第三十七話「対人訓練と登竜門の伝説」
――――東国ヤマト ダンジョン「水妖霊殿」にて
ミツル達がこの「水妖霊殿」というダンジョンに入ってから既に、二時間以上の時間が経過していた。
しかし、ダンジョンを今尚進む彼らの顔には、今のところ焦りはない。
このダンジョンの階層数はおそよ70階層。本来の難易度はBランクに相当する。だが今現在は情報の通り、出現する魔物全般が凶暴化しているのが原因で一時的に準Aランクに格上げされたという。
そしてこのダンジョンで出てくる魔物はその全てが、少なからず「水」と関連性のある魔物で占められている。
サハギンやリザードマン、スキュラにケルピー、セイレーンなどなど、上げればキリがないほどに、様々な魔物が階層毎に出没していた。
しかし今の所、彼らは特に苦戦することなくどんどん奥へと進めている。その理由はやはり、ヴォイドのパーティーメンバーのおかげと言えるだろう。
それぞれ3人全員が、圧倒的なまでの実力を備えている。それこそ下手をすれば、全員がSランク相当かもしれない、そんなレベルだ。
そんな三人を観察していたミツルは、改めてヴォイドのパーティーメンバーの3人から感じる雰囲気を探る。
最初の一人はその腰に刀を差し、常に彼らの前線を貼り続ける剣士のバート。彼はミツルからすると、ぶっちゃけ「強すぎるからよく分からない」という判定を内心でされている。
戦い方や立ち居振る舞いを一つ取るだけでも、そこに圧倒的な「強さ」に対しての差が感じられた。もっと言えば、それぐらいしか感じられないのだ。故にミツル達からしてみれば、彼の強さの底など想像も出来ない。
次は一見すると無手に見える、糸使いのデイビット。彼は誰に対しても気さくではあるが、ミツルは彼がたまに何かに対して強く気を張っているように感じた。
とはいえ彼もまた前述の剣士バートと同様に、今まで見た中でもその他とは隔絶した強さを誇っていた。
そして最後に、メイド服を着用しながら軽々と大鎌を振るうリサという名のメイド。
ミツルは正直、彼女が一番読みにくいと感じていた。何故なら、彼女の言動や態度など、それら諸々を含めて何一つとして情報が正確に掴めないからだ。
戦闘に関してもバートとデイビットの二人にその殆どを任せているが、恐らく彼女も相当の実力者であろう事は想像に難くない。
しかし今はそんな事をだらだらと考えている余裕はない為、ミツルは早々に思考を切り替える。デイビット曰く、あと数階下の階層で一際大きな生命反応があるらしい。
そしてそれが恐らく、このダンジョンの【守護者】だろうという事も言っていた。
故にデイビットの情報を信じ、最低限の休憩を挟みながら彼らは最下層へとその歩みを進めていった。
それから更に一時間ほど経った頃だろうか、遂にこのダンジョンの最下層、そのボス部屋の前へと到着した。そ
れぞれが休憩がてらに自分の装備の最終点検やアイテムなどの残量の確認を終えた後、バートとデイビットの二人を先頭に、彼らは躊躇うことなくボス部屋への扉を開け放ったのだった。
※
――――東国ヤマト 天空城 訓練施設の一角にて
「せっ!はぁッ!」
短く吐き出される気合の声と共に、鋭く交互に振り抜かれるニ振りの黒い細剣。
名を「魔剣リヴィエール」。その刀身は素早く振り抜かれることで、まるで黒い閃光が迸るが如く、僅かな斬撃の残像をその場に残して空を切る。
そんな黒刃の何度目か分からぬ斬撃を火花を散らしながら刀を用いて容易く受け止めるのは、「深編笠」と呼ばれる被り物をしたような見た目をした、一見するとサムライの様な姿形をした一体のゴーレム。
その動きは最早ゴーレムではなく、「中に人が入っている」と言われた方がむしろ納得出来る程に、一つ一つの動きが練達の域のような滑らかさを誇っており、その強さはどう見てもランクS、即ち「測定不能」の領域である。
