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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第四十七話「敗北の味と笑面の夜叉」

「いい剣だね、コレ」


「お前如きが触れるな、害獣が。死にたいのか?」



 ルフがヴォイドへと放った挑発の意。しかし当のルフ本人は「こんな安い挑発に乗ってくれればいいなぁ」位に軽く考えていた。


 だがその行為に帰ってきたのは、一瞬でその場を支配する程のひどく冷たい殺気だった。それはヴォイドの触れてはいけない逆鱗の一つであり、同時に決して踏んではいけない地雷でもあった。


 あろう事かルフはそれを見誤り、地雷原のど真ん中を踏み抜いた。



 ヴォイドは自らの弟子、即ち身内であるルシアに対する“略奪行為”と“暴力行為”の二つを基本許さない。これはヴォイドだけでなく、同時にルシアの師匠であるバートも同様に持ちうる地雷原だ。


 そしてもう一つ、これはヴォイドがルシアなどへ送った大切な装備を“無断で他人が使用する”というもの。これに関しては、そもそもヴォイドが装備などの“手作りの品を誰かに送る”という行為がある程度の信用を勝ち取っていないと絶対にしない行為な為、それを軽々しく他人が使用することを酷く嫌う。


 故に、ヴォイドは本来なら自分の作品を他人が触れる事すら許さない。


 そして、見ず知らずの他人に自らの作品を穢されようものなら、ヴォイドはその人物を躊躇いなく存在ごと抹消するだろう。



 そんな二つがたまたまとはいえ重なってしまった為、珍しくヴォイドは割と本気でキレていた。どれぐらいキレていたかと言うと、それはもう無意識に一国の王を殺そうとするほどにはキレていた。


 静かだった思考は既に焼き切れ真っ赤に染まり、その身からは溢れんばかりの怒気と魔力が奔流となってルフへと迫る。手に握る得物、即ち抜き身の斬魔刀を人外の握力で目一杯握り締め、ヴォイドはその無慈悲なる刃をルフへと解き放つ。



『幻技 “影鵺之太刀(カゲヌエノタチ)牢霧(ロウム)”』



 いつかのバートとの模擬戦で見せた、刀身に砂鉄を纏わせ高速振動させることで簡易的に高周波ブレードを作り出す技。しかし今回は刀身だけでなく、ヴォイドの周囲にも砂鉄が舞い散る。


 その光景はまさに闇が蠢くが如しといった様子で、その中心である発生源のヴォイドの姿は既に、黒い波の中に呑まれている。


 そんなヴォイドの周囲を吹き荒ぶ砂鉄の嵐は留まることを知らず、どんどんとその範囲と濃さを広く、強くしていく。闘技場の空間を侵食するように、徐々に徐々に大きくなって、遂にルフも砂鉄の嵐の中へとその身を潜らせる。


 するとその瞬間に、いつの間にか嵐の中で気配を消していたヴォイドが黒煙の中からルフへと襲いかかる。



『“-影舞(カゲマイ)-”』



 『透過』のスキルで肉体と斬魔刀を透過させることで、吹き荒ぶ砂鉄の嵐の中を物音一つ立てることなく移動し、同時に『気配遮断』を用いて自らの位置を特定させないままに、相手を襲撃する。


 砂鉄の嵐で視覚と聴覚を封じ、更に追加で『浮遊』や『消音』のスキルを使用して地面の振動や衣擦れ、風切り音までも発さず、ヴォイドは嵐の中でルフへと斬撃を見舞っていく。


 そんな闇に溶けゆくヴォイドの様子を視界に隅に収めながら、ルフは一人戦慄する。


 たった今放たれている攻撃の、なんと恐ろしいことかと。思考は一時の怒りで焼かれ、激情の波に呑まれルフしか見えなくなった盲目の視界でありながら、彼の者(ヴォイド)が放った一手のなんと冷たいことか。


 自らを確実に殺す為の、正確な一手。


 視覚、聴覚、嗅覚、触覚を完全ではないにしろ、一時的に機能不全に陥らせる事の出来る“黒砂の結界”。更に術者であるヴォイドはこの空間で思い通りに動くことが出来、逆にルフは無闇に動けないどころか迫り来る攻撃への対処ですら危うい。


 そんな常に自らの身体に浅くない傷が増えていく状況下で、獣王ルフは冷静に思考を巡らせると同時に、この窮地で笑っていた。



(五感を封じて気配を特定されないように四方八方から常に絶え間ない猛攻。しかも移動時の衣擦れ音や地面から伝わる僅かな振動すらも感じられないとは、久々にこれはマズイかもね.....)



