第三話「初依頼でイレギュラー」
ルシアを所謂「お姫様抱っこ」の状態で抱えて一時間程走った辺りで、ヴォイド地上は移動効率が悪いと判断し、今は能力を使用して空中を走っている。
最初は幾分か怖がっていたルシアも今では慣れたもので、流れゆく景色をそれとなく楽しんでいる。
そして更にそのまま一時間程進んだところで、無事に人の手が入った街道に出た。
「やっと街道か、後はこの道を辿るだけだが.....」
「流石にマスターが走ると道が壊れちゃうから、歩かないとだね」
という訳で更にそのまま二時間ほど歩いた頃に、遂に異世界で初めての都市に到着した。名前は「辺境都市ウロ」と言うらしく、見た限りでは発展途上のいい場所である。
なになに?「検問はどうした」だって?
そんなもの、スキルで作った硬貨を払って問題なく通過しましたよ(バレたら犯罪だけど、そんなものは知らん)。
まぁ極論、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。
という事で今はその辺の屋台で少し買い食いをしながら、転生モノでは欠かせない「冒険者ギルド」なるものに向かっている。
この世界にそういう団体があること自体が結構驚きだったのだが、もしかすると俺以外の「異世界人」の仕業なのかもしれない。
(こんな俺でもこの世界に辿り着けたのだから、他の転生者や転移者が居てもおかしくないと考えるのは、まあ当然の摂理だろう。自分だけが選ばれた、などと言う楽観は容易に人を殺すしな)
などと考えつつ、検問所の兵士に聞いた通りにしばらく大通りを歩けば、目的地に近付くにつれて少しずつ、冒険者の様な見た目をした人達が増えてくる。
目的地の冒険者ギルド近くには屋台ではなく酒場や食事処が増えて、酒を求めて彷徨う者達も多い。
時刻はまだ昼頃だが、既に依頼を終えて戻ってくる冒険者もチラホラと居る。その人混みに紛れて、ルシアと冒険者ギルドへと入る。
そして特に視線に晒されることなく、そのまま一番隅のカウンターへと向かう。
「失礼、冒険者登録をしたいのだが」
「はい、登録ですね。ではこちらの用紙に記入を。代筆は必要ですか?」
「.....いや、問題ない」
二人分の記入用紙を受け取り、ヴォイドとルシアの両名が必要な項目に最低限記入していく。
その中にあった「職業」という欄を見て、ヴォイドはある事を思い出す。
まず、この世界には『魔法』と『魔術』が存在し、惑星エーテルにおいて『魔法』とは、『詠唱』という名の「言霊」を使用して大気中に存在する魔力に干渉し、自然の力をある程度思うままに操る行為をそう呼ぶ。
精霊と契約することで使用出来る『精霊魔法』という代物も存在するが、これは契約者側が精霊に対して『詠唱』を介す事で意思を伝達し、それに応えて精霊側が魔力を使用して起こした事象がそう呼ばれているモノである。
従って『魔術』とは、「魔術式」と呼ばれる所謂「魔法陣」の様な術式を用いて己の内に内包されている魔力を使用し、既知の魔法や奇跡の再現を行う事をそう呼ぶ。
故に魔法を扱う者は「魔法士」、逆に魔術を扱う者は「魔術師」として職業が別れていたりする。
稀に『魔法』と『魔術』の両方を扱える者も居るが、そういう者達は全て“魔を導く術士”、即ち「魔導士」と呼ばれる。
とはいえヴォイドは自らの職業欄に何を書けば良いのか分からなかったので、能力同様に書かないことにした。
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「ステータス記入欄」
名前:ヴォイド
種族:人族
職業:―――
固有:―――
装備:―――
――――――――――――――――
登録だけであれば、記入するのは「名前」と「種族」だけでいいらしく、故にヴォイドは記入するのをそれだけに留めておく。
それを見たルシアも同様に、名前と種族だけ記入したらしく、二人同時に記入用紙を提出する。
「はい、ヴォイドさんとルシアさんですね。それでは少々お待ち下さい」
そう言って受付の女性は二枚の記入用紙を持ってカウンターの後ろの方へ姿を消していった。それから少しした後、今度はその手に小さな黒い板を二枚持って戻ってくる。
「お待たせしました、こちらがお二人の冒険者証となります。身分証明の出来る物ですので、大切にして下さい。無くされた場合は再発行の手続きが必要になりますので、お気を付け下さい。冒険者ランクはお二人共、Fランクからの開始になりますので頑張って下さいね」
そこからは受付の女性から規則やらなんやら色々聞いて、そのままおすすめの依頼を見繕って貰った。ルシアと二人でこなすので、まずは定番の「薬草採取」と「ゴブリン討伐」がおすすめだと言われた。
それと最近、「この街の周辺でゴブリンが増えているらしいので、気をつけるように」とも言われた。
受付で薬草採取のために貸出されている籠を貰い、冒険者ギルドを後にする。
(うん、期待してた“テンプレ”はなかった。正直ちょっと悲しい)
しかしそんな事は構わず、そのまま街を出て近辺の森へと足を運ぶ。
そして森に入って早々に噂のゴブリンと接敵。折角なのでルシアに戦わせてみる事に。護身用で渡しておいた少し大きめの黒塗りのコンバットナイフだが、存外上手く使いこなしている。
この世界の獣人族特有の身体能力の高さを活かして、常に翻弄しながら1対1の状況を作り出して確実に仕留めていく。素早く4体殺したところで今回は終了。
そのまま討伐証明部位の左耳を剥ぎ取り、近くに生えていた薬草も言われた通りに回収。
その後、ゴブリンをもう10匹程討伐してから帰る事にする。幸い、帰り道でも薬草を採取出来たので最初の依頼にしてはいい結果だろう。
そして薬草の採取もあらかた終わらせ、いざ帰ろうと思った矢先。近くの茂みから、“赤色の悪魔”が姿を現す。
それは通称、【初心者殺し】と呼ばれる魔物。
しかしてその正体は、ただのゴブリンの「変異種」である、ゴブリンソルジャーと呼ばれる個体。全身の赤色の肌と、冒険者の死体から得たであろう直剣と丸盾。
そしてその身から放たれるプレッシャーは、並みの冒険者と遜色ないものだった。
「ふむ、見つかったか」
「マスター、何でそんなに冷静なの?」
とルシアにツッコミを入れられつつ、結構緩い感じで“赤い悪魔”との戦闘が開始されるのであった。
最初の方はかなり文字数がないです。申し訳ない。
内容を少し編集しました。 2022/03/05