第三十六話「加護と涙の意味は、甘さのみが知る」
「水神様や、言われた通り連れて来たが.....」
ヴォイド達の眼前に聳える巨竜に対し、カグヤは思いのほか親しげに話しかけた。たったそれだけであっても、ヴォイドからすればものすごい速度で情報が更新されていく。
しかしその思考を強制的にぶった斬るようにして、更なる驚愕がヴォイド達を襲う。
『御足労、感謝します。そして初めまして、“今代の勇者”とその盟友の方々』
どこからともなく、女性が発したような透き通った声が聞こえてきた。
それは言うまでもなく、目の前の水神が発したであろう言葉。しかしその言葉は直接声を発して伝達している訳ではなく、脳内に直接その言葉が送られている様に感じられた。
これは所謂「テレパシー」と呼ばれる類の力だ。ヴォイドはすぐにその事を理解した為動揺が表に出ることはなかったが、ミツル達はこの事態に驚きを隠せない様子。
そんな彼らを一旦置いておくようにして、カグヤはこちらに視線を向けた。
「では、先程のヴォイドの質問に答えるとしようかの」
そう言ってカグヤは、東国ヤマトのある海域の事について話し始める。
まず初めに、この国は建国時から「守護竜」と呼ばれる存在によって守護されていたという。その守護竜とは言うまでもなく、今ヴォイド達の目の前に居るリヴァイアサンのことだ。
しかし水神はかつて、ただの【守護竜】という肩書きを持つだけの水竜だったらしい。そんな竜が建国の為に力を借りたいと言う人族と契約を結び、長い年月を経て【守護竜】から【水竜王】と呼ばれるようになり、気が付けばいつの間にか「神格」を与えられていたと言う。
そんなリヴァイアサンは神格を得てから、ヤマトの守りをより強化する為に「眷属」と呼ばれる存在を生み出したという。
そしてリヴァイアサンは東国ヤマトの近海の守護を自らが生み出した眷属達に任せ、自分は国の内側から、陰ながら国を守護すると決めたそうだ。その為に数百年前、当時のヤマト国の王と契りを交わし、その身に神の血を流す特別な一族を生み出したという。
そうして、この国は半神半人とでも呼ぶべき一族の末裔を頂点とすることで、数百年以上の安寧を得ていたという訳だ。
しかし、ここ最近はリヴァイアサンの生み出した「眷属」がまともに太刀打ち出来なくなるほどに凶暴化した魔物がこの国に出現する様になったという。
だが、リヴァイアサンはこの都市を護る為に張られている特別な結界の維持の為に、現在はこの場から動くことが出来ないらしい。
それ故に代わりとして、俺達へその魔物の討伐を依頼したのだと言う。
「長ったらしく話してたところ悪いが、まあ要するに討伐目標の居る場所は陸上だけじゃなく、海中も含まれると確定していいんだな?」
そんなヴォイドの問いに答えたのは、カグヤではなく水神であった。
『理解が早くて助かります。そしてその為に、あなた方には私の加護を授けます。私の加護があれば、水中での動きが陸上に居る時と変わらずに行えるでしょう。それに私の眷属達が、あなた方を導いてくれるはずです』
その言葉を聞いていたヴォイドは内心、「要らねぇ」と思わなくもなかったが、その本心を口に出す前に、ようやく状況を飲み込めたミツル達が騒ぎ始めた。
「みんな聞いてくれ!この国の人達の為にこそ、今こそ俺達勇者の力が必要なんじゃないか?魔物の驚異に苦しんでいる人々を置いたまま帰るなんて、俺には出来ない!だから、俺の為に付いて来て欲しい!」
そんな突如として始まった勇者による仲間達への熱いスピーチは、長くなりそうだと判断したヴォイドやカグヤを蚊帳の外で進んでいく。
そんな様子を黙って見ているヴォイドはと言うと。
(うわ、なんか始まった。......ほら見ろ、やっぱり「正義バカ」じゃねぇかアイツ。一人でやるならともかく、周りを巻き込むなよ迷惑野郎が。そのまま早死すればいいのに。.....ピンポイントでアイツのとこだけ隕石とか降って来ねぇかな?)
