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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第六十一話「悪魔を従えし悪魔」

 ヴォイドが教会本部にて教皇を名乗る悪魔と戦い始めてから、時間にして約一時間と少しが経過した頃。


最初にヴォイドに加勢しようと陣形を組んでいた若い騎士達数名は既に、ヴォイドの傍には居なくなっていた。というのも、ヴォイドが悪魔と衝突を繰り返す度に二人の戦闘区域が大きく変わるため、彼らは戦闘よりも近隣の住民の避難などを優先して行っていた。



「ここは危険です!速やかに安全な場所に避難をお願いしますッ!」



 大通りを走りながら周囲へと大声で避難勧告をする、(くだん)の騎士数名。


 彼らのその呼び掛けを聞いた者や彼ら自身をその目で見た者は、彼らの発する雰囲気が嘘を言っている風には見えない事から「ただ事ではない」と即座に判断し、彼らの誘導に従いその大半が貴族街へと避難してゆく。 


 本当に大事な物だけを大切そうに抱き抱えながら非難するその様子はなんとも、ヴォイドにとっては滑稽でしかなく、こんな状況であるにも関わらず思わず笑みが浮かんでしまいそうだった。



 そしてそんな街の様子を目の端に捉えながら、ヴォイドは斬魔刀を片手に無人と化した一軒のあばら家へと歩を進めた。しかし傍目から見るとその歩みはどこか楽しげで、今の状況とは少し噛み合っていない様な印象を受ける。


 そして破壊された扉を潜り室内へと入り、完全に辺りに誰も居ないことをスキルで確認した後に、ヴォイドは口を開いた。



「さて、この辺りなら大丈夫だろう。ご苦労だったな、バラム(・・・)



 誰も居ないあばら家の中で、「居るであろう誰か」に対して(ねぎら)いの言葉を掛けるヴォイド。本来であれば、その一言は誰にも反応されずに虚空に消え行くはずであった。


 しかし――――



「構わぬとも。我らが(あるじ)に願われたのだ、ならば我らはその願いに応えるだけよ。我らはどれだけ願われても何もしない、あの忌々しい怠惰な神々とは違うのでな」



 (しわが)れた声でそう返すのは、先程までヴォイドが戦っていた教皇の格好をした悪魔だ。


 しかしその外見は、先程までのものとは明らかに違っていた。


 三つの頭を持ち、それぞれ牡牛(おうし)、人間、牡羊(おひつじ)の特徴があり、暗闇から覗くその瞳は燃えるように赤く、闇に蠢くその尻尾には蛇の頭が付いている。


 しかしてその腕には一匹の(たか)を乗せており、悪魔自身もまた強力な気配を持つ熊の背に(またが)っている。


 そして「バラム」という個体名。


 その全ての特徴に一致するのが、かの魔術王(ソロモン)が従えていたとされる72柱の悪魔に名を連ねる「51番目の悪魔」。


 その名も【大いなる力強き王(バラム)】である。


 彼の者は四十の軍団を(ひき)い指揮する「偉大なる地獄の王の(くらい)」を持ちながら、同時に現在はヴォイドに『創造召喚』のスキルにより『召喚/喚起』され、ほぼ無条件で彼に従っている。


 その真意は本人(バラム)のみが知りうる事柄ではあるが、果たしてその従属がヴォイドの所有する「魔術王(ソロモン)の指輪」によるものなのか、あるいは『創造召喚』によって生み出されたからなのかは、今のところ定かではない。



「とは言え、こんな所で悠長に油を売っている暇などあるまい。そろそろ終幕にせねば、要らぬ虫共が寄ってくる可能性もあろう。早う行け、主よ」



 自らが生み出し、呼び出した存在に正論をぶつけられ、「へいへい」とどこか気の抜けた返答をしながらあばら家を出て教会本部へと歩みだす黒衣の青年。数歩目には『能力』により人外の速度へと加速された青年のその背を見送りながら、どこか優しげな微笑みを浮かべる悪魔も再び、夜の闇に紛れて動き出す。


 舞台の終わりは、もうすぐなのだから。


....


.....


.......



