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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第六十八話「舞い込む面倒事、即ち見敵必殺」

 最早当初の純白の美しさとは程遠い、大きな破壊の痕跡が色濃く残る街中を歩きながら、ヴォイドはふと考える。



 ――――自らが下した決断は間違ってなかったのか、と。



 内心ではそれなりに面倒だった依頼が片付き、同時に聖女アグネスとの縁も得た。しかし、本音を言えばヴォイドにとってはここから先の展開は正直、もうどうでもよかった。


 理由は幾つかあったが、最も大きいのはこれから先は恐らくもう自らが望んだ結末には辿り着かない可能性が非常に高かった為だ。その要因は本来、この場に居ない筈のバートの姿が悪魔との戦闘中にあった事と、対面して感じた聖女のその在り方が恐らく偽物(・・)であった為だ。それ故に、ヴォイドはわざわざ法王キャリオンをその場の思い付きのような気軽さで殺害し、より場を混沌へと陥れる為に行動に移った。


 しかし既にやってしまったとはいえ、ヴォイドはルフには少し申し訳ないことをしたかもしれないとも思っていた。


 何故ならルフは本来、このオレアム皇国をいずれ叩き潰すつもりであったからだ。理由は多岐に渡るが、その中でも特にひどいのは時代を経ても変わらぬ亜人差別や獣人国アレストの国王であるルフに対して高圧的な態度を取り続ける皇国の人間、更に最近ではアレスト側の許可を待たずに今代の勇者達の派遣など。


 ここまで好きにやられては、流石のルフであってもその胸中に溜まり続けるどす黒い負の感情を吐き出したくもなるというものだ。


 だが、ヴォイドは成り行きとは言えその元凶を殺してしまったのだ。本人から今までの話を直接聞いた訳ではないが、それでもヴォイドからすればそれらの情報を集める手段など幾らでもある。故にオレアム皇国での行動は依頼された「勇者暗殺」にも絡み、尚且つその先の国落としの小さな小さな切っ掛けである事も何となくだが察していた。


 にも拘らず、ヴォイドはその終着点であり全ての元凶である法王キャリオンを殺害した。


 その判断が正しかったのか、果たしてこれから先どういった影響を及ぼすのか、そんな事を柄にもなくヴォイドは考えてしまっていた。


 しかしそんな思考は肩に乗っていたクロの鳴き声で霧散する。理由は発せられた鳴き声と共に伝わってきた思念が「危険」を示すものであったからだ。



(隠蔽工作もせずに目立ちすぎたな。流石にそろそろ、それっぽい組織から目を付けられたか。仕方ない、こういうのは早めに処理するに限るからな)



 周囲に潜む複数の気配を正確に感知しながら、ヴォイドは無言で歩みながら空中に魔法の詠唱を並列で隠蔽して行う。同時にコートの袖に暗器を複数仕込み、『魔力糸』も不可視の霊体である状態で自らの周囲へと展開する。



「はぁ、これからは街での活動が少し面倒になりそうだな。なあ、アンタもそう思うだろ(・・・・・・・・・)()?」



 何でもない様子で会話するように、ヴォイドは自身の左後ろにある民家の屋根へと顔を向けて問い掛けた。僅かな殺気を飛ばしつつではあったが。



「.......返事なしかよ。まぁいいや、じゃあ死ね」



 だがあいにくと返答をわざわざ待ったにも関わらず、姿を見せないどころか問い掛けへの返事すらない。ならばそこに居る男はもう必要ないと判断したヴォイドはその方向へと手を翳し魔法を発動させようとして――――



「あらあら、返事をしなかっただけで随分と物騒な事をしようとするのね。一応ここは民間人も居る街中なのだけれど.....残念、貴方相手にはあまり関係なさそうね」



 背後から女の声でそう言われた為、ヴォイドは発動直前だった魔法を消去し指輪から代わりの術式を準備しながら自然な動作で振り返る。視界に入るのは鮮やかな紫の髪に赤の瞳を持つ女。妖艶な笑みを浮かべながらこちらの様子を窺っているのが分かる。



