金のおかげでその子に最新鋭の治療をすることができたし、ああ、君が今いる集中治療用のベッド、それもその時に買ったんだった」
「……」
「批判する人もいるかもしれない。だけどこれは『ノブレス・オブリージュ』の一つだと思ってる。裕福な人は貧しい人を助けるべきだ。でもそれを実行する人はそういない。だからその流れを助けているだけだよ私は。」
「……」
「君にもいずれ分かる時が来ると思う。」
ヨアヒム医師はジェーンの肩にそっと手を添えた。
「さあ、今はゆっくり休みなさい。いいね?」
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「絶対ジェーンはどこかで生きてると思うんだよ!」
ドノヴァンが声を荒らげた。
「うん、私もそう思う」
マリコが同調した。
「でも、どうやって探したらいい?」
「うーん……」
その時、アーウィンが言った。
「探すにしてもさ、先立つものがないと困るだろ」
「まあ確かに」
「と言うことは、例の作戦に出ようってことだ!」
「そうだそうだ。先立つものが必要だよな」
「ならば手っ取り早く、アレをやろうかしら」
「よしわかった!もしマリコがしくじったら僕とドノヴァンが作戦第二弾を講じる。それでいいよな?」
そう言ってみんなは出かけていった。と、とりあえずあたしはお留守番?
やや手持ち無沙汰に、あたしは公園のベンチにポツンと座っていた。
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「あっはっはっは。さすがはドクターJ。惑星全土から君を慕う人が絶えないだけはある」
「いや、その呼び名はやめてくださいよ。」
ドクターJと呼ばれていたのはヨアヒム医師だった。
「まあまあ、そう照れるなって。」
彼をドクターJと呼ぶ男は、ヨアヒム医師と旧知の仲のようだ。2人はドリッテ・ゲルリッツ医療センターの会議室で話をしていた。
「ところで食事にでも出かけないか。なあに、私が奢るよ」
「ありがとうございます。」
ヨアヒム医師は電話を取るとスタッフに指示を出した。
「ああ、マヌエルかい?ヤニックさんと出かけることにした。何かあったらフィリップにもサポートを頼む。午後からはバスティも来ることになっているから引き継いでおいて。」
「いやあ、さすがの手際の良さだな。では行こうかヨアヒム君。」
ヤニックと呼ばれた男は、ヨアヒム医師と会議室を後にした。
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「ここ数日はほとんど医局にこもりきりでしたからね。」
「気分転換も必要だよ」
そんな会話を交わしていたヨアヒム医師とヤニック氏に少女がぶつかってきた。
「きゃ、ごめんなさい」
マリコだった。しかしそう言い終わるかのうちに、ヨアヒム医師がマリコの腕を捕まえて高々と上げた。
「スリとは感心しないな。」
案の定、マリコの手にはヨアヒム医師の財布が握られていた。
「げっ!マリコが捕まったぞ」
その様子をアーウィンとドノヴァンが影から見守っていたのだった。
「よし、こうなったら作戦第二弾だ。行くぞドノヴァン!」
「おう!」
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…どうしよう。みんなが戻ってこない。
あたしは不安になって大通りまで行ってみた。
マリコもドノヴァンもアーウィンも、まさかあの3人が揃って失敗するはずがないわよね?なんて思っていたら…
「ねえ、だから離してってば!
「いててて!」
「や、やめろう!」
…ものの見事に揃って失敗してるじゃなーい!
