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第10章 難病のシンガー

「アメリーさん、トビアス・Mって知ってますか?」

手始めに、ジェーンは看護師のアメリーに聞いてみた。

「そりゃ、知らない人はいないわよ。もしかしたらフィフス・ロンドンでは知られてないのかもしれないけど、ここでは大人気なんだから」

「そうなんですか」

「えぇ。ここの患者にも、彼の熱狂的なファンはたくさんいるわ」

「じゃ、もし彼が入院してきたら?」

「そうねえ。大騒ぎになるかもしれないわね。でも…」

「でも?」

「入院するとしたら…あまり考えたくはないんだけど…すごく重症だとか厄介な病気だとかの場合なんじゃないかしら。だって、わざわざこんな辺鄙な街まで来てまでして、アーリッシュ先生を頼らないといけない状態なわけなんだから」

「なるほど」

「ま、アーリッシュ先生の腕が確かだということの証左でもあるけれど」

「じゃ、この病院にその患者が来る可能性は低いということですね」

「そうね。それにここ数日、新しく入院した患者さんもいないし。…あ、識別証見せて。」

ジェーンの腕には患者用の識別証が付けられていた。搬送されてきた時は氏名不明だったので「患者1800」と書かれてあり、後から手書きで「ジェーン・ダウエル」と書き足されていた。

