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やさしい休日


ペドロが姫君を襲った事件から二日後、休日のことだった。屋敷のソファで剣を磨いていると、リゲルが静かにやってきた。

「ジール、手紙が来てるよ。それも二通」

私は眉を顰めた。手紙は蝋で封をされている。それを受け取ると、片方の差出人はキーラ、片方は不明だった。

私はカッターナイフで一つ目の封筒の端を切り、中身を取り出した。

中にはこう書いてあった。


キーリング伯爵


この寂しい牢獄に、また訪ねて来てほしいの。あなたとゆっくり話がしたい。私は罪を打ち明けたけれど、あなたはそれ以上、耳を傾けようとしなかった。

ペドロにそうしたように、どうか私にも疑問をぶつけてちょうだい。そうしてもう一度私を見て欲しい。

あなたへの気持ちは本当よ。愛しています。


キーラ・サーペンティン


私は目の前のテーブルに乱暴に手紙を置いた。読んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってきたのだ。

ため息をつきたいのを堪え、もう一通を手に取り、同じように中身を取り出す。


ジルウェスタ―・キーリング様


あなたの噂を耳にしました。確かな剣の腕と、王女様への聡明な忠誠心をお持ちだと。

一度あなたと話がしたいものです。

来週、月が半分欠ける夜、是非私の屋敷にお越しになって下さい。当日はデズモンドを、あなたの屋敷に迎えに行かせます。


敬意を表して


これでは差出人が男か女かも分からない。だがもしデズモンドの後援者(パトロン)であるなら、姫君に恋文を送った、例の男かもしれない。

「なるほど……?」

私が紙を持ったまま考え込んでいると、隣でリゲルが口を開いた。

「へえ、ジールってやっぱりモテるんだね」

その手にはキーラからの手紙が開かれている。いつのまに。

「こらっ」

「なあに。別に見られても減るものじゃないでしょ」

「だがそれはキーラが……」

「キーラがなんなの?」

ちろりと彼の青い目が光った。

「別にペドロの肩を持つ訳じゃないけど、キーラはあいつをいじめたんでしょ? こんなもの読む必要ある?」

「それはそうだけど。お前、言葉に少し棘があるんだよ」

「しょうがないでしょ。僕、あの人好きじゃないもの」

「ペドロのこともだろう。舞踏会の時、彼を威圧していた。なぜだ?」

「知らなくていいこともあるんだよ、ジール」

にぃ、と青い瞳が笑う。

「ところでこれ、燃やしていい?」

その物言いに、私は少しびっくりしたが、まあどちらにせよ破こうと思っていたので「ご勝手に」と返した。

手紙はリゲルの手によって、炎の中に投げ込まれる。赤い火はみるみるうちに手紙を黒く焼き尽くしていった。



「それも恋文なの?」

もう一枚を手にしていると、彼が興味深そうにこちらを眺めてきた。私は息をつき、手紙を内ポケットにしまう。

「これは違う。差出人も謎だ」

「そう、じゃあいいや」

そう言って部屋を出て行く少年に、私は目を細めた。彼の情緒はいつだってよく分からない。



次の休暇に、私はリゲルを連れて町へ出た。単に一緒に出かけたかったのと――リゲルがどういう人間なのか、知るきっかけになればと思ってのことだ。


町は賑やかだ。この閉ざされたような一つの国は、どこか歪で、しかし完成された美しい世界だった。

町には露店が並び、人で賑わっている。

「リゲル、何か欲しいものはあるか」

「……別に」

気を遣っているのか、彼は特に主張もしない。と、彼のお腹がくぅと鳴った。

赤くなったリゲルに私は笑いかける。

「何か食べようか」

私達は露店を見て回った。そこで私は、茶色い焼き菓子を見つけた。いわゆるワッフルのようなものだ。銀色の粉砂糖がかかっている。

「リゲル、甘い物は好きか?」

「うん」

そこで私は露店のおばさんに声をかけ、焼き菓子を二つ買った。

半分紙で包んだそれを「焼き立てだよ」とおばさんは渡してくれる。

齧ると口の中に甘みが広がった。

隣のリゲルも、さく、と齧る。その頬が分かりやすく緩んだので、私の胸は温かくなった。どうやら気に入ってくれたようだ。


二人でそれを食べ終わると、続く露店の道を歩いた。

リゲルは時折、ちらりちらりと店へ視線をやり、しかし何も言わず通り過ぎるのだ。欲しいものがあるなら言ってくれれば買うのに、と私は思う。

普段は主張をするくせに、こういうところで大人しい彼を見て、なんだか律儀だな、なんて思った。


二人で並んで歩いていると、布の上に装飾品を並べた男が声をかけて来た。

「お嬢ちゃん、何か買っていかないかい」

どうやらリゲルを女性と勘違いしているらしい。

「僕は男です」

リゲルがむっとしたように言うと、男は手を額に当てて、こりゃ失礼した、てっきり恋人同士かと思ったよ、なんてこぼした。

リゲルがそっぽを向く。しかし商品を見下ろして、じっと動きを止めた。

彼の視線の先を辿れば、金色の三日月の形のイヤリングがあった。陽射しに照らされてかすかに煌めいている。私は薄く笑って口を開いた。

「リゲル、良ければこれを買ってあげようか」

「えっ、別にいいよ」

「お前に似合うと思うんだ。私から贈りたいんだが、どうかな」

実際、それは彼にとても似合うように思えた。私が微笑めば、彼ははにかむように視線を下げた。

「あ、あんたが言うなら」

そう言う訳で、私は男に貨幣を渡し、イヤリングを買った。イヤリングの入った包みを、リゲルは大切そうに持っていた。それを見て、私はなぜか、自分の心が満たされるのを感じた。


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