 ルフはそのまま少しの間、あらゆる方向から迫る斬魔の一刀を紙一重で躱し、去なし、弾き、逸らし続け、その末に訪れる機を待った。それはひと呼吸入れる為の、ほんの僅かな、刹那の時間で行われる、息継ぎのタイミング。


 そして、数多の死線をくぐり抜けてきた己の経験と勘はその結果を裏切ることなく、ルフの行為の正しさを証明した。傍目には決して分からぬ速度だが、確かに攻撃が止んだ一瞬が訪れる。


 そして【獣王】たる(ルフ)は、決してその隙に見逃さない。



(――――来た、ここだッ!)



 黒煙と斬撃の嵐の中にありながら、自らの感覚を信じて、ルフは左手に握る木刀を力一杯横薙ぎに振り抜いた。


 そして同時に自らの前方に向けて、右手に握る“特大の魔剣”を全力で振り下ろす。



 それは『直感』のスキルによる、殆ど『未来予知』と言っても過言ではない程の一撃。傍目から見ればその行為は自殺にも等しい愚策ではあったが、同時にその一撃は今のヴォイド相手には十分“必殺足り得た”ものであり、しっかりとルフの放った斬撃はヴォイドを捉えていた。


 隙が出来たはずのルフの懐へと入り込めたと思っていたのが、それを読まれた上での完璧なタイミングで、このカウンター。この時、ルフは内心で確信していた。間違いなく「取った」と。


 そしてその思考を肯定するように、ヴォイドもまた振り下ろされる魔剣の刃の目前に居る。



(間に、合わない......)



 引き伸ばされる時間の中で、最後にヴォイドが思考出来たのはこの一瞬のみ。数センチ先まで迫った大剣の刃を前に、ヴォイドの思考は停止する。


 だがしかし、この時同時にヴォイドのその肉体は、“加速”していた。


 それは半ば無意識下の反射で繰り出された、相手の必殺を正面から叩き伏せるというコンセプトの元に創られた一刀。究極の“()(せん)”を求めて幾度も幾度も、己の身体に染み付く程に反復してそれでも尚ひたすらに繰り返した、その動作。


 およそ凡人では決して辿り着けない、速度域の極み。【獣王】の名を冠したルフですら、追えたのはほんの一瞬。有り体に言えば、見えたのは殆ど残像だけと言っていいだろう。


 しかしその刹那の間に、ルフは確かに“その瞬間”を目にした。


 何処からともなくヴォイドの左手に現れる斬魔刀の鞘と、自分だけが遅くなったのかと錯覚するほどの速さで滑らかに納刀される斬魔刀。


 そして――――


 地に足がついていない状態で遂行される、居合の構えへの移行。しかし、ルフが現時点で追えたのは、ここまで。これより先は、ヴォイドが創りし生命であるリサ、サラの二人と観客席より見守るバート、デイビットを含める計四名しか、事の次第を認識出来ていなかった。



 それはヴォイドが斬魔刀を鞘へと納刀した瞬間だった。バートのみが、ヴォイドから僅かに膨れ上がり、収束した魔力を感じ取る。


 そして同時に、既視感が重なる。あの魔力、あのタイミング、あの構え。その全てのピースが、即座に脳内で綺麗に組みあがっていく。



(あれは―――)



 怨嗟の声が絶え間なく響き渡る、一人の男が辿り着いた地獄の果てに。


 彼の者(ヴォイド)が自らに()せた、最初の絶技の一つ。初めて手にする「魂装」を力強く握り締め、雷神(イカヅチ)の化身と成って己へと放った、見事なまでの抜刀術。


 哀調(あいちょう)を帯びた雷鳴を轟かせ、斬魔の一刀は剛魔の一撃を喰い破る。渡りを行う鳥の様に。ヴォイドの身体は、雷電の翼を纏い飛翔する。


 紫電一閃。振り下ろされる音速を、雷速を以て凌駕した。


 その技の名は――― 



『創刀之漆 “-千鳥(チドリ)-”』



 目にも止まらぬ速さで致命に至る、電光石火の一刀。


 仙法『麒麟の型』や『雷属性魔法/魔術』により自身の肉体を活性化させ、あらゆる速度を大幅に強化して放つ、“短距離加速型電磁抜刀術”。後の先を制した後に放たれるこの技は僅かな距離ではあるが、確かにその速度は「動速の極み」へと到達する。