そんな異物と現在互角に打ち合う白の天才もまた、その強さは異次元と言っても過言ではない。
両者一歩も譲らず、目まぐるしい速度で互いの攻守を入れ替える。片や、使いこなすことが出来れば圧倒的なまでの手数と選択肢を得られる可能性を秘める『二刀流』。それに対し、一つ一つ丁寧な動きで打ち込み、打ち込ませ、ある程度相手の動きを誘導しながら非常に高い水準で放たれる技巧の数々。
生来の速度と天性の思考の速さから弾き出される最短最速の攻撃は、その圧倒的な手数で責め潰す様な気配が滲み出る。
対して、速度と物量に対して深い思考により導き出される相手の思考と行動のその先を往く一手を打ち出し、更に超絶技巧を絡めて眼前の白狐に互角以上に渡り合う、泥の人形。
二人の戦いが決着に向かう気配は、未だなし。
そこから視線を少し離れた位置に向ければ、そこで行われているのは先程と同じく、一体のゴーレムを相手取った対人戦闘訓練。
巧みな体術と共に変則的な攻撃をその手に握る“三節棍”という特殊な武器で繰り出す、格闘家のような格好をしたゴーレム。
その動きも先と同様、口が裂けてもゴーレムの動きとは呼べない代物である。
そしてその変則的な攻撃に対し、氷結の呪いを宿す妖刀を用いて冷静に対処する、黒髪のメイド。
「疾ィ!」
三節棍の間合いを完全に見切って放ったカウンターを、相手の敢えて急所から外すことで、ゴーレムの体勢を強制的に崩しに掛かる。しかしゴーレムも負けじと、不安定な体勢から人間ではありえない関節の動き方で瞬時に立て直し、再度猛攻の嵐を見舞う。
猛攻の隙を付いて氷結の魔法を使い、強制的に互いに距離を取らせ、今度はメイドからゴーレムに対して突貫する。対して、ゴーレムも迫るメイドに対処する為に三節棍を繋げて一つの「棒」へと変化させ、戦い方を変える。
ゴーレムの間合いが伸びたことにより、攻め手に回るはずだったメイドは新たな形態の対処をする為に、ここで無闇に攻める事が出来なくなった。
「チッ!」
その行動に思わず零れた舌打ちも、その直後に幾度となく衝突を再開した互いの武器が奏でる音によってかき消される。
こちらも、決着までの道のりは遠い。
「ふむ、これなら警備用に量産するのもアリか。とは言えルシアでも対処出来るレベルなら、もう少し性能を底上げするのも......いや、現状でも素材のコストパフォーマンスが決していい訳じゃない。ならいっそ肉体部分を器にして『憑依』させるのも無しではないな。.....後で試してみるか」
ブツブツと独り言を続けるヴォイドの眼前で現在行われているのは、ルシアは新装備を使って装備を身体に慣らす作業。対してサラは、実力の再確認も含めてのゴーレムの実験である。
ルシアは数時間前に渡した神造魔剣を使って、新しく出現した固有能力の『二刀流』に慣れる為の練習も含め、前述したゴーレムの実験に付き合って貰っている。
戦闘の様子を見ている限りでは、それなりに上手く馴染んで様子である。あのまま行けばもしかしたら、「スターバーストス○リーム」とか教えれば撃てそうでちょっと怖い。
因みにルシアが『二刀流』の固有能力を発現させた理由は、今ルシアが使用しているあの“魔剣”に関係している。
あの魔剣をルシアに譲渡する前、つまりはヴォイドが所有していた状態での魔剣のステータス表示が、こちら。
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名前:魔剣リヴィエール
種類:細剣型神造魔剣
固有:(水流操作)/(魔剣分裂)/(武器融合)
付与:不滅/魔力消費超軽減
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このように、魔剣が持つスキルが全て施錠された状態だったが、魔剣がルシアの手に渡った途端、全てのスキルが解放、というか“解錠”された。
