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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第五十六話「黒の装束と狩りの時間」


 眼下には逃げ惑う一般市民と、殺し合う幾つかの武装集団。片方は正規兵、というより、ここ最近滞在している皇城内でも見かけた事のある騎士団の居残り組。


 そんな彼らと戦うもう片方は、先程自らの手で葬った者達と同じ黒い装束を身に付ける暗器を使用する暗殺者集団。



 なんだかんだ言いつつ、先程惨殺した連中がヴォイドにとってこの世界での初めての殺し(・・・・・)の対象になった訳だが、今のところ存外迷いはない。何ならいつもより少し視界が広く見え、頭も冴えている。


 所謂、「調子がいい時」と表現するのが適切だろう。


 人としては本来は越えてはいけない一線を越えたという認識もある。だからこそ、躊躇いも、戸惑いも、気遣いも、もうなかった。



『仙法 白虎の型 “仙力穹(センリキキュウ)”』



 風属性を付与した「仙気」を弓の形に展開し、高台から眼下の戦闘に眼を向ける。使用する矢は二つ。広範囲、かつ高火力。多少民間人や味方勢力が巻き込まれようが、知ったことじゃない。というより、そんな事など、今はもうどうでもいい。


 誰がやったのかバレなければ、罪を問われることもない。だから今はただ、「この技を試したい」という欲求に、素直に従う。



『朱雀の型 “加具土命ノ矢(カグツチノヤ)』+『白虎の型 “葬風ノ矢(ソウフウノヤ)”』



 生成した業火の矢を疾風の弓に番え、狙いを定める。弓の射出口には積層(せきそう)する魔術式。『複製』と『拡散』、そして『操作』の三つが重なる高度な三重積層魔術式。


 標的は既に捉えた。後は、放つだけ。



 しかし矢を放つのに、躊躇いはなかった。


 魔術式を通して、一本の矢が複数に枝分かれするように増え、それぞれの標的の元へとヴォイドの魔力を使用して自動操作で追尾。そして標的に当たる寸前で、矢が爆散するようにしてその場の広範囲に火の手を広げた。


 周囲に幾つかの轟音と共に、絶叫と爆炎が立ち上った。ヴォイドはそれを確認後、第二の矢を番え、放つ。吹き荒れる暴風を矢の形に押し留めただけの、エネルギーの塊。



 それは着弾後、未だ大地に広がる仙気の灼熱を呑み込み、取り込み、よりその火力を増大させる。巻き起こった焔の旋風は人や瓦礫を際限なく呑み込みながら、更にその被害を拡大させていく。


 その技の名は――――



「『合技 “葬火旋風(ソウカセンプウ)”』ってな.....。いい火力だよ、全く」



 口元を三日月のように歪めながら、ヴォイドは人間が灼熱の竜巻に飲み込まれて刻まれながら焼け死んでゆく様子を今しばらく、堪能する。


 悲鳴、怒号、混乱、驚愕、恐怖、絶望。あらゆる負の感情が其処にはあった。故に己はそれを眺めて、ただ嗤う。



「やはり掃除(・・)というのは、気持ちがいいものだな」



 見下すように、馬鹿にするように。まるで道化でも見るかのような瞳で、民間人を、兵士を、暗殺者を、騎士を、ヴォイドはじっくりと見定めた。


 しかし、地上戦力がある程度これで片付いた以上、あまり長居もしていられないのも確かだ。故に、ヴォイドは斬魔刀を手に地上の残存勢力を殲滅するため、高台から飛び降りた。



....


......


........




