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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第五十四話「人とは斯くも」



 どこかふわふわとした感覚に陥っていた頭が、身体が、急速にいつもの冷たさを取り戻していくのが分かる。


 ぼんやりしていた視界も次第に鮮明に写るようになり、辺り一帯に広がる死屍累々の光景が視界を埋め尽くす。


 つい先程までそれなりの強敵と戦っていた気がするが、正確に何と戦っていたのかまでは分からない。恐らくは己の目の前に広がるこの景色の一部と化しているのだと予想は出来るが、やはり未だ思考力はそれなりに鈍いままだ。


「調子に乗って、踏み込み過ぎた(・・・・・・・)な......」


 珍しく、気持ちの良い眠気と疲労感がヴォイドを優しく包み込む。この世界に来てからの睡眠では基本悪夢しか見たことはないが、それでも今のヴォイドにとってこの眠気は抗いがたいものがあった。


 未だ天には輝く月がその静かな月光を以て、夜闇を照らし続けている。


 偶然手に入れたこの器とて、完全ではない。今の様なとんでもない疲労が肉体に蓄積すれば、その回復の為の手段として食欲か睡眠欲が顔を出す。しかし食事での回復では効率が悪く、逆に睡眠は三時間あれば足りるという事実。


 しかもだ、本体のヴォイドが睡眠中であっても『分身』は自立的に稼動し続けるため、分身体を影武者としておくことも出来る。


 そういう訳で、ヴォイドは己の欲求に身を任せ『体内世界』の分身体とオリジナルの自らを入れ替え、万全の状態に戻るまでの間を分身体に任せる事にする。


「近々、肉体を創り変えるのも視野に入れておこう.....」


 その言葉を最後に、オリジナルの意識は『体内世界』の自室のベッドの上で手放された。深く深く、夢を見ることもないままに、眠りの底へと堕ちてゆく。心地よい浮遊感が身体を包み込み、意識は、身体は、「眠り」という深淵へと溶けて消えた。



....


......


........



 四時間後、太陽が昇りきらず、空が白み始めて間もない時間。薄暗い闇が少しずつ陽の光で晴れていく中で、ヴォイドは皇城の騎士達と訓練をした場所で一人、朝の鍛錬を行っていた。


 いつもの鍛錬の時間には些か早過ぎると思うと同時に、目覚めてからは思考がどこか上手く纏まらず、何となく「剣を振りたい」と思い立ったのだ。故にこうして、ゴーレム相手に児戯まがいの打ち合いを行っている。


 そして、次第にゴーレムの挙動が段々と素早くなっていき、ヴォイドも他に割いていた思考を半ば強制的に目の前の相手のみに集中させる。


 そしてその動きはより速く、短く、小さく。ヴォイドの剣技は「機能美」という名の鋭さと冷たさを更に上げ、何度目かの衝突の後、ゴーレムが持っていた武器や鎧ごと、ゴーレムの胴体を音もなく斬り裂いた。



 そんなヴォイドが手に持つのは、騎士達の訓練用に刃引きされた(・・・・・・)直剣。本来は対象を斬れない様に、刃を潰された代物だ。そんなものでヴォイドが訓練用に生み出したとは言え、圧縮された魔力と岩の塊であるゴーレム相手に振るうべき武器ではない。


 そもそもの話、今までまともに打ち合えていたこと自体が本来はおかしいのだ。


 しかしだ。ヴォイドに言わせれば、剣士を名乗るのであれば、「例え得物が木の枝であろうが斬鉄を成す」というのは剣士としてのスタートラインに立つ事と同義である、と考えている。


 故に、ヴォイドにとって今起きた光景は、あり得ざる光景ではなく、半ば普通以下の事である。ヴォイドから言わせれば、「出来て当然」。出来なければ剣士を名乗る資格はない。現状、ルシアでもギリギリ出来るレベルなのだ。