そして解放されたスキルの『魔剣分裂』を使用させた際、ルシアに『二刀流』という新たな固有能力が発現した。
しかしヴォイドが『鑑定』やら『根源接続』により覗き見た限り、本来『二刀流』のスキルは固有能力として発現する事はまずないらしい。
ただ一つ例外として、過去に勇者の職業を持つ者が固有能力として所持していた事があったとかなんとか。
とは言え、ルシアは見ての通り転生者でも転移者でも、ましてや召喚された今代の勇者でもない。ならば何故なのか。これがよく分からない。
だが考えられる理由としては、一応幾つかはある。
一つ、神が関与した事象の為、二つ目の「例外」として能力が発現した可能性。
二つ、こちらに隠しているだけで、本当は転生or転移者の可能性。
三つ、実はルシアは過去に存在した勇者の血統の末裔である可能性。
四つ、神の関与や勇者の血統など一切関係なく、ただの突然変異である可能性。
と、ヴォイドでもすぐに考えられるものであればこの位になる訳だが、どれも信憑性がないに等しく、根拠もない。強いて言えば、状況証拠から一番あり得る可能性の高い選択肢がこの四つだったというだけだ。
更に先程、いきなりルシアが泣き出すという珍事もあったばかりなため、これらを本人に直接聞くのも憚られる。
しかし現状では答えが出せない以上、可能性の話をこれ以上考えても時間を浪費するだけな為、ヴォイドはこの事について今はこれ以上は深く考えない事にするのであった。
※
――――東国ヤマト ダンジョン「水妖霊殿」にて
現在ミツル達の眼前には、本来では有り得ないほどの巨体を誇る「鯉」が、その姿を現していた。
リヴァイアサンと呼ばれる【水神】が居た様な、とてつもなく大きな地底湖がダンジョン最下層の広い空間に存在しており、その中から三匹の「竜鯉」と呼ばれる特殊な魔物が、水中からミツル達を見つめていた。
『竜鯉』という魔物は本来、Aランクでも上位の討伐難度に分類されており、その生息地もよく分からない程、特殊な生態をしている。
しかし、今回の相手はこのダンジョンでは階層主としてボス部屋内に君臨しており、その討伐難度は未知の領域であるランク「S」に匹敵するまでに成長しているであろうと、ミツル達は認識していた。
番であろう二体の竜鯉と、体格がまだ小さい、恐らく幼体だと思われる個体の竜鯉。それぞれ番の二匹は「九紋龍」や「昭和三色」といった色合いだが、ミツル達を警戒のするように水中から見つめる幼魚の色合いだけが、不自然だった。
その全身は光り輝く白銀の鱗に覆い尽くされており、その身からは【水神】と似た僅かな神性を帯びている様にミツルは感じていた。
得てしてそれは、それは突然変異で生まれた、言い換えるならば選ばれた個体の竜鯉。
もしその個体が成体へと至る事があれば、『鯉はやがて竜と成る』というこの地に残る逸話の通り、強力な最強種、即ち竜種へとなり得るの可能性を秘めていた。
しかし幸か不幸か、それを阻む者達がここに集ってしまった。今の未成熟な状態では、決して太刀打ち出来ない程の天敵が。
「そうじゃのう。儂はあの白黒のデカいのを一匹貰おうか。あれだけデカければ、ヴォイドなら“鯉のぼり”でも作ってくれそうじゃわい」
「確かにそうっスね。ヴォイドさんへのお土産で持って行ってもいいかも。それじゃあ俺はミツルさん達の援護に回りますんで、リサさんはもう一匹の大きな個体をお願い出来ますか?」
「はい、承りました。それでは皆様、ご武運を」
デイビット達3人はそんな竜鯉を見るや否や、短く役割を決めて即座に動き出す。ミツル達が気付いた頃にはバートとリサは早々に戦闘を開始しており、それぞれの方向で既に大きな水しぶきが上がっている。
それを見てとったミツル達も同様に、眼前に迫る白銀の鎧を纏った竜鯉に対して、攻撃を開始するのだった。
内容を少し編集しました。 2022/06/10