どうやらマリコがこの男性の金品をスリ取ろうとして、それがうまくいかなかったらアーウィンとドノヴァンが力尽くで奪い取ろうと言う寸法だったらしい。
ここは…もう正攻法で行くしかないわね。
「待ってください!えっと、その、あたしはこの子達の友人です。どうか許してください。事情を聞いてあげてください!」
あたしは頭を下げた。
マリコの腕を掴み上げていた男ともう1人の男は、まじまじとあたし達の顔を見ていた。そして何やら話していた。…あ、ここの国の言葉で話されるとあたしも分かんないや。
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「アングローン語を話している。どうやらこの子達も難民のようですね。ヤニックさん」
「命からがらやって来て、ここでの暮らしに困って…ということか。」
「だが、それだけではないようです。何となくそんな気がして。」
「ほほ~う。医者の勘は鋭い、ってことかねヨアヒム君」
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「え、あ、はい」
あたしはよく分からずに、とりあえず返事をした。ちゃんと?アングローン語で話しかけてはいたようだけど…。
「なるほど、そうだったのか。すまなかったね。」
「いえ……」
男はマリコの手を放した。
「でもさ、スリはいけないよ。悪いことだから」
「はい……」
マリコがしゅんとして俯いた。
「よし、じゃあこうしよう。」
男が言った。
「僕達は今、食事に行くところなんだ。君たちも一緒においで。今日は特別に奢るよ」
「いいんですか!?」
「やったぜ!」
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あたし達は、その2人の男に連れられてレストランに入った。
「さてと、まずは何を食べたいかな」
「肉だろ、肉!」
「あたしは甘いものが食べたいわ!」
「うーん、僕は魚介類にしてみようかな」
「あたしはなんでもいいけどなぁ」
そして料理が運ばれてくると、あたし達は一目散に食べまくった。
「ヨアヒム君、大丈夫かね?いくら君の奢りとはいえ…」
「…まあ、今度どこかの社長の盲腸でもオペしてその分ふんだくりますよ」
「相変わらずだなあ君は。」
「え?もしかしておじさんお医者さんなの?」
「ああ言ってなかったね。このヨアヒム君はね、お医者さんなんだ。ほら、あそこの大きな医療センターの」
「へぇ~」
マリコとドノヴァンが目を丸くしていた。
「そういえば自己紹介がまだだったな」
「あっ、あたしの名前はミリータ」
「私はマリコ」
「僕はアーウィン」
「俺はドノヴァン」
「そうか。僕はヨアヒム・アーリッシュ。で、こちらは…」
「ヤコブ・ヤニックだ。」
「よろしくお願いします。」
「ヤニックさんもお医者さんなんですか?」
「いや。私はチョコレート会社の社長をやってるんだ。ヨアヒム君には色々と世話になっててね。」
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ミリータたちがご馳走に舌鼓を打つ中、ヨアヒム医師とヤニック氏は談笑していた。
「さすがはドクターJだ!」
「ヤニックさん、だからその呼び名はやめましょうよ」
「ドクターJ?」
その言葉を聞いたアーウィンの顔が曇った。
「…あの悪徳医師かよ…」さらにアーウィンが吐き捨てるように呟いた。
「アーウィン⁉︎」
「金持ちしか診察しない、とんでもない奴だよ。俺がそういう奴が大嫌いなの、知ってるだろ?マリコ」
「……うん。そうだったね…」
アーウィンは父親を物心つく前に亡くし、母親も病気で亡くなった。
十分なお金があれば治療を受けて助かったのに、と話していたことを思い出した。
「まあ仕方ないな。表向きではそう思われているんだから」
ヨアヒム医師が苦笑した。
「まさかドクターJと辺境で貧しい難民を診療するヨアヒム・アーリッシュが同一人物だとは思いも寄らないだろう。私も初めて彼に診てもらったときは『こいつなんて奴だ!』って思ったよ。しかし彼の話を色々と聞くうちに考えが変わった。」
そう言うとヤニック氏はおもむろにシャツをたくし上げた。そこには幾つかの傷跡、おそらくは手術痕がついていた。
「最初はありもしない病気をでっち上げて無理やりオペをしてぼったくるだけの男だと思ったんだよ。それこそ君と同じことを考えていた。ところが違うんだ。確かに金持ちからはトコトンぼったくる。金どころかこうして体の一部まで奪おうとする。だが、貧しい者に対しては無償で、真摯に向き合うんだ。そんな彼を見て私は感動したよ。」
「なるほど……」
「あー、そういえばこの前は全身やけどで担ぎ込まれた子がいたからって皮膚の一部を提供したんだっけな、見るかい?」
そう言ってヤニック氏は自分のお尻を出そうとした。
「い、いや、いいですっ!」
「かわいい女の子のお尻だったらなあ…」
「ドーノーヴァン!」
マリコがドノヴァンを軽くはたいた。
「そうだ、女の子といえば…」
ヨアヒム医師が切り出した。
「ちょうど今、うちで診ている難民の女の子がいてね。青みがかった銀髪で典型的な先住民系の子だよ。…もしかして君達、彼女のことを知らないか?」
…先住民系の女の子…青みがかった銀髪……まさか!
