第四十二話「巷の噂と迫る拳客」
カグヤ達に別れの挨拶を済ませた翌朝、ミツル達に見送られながらヴォイド達は宮処を後にする。カグヤの好意で手土産に輝夜城の料理人から色々なレシピと共に大量の食材や調理器具を貰ったり、約束の報酬である研究資料やその研究の対象の現物、更におまけで錬金術などで扱う素材の余りなんかも渡された。
それらを受け取りつつ、ここまで大袈裟に恩を売る必要があるのかと内心思ったが、その表情を見て「好意」の半分はカグヤの本心であることが分かった為、敢えて何も言わずに感謝のみを伝えて宮処を発った。
その後は以前の様に人目につかない近場の森の中に入って天空城へと『狭間の回廊』で移動し、生活空間のひと部屋で寛ぎながら次の目的地である獣人国アレストを目指す。
今回は行きとは違い船には乗らず、東国ヤマトから直接獣人国アレストを目指しての移動となる。
しかしそんな移動中の天空城の一室で、ルシア本人は未だどこか落ち着かない様子をしていた。
「......ほ、ほんとに行くんだよね」
「ああ。一応まだ公式的には王族としての資格は剥奪されてないんだろ?ならやっぱ一度、アレストには向かうべきだろ。個人的に少し、気になるところもあるしな」
「まぁこれも必要なイベントってことっスね」
「端的に言えばそういうことだな」
「いべん、と...?」
「イベント」という言葉の意味がまだよくわからない様子のルシアだったが、言いたい事は大体伝わっていた。
「それに噂の【獣王】、だっけか?そんな大物も居るなら、尚更行かない訳にはいかないんだよな」
「やっぱ【獣王】って称号を持ってる位っスから、好戦的なんスかね?」
「獣人族は強い者を尊ぶ性質があるのはこの世界でも同じっぽいが、だからといって好戦的かどうかは個人の差な気はするな」
そう言ってルシアを見るヴォイドだが、恐らく戦う事になるであろうという事はこの時点で半ば確信していた。
そんなヴォイド達の様子を聞いていたルシアはそれで多少緊張が紛れたか、はたまた覚悟を決めたのかは分からなかったが、先程よりは落ち着きを取り戻していた。その様子を確認したヴォイドはルシアの頭を軽く撫でると、席を立って部屋を出る。
そして一人静かな廊下を歩みながら、ヴォイドは「エメラルドタブレット」を取り出して送られてきている諸々の情報に目を通す。
「.....ふむ、やはりこの規模だとまだまだ足りないか。この1件が終わり次第、また新たな区画や地形を増築だな。経験値はそれなりに積めたし、前回の倍の速度で見積もって――――」
独り言で情報を軽く纏めながら、『体内世界』での準備なども同時進行で進め、玉座の間へ向かうヴォイド。
彼が目指す天空城の完成形は、まだまだ遠い。今はまだ、必要最低限の施設や土地が建造されているだけでしかないのだ。故にいずれ目にするその完成形を、未だヴォイドは夢想し試行する。
そんなヴォイドが居なくなった一室では、バートが天空城内の訓練施設にてヴォイド力作のゴーレムを複数相手取って戦闘訓練をしている様子をモニターしている魔導具や、それを見ながらサラと共にキッチンで何かしらを作るルシア、デイビットはリサに手伝って貰いながら色々な装備の手入れをしたりと、各々が思うままに時間を過ごしていた。
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そして東国ヤマトからたった数日の旅路の末に、ヴォイド達一行はルシアの故郷である獣人国アレスト、中央都市ペアルバ付近に到着した。
ヴォイド達はいつも通り近くの人気のない場所に『狭間の回廊』で降り立ち、そのまま街道を進んで街の中に入る訳なのだが、予想通りと言うか、何というか、問題が起きた。
端的に言えば、追い出されたお国の姫様が帰って来たのだから、当然門番の兵士も気付かない訳もなく。
「え、あの.....まさかとは思いますが、ルシア様でしょうか?」
「うん、正解。僕はこの国の第四王女の“ルシア・ハーフェン”で相違ないよ。久しぶりに帰って来たんだ、通して貰えるかな?」
「も、勿論です。では、身分証を拝見致します。因みにそちらの方々は?」
「護衛、の様なものかな」
と、こんな感じに若干震えながら門番の兵士の人は俺達を通してくれた。
だがやはり、そんな事態が起きれば自ずと街中でも周りから結構な視線がルシアに注がれる事になる。当然といえば当然なのだが、生粋の陰キャからするとこの視線の数は正直キツイ。
故にヴォイドが『存在希薄』のスキルでそれとなく視線を浴びないようにしているのは、秘密である。