「そうそう、1800が一番新しい患者さんのID番号なのよね。まあ、他に新しい患者さんがいなかったこともあってあなたに十分なケアもできたんだけど。」

「そうだったんですね。ありがとうございます」

「どういたしまして」

====

ドノヴァンは再びドリッテ・ゲルリッツ医療センターに行ってみた。その近くに車が停まっていて、中に人がいるようだった。

ドノヴァンはその車に近づいてみた。

「スマセン、オジサン、クルマ、ソウジソウジ、ピカピカスルネー」

ドノヴァンはいかにも「かわいそうな異国からの難民の子が車掃除で日銭を稼いでいる」体を装って車中の男に話しかけた。

男は驚いたようにこちらを見ていたが、やがてゆっくりと車を降りてきた。そして、ドノヴァンが差し出した手に紙幣を渡した。

「ドウモ、アリガト」

「いやあ、助かるよ。…ところで君、トビアス・Mっていう歌手を知ってるか?」

「ソレ、ダレデスカ?ワタシ、ミンナ、シラナイネ」

「そうかい。じゃ、ありがとう」

「………待て!」

ドノヴァンはその怪しい男の腕を掴むと、抵抗できないようにねじ伏せた。「お前の目的は何だ!?」

「ちっ、バレたか」

「おとなしく吐け。じゃないと痛い目を見るぞ」

「俺はただ、この病院に人気スターが運び込まれたという情報を得たから来ただけだ」

「その患者が、トビアス・Mだってことか」

「そ、そういうことだ」

「で、お前はどうする気だったんだ?」

「それは、その、あれだよ。ファン心理って奴さ。彼に会おうと思ったんだよ」

「理由はそれだけか?ちゃあんと答えないと…本当に腕をへし折るぞ!」

「うああああ!わかった!俺は、ただトビアス・Mのことを知らせたかっただけなんだ!悪いかよ!」

「ははぁ、分かった。お前は記者かなんかだな?それで、トビアス・Mがここにいることを突き止めて、あわよくば接触しようとしたってところだろう」

「そ、そうだ。もういいか」

「ダメだ。まだ聞きたいことがある。お前が得た情報を洗いざらい教えてもらおうか。正直に答えなかったら、今度は脚を折りに行くからな」

「ひぃー!!ひゃ、は、話します話します。えっと、トビアス・Mは惑星の中でも著名な医師の治療を受けている、と…そ、それでこの病院にいるんじゃないかと…」

「著名な医師、か。そりゃただの風邪とかじゃなさそうだな。」

「そ、そうなんですよ。な、なんでも体が麻痺する病気だとかで、コンサートはおろか、日常生活すらまともに送れなくなってしまって……。」

「それははかなり深刻なようだな」

「はい。それで、彼の主治医でも手の施しようがなくなって、名医を頼ることにしたと」

アーウィンが盗聴した話とかなり整合が取れてきたのをドノヴァンは悟った。「そうか」

その時、ドノヴァンのメッセンジャーの通知音が鳴った。

「おい、ちょっと待ってな」

ドノヴァンはポケットからリール状の紐を取り出すと男を縛り上げ、その上にどっかりと腰を下ろした。

「ふぎゃあ!」

「静かにしてくれよ」

ドノヴァンはメッセージを読んでみた。ジェーンからだった。

--医療センターにはこの数日、しかもあたしがここに来て以来、新しい入院患者はいない。 ジェーン--

「ああ、おっさん、ついでに聞くけどさ、トビアス・Mが活動停止発表したのっていつだっけ?」

「そ、それは5月20日だ」

「で、トビアス・Mはいつから病気だったって言ってたんだ?」

「え、えーと…」

「頼むよ。俺もそんなに頭良くないんだからさ、詳しく言ってくれないと」

ドノヴァンは今度は男の首を絞めにかかった。

「あぎゃぎゃぎゃ!ぐぉ…こ…『今月頭からの体調不良で』と言っていたから…」

「ふうん…そうすると…」

ドノヴァンは指を折りながら日にちを数えてみた。

(俺たちがジェーンと再会できたのはまだ4月32日だったからな。ジェーンが入院してから新規の入院患者がいないということは、5月になってから倒れたトビアス・Mが入院しているということは確実にあり得ないということか)

(注:惑星アングローンは地球と周期が違うので、月日の単位も地球と違います)

「おっさーん。残念ながらおっさんの予想は大外れでーす!なぜならこの病院に、5月になって入院した患者はいませーん!」

「え……あ……」

「まあ、もう用済みだからこのまま死んどけや」

「ひ、ひいいいいいい!」

男は恐怖のあまり失禁してしまった。

「あれー?お漏らしするなんて、赤ちゃんでしゅかぁ?」

「ごめんなさい許して下さい殺さないでくださいお願いします何でも言うこと聞きますからどうか命だけは」

「ふうむ。なんでもねえ……」

「はいぃ!!」

ドノヴァンはその男を蹴り飛ばして地面に転がすと、ニヤリと笑みを浮かべた。

「よし、決めたぞ。お前の身柄は警察に引き渡しておくことにする。そこでお前は色々と取り調べを受けることになるだろう。」

「そ、それだけは勘弁してください。本当に何も知らないんです!」

「うるせぇ黙ってろ!」

ドノヴァンは端末を取り出すと、電話をかけ始めた。

「あーもしもし警察ですかー?病院に不法侵入を企てた怪しい男がいたので捕まえときましたー。ドリッテ・ゲルリッツ医療センターの前に縛っておいてるのでよろしくですー。あー、一緒にオムツも持ってきてくださると助かりますー。ではではー」

