幕間:証拠物件3
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千五百十七年 六月十八日 ペドロの日記
十六年生きてきて、まさかこんなことが起こるとは思わなかった。俺が王女様に仕えることになるなんて。せっかくだからと日記をつけ始めてはみたが、すぐに飽きることだろう。
城なんて、雲の上の世界だと思っていた。王女様は気づいていないようだったが、案の定、城の兵士達は俺を白い目で見ている。まるで場違いだと言うように。それもそのはず、将来護衛をしなければならないのに、俺は戦闘の知識があまりない。戦ったことはあれど、それは自分の感覚に頼っていただけだ。今はまだ兵士達が王女様の周りを固めているが、三騎士の一人に選ばれたからには、俺が彼女を守れるようにならねばならない。それにしても、王女様は騎士という言葉を、何か勘違いしているような気がする。騎士とは誰かを守る者のことであって、信頼できる相手とはまた別物だ。第一十二歳のヴィヴィアンを、三騎士の一人目に選んでいる時点で、どこか感覚がずれているのではないか。
まあ国王陛下がなくなったばかりで、王女様も、まだ命令することを得意としてないのかもしれない。
とにかく俺は、彼女の言葉に応えるべく、ヴィヴィアンに武器の使い方を習うことにした。ヴィヴィアンは四つも年下の小さい小娘だったが、武器の扱いには非常に長けていたのだ。それに馬鹿みたいに力持ちで、兵士たちに呼ばれて酒樽を二つ運んでいるのを見たことがある。賢者の石の恩恵だと噂している者もいるが、俺には詳しいことは分からない。ヴィヴィアンは過去のことを話そうとしないのだ。
武器と言えば、スラムにいた頃よくナイフを使っていた。今回俺が選んだのは槍だ。なんとなく、自分に合っているのではないかと思えたし、ヴィヴィアンの斧となら、敵と戦う際も相性は悪くないと考えたからだ。立ち回りの差はあれど、それを埋めるようにヴィヴィアンは戦い方の知識を教えてくれた。「あんたは素質がある」とまで言ってくれた。それで俺は、ますますやる気になって、ひたすら鍛錬に励んだ。
同年 十月二十一日 ペドロの日記
今、俺には兵士の知り合いが多くいる。彼らは最初、俺を呆れた目で眺めていたが、いつしか鍛錬に加わってくれるようになったのだ。彼らはヴィヴィアンと共に、俺を指導してくれている。あれから四か月が経ち、それなりに俺の戦い方は形になった。体力の基盤もできつつある。俺はきっと強くなれる。そしていつか、自分の力で王女様を守れるようになるのだ。
同年 十一月十二日 ペドロの日記
三騎士の最後の一人が決まった。ジルウェスタ―・キーリングといういけ好かない貴族だ。王女様はなぜかにこにこしている。二人の間には俺には分からない絆のようなものが垣間見える。それが俺は妙に面白くない。あの男が賢者の石目当てでないと、どうして言える。いいや、そのことに関して、俺は口を出せる立場ではない。
とにかく、ジルウェスタ―に関しては様子見だ。俺は新たに見つかったこの平穏な居場所を失うつもりはない。
ナターシャ、ここに君がいたら、どんなに良かっただろう。




