幕間:証拠物件2
城以外での生活はというと、新しい屋敷での、何不自由ないものだった。
スペンサーの言った通り、半分だけ手にした財宝は、それだけでもあり余るものだった。
「私のように、好きなように過ごしてはいかがです? あなたは少し精神が歪んでおられるようにも見受けられますので。一番の療養は、不自由のない、約束された生活ですよ」とありがたいんだかそうでないのか分からないお言葉も頂いた。
私はその言葉に少しだけ憤慨したものの、彼の言うことも一理あると、豪勢な屋敷を建てることにした。かつて自分の家があった地は更地になっていたが、どうにも気が乗らなかったので、そこは避けた。過去を現在で上塗りするような思いがして、気が引けたのである。そこは今、森に呑み込まれかけて、緑に染まっている。
やがて領地の別の場所に、新しい屋敷が建ち、私の悠々自適な暮らしは始まった。部屋はかつてとは全く違う作りにし、しかし家具はすべてアンティーク調にまとめた。ダークブラウンの家具はどれもなめらかな美しさを放ち、部屋を見事にまとめ上げていた。
そこはある意味、姫君の城とは異なる、私の小さな世界だった。男と女の召使いを3人ずつ雇い、食事の用意や掃除をさせた。そのうち一人の老人は執事として、彼らをまとめる役目を担っていた。
彼らには最低限の仕事だけを頼み、必要な時以外は接触を絶った。城のにぎやかさは好きだったが、一人でいる時間がどうにも必要だと感じたからだ。
夜になると、部屋には月の光が差し込み、部屋は青く蒼く染まる。その静かで絶望的な時間が私は好きだった。
前世から続く私の心は、いつまでもたっても完全には満たされない。前世で死ぬ間際、子どもを助けた時、確かにこれでいいと思ったはずだ。だが今世で家族を失ってからは、憎しみばかりが胸を覆った。リゲルに手を離され、水に溺れた私の絶望は、どこか呪いのように巣くっていた。やはり私は、家族のような温もりを諦めきれず、しかしもうそれが手に入らないと、悟っているのかもしれなかった。
一人でいる時間に何かしようと、私は屋敷の奥に庭園を作った。庭師を雇い、自らも手伝って、白い花々を植えた。夜、青い月あかりに照らされる、骨のように白い花を見ていると、こころの芯が静寂に満たされ、遠い悲しみが、少しだけ薄れるような気がしたのだ。
私の屋敷の噂が広まると、たまに夜盗が入ることがあった。それは私に、父が向き合った惨劇の夜を思い出させ、剣を取らせることになった。召使い達は夜盗の存在に怯えていたが、私がすべてを凄惨に殺してしまうと、誰も何も言わなくなった。そしてどこからか噂が広まったのか、夜盗すらも私を恐れ、この屋敷に入ることはなくなった。
そうして、さらに五年が経った。
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千五百二十二年 五月四日 ゴードン男爵の手紙
無名で恥知らずの画家へ
リゲルを再び借用したいとのことだが、その要求は受け入れられない。今までの代金もまだ支払われていない。そちらがリゲルをどう扱おうが知ったことではない。手を出そうが出すまいが、どんなに丁重に扱おうが、貸し出したことは事実だ。他の貴族からも要求が相次いでいる。どちらにせよ、彼はまた、しばらく私の屋敷で扱うことにする。これ以上無駄な手紙は寄越さず、即刻代金を支払ってもらいたい。
ゴードン・ボルドー
同年 五月七日 破られた一枚の手紙
親愛なる僕の女神へ
リゲル。君は僕の女神だ。青年期に達した、しかし無垢なあどけなさを残す少年。君の美しい四肢や白い髪、瑠璃色の瞳。それらをキャンバスに描いている時、僕はひどい幸福を覚えるのだ。君はたくさんの人と寝ているが、僕はそんなこと気にならない。君の白磁の肌がさらされる時、僕はひどく神々しいものを見た気分になる。そうだ、僕は君を崇拝している。君の足に口づけした時、君はひどく冷たい目をして笑っていたね。どうすれば君の心を貰えるだろう? 僕はきっと、君に惹かれる数多の人間の一人に過ぎない。君はきっと僕を忘れるだろう。どうすれば君の心に傷を遺すことができる? 他の人間のように、手酷く君を抱けばいいのだろうか。いいや違う。それよりもっと難しいことだ。君の不死の身体に消えない傷をつけたい。でもそれは不可能だ。一体どうすれば、(手紙はここで破られている)