若干物騒な思考になりつつも、そんな彼らの様子を水神とカグヤは静観、ヴォイドは巻き込まれたくない為少し距離を空けて避難する。
その後「正義の演説」とでも呼ぶべき茶番は2~3分で終了し、そのままの勢いで水神の加護とやらを授けられた。
――――――――――――――――
名前:ヴォイド・トゥルース(Void Truth)
種族:虚人
職業:虚空夜叉/孤王羅刹/魔を導く者/闇の支配者/闇の探求者/闇の住人
固有:能力創造/根源接続
加護:水神の加護 ←(New)
装備:闇を纏う法衣/魔術王の指輪/斬魔刀・閻魔
魂装:怨獄刀・叫嗟
――――――――――――――――
という風に、ヴォイドのステータス欄に新しく「加護」という項目が追加される形で変化が現れたくらいだ。分かりやすい効果といえば、若干「水」を操る事に関しての技量が上がったくらいだろうか。
加護が施されてから、即座にそういう検証を『体内世界』の実験を担当する班に任せ、ヴォイドはカグヤ達との作戦会議へと入る。
まず、言及された海中に居る魔物の掃討に関して、こちらはヴォイドが担当する事に決まった。とは言え、依頼の規模はこの都市近郊だけではなく、周辺に広がる町や村などの周囲も含まれている為、普通であれば想像以上に期間が必要になる。
移動と合わせて物資の運搬、場合によっては住民の避難など、本当にやるべきことが多すぎて、とてもではないが数ヶ月掛かっても終わらない内容なのだ。
だからこそ、カグヤもこちらに国の兵を最大で半分程出してくれると言っていたが、正直なところ、必要ない。
理由はカグヤ達が足りていないと思っているモノは全て、ヴォイド一人で何とか出来てしまうから。
まず移動に関しては、こちらは『狭間の回廊』か天空城を出せば、それだけで済んでしまうということ。物資の運搬に関しては、容量が無限の『ストレージ』がある。
そして最後に戦力と人手だが、こちらはヴォイドに秘策がある為、早々に要らなくなった。これらを総合して、ヴォイドは自ら海中の魔物の掃討を申し出たのだが、やはりその理由をカグヤは知ろうとした。
しかし、それを聞いてきたカグヤに対して「ここで死んでもいいのなら」と物騒な前置きをヴォイドが割と本気でした為、カエデやミツル達の制止により情報の開示は免れた。
そしてもう一つの地上を担当するグループだが、こちらはミツル達勇者を主軸に置いた数百人規模での団体になった。海中に関してはヴォイドがパーティーメンバーの半分が居ればそれで十分とその場で宣言した為それが採用されたが、地上部隊は勇者達だけでは少々物足りなさがあった為、ヴォイドの要望で残りのパーティーメンバーをそちらに同行させることになった。
そして彼ら地上部隊の担当だが、地上の魔物だけではなく地下、即ち迷宮の魔物もその対象となる。地上の方はまだ状況が分かり易いが、ダンジョンの下層となると、状況を確認するだけでもそれなりに物資や戦力を消耗する。
故に最初から踏破出来るであろう人員のみ揃え、ダンジョンへ出撃。そのまま短期間で幾つものダンジョンを攻略、もといその中に居るであろう多くの魔物を掃討してくのが彼ら地上部隊の大まかな作戦らしい。
ダンジョンはスタンピードが起きたことのある場所から優先的に攻略していくらしいが、その話を聞いていて、やはり彼らだけでは戦力が圧倒的に足りていないとヴォイドは思った。故に、パーティーメンバーの半分を押し付ける様にして動向を許可させたのだ。
とは言え、ヴォイドの担当する海中の魔物討伐に関しては想定通りに行けば一週間も掛からずに作業の終了が確定する為、割と早い段階でヴォイド達は地上部隊に合流出来るとだけカグヤに告げておいた。
それを最後に、主力メンバーによる作戦会議は終了する。
決められた作戦の開始は明日の早朝から。
依頼の内容などをルシア達パーティーメンバーに対して、新たに創った能力の『仮想掲示板』で即座に共有し、それぞれから了承の意を貰う。
それを確認しながら、ヴォイドは明日の為に準備やら仕込みをこれから行う為、王城を出て天空城へと向かった。
因みに『仮想掲示板』の効果だが、全員の意識をヴォイドから発せられる一つの魔力で繋げ、文字通りチャットのような感覚で情報交換等が出来るようにした代物だ。画像添付や動画の送信、念話の機能まで付けられているうえ、更に個人でのやり取りも可能という安心安全な能力となっている。
発案はデイビットであり、メンバー全員に意見を聞いたところ満場一致で「欲しい」との声が上がった為、その日の内に作成に踏み切った。
そのスキルを『貸与』でパーティーメンバー全員に渡してある為、今は『仮想掲示板』に色々な情報が共有されている。
ルシアとリサ、サラの二人からは料理が美味しいお店や珍しい食材など、他には衣服や食器などの日用品といった物の情報。バー爺からはいい酒場や強者関係の割と曖昧な情報が。
そしてデイビットからは、裏に関係する情報がもたらされている。場所、人物、関係性など、更には歴史まで調べてくれているのだから、優秀と言わざるを得ない。
その全てをヴォイドは並列に整理しながら処理し、周辺の地形や出現する魔物などの情報を全員に共有し、更に事前に戦闘時の対策をさせておく。
そんな、それぞれがそれぞれの時間を過ごす中、ヴォイドは一人天空城で作業を行う。五十体以上生み出した分身を全て使い、明日からの依頼の為に天空城へ突貫工事を行いながら、明日の景色に思いを馳せる。
上手く行くといいなぁ、と。
...