とだけ言って電話を切ると、

「じゃあな、おっさん」

とドノヴァンはその場を立ち去った。

====

ジェーンが枕元に置いていた端末を見ると、メッセンジャーからの通知が入っていた。

--フィリップ先生にもヨアヒム先生の行方を聞き出してくれ アーウィン--

「…うーん、もう今日は回診終わっちゃったしなぁ…」

その時、ノックの音と同時に誰かが入ってきた。

「おはようジェーン。リハビリの時間だよ」

療法士のミロスだった。


「痛たたたたた!」

「うん、腕はだいぶ上がるようになったね」

「ああああああ死ぬううう!」

「死なない死なない。」

「ひいいいい!」

「でも動かしにくいのも無理はないよ。こことかそことか、折れた骨を繋げるのに、ボルトとかプレートとかで固定してるからね」

「…そうだ。先生そんなこと言ってた気がする…」

まだジェーンが集中治療室にいた時に、ヨアヒム医師が画像を見せていたのを思い出した。


「どんな治療をしたか教えないといけないね。このスキャン画像を見て。右腕と右鎖骨、それから左足が折れていた」

「…これが…あたしの…体…」

「そこをこのように金属で固定している」

「…すごい……」

「あとは内臓の損傷を修復して神経を繋ぐ手術だけれど、これも無事終わったよ」

「そっか……。よかった……」


「で、そのヨアヒム先生はどこ行っちゃったんですか?」

「たぶん、難しい病気か怪我の患者さんを診に行ってるんだよ」

「え…大丈夫なのかなぁ。何だか大変そう。」

「先生ならきっと大丈夫だよ。君だってあれだけの怪我だったのに、こうして元気になってるんだし」

「…なんか、みんなと同じこと言ってる…」

「だろうなぁ。だから先生もまた奇跡的にその患者さんを治してくれるはずだよ。もしかしたら僕も手伝いに呼び出されたりして。」

「えっ?」

「あっはは。冗談さ。」

「でもあたしだってこうしてリハビリが必要なんだから、その患者さんにも必要になるんじゃないかな。特に全身麻痺の病気だったら」

そこでミロスの表情が変わったのを、ジェーンは見逃さなかった。

「……ミロスさん、本当は知ってるんでしょ?」

「な、何をかな?ジェーン」

「ヨアヒム先生が診ている患者さんのこと。」

「…………」

「……ごめんなさい、詮索するつもりはなかったんだけど……」

「いやいや謝ることじゃないよ。それにしても君は感が鋭いねぇ」

「えへへ……まあ……」

「まあいいや。いずれわかることだから、話しておくことにするよ」

ミロスは少し躊躇してから、語り始めた。

(この子はいったいどこまで知っているのか。まあ良いだろう)

「ヨアヒム・アーリッシュ先生が今診ているのは、20代前半の男性だそうだ。今月の始まりくらいに突然倒れて、そのまま意識不明になってしまったらしい。」

「それって……」

「君の想像通りだと思う。」

「やっぱりそうなのね……」

「その患者はこのゲルミナで非常に影響力のある人物だから、彼を失うわけにはいかないと、いろいろな人たちが必死になっているみたいだね。で、そんな人物をこんな辺境の街に移送するとなったらたちまち大騒ぎになる。それで先生の方が患者のいる所に行っているという訳さ。」

「ふぅん。そういうことだったんだ……」

「それで、僕もアーリッシュ先生からも準備をしておけ、と言われてる。僕の知っていることはそれくらいだよ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ僕はこれで。…あ、もし僕が空けることになっても、リハビリのプログラムは続けておいてね」

「ふ、ふわああああ…」

ジェーンはへなへなとベッドに横たわった。

====

(トビアス・Mの情報を得ないとなぁ。)

そう考えながらマリコが道を歩いていると、ある店を見つけた。色々な歌手や俳優などに関する商品が売られている店だった。そこにトビアス・Mの写真集が売られていた。

1人の少女がその写真集を手に取ろうとしたところに、マリコも同時に手を出した。

「あ、ごめんなさい。」

「あなたもトビアス・Mが好きなの?」

「あ、そうなんです!」

「活動休止とかいうから、あたしも何か応援できないかななんて思って…」

「えっそうなんですね。あたしもです!」

少女の言葉を聞いて、マリコの目がキラリと光った。(…何か情報が得られそうね)

