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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第七話「修練と収斂」



 スミスに装備を作って貰ってからはや数日、異世界で過ぎ行く毎日はルシアと共に依頼をこなしていく日々の連続。しかし同時にスミスには既に、次のオーダー(・・・・・・)も頼んである。


 その内容は以前頼まなかったルシア用の武器と、自分用の軽い防具である。


 以前と同じく設計図や模型、使って欲しい素材の要望なども全て伝えてあるが、製造期限は特に定めていない。


 今回は物が物だけに、「素材も時間も惜しまず作って欲しい」とスミス本人に伝えてある。どうせなら、「素材」「時間」「職人」の三つの要素は妥協したくなかった。故に、今回もまたスミスに任せきりの状態だ。




 そして今はその装備を買う為の資金を貯めている途中。最近はゴブリンソルジャー討伐の功績もあり、早々にEランクへと昇格。毎日受ける依頼量を2つから3つに増やしもした。


 基本は討伐依頼2つに採取依頼1つを受け、全てその日の内に終わらせる。



 依頼報酬を受け取ったら買い食いなどしながら風見鶏亭に戻り、宿の敷地内でルシアとナイフや木刀を使用した鍛錬を行う。これが最近の日課(ルーティン)というやつだ。


 何よりもルシアは教えれば教える程、その全てを吸収して尚且つ直ぐにそれを自分の『技』として昇華させるので、現状で教えられる戦闘に関しての技術や知識を惜しみなく与えていた。


 しかしメインの武器が出来るまでは、ヴォイド特製の硬くて重い木材で造った木刀を使ってもらっている。


 今は剣を使った鍛錬を開始してからまだ数日ほどだが、もう既にルシアは結構な速度で打ち合えるレベルにまで至っていた。


 素の体力も高く、獣人族特有の五感の鋭さも相まって、中々鍛錬の相手としては手応えがある。華奢に見える肉体から放たれる攻撃は一撃一撃が「速く」「鋭く」「重い」。


 しかし、まだ戦闘時の動き全体が直線的なのが欠点。



 スミス作のカランビットナイフを右手で構え、ルシアの攻撃を躱し、弾き、受け流す。攻撃の合間にそれとなくフェイントを入れてやれば、ルシアは直ぐに反応してしまい、それが致命的な隙になる。


 故に少し行き詰まっているルシアに対して、先達からここでアドバイスを一つ。



「ルシア、毎回フェイントに反応し過ぎだ。それじゃあ本来対応出来るものも出来なくなる」


「う~ん。正直に言うとね、こんなの初めてだからどうやって対処していいのか、分からないんだよね」


「なら、もっと戦闘中に思考を回せ。例えば自分が『このタイミングでこうされたら嫌だな』と思う瞬間を探すとか、逆にこのタイミングは好機かもしれない、とかな。そこからどうするかはお前次第だが、まだ努力次第でどうとでもなる場所だ。お前ならやれる」


「うへぇ、意地悪だ」


「お前は動体視力が良いから、普通の奴よりもそういうものに反応し易い。だから相手の動きや視線、そこから弾き出される相手の思考を時間をかけて掌握しろ。そしてそこから導き出される己が次に取るべき行動へと、繋げてみせろ」



 そうルシアへと語るヴォイドの瞳には、「期待」と「嫉妬」の二つが読み取れた。しかし入り混じる感情はその二つのみではなく、最早本人ですらわからないような感情があったのも事実。


 その事を少なからず読み取ったルシアは長い深呼吸の後、「わかった」と一言だけ答え、木刀を正眼に構え直す。


 その眼が映すはヴォイドであってヴォイドにあらず。その瞳が覗くは深い集中の末に到達する深淵の入口。


 その領域は紛う事なき世界の英雄達が踏み込みし、武の真髄へ至る為の志向の道筋。相対するは漆黒を纏いし男。彼の者もまた、習うようにその思考を回す。



 第二ラウンド開始の合図は、音もなく告げられる。





 「スミス工房」の主であるスミスは現在、物好きな珍しい客の為に久方ぶりではあったが、割と本気で鉄を打っている。


 一度目は見たことのない武器を作らされたが、それはそれで中々に面白い仕事が出来た。だがその支払いがまさか、適正価格+チップで金貨6枚も払われるとは思わなかったが。



 そして何よりも、彼は自らが他の職人達や客からは「付与が出来ない出来損ない」と呼ばれているのを知りながら、接触してきた。


 とは言えスミス自身は「鍛冶師」である以上、「付与」が出来る出来ないの話は問題じゃないと思っている。本物の鍛冶師なら、そんなモノは不純物だと切り捨てると知っているから。