 ならば師匠(マスター)である自らが出来ない道理など、ありはしない。


 と、そんなくだらない事を考えていると、こんな時間にも関わらずヴォイドに近寄ってくる気配が一つ。振り向けば、そこにはいつものメイド服に身を包んだサラが立っていた。



「おはよう御座います、ヴォイド様」


「あぁ、おはよう」


「本日はいつもより、朝の鍛錬がお早いようですが....」


「少し考え事をしたかったんだが、ご覧の通りあまり集中出来てないんだよ」



 ゴーレムだったモノの残骸を背にヴォイドがそう告げると、サラは少しだけ考える仕草をした後、一つの提案をしてきた。



「それでは、私と手合わせでもどうですか?」


「......なるほど、最初からそれが目的か」



 サラがわざとらしく芝居を打ってまで提案してきた、手合わせの申し出。理由は分からないが、恐らく何かに触発されてちょうど“そういう気分”なのだろう。


 そう思い、ヴォイドはサラにそう答えたのだが、帰ってきた答えは今一度、ヴォイドの思考を何割か割くことになる。



「えぇ、それはもう。昨夜はリサに先を越されて(・・・・・・・・・)しまいましたので」


「ふむ.....?あぁ、そういう事か(・・・・・・)。それならまぁ、少しくらいはいいだろう」


「ありがとうございます」



 ヴォイドから了承の返事を貰い、そのことに対し頭を下げながら礼を述べるサラ。その時に彼女が浮かべていた顔の表情は、心底嬉しそうな顔だったという。



 その後、両者が長時間強めに打ち合っていると、次第にいつものようにメンバーが増えていき、気付けばこの地に招集されていた他の強者(ツワモノ)達の一部まで参戦していたのだった。



....


......


........



 朝の鍛錬で共に稽古をしたドワーフやエルフ、その他の者達を含めての大変賑やかな朝食を終えて、それぞれが暇を持て余している中、遂に状況が動き出す。


 各国の王から、それぞれの代表戦力を纏めるリーダーのみに伝えられる招集。



 呼び出された場所に向かい話を聞けば、どうやらそれぞれの代表戦力に皇国の騎士団が一時的に、一部隊ずつ配属されるらしい。表向きは各々の戦力増強と、信頼関係の構築などが挙げられていたが、要するに“見張り”だ。


 「オレアム皇国に対し、不利益となる行動は慎むように」という、とても分かりやすく断りづらい提案であるため、各国の王達はその提案を受け入れるしかない。


 そして、当然のようにヴォイドのところにも部隊が配属されることとなるのだが、この提案に関して、獣王やエルフの女王などが「この場に代表戦力を送り届けてくれた者達を優先的に配属して欲しい」とやんわり抵抗したおかげで、本来は六つの騎士団から団員を混同させて配属されるところを、それぞれの騎士団から一部隊丸々配属されるように変更となった。


 そして当然、ヴォイド達の元へ配属されたのは――――



「こんなにも早く再会出来るとは思いませんでしたな、お元気そうで何よりです。ヴォイド殿」



 人当たりの良さそうな雰囲気を持ち、何事もなくヴォイド達をこの場まで送り届けてくれた、星竜騎士団所属の十人隊長、スノヘ・グモールその人であった。


「そっちも元気そうで何よりだ」


 お互いに軽く挨拶を交わし、少しの間この前と同様に世間話に花を咲かせ、これまた数日前と同じように、レクリエーションがてらスノヘの部隊の者達とヴォイドのパーティーとで合同に訓練を行う。


 ヴォイド達を相手に「一対一」や「一対多」の対人訓練だけでなく、ヴォイドが作り出した様々な姿形のゴーレムも相手取った、より実戦に近い訓練も行う。


 しかし、そんな体力消費が激しい戦闘訓練だらけな状況でも、決してスノヘの部隊の者達は弱音を吐かなかった。それどころか、彼らはその状況を最大限に楽しみながら、同時に目に見えるほどに高まる己の成長を一人ひとりが喜び合い、分かち合い、より研鑽に励んでいた。



 しかし、普通はそんな事はありえない。一日の間にずっと訓練を続ければ、やる気は次第に萎え、集中力も散漫になり、体力も尽きて、その後は無意味な時間を過ごすのが大体だ。


 だがそんな中にありながら、彼らは声高らかに「もっと」と、「もう一度」と、自分達から率先して動き出す。これはひとえに、彼らがヴォイド達をこの国に送り届けるまでの間、即ち数日間の空の旅の合間に彼らがヴォイド達と行った、食後などの暇つぶしの一貫である「軽い運動」などにも参加していた事に起因する。