そんな状態でルシアの後を歩きながら、ヴォイドはふと思う。
(てか気のせいじゃなければさっきのルシアのあの感じ、完全に上級貴族特有のオーラというか雰囲気を醸し出してたな。いやまぁ、一応あんなでも王族だもんな。実際に見るまで忘れてたけど)
と考えたヴォイドは更に、「ルシアを使えばこの国の金をある程度好きに使えないか」と思ったのだが、そんな邪な考え事をしていたせいであろうか、ヴォイドは自らの側頭部に迫った剛拳に、直前まで気が付く事はなかった。
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※
そんなヴォイド達から時間は少し遡り、彼らが獣人国アレストに到着する直前の王宮内での出来事。
今日も今日とていつも通り、自らの父である獣王ルフ・ハーフェンに挑み、ものの見事に打ち負かされた獣人国アレスト第二王子の肩書きを持つ彼の名は、ゼブル・ハーフェン。
狼の特徴を多く持つ雑種の獣人である彼が、その見事なまでに鍛え抜かれた鋼の肉体に医務室で治癒魔法を掛けて貰ってから、これまたいつもの様にゼブルは不貞腐れながら気分転換の為に城下町へと繰り出す。
「チッ、あのクソ親父.....どんだけ強いんだよ」
完全な奇襲を仕掛けたにも関わらず、完璧に対処された上に得意の体術で正面から負かされた様子を思い出し、流石のゼブルも堪らず一人で愚痴を零す。
とはいえ彼もまた「獣王」の名を受け継ぐに相応しいだけの実力は備えている。
しかし育った環境が良くなかったのだろうか、彼には多少バトルジャンキーで短気なところがある。それも一定以上の実力を備える強者を見掛けると、それはもう無性に戦いたくなるという程には戦闘狂であり、口で語るよりも拳で語る方が得意な、典型的な脳筋タイプである。
しかしそんなゼブルが大通り歩いていると、今日は何やら周りが騒がしい事に気付く。その事が少し気になり、ゼブルが周囲に聞き耳を立てれば、聴こえてくるのはひとつの噂話。
それは数ヶ月前から行方不明だった第四王女がつい先程帰還した、という内容のものだった。
しかしそれはゼブルや他の王子王女にとって、にわかには信じ難い内容であった。故にゼブルは無意識の内に、その足を止めていた。
それもその筈。何故ならこの国から彼女を排斥したのは紛れもない、王族のゼブル達自身だからだ。とは言うものの、実力がモノを言うこの国でルシアは獣人に生まれながら非力であり、尚且つ他国の信仰対象の神からの“祝福”を受けていた。
武芸が優れている訳でもなく、天才的な頭脳を持っている訳でもない。それが、兄弟間でのルシアに対する認識だった。故に、そんな彼女が自然と他の兄弟達から迫害を受けるのは、この国では当然の摂理だったのだろう。
ゼブルはそんな数ヶ月前の事を思い出しながら、道端で当の噂話をしていた獣人二人を問い質し、更に詳細な話を聞いた。
するとどうだろうか、彼らは行方不明だった王女が見知らぬ人族を数人連れて帰って来たと言うではないか。
それを聞いたゼブルは、気付かぬ内にいつもの悪い癖が出てしまう。感情が少し昂ぶり、それに伴い多少鈍くなった思考力で間違った彼女の目的を導き出す。
そんな彼の思考から弾き出されたのは――――
「獣人としての誇りすら捨てたか、あの出来損ないがッ!!」
という、見当違いの台詞だった。
しかし確かに彼の視点から見れば、彼女はそう映っても仕方がないのかもしれない。何故ならルシアは国を追い出されてから僅か数ヶ月という日数でヴォイド達と出会い、更に見違える程の成長を遂げたから。
だがゼブルは現在、誰がどう見ても冷静さを失っている。それこそ、まともに相手の力量を測れない程に。
そんな状態で血眼になって20分ほどゼブルは街中を歩き回り、遂にゼブルは彼女を見つけた。いや、見つけてしまった。
人数は6人。魔術師の男が一人にメイドが二人。残りは剣を持った男が一人に無手の男が一人、そして最後にゼブルの探していたルシアを入れて全員。
それを見てとったゼブルは即座に、“闘気を練り上げる”。
そう。彼は今から目の前の一団に奇襲という形で襲い掛かり、全員を半殺しにするつもりでいた。
その原因はゼブルの短絡的で偏った思考のせいなのだが、本人がそれを自覚しないので“悪い癖”として獣王ルフに事ある毎に注意されていた。のだが、今回もその“悪い癖”が治ることはなく、ゼブルは自ら悲惨な運命に歩み寄ることになる。
そして当のゼブルはたっぷりと練り上げた闘気を一気に爆発させ、傍から見て“一番弱そうな魔術師風の男”へと踊り掛かるのだっ
内容を少し編集しました。 2022/07/22