「ジェーン⁉︎」
その名前を聞いてヨアヒム医師も驚いた顔を見せた。
「じゃ君たちは…」
「ええ。彼女の仲間なんです!」
「ここに来るときにはぐれてしまって…」
「高速船から落ちてしまったから、助からないかもって思ってたんですが…」
「…ほほう、そんな重症の子を助けるとはさすがはヨアヒム君だな」
ヤニック氏の関心はほっといて、あたし達はヨアヒム医師に詰め寄った。
「お願いです!ジェーンに会わせてください!」
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「アーリッシュ先生、早かったですね」
「ああマヌエル。みんな様子はどうだ?」
「問題なしです。もう少しゆっくりしてきても良かったくらいですよ」
「ジェーンは?」
「ちょうどフィリップが様子を見ているところです。…ところでこの子達は?」
「ああ、どうやらそのジェーンの仲間なんだそうだ」
あたし達はヨアヒム医師についてきて、ドリッテ・ゲルリッツ医療センターにやってきたのだった。
「さあ、こっちだ」
ヨアヒム医師は、ガラス張りの部屋の前にあたし達を案内した。
ガラスの向こうには、いろいろな医療機器に囲まれたベッドがあり、そこに横たわっているのは間違いなく…
「ジェーン!」
思わず目の前のガラスを叩いた。
「落ち着きなさい」ヨアヒム医師が制止する。
酸素や点滴や心電図や血圧計など、さまざまなチューブやコードで繋がれたジェーンの姿は、あまりにも痛々しかった。
「た、助かるんですよね?」
アーウィンが冷静を装いつつも、上擦った声で聞いた。
「もちろんだとも。彼女の生命力はなかなか大したものでね。時間はかかるだろうが、必ず治るよ。」
と、ヨアヒム医師は力強く答えた。
「ヨアヒムくんは優秀な医者だ。任せておきなさい」
ヤニック氏がアーウィンの肩をポンと叩いた。
それでもあたし達はまだこわばった顔でガラスの向こう側を見つめていた。
そんな状況にヤニック氏も察したようだった。
「ああ、ここまでついてきてすまなかった。どれ、私は会社に戻ることにするよ。それから君たち、これをあげよう。うちの会社で作ってるチョコレートだ。」
「あ…ありがとうございます…」
「ヤニックさん、こちらこそ付き合わせてしまってすみません」
「なに、かまわんよ」
ヤニック氏を見送ると、ヨアヒム医師はそばにあったインターホンの受話器を取った。
ガラスの向こう側と通話できるようになっていて、ジェーンの側に立っていたスタッフが受話器を取った。
「ああフィリップ、びっくりさせてすまない。どうやらジェーンの仲間だという子達が来たんだが」
「え?見つかったんですか?うわぁ、それは良かった!」
「で、ジェーンの様子を聞かせてくれないか」
「あ?ああ、すいません。まだ数値は低いですがバイタル安定してます。ちょっと今は眠ってるようですが…起こした方がいいですか?」
「いや、それならいい。そのまま…」
「え?じゃ意識はあるってこと?」
「じゃ起こして!」
「おいジェーン起きろ!」
「ジェーン!聞こえる?あたしよ!マリコよ!」
あたし達は思わず電話口に食ってかかってしまった。
「…と言うことだフィリップ。」
とはいえ、フィリップと呼ばれたスタッフ--彼もここの医師の1人なんだけど--が起こすまでもなく、この騒ぎにジェーンもうっすらと目を開けていたようだった。
フィリップはジェーンの耳元に受話器を近づけた。
「ジェーン!」
「よかった!生きてたんだ!」
「本当、一時はどうなるかと思ったんだから……」
「ほんとよ。まったく……」
インターホン使わなくても聞こえるんじゃないかってくらいの声で、あたし達は口々に話しかけた。
「ミリータ…マリコ…アーウィン…ドノヴァン…みんな……いるの?……よかった…」
ジェーンがか細い声で答えた。
「うわああああああん!」
ドノヴァンが感極まって泣き出してしまった。
「あ、ドノヴァン泣かないでよぉ~」
ドノヴァンの背中をさすりながら、マリコも泣いていた。
「うん、ありがと……」
ドノヴァンがそう答えると同時に、マリコも涙を拭き、鼻水をすすり上げた。
「本当に良かった……」
あたし達はようやくほっとしたのだった。
あたしは改めてジェーンに話しかけた。
「ジェーン、ほんっと心配したんだよ。大丈夫?」
「ありがとう…まだ体が…動かせないけど…先生が心配ないって……」
ジェーンの言葉は途切れ途切れだったが、その口調はしっかりしていた。
「そっか。やっぱりヨアヒム先生ってすごいんだね。」
「いい先生なのは間違いないね。俺たちもたーっぷりご馳走させてもらったし」
「…え?」
ドノヴァンの言葉に一瞬ジェーンが真顔になった。
「…ちょっと、ずるい!」
今までのか細い声が嘘のようにジェーンが叫んだ。
「みんなだけでご馳走なんてずるい!あたしだってご馳走食べたかっ……うっ…!はぁっ…はぁっ……」
「ちょ、ジェーン落ち着いて!」
「先生、鎮静させましょうか…?」
「ああフィリップ、そうしといてくれ」
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「あの通り、まだ集中治療室を出られる状態ではないけど、すぐに君たちと直接話ができるようになるから」
「ドノヴァンもさあ、ああ言うところでは黙っとくの!」
「お、俺は嘘がつけなかったんだよ!」
「はいはい。わかったわよ」
「何よりも君たちと会えたのが最高の薬になったようだよ。会えずじまいだったらきっと生きる気力を失っていたはずだ」
「本当にありがとうございます!」
「あ、そうだ。ジェーンにも元気になったらご馳走を振る舞わないといけないな」
「お、お願いします!このままだとずっと恨まれかねない!」
「あははははは!」
こうして、あたし達はジェーンと再会できたのでした。