「人の事を隠れて監視しといて何言ってんだお前?それと御託はいいからさっさと要件を言え三下。こっちは呑気に人間観察する時間のあるお前らと違って、忙しい身なんでな」



 敵対するのは殆ど確定している為、適度に煽っておくヴォイド。聞いていた女もピクリと眉を僅かに動かしていたのが見えたので、顔には出していないが内心ではそれなりに効いているのだろうとヴォイドはフードの中で笑っていた。





 そんなヴォイドとやむを得ず対面する事となった女―――イザベルは今のやり取りの中で得たあまりの情報量に思考が纏まっていなかった。


 まず最初はこちらが尾行している事に恐らく早々に気付いていた事。更に仲間の一人の位置を正確に特定出来るだけの能力がある事。しかもそこから、民間人も近くに居る街中であるにも関わらずこちらと戦闘を開始しようとした点。更にはこちらが声を掛けてからの次の行動がこちらを煽ることだ。


 このように、イザベル達はただ組織への勧誘の為に情報を集めようと近付いただけだったのだが、その判断が今の状況を作り出していた。



(まずどの言動に反応すればいいのか分からないのだけど、ここで判断を間違えれば半数は死ぬと思った方がいいかしらね。バレた以上、聞いてた話と違うとは言ってられない。本当なら最低でももう少し情報が欲しかったところだけど、仕方ないわね)



 現状で手元にある僅かな情報を頼りに、イザベルは内心の焦りを出さぬように探り探りでヴォイドを相手に会話を再開する。



「フフッ、冗談がお上手ね。【漆黒】の二つ名を付けられてからそれ程時間が立っていない事も考慮して、今回はその礼儀のなさには目を瞑りましょうか。それとご所望の要件ですが、ただの勧誘です。“魔導組織ヘメロカリス”、ご存じありませんか?」



 組織名と接触した目的を隠すことはしない。目の前の手合いは与えられた情報が嘘だと分かればその瞬間にこちらに対して牙を剥くのをイザベルは身を以て知っているから。しかし続くヴォイドの言葉の最後を聞き取って、イザベルは驚愕する。



「あぁなるほど、魔導の研究機関だっけか?確かその規模は裏の人間なら殆どが知っているような大きさの組織だったよな。ならこの国の腐敗速度を速める一助をしたのもお前らな訳だ。なぁ?イザベラ(・・・・)



 思わずゾクリとした。イザベル(・・・・)ではなくイザベラ(・・・・)と呼ばれた事が。あの言い方は決して偶々じゃない。知っていた(・・・・・)のだ。「イザベル」が偽名だという事に。





 動揺を誘う為に敢えて目の前の女の名前を知っているぞというアピールをしてみたのだが、どうやら正解だったようだ。対面で僅かに目を見開いてその体を強張らせている女の本名は「イザベラ・エミリー・リード」。その正体は魔導組織ヘメロカリス、オレアム皇国皇都バルガルド支部所属の勧誘員であり、同時に皇国支部にて幹部を務める一人。


 種族は人間ではなく魔人族とのハーフとされる半魔人族。持ち得る代表的な能力は『魅了の魔眼』、幻影魔術と柔らかい体を使った体術を絡めた暗殺術。それらの特徴から予測される彼女の先祖は恐らく、サキュバスに近い特性を持った種族と思われる。


 これらが対面する女の主な情報である。


 そしてそれらを総合すると、目の前の女は「潜在的脅威」とヴォイドは判断する。故に――――



(周囲に存在する手下はイザベルを合わせて総数9人。いずれも暗器や毒物、効果不明の魔導具を複数所持。総合的な戦闘能力はそれ程高くないと見えるが、警戒するに越したことはない。イザベル本人は距離を取りたがっている所を見るに恐らく法術を使用する後衛タイプ。ならその他はこっちの気を引いて奇襲を行う要員の可能性が高い。イザベルは情報を得る為に後回しとして、最初は確実に一人貰うか)



 自然体で対応しながら、同時に気付かれる前にその術式を展開する。


 それはイザベルの手下ごと纏めて、外部との全てを遮断する結界。唯一の例外は結界外部から今も結界内部を照らす太陽の光のみ。そんな空間に閉じ込められた事にイザベル達が気付いた頃にはもう、ヴォイドは行動を開始していた。