 そして彼は付与が出来ない事を「気にしない」と言ったどころか、「そっちの方が助かる」とまで言い切った。


 魔術師の様な格好であった為本人に尋ねてみれば、付与も出来ると聞いた時は驚いたものだ。何よりも彼は「付与はこっちでやるからしなくていい」とまで言い切った。


 だからスミスは、ただ造ることに集中する。


 彼から頼まれた依頼は二つ。片刃の「刀」という剣が一本、使う素材は「玉鋼」が好ましいと言っていた。二つ目は「籠手」と呼ばれるガントレットに近い防具を1セット。


 彼曰く「忍具」と言うらしいが、見た限りでは面白い絡繰り(・・・・・・)が仕込まれている。


 そして彼本人からその時、「時間と素材は惜しまないでくれ」と言われてしまった。その為に彼らは今、自らが作る装備を買うための金を稼いでいる。



(なら、それに応えるのが“一流の鍛冶師”ってモンだろうがよ)



 故に、妥協はしない。一切手を抜かず、今手に入れられる最高の素材を使って鍛造する。


 その結果と言ってはなんだが、ここ二日間ずっと、ひたすらに鉄を打ち続けている。試作した数は容易に百を超え、工房内には数多の鉄くずが積み重なっている。


 こんな(なまく)ら程度では駄目なのだ。彼が求めるのは今よりもっと「折れず、曲がらず、良く斬れる」を体現した業物。


 彼が言う天才(ルシア)の嬢ちゃんが扱うに相応しいと思えるほどの、力強く儚い一振りを。



 気が遠くなるほど、鉄を叩いて伸ばして折り返す。繰り返し繰り返し、不純物を取り除きより純度を高く、高く。


 彼から聞かされた工程は非常に多い。


 素材を選別する為の「水減(みずへ)し」や「小割り」。玉鋼を精錬する為の「折り返し鍛錬」、刀剣の形を作る「素延べ」や「火造り」。


 そして刀として重要な刃文と反りを決定付ける「焼き入れ」。仕上げにも形を整える「鍛冶押(かじおし)」、最後は「銘切り」という工程を以て、刀は生み出される。



 その刀身に込める思いはただ、「真っ直ぐ強く在れ」と。


 しかしてスミスのその熱情は無意識に周囲の魔力(マナ)に干渉し、その刃の強度と切れ味を己が成し得る限界まで引き上げる。


 刀に於いて「心鉄(しんがね)」と呼ばれる部分を今しがた鍛えた玉鋼を使用し、その心鉄(しんがね)を包み込む「皮鉄(かわがね)」と呼ばれる部分を独自で配合した混合鉄を使用して積層構造を作り出す。


 そして「焼き入れ」の工程。形を整えたら刃先に薄く土を塗り、それ以外の部分は土を厚く塗る。その状態で炉に戻し赤く焼いてから水に浸して急冷する。この工程を以て、刀が相手に当たる部分の刃先のみが非常に強靭となり、より鋭い業物として完成へと至る。


 その最中に蒸発して暴れる水滴の一部が頬などに飛んでくるが、この程度の火傷など今は気にしていられない。


 これで刀身の大部分は出来た。ならば後は研磨の作業と他の部品の作成のみ。



 こうしてスミスの深い集中は途切れることなく、その炎は猛り続ける。そうして彼が魂を込めた至極の逸品がこの世に生み出されるのは、そのしばらく後のことである。


 誤字脱字が確認できたため、修正しました。


 内容を少し編集しました。 2022/03/09

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