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広間の仲間達


「君はよく貴族の接待をしているな。俺はそういうのに興味がないから、助かるよ」

さんざめく光の中、ペドロが笑いかけてくる。隣には呆れたようなヴィヴィアンが、今日も斧を床につけ、その柄に重心を預けるようにして立っていた。

「ねえ、お酒って美味しい?」

少女の純粋な質問に、私は生真面目に答える。

「美味しいよ。だが今は任務中だ」


家で酒を嗜むことはあるが、任務中に呑むことは必要な時以外はない。それを分かって言っているらしいペドロは、返事を待たず、私の後ろに視線を投げた。

「君の連れはそいつか?」

「そうだ」

後ろに控えていたリゲルに、私はそっと場所を譲る。今の彼は、美しい白い服を着ている。デザインに関して私はそれなりに頭を悩ませ、一周回っていつもの白がいいだろうということに落ち着いたのだ。そして私は、彼が幼い頃キーラのドレスを見つめていたことを覚えていた。花冠をかぶせてあげたことも。簡単に言えば、彼はフリフリの服が好きなのである。だがリゲルは男の子だ。他の女性より華美すぎても良くないだろうということで、私はそれなりに考えた。


選んだ生地はさらりとした絹だ。ふんわりとした袖はいつもと同じに、足元にはドレープがかかっている。そして服の首や腰、そして足元に金の刺繍を施した。更に上からレースで作られたケープと、肩から流し掛けする絹のマントをつけている。これらのデザインは私が施したが、服自体を作ったのはスペンサーだ。彼は私の描いた服を見て、「ほうほうほう」と片眉を上げたのだ。「リゲル君に似合うと思って描いたのですか?」と尋ねられたので頷くと、にやにやと目を細められたので、「なんだ」と睨み返したことを覚えている。


そんなリゲルが場に現れると、ヴィヴィアンはかすかに目を見開いた。彼女が驚きを顔に出すのは、割と珍しいことだ。してやったりと私が微笑む目の前で、なぜかペドロは「ひ」と喉を震わせた。

リゲルがそれを見て、静かに目を細める。

ペドロの唇がわなないた。彼の目が、大きく見開かれていく。残念ながら、隣のヴィヴィアンのように感心している訳ではないらしいと、嫌でも分かった。ペドロの頬を汗が伝う。いつもの発作が始まったのだ。


「俺、俺――君は、」

「はじめまして」

リゲルがにっこりと笑った。何かを押し隠した、どこか恐ろしい笑みだった。ヴィヴィアンと私は、とっくに異変に気が付いていたが、止める間もなく、リゲルが手を差し出した。

「先ほどから話は聞いていました。あなたはペドロさんですね。どうぞよろしく」

「あ、ぁ――ぁあ、」

「リゲル」

私は少年の肩を引いた。彼はどこか冷たい目をしていたが、私は構わず口を開いた。

「以前、ペドロと会ったことが?」

「……さあね」

「向こうへ行こう。姫君に呼ばれたら挨拶をすればいい。それまでは好きにしていて構わない。でも彼に近づいては駄目だ」

リゲルはじっとこちらを見て、分かった、と呟くと人混みに紛れて消えてしまった。


やれやれ、と私は肩を竦める。リゲルに悪いことをしたかもしれない、いやしかしペドロが動けなくなってしまってはどうしようもない、などと色々な考えが頭を流れる。

「伯爵、あなたまで動けなくなったら困るわ。しっかりして」

ヴィヴィアンの言葉に我に返る。

目の前ではペドロが汗をかいていたが、そのぐらぐらと揺れる目が、少しずつ焦点を取り戻しているところだった。私はほっとして声をかける。

「大丈夫か、ペドロ」

「お、俺、――俺」

「君はまた少しおかしくなったんだ」

「あ、ああ。もう大丈夫」

「本当に?」

ペドロは目を閉じ、息を吸い込んだ。そしてゆっくりと吐き出す。私とヴィヴィアンはその様子を、じっと眺めていた。

「ふぅ……失礼した、もう平気さ。安心してくれ。――ああ二人とも、その憐れむような目をやめてくれないか。特にヴィヴィ、君にそんな目で見られると、なんだか屈辱的だ」

「あら、あなた本当に失礼ね」

私はほっと胸を撫で下ろす。この調子でやり取りをしているなら、問題なさそうだ。


「そんなことより、見ろジルウェスタ―、若い娘たちが君に視線を送ってるぞ。俺なんかにかまけてないで、行ってやったらどうだ」

ペドロがそう言うので、私が振り向くと、確かに踊り場の向こうに、ちらほらと視線を送ってくる令嬢たちが見えた。この状況は初めてではない。今まで舞踏会が開かれるたびに目にしたものだ。そしてそのたび、わたしは上手く相手をして、彼らの噂話を聞き出した。それはほとんど役に立たない、つまらないものばかりだったが、たまに姫君を喜ばせるものや、復讐に関する重要な情報が混じっていた。私が彼らの相手をするのは、単に楽しいからという理由もあったが、多くは噂話に混じった情報を聞き出すためであった。

「伯爵、こういうのが一番得意でしょ。行って相手をしてあげてよ。あたし、あの熱視線をこれ以上見ていると、胸焼けしそう」

「――二人とも、見張りを任せていいかい」

もちろん、と彼らが言うので、私は人混みの中に紛れ、踊り場の反対側へ行くと、令嬢の一人に声をかけた。薄い水色のドレスを身にまとった、若い娘だ。

「こんにちはお嬢さん、もし良ければ、私と一曲いかがですか?」

「キーリング伯、嬉しいわ。是非ともご一緒に」

そうして私達は、滑り出すように踊り出した。踊りながら、日常的な会話を振り、そこから少し複雑な噂話へ発展させていく。相手が有用な情報を持っていそうなら、二曲目も踊る。だが大抵は一曲で終わる。名残惜しんで貰えるのは甚く光栄だったが、私は丁寧に断りの文句を伝え、他の令嬢を誘うことにしている。


こうした私のやり方は、一部の男性陣から不評を招くこともあった。曰く、誰にでも良い顔をするのは面白くない。それに、女性を大切にするべきだと。私も最初はそう思っていたが、相手を慮りすぎると、良くないことへ発展するという事実を、身を以て知っていた。幸か不幸か、今までに何人もの女性に告白され、断って来たという過去がある。それもほとんどの女性が、酷く重い感情を持っていた。

なんせ私の中身は女だ。誰かから恋愛感情を向けられても応えられないのである。そのことを説明できないために、私は謝罪して、断るしかないのだ。そうすると、大体「あの男は姫君に叶わぬ恋をしているのだ」と噂され、皆諦めてくれるのである。その噂を聞いたペドロにげらげらと笑われたのはまた別の話だ。


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