....
.....
そんなこんなで一夜明けて、はや明朝。
王城の正門にはミツル達やヴォイド達、そしてカグヤとカエデが集まっていた。前日に他のパーティーメンバーを連れてくる事は連絡してあるので、そのままグループ毎に別れて行動を開始する。
まずダンジョンを担当するミツル達の班にはミツル達を含め、バー爺、デイビット、リサの三人が同行する事に。
対して、海中の魔物殲滅を担当するヴォイドのグループは、ヴォイド、ルシア、サラの三人のみだ。こちらの人数が圧倒的に少ないのは、単純に効率の問題である(何ならヴォイド一人でもいい)。
理由はこちらにも人数を割くよりは、片方をヴォイドが一人でやってしまった方が圧倒的に早いからだ。
そういう訳で、ヴォイド達は早速「宮処」から出て、『狭間の回廊』を使用して天空城へ移動する。その際にヴォイド達の背後を付けて来ていたカグヤの手の者を四肢欠損にした状態で、召喚した八咫烏に頼んで王城へとこっそり運び込ませておき、それを見送った後にヴォイド達は誰にも見られる事なく天空城へと昇る。
美しい作りをした天空城の内部を移動しながら、幾つか遠隔で天空城に搭載されている機能を操作し、依頼された対象ポイントまで移動を開始する。
ルシア達二人には別の部屋で待機して貰いながら、ヴォイドは一応この天空城にも作られている玉座の間の玉座へ腰掛け、備わっている機能の一つであるソナーなどで周囲の地形や魔物の数などを把握する。
空中に映し出される無数の映像や何かしらを表すグラフや数値、それら全てを並列思考で同時に処理しつつ、ある程度の情報整理が出来た時点でヘイトを集める類のスキルを使用し、天空城の近くの海域に居た魔物を天空城の真下へとおびき寄せる。
これで下準備は完了。後は諸共に、殺し尽くすだけ。
「さぁて、性能は如何ほどかな?」
そう言って、ヴォイドは遠隔で複数の術式を起動させる。天空城の下層、その内部で音もなく待機する数万の泥人形達。
僅かに光を放ちながら可動を開始するのは、その鋼の肉体に刻まれし、極小の魔術式。
一斉に動き出すは、魔法によって練り上げられた意志なき鋼鉄人形。しかしてその行動を決定づけるは、その身に刻まれた極々小さな魔術式。
体内の奥深くに埋め込まれた魔石の核と共鳴し、術者の命令を待たずに人形は行動を開始する。
彼らは意志なき泥人形。しかして核に刻まれているのは、果たすべき命令。ならば術者による命令など、初めから不要。
必要になったその時に自由に操れるのならば、命令は最低限で済む。
『魔法』によって作られた強靭な肉体と、それらを動かす膨大な処理を行う精密な『魔術式』。これら二つを合わせることで、それらは『魔法』でも『魔術』でもなくなる。
これらの魔導技能と呼ぶべきものに、特定の名称はない。しかし敢えてそれらを合わせて名付けるならば――――
『岩属性魔導法術 “岩鎧の軍勢”』
ヴォイドが魔導術士として初めて生み出した、魔法と魔術の融合したオリジナルの『魔導法術』。
完全自律型でありながら、A級クラスの実力を持つゴーレムを幾つかの過程を経て生み出すこの法術は、最初に魔法によって生み出された鋼鉄の肉体に、ヴォイドが生み出した『魔導技能』である『積層魔術式』や『連結型増幅魔術式』を小さく圧縮した『圧縮式連結型積層増幅魔術式』とでも呼ぶべき高度な術式をその鋼の肉体の内部、それもコアに近い部分に刻み込む事で、ゴーレムとしての強さを飛躍的に上昇させ、更に肉体の中心部に前述した魔石を体内へ埋め込む事で、ゴーレムとして完成する。
そして埋め込まれる核となる小さな魔石にも勿論、その内部には夥しいほどの術式が積層構造で刻まれている。その核の内部に刻まれている命令術式が、ゴーレムの体内に張り巡らされている血管のような擬似魔力回路を通る事で、より精密な動きを可能とし、その結果として冒険者のランクで言えば一体辺りでランクAの上位のパーティーに匹敵する強さを持つまでになった。
そしてそんなトンデモ集団の見た目は全て、ヴォイドの趣味により完全武装された騎士の格好となっている。更にその手の得物はそれぞれ剣、槍、弓などで部隊毎に統一されている。