「それに…なんか変な噂も聞いて不安なんです」

「変な噂?」

「え?知らないんですか?あたし達の学校でもそんな話してて…」

「ちょっと、気になる気になる。詳しく聞かせて!」

====

「……そしたらさあ、あっという間にいろんな人が集まってきて『薬物中毒』だとか『自殺未遂』だとか、とにかくいろんな噂が立ってて…」

ヤニック邸に戻ってきたマリコは、店で会った少女の話をあたしたちに教えた。

「まあ、有名人にありがちだよな」

「でもその中でも『原因不明の難病にかかってて、この惑星で有名なお医者さんが治療にあたっている』って噂が、なんか一番近いと思ったんだけど」

「確かに。ファンのフォーラムやコミュニティを見てもそんな話題が出ていて、中には入院先の病院を突き止めようとする人もいるよ」

「それも有名人には付きものねぇ」

「実際、記者っぽい奴が医療センターの前にも車で張り込んでたぞ。まあ俺がチョチョイと締め上げといたけどな」

「あ。」

「どうした?」

「ジェーンからのメッセージ入ってる」

「どれどれ」

みんなは端末を覗き込んだ。

--例の患者は20代の男性。ゲルミナで影響力のある人物なので、ドリッテ・ゲルリッツまで運んでくると大騒ぎになる。そのためヨアヒム先生の方から患者のところに出向いている。その患者が治ったらリハビリを担当するかもしれない、と療法士のミロスさんが言ってた ジェーン--

「へぇ。意外なところから情報が出てきたな」

「それにしても医療センターの人たちのチーム力は半端なくスゴいわよね。ヨアヒム先生1人だけが色々やてるのかと思ってたら」

「で、ヨアヒム先生の行方は分かったのかい?」

「それがどうもドリッテ・ゲルリッツにはいないようなんだ」

「やっぱり…」

「あのさ、ここは単刀直入にヨアヒム先生に伝えた方がいいんじゃないかな。俺たちにできることがあったら言ってください、って。」

「あ!それいいかも」

「そうだね。よし、じゃあ早速連絡しよう!」

====

ヨアヒム先生には意外とあっさり連絡が取れた。

メッセンジャーを送ると、程なくしてビデオ通話がつながった。

「ドノヴァンに伝えただろう、今は手が離せないって。だから手短に頼む」

「分かりました。実は、患者さんのことについて教えてほしいことがありまして」

「患者のこと?どうして君たちがそれを気にする?」

「それはもちろん…お金ですよ!」

「ちょ、ドノヴァン直接すぎ!」あたしは必死でフォローせずにはいられなかった。「え、えーと先生、ジェーンの治療費のこともありますから…」

「治療費?」

「そうですよ。先生が受け取った報酬でジェーンの治療費の肩代わりにしてるんでしょ?それだったらあたしたちも力になりたいんです。」

「……なるほど、そういうことか。だが治療費のことなら、この前受け取った分で元は取れている。それはジェーンにも説明済みだ」

「でも他にもメラニーの別荘とかヤニックさんの別邸に住まわせてもらってるし…」

「そうか…わかった。それならこうしよう。君たちには、これからの予定を教えておく。今度の日曜日、午後3時にまた連絡してくれ」

「わかりました!」

「あと、このことは他言無用だからね。これは当然のことだが、もし漏れたりしたら、その時点で依頼は終了だからな。」

「はい!もちろんです!」

まお「あ、どうもー。まおでーす♪」

りお「りおでーす♪」

まお&りお「2人合わせて、根深草まお&りおでーす!」

まお「皆さん『フィフス・ロンドンを遠く離れて』楽しんでますか?」

りお「まあ、楽しんでもらわないと困るんだけどね」

まお「えー、ちょっとそれはあまりにも上から目線では…?」

りお「そ、そうねえ…ごめんごめん」

まお「何だかんだで10章まで行ったわけですが」

りお「この部分を書いているときにちょっとびっくりしたニュースがあったんだよね」

まお「そうそう」

りお「ジャスティン・ビーバーが顔面麻痺で活動休止って。あ、ちなみにソースはこちらです〜→ https://www.tvgroove.com/?p=94206 」

まお「あたし達が書いてる話とシンクロしてない?なんて思ったよね」

りお「世界的なアイドルが動画配信して病状報告、なんてね〜ほとんどこの作品のトビアス・Mと同じじゃん!」

まお「もしかしたらこの作品が予言書となるかもしれない…」

りお「いやないない!あったとしたら怖い!」

まお「えーと、これ読んでる皆さん!」

りお「決してパクったとかそういうわけじゃないですよー。あくまでも偶然です!」

まお「というわけで、次章もお楽しみに!」

まお&りお「ばいばーい♪」

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