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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第六話「新装備の実験」



 木箱の中に綺麗に並べらた苦無(クナイ)の一本を手に取り、ヴォイドはその感触を確かめる。


 全体のサイズ、持った際の感覚、物自体の誇る強度。それら全てを目視と手に残る感覚で確認し終えたヴォイドは再び笑った。


 それはまさに、「素晴らしい出来栄え」と言っていい程に完璧であったから。



 それほど広くはない店内の片隅、その壁に掛けられていた恐らく弓の練習用の的に、ヴォイドは手に取った苦無(クナイ)を、振り向き様に音もなく投擲する。


 しかし無造作に投擲された苦無(クナイ)は「トンッ」という軽やかな音を立てて、的の中心部分をまるで当たり前の様に捉える。


 その後すぐに手裏剣などを同じ様に手に取り、音もなく投擲したヴォイドであったが、その全てが不思議な軌道を描いて、その上で気持ち悪い程の精度で的の中心へと吸い込まれていく。



(投げ方は大体身体が覚えたか。これなら、片手で同時に幾つか投擲しても問題なさそうだな)



 そんなヴォイドの動きを一通り見て、スミスは何かに納得したように何度も頷いていた。



「なる程な、投擲する暗器の類だったか。こりゃ面白い」


「残念ながら、使うのは人じゃなくて魔物相手だけどな。けど、この出来の物でもほぼ消耗品なのがネックだな」


「でもマスター、今そんなにお金無いんでしょ?」


「まあそうだな。けどそういう仕事である以上、初期投資ってのは結構大事なんだよ」



 どこか言い聞かせる様にそう告げながら、今度は白い布に包まれた一振りの短剣(ナイフ)を手に取る。


 それは名を「カランビットナイフ」と言う、鋭く湾曲した虎の爪の様な形をした、持ち手(グリップ)に指の保持リングがある、特殊な形状をした短剣(ナイフ)。奇襲などにより、敵を効率的に殺すために取り回しに特化したその短剣(ナイフ)は、体術と兼用して使用する事でその真価を発揮する。


 例えば腕をまるで鞭の様にしならせて突きを放つだけでも、この短剣(ナイフ)はかなりの殺傷能力を誇る。


 更に形状とサイズによって取り回しが強化されている為、搦手による相手の武装解除もしやすく、何より動き全体の邪魔にならない。



「あぁ、いいね。かなり良い」


「ハッ、そんなに褒めても何も出ねぇぜ?」


「いや、本当にアンタに頼んで良かったよ。勉強になった(・・・・・・)。それで、全部でいくらだ?」


「締めて銀貨10枚ってとこだな」



 その値段を聞いたヴォイドは僅かに動揺する。理由はこれでは少なすぎるから。


 誰がどう見ても、どう考えてもこの出来なら金貨3枚でも文句を言う奴は居ない。もっと言えば、金貨3枚程がこの装備全てを含めた適正価格だろう。


 故にヴォイドはこの値段では到底納得が出来なかった。その為、懐から金貨6枚を取り出し、返されぬ様にスミスへ軽く投げ渡す。



「ほい、半分はチップだ」


「っておいおい!チップにしちゃ多すぎだ、それに俺は金貨3枚とは言ってねぇが?」


「客の好意は素直に受け取っておけよ。それに安心しろ、ちゃんとまた来る」



 ヴォイドはそう言って少々強引に金貨6枚を渡し、スミス工房を後にした。その時のスミスは若干嬉しそうな、それでいて納得がいかないような顔をしていたが、ヴォイドはそれを見なかったことにする。



 ともかく、新しい武器を早く試したい一心でヴォイドは冒険者ギルドへと向かった。今回受ける依頼は、ダイアウルフ討伐とゴブリン討伐の二種類。両方それなりに数が居る魔物であるため、新装備の練習相手には丁度いいだろう。


 そういう訳で早速近辺の森に移動し、獲物を探す。


 そんな道中、我慢出来ずホーンラビットを何匹かクナイで仕留めてみたが、やはり不思議と手に馴染むこの感覚は堪らない。



 そして歩きながらしばらく森を探索し、遂にダイアウルフの一団を発見した。


都合のいい事に、一団は未だこちらに気付いてはいない。その有利を失う前に、ヴォイドは先頭の一番大きなダイアウルフの眉間に狙いを定めて、クナイを投擲した。


 投げるまでの動作の合間に『消音』効果と『軌道操作』の効果を持った独自の風の魔術を纏わせ投擲されたクナイはそのまま音もなくダイアウルフの眉間に到達し、深々とその刃を突き立てる。



