第四話「初めての仙術ともしもの備え」
茂みから出て来たゴブリンソルジャーはヴォイドとルシアの二人を見るや否や、「ニチャア」と嗤い、耳障りな鳴き声を上げて襲いかかってくる。
「ギゲゲ!」という声と共に飛び上がって、大上段で直剣の振り下ろし。
とはいえ特に強くもない敵なので、焦らずに対処する。
まずは半身になって大上段からの斬り下ろしを躱し、右手で普通の『掌打』を放つ。対してゴブリンソルジャーはそれを丸盾でガードし、勢いに体を任せて後方へと飛ぶ。
確かに、今の動きだけで【初心者殺し】と呼ばれるだけの実力があるのは分かった。
ゴブリンという下等種でありながら、その技量は正直言って凄まじい。小柄な体躯を活かした俊敏な動きで距離を詰め、直剣を流れるように振るう。更にこちらの反撃に合わせての的確なガード。
ヴォイドはそんなゴブリンソルジャーの挙動を見て、ある程度覚えたタイミングで動き方を攻撃型へと転じる。
相手の懐に踏み込み、それを咎めに右正面から迫る直剣の刃が来るであろう場所へ、右手の掌を設置し、『仙術』を発動する。
『仙法 青龍の型“波紋掌”』
アニメや小説、漫画で得た技の知識を元に、組み合わせたり改良したりで作り上げたオリジナルの能力。
因みに「型」でそれぞれ別れているのは、単純に技の数が多くなったからだ。
水の属性が付与された『魔力』と純粋な『闘気』を練り合わせる事で出来る『仙気』をまるで水の様な質感に変化させ、手のひらに薄く展開する。
すると、まるで磁力に阻まれるような感触と共に、振り抜かれていた直剣の刃がピタリと止まる。
驚愕に目を剥くゴブリンソルジャー。その隙だらけの左胸目掛けて、背後で引き絞った左拳を、更に踏み込みに合わせて弾丸の如く射出する。
「『金剛八式 “衝捶”』、だったかな」
八極拳の中段突き、別名「崩拳」をゴブリンソルジャーの左胸に撃ち込む。更にインパクトの瞬間、拳に捻りを加えることで伝わる衝撃を螺旋にし、相手の内蔵を捻り潰す。
ゴブリンソルジャーはそんな極悪仕様の攻撃が直撃し、吐血しながら宙を舞う。
地面に転げ落ちた後、咳き込んで更に血と空気を肺から吐き出すその様をヴォイドは無情に見下ろしながら、深刻なダメージを受けて立ち上がれないゴブリンソルジャーに近づき、その喉元を容赦なく踏み潰した。
そして「グギャッ」という声を上げて、赤い悪魔はその人生に幕を下ろした。
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ヴォイド達は無事に依頼を終えて、冒険者ギルドに戻ってきていた。
時刻が夕方なのもあり、ギルド内は少し混んでいる。ルシアと離れぬ様にしながら、先程と同じカウンターに移動し、依頼達成の報告と確認をしてもらう。
「依頼達成の報告と、確認を頼みたい」
「あ、ヴォイドさん達ですね。無事に戻って来てくれて良かったです。それでは早速、確認させて頂きますね」
ヴォイドはゴブリンの討伐証明部位が入った袋と、薬草を入れた籠をカウンターに差し出す。受付の女性は薬草の方を先に確認し、何かを書類に記録しながら、次は討伐証明部位が入った袋を覗く。
そしてそのまま、赤色のゴブリンの耳を見て職員は一瞬固まった。更には小さな声で「うそ...」と言っていたが、この辺りで変異種の出現はそんなに驚く事なのだろうか。
その後、無事に依頼の達成報酬を貰い、おすすめの宿を紹介してもらった。名前は「風見鶏亭」。特徴は値段が安く、各種サービスも良い。
そして部屋が広いの三拍子。低ランクの駆け出し冒険者にはおすすめの宿だそうだ。1階には食堂もあるので、別で料金を払えば食事も出来るそうな。
そんな風見鶏亭のひと部屋で、二人で生活することになった。まあこれも仕方ない事だ。今ヴォイド達は一応、駆け出しの冒険者という事になっているため、“お金がない設定”でやらないと怪しまれてしまう。
因みに既に食堂の方で夕食は済ませてあるので、今日はこのままとある作業に没頭するだけだ。
という事で部屋の中に魔導具のテントを立てて、中の作業部屋で準備をする。今日の依頼で採取した薬草のひと束を自分用にスキルの『ストレージ』で確保していたので、それをスキルで『複製』して使う。
さぁ、調薬漬けで眠れない夜の開始だ。
内容を少し編集しました。 2022/03/05