 それはヴォイド達にとっては暇つぶしの児戯と同等と言えど、彼らにしてみればそれは間違いなく、満ち足りた時間の一つであったのだ。


 勝負する度に幾度も打ち負かされるが、同時に伸び悩んでいるところへ的確なアドバイスを貰え、それに伴って次回の戦闘の中で感じる自身の成長も合わさり、相乗効果で彼らはその成長の実感を得た時の“快感”に溺れたのだ。


 それも当然ではあるのだろう。


 現役のSランク冒険者と比較しても遜色ないほどの実力を持つと言われる、あの【獣王】を相手に無傷で勝利した人物を相手に、自らの積み上げた努力と経験を思う存分ぶつけられ、その上で更に伸びしろを、きっかけを与えてくれる。


 そんなもの、楽しくない訳がない。


 スノヘ十人隊に所属する彼らが、互いに互いの成長を感じ取り、研鑽し合い、気が済むまで頂点へと挑み続けることの出来る日々が、環境が、また訪れる。自分達だけが、その他を圧倒して突き進んでいるような、あの凄まじい快楽がまた手に入る。


 そんなスノヘ十人隊の全員が胸に秘めたる思いが、今の光景を作り出していた。


 言ってしまえば、それは一種の狂気に染まりつつある光景ではある。だが、それを前にやはり並みの者は気付かない。「熱心だな」と思うものや、「辛そうだな」と思うものが大半で、しかし代表戦力としてこの場に招集された一部の者達は、ヴォイド達が作り出すその異常な光景に戦慄する。



「えげつねぇな、ありゃあ.....」


「ああ。見ろよあの表情、まるで薬キメた異常者だぜ」


「しかも、なんだよあの成長速度。おかしくないか?」



 ある一定以上の水準に達した者だけが気付ける、怖気がするほどにねっとりとしていて、とても甘い誘惑。アレは一度味わったが最後、魂さえも呑まれて戻れなくなる。


 圧倒的強者による訓練はただそれだけで、当事者達を魅了し快楽へと誘う魔性の引力がある。本来は彼の者達の背中を目指すことでしか語られる事のない、高みへの、(いただき)への道筋。


 それを彼ら自身がその口で、その身体で、自らに手とり足とり教えてくれるのだ。ならば、少しでも戦いに身を置く者は知らず知らずの内に、目指してしまうのだろう。


 「彼らと同じ場所へ」と、届くはずのない小さく儚い幻想をどこかに抱いて、一度は折れたその(ユメ)を、絢爛と輝き夜空を照らす英雄達(ほしぼし)となる為に、力の限りその翼を羽ばたかせるだろう。


 そしてそんな光景を前に、当事者であり統率者である彼は―――



「本当に.....人というのはどこまでも、愚かで醜く救い難い」



 そんなヴォイドの呟きは、誰に聞かれるでもなく、夕陽に染まる空に消えてゆく。


 彼の視線の先では、パーティーメンバー達がスノヘ十人隊の面々に楽しそうに稽古をつける光景が映し出されている。


 しかしその光景をどこか、「滑稽だな」と嘲る自分が居るのだ。


 彼らでは頂点には決して届かないのを知っていながら、それでも尚高みへ引き上げようとする(ヴォイド)仲間達(パーティーメンバー)を、己ではない誰かが自らの中で嘲笑している。無意識に、意識的に、まるでお前は「こちら側だ」と言わんばかりに、囁いてくるのだ。


 だが、それを押さえ込むように、覆い隠すように、ヴォイドは再度、その顔に分厚い仮面(ペルソナ)を装着する。



 そして、本人達でさえそのことに気づかぬ内に、深淵への歩みを、人としての業を、彼らはまた一歩(ひとつ)、積み上げる事になる。

 ちょっと遅くなりましたが、メリークリスマス!!(1時間と44分オーバー)


 どんどんとストックに投稿数が追いついてくるのがたまらなく怖いですね!それでは皆さん、少し早いですが、良いお年をー!

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