 ヴォイドが残った地上の残存勢力を走り回って片付け始めて少しした頃、今回の混乱の渦中である神光教教会本部で、文字通りの死闘が繰り広げられていた。


 通路内に積み重なる黒装束の死体と、足元を濡らす血潮。その一団は、先の襲撃時のヴォイド達と同じように、囲まれていた。それも、ヴォイド達への襲撃時の倍以上の人数で。



聖女(アグネス)様......今の内に護衛数人を連れて、城の方へお逃げ下され」


「ですがっ、それではあなた達が!」


「ご安心下され。この身は既に老いぼれではありますが、世代交代するにはまだ少し早いでしょう。....必ず後から追いついて見せますゆえ、今はお逃げを」


「ッ......分かり、ました。貴方が私の下に戻るまで、ずっと待っています。我が騎士、ニコラウス・ジークヴァルト卿」


「御心のままに」



 紛う事なき善人である彼女にとっては、非常に苦しい決断を下したであろう事を心中で申し訳なく思いながら、老騎士は最後に優しげな(まなこ)を以て、その背中を送り出した。


 しかしその場の誰も、走り出した聖女(かのじょ)達を追うことはしない。いや、出来ない。近衛騎士数人と共にその場に残った目の前の老人を前にして、足が竦んでいるから。


 老いが迫る身でありながら、纏い持つ鋭い刃物のような雰囲気や、狙い目などない完璧な構え、そして高水準の装備、どれを取っても隙がない。



「これ程か.....元[星竜騎士団]団長、ニコラウス・ジークヴァルト」


「既に騎士団(そちら)は引退した身でな。今はただの、聖女様お付の近衛騎士の一人よ」



 誰も仕掛けられない。ただ槍を構えるその姿に、えも言われぬ悪寒がするのだ。不用意に近付けば、即座に己が胸に大穴が穿たれるだろう、と確信出来る程に実力差があるのが分かってしまうから。


 彼の者の逸話は数あるが、その中でもあの【大将軍】をその生涯の半分以上を掛けて相手取り、未だ生き残っているという話が一番有名だ。致命を与えることはついぞなかったが、それでも【大将軍(さいきょう)】を相手に互角に近いレベルで戦える者など、この時代に早々居るものではない。


 だからこそ、彼の者の目の前に立つのは間違いなく、歴戦の果てに居るべき本物の傑物であるべきなのだ。


 故に彼らは獲物を前にしても、不用意に動けなかった。動くべき時であっても、目の前の槍を構える老人が発する(プレッシャー)を前に、足が、体が、震えてしまったから。



「来ぬのか?であれば儂もそろそろ、アグネス様の元へ行きたいのじゃがのう....」


「......全員で一斉に掛かるぞ、誰か一人でいい。刺し違えてでも、奴を殺せ」



 その後、合図と共に一斉に踊りかかった暗殺者達であったが、そんな彼らを見て獰猛な笑みを浮かべていた老人を一人闇へと葬ることは、ついぞ叶わなかった。


 だがその代わり――――



黒装束(こいつら)を追って来てみれば、随分と面白そうなジジイが居るな」


「ぬ?新手か....アグネス様と合流するには今しばらく、時間が掛かりそうじゃな」



 血濡れの斬魔刀を手にした【漆黒(ヴォイド)】が、この場に辿り着いてしまった。



....


......


........




 金属同士がぶつかり、擦れ合い、周囲一帯に響くほどの擦過音(さっかおん)を断続的に轟かせながら、一人の老騎士と漆黒の狩人は戦っていた。


 槍と刀をぶつけ合うたびに、二人の辺りに舞う火花と衝撃波。二人が放つ一撃一撃が、お互いに必殺足り得る威力を秘めているのは一目瞭然。戦闘開始から僅か数分しか経過していないにも関わらず、二人が居た教会本部は既にボロボロになるまで被害が出ている。



 ヴォイドと相対しているニコラウスの頬には、冷や汗と浅い切り傷。度々大きく移動しながら、工夫して戦闘を繰り返しているが、それでも生傷は増える一方だ。


 何よりも――――



「さっきから少しずつ移動して誘導してるみたいだが、そんなに皇城に行きたいならそうすればいいだろうに。何故そうしない?援軍を期待してるのか?それとも機を見て逃げるつもりか?」



 ビクリとした。大きく動くことで敵の方向感覚をなるべく狂わせながら、徐々に城の近くへと誘導していたつもりが、何時からかその全てを見透かされている。


 先程から、いや、目の前の相手と刃を交え始めてからずっと、嫌な汗が止まらない。


 相対している間、常に己の直ぐそばに「死」を感じるのだ。まるでかの【大将軍】を相手に戦っている時の様な、鋭く冷たい緊張感が身を包んでいる。



「答えるつもりがないならそれでもいいさ。ただ、城に用があるのは俺も一緒だからな。“旅は道連れ”とも言うし、どうせだ、俺が連れて行ってやろう」



 その一言の(のち)にヴォイドが放った一撃で、それなりの重量を誇る鎧を着込んでいるはずのニコラウス・ジークヴァルトの身体は、大きく弧を描きながら宙を舞う事になる。



....