 即ち、『千鳥』に対抗する為には『千鳥』と同等、もしくはそれ以上の速度を誇る攻撃と、その速度域を問題なく認識出来る「眼」が必要となる。


 そしてその二つを持ち合わせていない者がこの剣技を前にした時、その結末は――――



...


....


.....



 『創刀之漆 “-千鳥-”』。


 前述の通りそれは、仙法『麒麟の型』や『雷属性魔法/魔術』で自身の肉体を活性化させ、あらゆる速度を大幅に強化して放たれる“短距離加速型電磁抜刀術”。


 今回ヴォイドが使用した『千鳥』は、肉体が思考を半ば無視して放った一撃である為、その効果はほんの僅かな距離ではあったが、確かにその雷鳴は光速すら凌駕していた。


 そんな攻撃をまともに食らってしまったルフは、自慢の特大魔剣ごとその右腕を切断され、現在は闘技場内で待機していた医療班からその場でゼブルと共に治療を受けている。同様にルシアは既に戦闘中にヴォイドが治療済みで、今は会場の隅で静かに眠っている。


 故に、“返上の儀”の勝敗は誰が見てもヴォイド陣営の勝ちで終わった。


 しかし、会場内には未だ張り詰めた緊張感があった。その理由は闘技場の中央で対峙する、ヴォイドとバートの二人から発せられる圧倒的な殺気(プレッシャー)によるもの。



「退けジジイ。そこの害獣どもは今ここで、確実に始末する。ソイツらは確実に害になる。それを邪魔するのなら、お前もここで纏めて殺す」


「ならん。愛弟子(ルシア)から恨まれるのも御免蒙(ごめんこうむ)るのでな。それでも止まらぬというのなら、儂がお主をここで一度斬る事もやぶさかではない」


「はァ?目覚め始めてすぐの俺相手に引き分けた分際で、俺を斬るだ?冗談も大概にしろよ老害」



 そうヴォイドは吐き捨て、斬魔刀を抜刀すると同時にバートへと斬りかかった。しかしバートもここで退く訳にはいかないと、自らの魂装を抜いてヴォイドに対処する。


 そしていつか見た、剣戟の嵐が発生する。


 しかし以前と違うのは、ヴォイドがまだ「魂装」を抜いていないという一点。だが、今のヴォイドの成長速度はルシアを凌ぐほどのスピードであり、しかし同時にその実力を隠していた為、現在進行形で打ち合っているバートはその剣術の冴えに目を見開く。



(あの時とはまるで別物と見るべきか。『創刀』とやらを使わずこれでは、魂装を抜かれれば本当に危ういやもしれぬな.....。少し、本気を出すとするか)



 しかしバートにはまだ冷静に思考するだけの余裕があるのも事実。故にヴォイドは強引に押し通ろうと、自らの剣技を使用した。



『創刀番外 可変刀 “累加閃(るいかせん)”』



 それは一撃毎に攻撃の重さが倍化していくという、シンプル故に非常に強力な技。この技を使って高速で打ち合えば打ち合うほど、相対する相手の腕と剣がへし折れる可能性が増える。


 しかし、相手が「魂装」というオーパーツを持ち、尚且つそれを存分に使いこなすことの出来る手合い(バート)であれば、その結果は変わってくる。


 経過時間、既に4秒。


 その間に二人は総数300以上は打ち合った。しかしバートは未だ、崩れない。それどころか、既に剣技に対応し始めている。ヴォイドの放つ打ち込みも綺麗に流され、去なされ、弾かれる。


 その対応の速さにヴォイドは堪らず舌打ちし、やむなくバートから距離を取った。


 そして諦めの感情を含んだ溜息を吐くと共に、ヴォイドの気配が切り替わる。



「なるべく手札を晒したくはなかったが、お前が相手なら、仕方ねぇよな(・・・・・・)