 そしてヴォイドが悪魔バラムと別れてから程なくして、場に変化が現れる。


 それは皇都バルガルド全土を震わす程に巨大な、何者かの咆哮。


 そしてその音の発生源は[光神教]の教会本部、それもヴォイドが教皇の姿をした悪魔と戦闘を始めた、何かしらの儀式に使われていたと思われる魔術式がある(くだん)の場所である。


 そしてそれは即ち、正しくヴォイドの計画が終局へと向かっているという事の証左でもある。



「計画通りなら出てくるのは理性のない中級クラスの魔人とかなんとかって言ってたが、その辺果たしてどうなんだろうな?」



 仄かに妖しく光る魔術式へと近寄りながら、ふと独り言ちるヴォイド。その手には抜き身の斬魔刀が握られており、既に戦闘準備は終わっている。


 程なくして、魔術式の放つ光が一層強くなっていく。そしてそれに呼応する様に、どこからか「ドクンドクン」という何かが脈を打つ音が聞こえ始める。


 そして――――



「来たか」



 その言葉に応えるように、まるで魔術式から這い出るようにして、先程まで教皇(バラム)が着ていた法衣を着た人型の魔族が、その姿を現す。


 彼の者の姿はやはりと言うべきか、捻れた角と蝙蝠の様な翼、そして鋭く細い尻尾を保有しており、その(まなこ)は紅蓮の如く赤く染まっている。



「ん?おい、聞いてた話と違うぞ。コイツ、ステータスだけなら上位クラスの魔人じゃねぇか」


「心配せずとも、その者は正しく中位の魔人ぞ。理性がない代わりに、多少他よりも力が強いだけの事よ。主にとってはあまり変わらぬだろうが、な」



 と、いつの間に現れたのやら。相も変わらず(しわが)れた声で事も無げにヴォイドへとそう告げる悪魔バラム。


 それを聞いたヴォイドは多少考えるも、この程度の誤差では計画に大した支障はない為、「それもそうか」と納得して斬魔刀を構える。何より相手が傍目から見て強ければ強いほど、討伐した時の名声も上がると言うもの。



 バラムの気配がヴォイドの傍から消えるのと同時に、這い出てきた魔人が周囲を震わせ咆哮する。自らの声に、音に、魔力を乗せることで咆哮そのものを一種の武器とし魔人は動き出す。


 目の前の黒衣の人物目掛けて、大きく振りかぶった右腕を振り抜くために。


 しかして、大質量を以て振り抜かれた魔人の右腕はヴォイドの致命を捉える事はなく、斬魔刀の刃に弾かれる事で相殺される。


 だが予想に反して、ヴォイドは後方へと大きく吹き飛ばされていた。


 いや、吹き飛ばされたと言うよりも、敢えて衝撃を完全に殺さずその身に受けたと言った方が正しいだろうか。


 しかし何故か?その答えは簡単だ。ヴォイドは相手に理性がないのをいい事に、「誘導」しているのだ。目の前の魔人を屠るに相応しい場所へと。


 今回の幕引きに最も適している会場へと、文字通り運んでいる。



 だからこそ魔人の攻撃はその殆どを回避することなく斬魔刀で受け、その際に生じる衝撃でどんどんと場所を変えていく。


 そして辿り着いたのは――――





「一体何事だッ!?」



 絶賛戦闘中の聖女派と教会派の騎士や兵士が入り乱れる、教会派が拠点とする大きな屋敷の敷地内であった。


 轟音と共に土煙を盛大に上げ、周囲の目線を完全に釘付けにする魔人。


 そして当然その場には、かの老騎士ニコラウス・ジークヴァルトも居合わせることになり、その周囲に居た有象無象の彼らも“教皇だったであろう者の成れの果て”をその眼に映すことになる。