これらの武器はただ魔法によって生み出された岩を圧縮して作られた、言ってしまえば密度が高く硬いだけの武器。だが、その刃はしっかりと鋭利さを持っており、命を奪う為ならばなんら問題ないほどの性能は誇っている。
何より今回は新たに生み出したこの『法術』が海という環境でも問題なく使用できるかの実験の為、強力な武器を持たせる必要がなかったというのもあるが。
そんな物騒な連中、総勢200体が今、数多の魔物が蠢く眼下の海へと続々と着水していった。しかし、普通のゴーレムでは水中ではまともに動けないのは目に見えている。
とは言え、そんな当たり前のことを対策しないヴォイドではない。
先日ヴォイド自らに施された「水神の加護」の効果である、水中で陸と同じように動けるという、今回の実験に於いて必要そうな部分の効果だけを抽出し、それらの効果を見事再現した魔術式の完成がギリギリで何とか間に合った為、そちらの試験運用も兼ねて様子見でまずは200体なのだ。
とはいえどちらも一応は『体内世界』での試験運用は既に済んでいる。しかしあくまでも、『体内世界』で終わっているだけであり、実地での運用は未だ行っていない。だが、『体内世界』での試験運用自体は両方うまくいっていた。
ならば後は結果を待っていれば、真下の海中は魔物の屍と血で満たされるであろう事は予想出来る。しかし、どんな事にも「例外」というのは存在する。
そういう非常事態に即座に対応する為に、本体であるヴォイドが直々にその場で経過を観察しているのだ。
水中に放った何匹かの召喚獣の『視界共有』によりヴォイドの眼前に幾つか映し出される水中の映像。そこでは足場のない海中で、あらゆる攻撃や波などを物ともせずに魔物をバッタバッタと殲滅していく騎士ゴーレム達の姿があった。
更に海中で死んだ魔物が撒き散らす血の匂いに寄って来た追加の魔物も、特に苦労することなくゴーレム達はじきに狩り尽くすことだろう。
そんな様子を直に確認して、ヴォイドは大丈夫だろうと判断した直後には次のポイントへ向かい、同じようにゴーレム達を天空城からばら撒いていく。
そして全てのポイントへゴーレムを投下すれば、後は天空城の部屋でゆっくりと時間を潰すだけ。とはいえ、昨日の内に突貫工事を施し刻んだ「欠落したゴーレムを自動でその場所に補充する魔術式」がしっかりと動作するかどうかの確認も怠らない。
数多の指定された場所にゴーレムを数百体ずつバラ撒きはしたが、それでもゴーレムが倒されるという事はそれなりにある。確かにゴーレムは強く、ある程度なら自己修復の術式も発動する。
その上で連携して戦ってはいるが、それでもやはり相手にしている魔物の数が尋常ではない為、欠員というものはどうしても出てきてしまう。これを無くしたければ、現在のゴーレムの装備をもう少しマシな物にするべきなのだが、今回はそれらのデータは必要ない為、今の状態でどれだけの戦闘データを出すのかを記録する。
あくまでも今回知りたいのは通常の状態、即ち今のような最低限の装備のみの場合で、どれだけの戦闘力を誇るのかという事だけだ。
それらの情報は現在、目まぐるしい速度で数値が算出、同時に更新されていっているのだが、それらを確認し易いようにと、天空城の管理などの為にわざわざ素材から創り出したヴォイド謹製の魔導具、偽・万物創造の緑玉板を使って、タブレット端末を操作するようにして集められたデータに目を通している。
天空城全体の術式がしっかりと動作しているか、ゴーレム達の方で非常事態が起こっていないか、更にこの天空城を何かしらで観測されていないかなど、サラが淹れてくれた紅茶を片手に画面をチラチラと確認しながら、ヴォイドは腰掛ける。
現在は既に、全てのポイントへのゴーレムの投下を終えている為、ヴォイドは玉座の間ではなく生活空間とでも呼ぶべき、天空城の内部に建設されている屋敷のひと部屋に居る。
そんなヴォイドの対面では、ソファーに腰掛けてこの天空城の図書館に所蔵されている、ヴォイド著作の『魔法』や『魔術』に関する分厚い本を開いているルシアが、ヴォイドの様子を見て疑問を口にする。