「.......」



 その言葉には「落胆」や「諦め」の感情が多大に含まれていたが、同時にヴォイドから今までに感じた事のない、恐ろしく静かで冷たい殺意が渦巻いているのを、バートは感じ取ってしまった。


 そして本能的に理解した。次の一撃は、攻撃対象が自分だけではない(・・・・・・・・)と。



「まさかッ!?」



 次の瞬間、ヴォイドは右足を僅かに後ろへと下げて突きの体制に移行し、自らの右腕を限界まで引き絞った。その理由は自らの直線上に広がる空間の全てを、尽く貫くため。


 空間属性の魔力が殺意となって、斬魔刀の刀身へと収束する。バート諸共に、その背後に居るルフとゼブルを巻き込み、殺し尽くす為に。


 黒く、暗く、深く、死を告げる一撃を、解き放つ。



 ――――創刀之参“虚



「その技は以前にも見たやつじゃな。だが儂からすれば、その技はちと溜めが長過ぎる」



 その言葉が、声が、己の背後から聞こえた時、ヴォイドは驚愕のあまり目を見開く事しか出来なかった。首筋に当てられたバートの魂装の刃の冷たい感触と、背後から聞こえるバート本人の声。


 そして間違うはずのない、感じ慣れた“老練さを感じさせるだけの年月”が滲み出るその気配。


 何が起きた?分からない。どうしてコイツがここにいる?分からない。なぜ俺が刃を突きつけられているのか?その全てが分からない。目を離したつもりは無かった。しかし現に、奴は俺の視界外に居る。どんな方法かは知らないが、文字通り一瞬で俺の死角に移動した。


 その予兆があれば、見逃すはずなどないのに。



「言うまでもなく、これで詰みよ。それにそろそろ、頭も冷えたじゃろうて」



 バートの言葉に、ヴォイドは腸が煮え返る様な激情をその瞳に孕ませながら、渋々といった様子で自らの敗北を認め、静かに斬魔刀を納刀し『ストレージ』へと仕舞う。


 その後大きく深呼吸をし、視線を反らしながらバートへと向き直った。



「......悪い、感情の制御が出来なかった」


「構わぬよ。ひよっこの尻拭いをしてやるのも、儂ら年寄りの役目よ」



 そんなヴォイドの様子を見て少なからず安心したのか、そう言ってバートは魂装を納刀した。しかしその瞬間をヴォイドは見逃さず、即座に動いた。


 その事にバートが気付いた時には既に、ヴォイドの右拳はバートの右頬へとめり込んでいる。続けてそのまま全力で振り抜かれる、ヴォイドの拳。


 それに伴い、小さなソニックブームと共にある程度吹き飛ばされるバート。しかしバートに焦った様子はない、何故なら――――



「クソジジイが調子乗んなよ。今回は引いてやる、次は覚悟しとけ」


「それはこっちのセリフじゃわい。小童が図に乗るでない、次も渡さぬよ」



 「ペッ」と血を吐き捨てながら、バー爺は笑って答える。


 ヴォイドが先程までその瞳に宿していた激情は、本来であれば早々に鎮まるものではない。故に、何かしらの八つ当たりが飛んでくるのはわかっていた。だから、食らった拳がどれだけ痛かろうと、バートは笑うのだ。


 己は今しばらく、彼の上に立ち続けていなければいけないから。


 去っていく(ヴォイド)の背を感情の読み取れぬ瞳で眺めながら、今日もまた一人、夜叉は「何でもない」とばかりに笑ってみせる。


 彼に、彼女に、「己こそが最強だ」と、胸を張り続ける為に。

 最近は最新話を投稿する直前で誤字脱字の確認をしつつ加筆して、それから投稿するのですが、今までは大体一話3000字あればいい方だったのが、最近ではそれなりに執筆が上手くなったのか、5000字を越えることも度々あって、その事を個人的に喜んでたりします。


 とはいえその分、一話を書き上げる時間がそれなりに掛かっているので難しいところです。けどやっぱり楽しいからヨシッ!(現在は約6000字です)



 内容を少し編集しました。 2022/07/25


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