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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第六十四話「代償と小さな喪失」

 少し短めです。



 ヴォイドが成した偉業をその眼で見ていたバートは、悔しそうにその表情を歪める事しか出来なかった。


 それはまたしても短期間の内に途方もない距離を一気に詰めてきた彼に対しての恨めしさか、はたまた彼に比べて亀の歩みの様に成長が遅い己に対しての嫌悪感か。


 そして同時に、彼が持つあの執念は一種の才能だと勘違いしていた己を恥じる。


 アレはただ、その魂にまで刻み込まれた何かに対しての強い感情が時間をかけて歪み捻れて、気付けばああなっていただけの話。


 故にその源流はきっと、誰にも理解されぬであろう圧倒的なまでの力への執着という名の「狂気」。本来は才なき低能者が持つには余る、大き過ぎる願望。


 そしてそれは才人が喪失の果てに全てを賭して始めて至るべき、極地でもあった。



 それを、あの男は凡人以下の身で成している。


 その異常性、その(おぞ)ましさ。きっと周囲はその事を理解しない。いや、出来ない。何せ彼本人がその事を他人に自ら語ることなど、決してありはしないから。


 あの眼は、あの仮面(ペルソナ)は、滅多な事がなければ揺らがぬ頑強さを手に入れてしまったから。


 故に、今の己では――――



「勝てる.....とは、言い切れぬなぁ」



 堪らず零れた、剣士の弱音。


 それは果たして正しいのか、今やヴォイドですら分からない。何故なら彼らはもう、全力で戦う事など決してないのだから。





 バートが忌々しそうにその顔を歪めていた時、魔人との戦闘を終えたヴォイドは成長した己の事を冷静に分析していた。


 あくまで能力は使わず己の感覚のみで、何がどう変わったのかを静かにゆっくりと確かめる。



(.....やはり、最初は「感情」が少し持って行かれた(・・・・・・・)か。『一歩進む度に人としての機能は欠落し、カタチを失う。しかしその果てに在る欠落した存在こそ、俺達が望む■に最も近い』だったか。あれは警告か、励ましか、それとも――――)



 つい先程、それこそ魔人を消し飛ばすその瞬間に垣間見た、踏み込んだ深淵のその向こう側である、彼岸の景色。


 武の求道者がある地点を境に度々入り込むと言われる、一種の精神世界。


 存在したのは在り方の異なる12人の(オリジナル)。彼ら全員に一致していた特徴はただ、「途方もなく強い」という一点のみ。


 彼らの大半はその身に明確なまでの虚ろ、即ち「虚無」を宿していた。


 しかしその在り方は様々で、一見感情豊かに見える者でもその実、内側は驚く程に何もない伽藍堂(がらんどう)。逆に表向きは空っぽの様に見える者は、その内では熱や冷たさを持っていたりと、あべこべな者達が多かった。


 その内の一人である道化(ピエロ)の仮面をした己に言われた「進む度に人としての機能を失う」という言葉。


 その意味を改めて今、思い知る。



 踏み込むほど、広げるほど、深めるほど、「個」としての在り方は徐々に溶け出していく。彼らが常に繋がる源流へ、源泉へ。


 それは明確に、己という「個人の存在の死」を暗示している。今までも、その境界線が曖昧になる事は度々あった。


 そしてやはりその度に垣間見ることになる、彼らの魂が内包する星海(せかい)


 その在り方は様々で、しかしそのどれもがどちらか(・・・・)に振り切れていた。


(ひかり)」と「(やみ)」、そのどちらかだ。だが、同時にその中心には大きく穿たれた様な穴が存在していた。


 色はなく、気配もなく、ただただ其処に在るだけ。


 中を覗く事など決して出来ない、どこにでもあってどこにもない、在るとされる「なにか」。


 人が付けた仮想名称は幾つかある。それらは太古に「無限」や「宇宙」、「混沌」と言う意味を与えられた、世界に巣食う「穴」。


 そしてそれは「認識」は出来ても「測定」は出来ない。「其処に在る」と言うことは分っていても、「なぜ在るのか」までは分からない。 


 時を経て何時からか、ソレは本当に存在するのかすら怪しまれ、だからこそ彼らはそれを『虚無』と新たに名付けた。


 何もない状態が其処に在る、という現象として。


 そしてその虚無の穴は今現在も己が胸に、穿たれている。ただ静かに、無機質に、すべてを見つめる眼の様に。





 バートの少し後ろで控えていたリサは先程の様に感涙を流してはおらず、既にいつものメイドとしてのリサに戻っており、自らの前で悔しそうに顔を歪めるバートへと声を掛けた。



「会いに行かなくて良いのですか?」



 それは純粋な問いであり、理由は現在バートの取っている体制にある。その体重は少しだけ前方に傾けられ、左手は刀に添えられている。


 示すはただ、「好奇心」。一人の武人として、ただ「戦ってみたい」という気持ちが抑えられていない。


 故に、問うた。しかし、帰って来た答えは――――



「無駄じゃろうな。あれは、あの眼は.....もう儂を好敵手とは見ておらぬ。本当に、残念でならんわい。あやつであれば、儂も――――」



 バートの口から、その続きが紡がれることはなかった。


 しかし、既にその身からは滾る戦意は消え失せていた。分かっていたのだ、こうなるであろうことは。だがやはり、認めたくはなかった。


 共に過ごした日数自体は、それ程多い訳ではない。それでも、共に過ごした日々の密度は他の追随を許さぬ程に濃縮されていた様に思う。


 共に過ごす中で、互いに高め合えたとも思う。始めて魂装を用いて殺し合った時など、表情筋が天元を突破しそうなほどに嬉しかったのを今でも覚えている。


 二度目は魂装を抜かずに斬り合ったが、その成長速度はやはり目を見張るものがあった。あの時は魂装を抜かれれば、もしかしたら負けていたかもしれない。


 だが、今後彼がこちらに対して本気の刃を向けることは、恐らくない。



 何故ならあの眼は、何かを諦めた者の眼だから。


 彼の全てを知っている訳ではないが、それでも分かってしまう。嫌でも見抜いてしまう。彼にとって諦めたソレが、大きな意味を持っていたのであろう事も。



 何故なら彼は、いつだって命を掛けて戦っている時だけは、誰よりも心の底から楽しそうな顔をしていたから。


 いつだって彼は自らに縛りを課して、命をより死に近づけながら殺し合いをする事で、「生」を実感していた。


 無意識の内に「死」に対して、救いを見出していた。



 それ程に、彼がこれから歩もうとしている道は救いがない。それでも尚その顔に笑みを貼り付ける彼を前にして、己は――――



「何事も、(まま)ならぬなぁ....」



 悲しそうに、虚しそうに、そう零した。

 随分と久しぶりな更新ですが、一応何とか生きてます。ここ最近は筆が止まることが多くて中々進みませんでした。


 とは言え零話からの改稿も随時行っていく予定ですので、そちらの方も是非よろしくお願いします。

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