 そして突然群れのリーダーが何者かにより殺されたことに動揺を隠せない一団は、辺り一帯に吠えてこちらを警戒する。


 しかしこちらの位置はまだ特定されていない。


 故に「ならば」と次にヴォイドは手裏剣を真横に投げ、同じように風魔術で消音し軌道を変える。


 ヴォイドが投擲した手裏剣がその身に迫ったのを獣の勘で感じ取った一匹のダイアウルフがその方向へと振り向いた瞬間、その眼へ激痛と共に漆黒の異物が侵入する。



「ギャァァアァアアアアアアアアァァァアア!?!?!?」



 その激痛に耐えかね、周囲に響く程の絶叫を上げながらその場をのたうち回る、哀れなダイアウルフ。


 そんな既に混乱の渦中である獣の一団の中へ、ヴォイドは更に『光魔法』で光の屈折率を弄り、居るはずのない幻影を複数、ダイアウルフ達へ見せつける。


 そんな実体のない幻影により囲まれていると思考した彼らは、ただその場を動けずに幻影に向かって威嚇するだけ。



(さて、『魔法/魔術』と新装備の実験もこんなものでいいだろう)



 ヴォイドは十分なデータを取れたと区切りを付け、幻影の一つの動きと連動して手裏剣を獣へと投擲する。


 それを彼らは見えていれば避けるのは容易いとばかりに、跳躍して躱した。


 だが、その一瞬の跳躍が彼らにとって致命的な隙となった。どこからか「バチバチ」と言う音と僅かな雷光を残して、いきなり横合いから漆黒の影が迫る。



『雷属性魔術 “迅雷脚(じんらいきゃく)”』



 『疾風客』とは異なる新たな速度上昇系魔術『迅雷脚(じんらいきゃく)』を使用しダイアウルフの一匹へと接近していたヴォイド。


 しかしてその右手には銀に煌く刃が一つ。迫られたダイアウルフはまともに反応する事も出来ず、その命を刈られる。


 だがそれを見逃さず、即座に反応し反撃に移った他の二匹もまた、先と同様に瞬く間に急所を斬られ、突かれ、絶命する。


 残存する一団の獣はそんな状況を見るや否や、振り返ることなく全力で逃走を開始しようとした(・・・・・・)


 だが、彼らが無事に逃げることは決して許されなかった。


 彼らは急速に迫る死を前に逃げ延びる事に必死になり過ぎ、自らの足元から生える鋭利な岩の棘に気付けなかった。



穿(うが)ち抜け――――」



 それは言霊を介して空気中の魔力(マナ)に干渉し紡がれる、ごく短い魔法発動の為の詠唱。本来成される筈の工程の半分を無視し、記憶領域から脳内に映し出されるは短小なる生命を突き穿つ、鋭利な岩槍。


 短い詠唱によりその在り方を決定された魔力(マナ)は今、術者の意思に応え顕現する。



『岩属性魔法 “ガイアニードル”』



 ヴォイドが認識している全ての獣のその足元へ、大地が盛り上がり鋭い岩槍が姿を現す。


 それはこの場から逃げている者には勿論のこと、更に既に倒れた者にも甚大な被害を与える事になる。



 突如として目の前に出現した棘の壁に、ダイアウルフ達は為す術もなくその命を差し出す。目、頭、口など、彼らの至る所に岩槍は穿たれ、数秒もせずにその場は血塗れと化す。


 そして(とど)めに、まだ息のあるダイアウルフ一匹に対して、先程ヴォイドが放った手裏剣がありえない軌道で迫り、その命を刈り取っていった。


 こうしてこの日、とあるダイアウルフの一団は黒衣の人物に全てを蹂躙された。



(『迅雷脚』。雷属性の魔力により肉体を活性化させたり、脳のリミッターを少し外したり出来るとかいう魔術を試してみたが、これなら『疾風脚』で良かったな)



 しかし先ほど獣の一団を蹂躙した当の本人はその事を喜ぶでもなく、あくまで軽く戦闘の反省をしながら討伐証明部位である牙を採取するのであった。

 誤字脱字が確認できため、訂正しました。


 内容を少し編集しました。 2022/03/07

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