 その姿はどこからどう見ても、教会が最も嫌う異形のソレ。


 元の姿が人間だったなど、一体何の冗談かと笑いたくなるほどに醜悪な、その相貌。


 しかし当の本人である魔人はそんな自らの周囲に広がる混乱の事など全く気にしておらず、それどころかたった一箇所、いや、たった一人にすべての神経を注いでいる。



 まるでその場を見下ろす様に、上空から静かにゆっくりと地面へと降り立ったその人物。


 それは言うまでもなく漆黒の衣を纏うヴォイドであり、その手には先程まで使っていた斬魔刀ではなく、一本のミスリルソードが握られていた。



「おい、あれってまさか悪魔じゃ.....」


「でもあの格好、教皇のアンジェラス様が着ていた服じゃないのか?」


「じゃあ、あの怪物の正体は――――」



 周囲の者達が魔人の正体について話す中、周囲を置き去りにしたまま両者互いに睨み合う。


 既にヴォイド達二人の眼中には、お互いの姿しか入っていない。



 そして――――




 魔人が瞬きをしたタイミングを見計らい、ヴォイドから仕掛けた。


 彼我の距離はそれなりに開いているが、ヴォイドにとってはどの距離からでも殆どが「一足一刀」足り得る。


 故にヴォイドが一歩目を踏み込んだ瞬間、一瞬姿が消えたように見えるほどの初速で魔人へと接近し、その首目掛けて剣を横薙ぎに一閃。


 しかし魔人はそれを紙一重で躱しきる。


 それでもヴォイドは構わず相手の懐に入り込み、音の壁を越えた速度で幾度か、剣を振るった。


 だがそれでも――――



「まぁ、取れんわな」



 そんなヴォイドの呟きに答えるように、距離を取って身を低くして小さく唸る魔人。


 だが、そんなことはヴォイドも承知の上だ。


 故にこれらはただの時間稼ぎ。ヴォイドが一瞬の攻防の中で本命として仕掛けていたのは――――



「逃げられるのは面倒なんでな。設置型拡張術式展開、『“審判ノ聖域”』」



 ヴォイドの言葉に合わせる様に、ヴォイドと魔人の二人だけがまるで隔離されるように展開された結界内へと誘われる。


 ヴォイドが持つ、複数の魔術を魔改造した「拡張術式」の一つ『審判ノ聖域』。その効果は平たく言えば、「対魔族用弱体化(デバフ)結界」である。


 詳細に記すのならば、神々の祝福を受けた一部の者が使うとされる『聖域(サンクチュアリ)』と呼ばれる特殊な結界魔法や、高位の神官が使用出来ると言われている対魔族用広範囲攻撃魔法『パニッシュメントグリン』など。


 その他にも、結界内の味方に一時的に光の加護を与えるとされる大規模結界魔法『光り輝く大聖堂レイディアントカテドラル』など、多岐に渡って神聖な力に関係する効果があるとされる能力の効果の一部をキメラ合成し、その上で積層魔術式を使用して効果を増幅させたのが、拡張魔術式『審判ノ聖域』だ。


 故に本来の正しい名称は「拡張積層型複合増幅魔導式」となる。



 そして、その結界内に囚われる事となった件の魔人はと言うと。



「グギャァァァアアアアアアア!?」



 という絶叫を上げながら、転げまわるようにしてその身を聖なる光によって焼かれていた。


 だが、ヴォイドはここですぐにトドメを刺すつもりはない。ここからはなるべく手加減をしていると周りの者達にバレぬように芝居しながら、同時にそれなりの時間、この戦いを引き伸ばすのだ。


 理由は単純明快。周囲の者達へと「強力な悪魔と対等に渡り合う黒衣の青年」という夢物語の様な光景をその脳裏に刻み込んで貰う必要がある為だ。


 それはこの国で後にある程度の影響力を持つ為に行う行為であり、それ以上の目的はない。ヴォイドにとって良き戦いとは、理性や知性のない獣と戯れることではないからだ。


 故に、スキルを使用してまで芝居を打つ。


 まるで己こそが人の世の英雄であるかのように。剣を振るい、魔術を放ち、それでも未だ状況は五分に近い状態であると、ヴォイドは周囲へ魅せる。


 スキルで敵から受けた傷が再生しないように己の肉体へと細工を施し、少しずつ少しずつお互いが削られているように見せ、それでも表情は崩さず戦い続けた。


 しかしそれでも尚、魔人は食い下がった。


 聖なる光によって今も焼かれ続ける肌を魔族特有の高い再生能力で常に治癒しながら、大幅に落とされた肉体能力を有り余る魔力でもって体内で循環させることで補強し、戦い続ける。



 そんな二人の様子は誰がどう見ても互いが命を掛けて削り合っている様にしか見えず、気付けば周囲の者達は誰一人として言葉を発することを忘れたように、二人が織り成す死の舞踊に魅了されていた。


 飛び散る火花は二人を彩る宝石の様に。


 舞い散る血潮は花びらの如く。


 奏でる剣戟(おんがく)速度(テンポ)を上げて、月光(スポットライト)に照らされた彼らは夜闇の中でさえ、輝きを放つ。


 そんな二人の様子に思わず見惚れてしまう彼らもまた、この舞台の上では観客であると同時に、二人と同じように踊り狂う道化でもあるのだろう。


 そしてその事に気付けぬまま、彼らはまた選択(みち)を間違える。破滅の深みへと堕ちてゆく。見えているモノしか見ようとしない。そんな愚者達の巣窟であるから、誰も彼も気が付けない。


 この場が後の悲劇の予兆であったなど――――

 かなり久しぶりの更新となりましたが、如何だったでしょうか。最近は執筆していても「これ面白いのか?」と、今まであまり無かった考えがよく浮かんできて、中々筆が進みませんでした(ぶっちゃけ今もよく分からないまま投稿してたりします)。


 とは言えあまり長々書くものでもないので、この辺で。これからも更新頻度はかなり遅くなりますが、変わらず読んで頂けると幸いです。

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