 一番初めにヴォイドが話しかけた男に対して『縮地』を用いて瞬時に彼我の距離を零にし、『ストレージ』から抜剣しながら取り出したミスリルソードを一閃。


 斬、という重く鋭い音を立てて男はその首を刎ねられる。ヴォイドはそんな男から既に視線を外しており、死体から血が噴き出る前に首から上が無くなった胴体部分を屋根から蹴り落とす。


 しかし向けていた視線が捉えた彼らの動きを前に、ヴォイドは少し関心を示す。



「へぇ、こっちの剣術を警戒してんのか?悪魔との戦闘か、それともイリスとの模擬戦か、まあどっちでもいいか」



 ぶつぶつと独り言を零しながら、銀の刃に付着した血を振り払い屋根から飛び降りる。着地の瞬間を狙って電撃を纏った矢による射撃が複数飛来するが、左の袖からナイフを三本指の間に挟むようにして取り出し即座に投擲。それぞれが空中で矢の幾つかに当たり、その軌道を逸らして地面に刺さる。


 その頃にはヴォイドへと迫った矢は殆ど最小限の動きで躱せる場所にしか存在せず、ヴォイドはそれらを事も無げにするりと抜ける。


 周囲にはそれぞれ残った人員で3つのグループに固まって動くイザベル達。


 本来は3人ずつで組む筈だったのだろう事が動きから見て取れる。殺された男が本来固まるはずだったグループはどうやら遊撃を担当する事になったらしく、その後ろでイザベルは二人の護衛に守られるようにして魔法を詠唱している。もう一つのグループは遊撃班と協力して、こちらに接近戦を仕掛けて時間稼ぎをするつもりのようだ。



「情報が少ない中での即興にしては中々悪くないが、その情報の有無が文字通り生死を分ける訳だ」



 迫る矢を叩き落しながら、ヴォイドはタイミングを合わせて踏み込んできた三人に対してこちらが迎撃の体制を取る事で相手の意識を己に向けさせ、それと同時に僅かな時間意識外となった足元からクロに影を操作させ、地面から瞬時に生えた影槍で貫かせた。


 しかしヴォイドはそれらの結果を見届ける事もなく、彼らの間を通て迫っていた飛び道具を魔力糸を用いて器用に絡め捕り、瞬時に投げ返した。



「お返しだ」



 一人は躱したが、もう一人は回避が間に合わないと判断して取り出していた投擲用のナイフで矢を切り払っていた。しかしそんな様子を呑気に眺めているヴォイドの姿は既に幻影である。ならば本体はどこに行ったのかと言うと――――



「クッ、放しなさい!」


「釣れない事言うなよ、俺らの中じゃないか」



 右手はイザベルの左手首を掴み、左手はイザベルに向けて掌が翳されている。それらを認識した生き残りはヴォイドの左手に魔力が集中しているのが見えていただろう。





 油断した。いや、これは油断とも言えない何かだ。明らかに敵対した者の情報が足りなかった、足りなさ過ぎた。気付いた時には4人が秒殺された挙句、人質として捕らえられている。しかもこの状況で相手には油断も隙も無い、こちらの状況にいち早く気付いた左右の護衛が動こうとした次の瞬間には見えない何かで輪切りにされていた。


 こんなもの、どうすればいいのだ。私は、どうすればよかったのだ。逃げればよかったのか?阿呆か、逃げられる訳がない。逃げれば地の果てまで追いかけ回されて情報を吐き出させた後に殺される。では奇襲を仕掛ける?断じて否だ。初めからこちらに気付いていたのだ、最早どうしようもない。


 そんな考えのもと、イザベルに諦観が浮かび始めたタイミングで男は言葉を発する。



「じゃあ、この女以外は要らないから、お前らはさっさと死んでくれ」



 随分と久し振りの更新です。作業環境が変わったりゲームの大型アプデが重なったりで全く小説に触れられていなかったのですが、一応はそれぞれひと段落したのでまたちょくちょく改稿作業しつつ更新していきます。

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