......


........




 同じ頃、無事に避難できた聖女やその護衛の騎士により、皇城内でヴォイドが惨殺した暗殺者達に関しての情報がその場に居た者達にそれとなく説明されている時。


 ルフは紛れて話を聞きながら、僅かな笑みをその顔に貼り付けて、思考する。



(なるほどなるほど。流石に直接は口に出さないが、()が言っていた様に、襲撃者の主犯は教皇と法王のどちらか、もしくはその両方で確定。今回の騒動は教会内、というよりは国家規模での派閥争いで間違いない。聖女派と教会派の2派閥は力関係こそ五分に近い形ではあるが、聖女派の騎士団の主力を戦場に出すことで戦力が手薄になった今を狙い、襲撃。事が済めば、責任は他国にでも押し付ければいいだけだ。始まりから終わりまで全てが茶番だね、これは)



 ルフが思ったように、これはどこまでいっても茶番劇なのだ。そしてなにより、この推理は殆ど間違っていない。


 今回の騒動は聖女の存在を疎ましく思う教会側が法王と結託して、「戦争」という一大事を隠れ蓑に起こした一種のテロだ。都市ごと民間人を巻き込み、騒動が終わってから教会などが「他国の間者が引き起こしたクーデターだ」とでも声明を発表すれば、この国の民間人はそれを素直に信じてしまう。


 そして既に、レガー帝国との全面戦争のために各国の主力は最前線にて待機しているこのタイミング。急いで前線から駆け付けたとて、襲撃までに到底間に合うものではない。



 聖女派に所属している三つの騎士団もその殆どが法王の手によって前線送りにされ、逆に教会派の騎士団は多少戦力を残して戦場に赴いていた。これでは本来勝てた戦いも、数の暴力で押し切られて負けることになる。



 そして、何故今その渦中に居るはずの聖女がルフ達含め、他国の者にこの事を遠まわしに話したのか。辿り着くのは簡単だ。迫られているのだ、今、この場で、決断(・・)を。


 一体どちら側に味方するのか、問うているのだ。この場の全員に対して。本来は巻き込むべきではない者達ではあるが、流石の聖女様も「背に腹は変えられない」というやつだ。


 しかし、ルフは今しばらくその返答を濁していた。その理由は、勝てるかも分からない側の勢力に味方するつもりなど、毛頭ないからだ。


 それ故に、ルフはヴォイドの帰りを待ち、後に彼が味方するグループに己も便乗すればいいだけの話と考えていた。あれだけの情報収集能力と頭の回転の速さ、そして高い戦闘力を備えている傑物など、どの時代でもそうは居ない。だからこそ、ルフは彼が参加する派閥が勝つ事を疑わない。いや、疑えない。


 そしてやはりというべきか、ルフのその思考は正しかったと言うべき事象が、彼らの下に降りかかる。



 それはあまりに突然だった。辛うじてルフやその護衛の面々が直前で気付けていたから良いものの、あと一秒遅ければ、死人が出ていたかもしれない。


 しかしてその正体とは、皇城の壁を派手にぶち破りながら、ボロボロの状態で飛び散った瓦礫に埋もれる【聖女】アグネス・ナービーお付の老騎士、ニコラウス・ジークヴァルトその人であった。

 明けましておめでとうございます!日々必死に最新話を執筆中の作者ですが、お正月は美味しい食べ物の誘惑により執筆速度が怪しいところですw


 とはいえこれからも頑張って更新していきますので、どうか今年もよろしくお願いします!

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