「マスター、これ僕達が居る必要ってあるの?」
もっともな意見であろう。確かに必要か必要でないかだけで言えば、この場にルシアとサラの二人は必要ない。しかし、しかしである。客観的に見たときは確かにそうかもしれないが、ヴォイドの主観からすれば、必要なのである。
何故なら――――
「居て貰う必要はある。主に今の俺を蝕むこの忌々しい心労への対抗策である癒しの代替品としての役割が」
「.....うん?あにまるせらぴー?良く分かんないや」
そう、癒し要員として、ルシアにはヴォイドの傍に居て貰う必要がある。常に変動するデータに目を向け続けなければならない今のヴォイドには、それはもう多大なストレスが蓄積しているのだ。
内心で「まさか術式に不具合が?」とか「肉体部分の不備はなかったはず」とか、数値が変動する度にドキがムネムネしているのだ。
「まぁその辺は気にすんな。サラ、紅茶の追加と何か甘いものをくれ」
「畏まりました。先程焼いたクッキーがありますので、そちらをお持ちしますね。ルシア様はどうなさいますか?」
「ありがとサラ姉、僕も紅茶でお願い」
「畏まりました。砂糖一つとミルクを少々、ですね?それでは少々お待ち下さい」
そう言ってサラは全員分の紅茶を準備するために厨房へと向かっていった。その間に、ヴォイドは『ストレージ』から取り出したとある物をルシアへと差し出す。
それは先日、ある神様から別れ際に「ルシア宛てに」と渡された、一振りの魔剣。
――――――――――――――――
名前:魔剣リヴィエール
種類:細剣型神造魔剣
固有:(水流操作)/(魔剣分裂)/(武器融合)
付与:不滅/魔力消費超軽減
「概要」
水神リヴァイアサンが創り出した、水を司る神造魔剣。
望まぬ資格を与えたお詫びとして贈られた品。
――――――――――――――――
黒を基調とし、青と金の装飾が施された水属性の魔力を内包する細剣。細剣にしては少々大きな鞘に納められたその刃には、思わず見惚れるほどに研ぎ澄まされ、制御された魔力が流れている。
「マスター、この魔剣は?」
「とある“神様”から、お前へのお詫びの品だとさ。本人が言うには『望まぬ資格を与えた事を深く謝罪させて欲しい』との事だ」
ヴォイドが何気なく放ったその一言と、それを聞いたルシアの数秒の沈黙。しかしヴォイドのその言葉の後、気が付けばルシアの頬を伝う一筋の涙。それにはヴォイドだけでなく、流したルシア本人も僅かに気付くのが遅れる。
「......ッ」
それほどまでに無意識に溢れ出した、何に対するかも不明な大きな感情の波。ヴォイドはそんなルシアの様子を見て、沈黙するしかなくなる。
魔剣を受け取ったルシアは俯きながら、必死に涙を堪えて言葉を発した。
「ごめんなさい、マスター。少しだけ.....時間が欲しい、です」
部屋の外へ繋がる扉に向かいながらヴォイドへとそう告げたルシアの顔は、一体どれほどの感情が渦巻いていたのだろう。
それはヴォイドですら計り知れなかった。あれはヴォイドも知らぬ顔だ。初めて目にする、ルシアの大きな感情の発露。
詳細が分からないから、黙って見守るしかない。
ルシアの気配が隣の部屋へと移ったのをヴォイドが確認した頃には、サラが三人分の紅茶とクッキーをお盆に乗せて帰ってきていた。
「ヴォイド様、ルシア様は――――」
「隣の部屋だ。持って行ってやってくれ。可能であれば、その後にルシアから話も聞いておいてくれ」
「承りました。共有するかはこちらの判断で宜しいですか?」
「ああ」
ヴォイドの返答を聞いた後、サラがルシアの元へ紅茶と菓子を運んで行った。
一人残されたヴォイドはルシアの代わりとして近くに居たクロを撫で回しながら、偽・万物創造の緑玉板の画面を確認する。
そんなヴォイドの対面には、半ばで開かれたままの魔術式に関する事が記載されている分厚い本が、少しだけ涙に濡れていた。
それからしばらくして、いつもの調子に戻ったルシアがヴォイドの前へ姿を現すまで、そこまで長い時間は掛からなかった。
それはひとえに、ルシア自身が力を蓄え強くなった事で、精神的なものも乗り越えられるようになった証明でもあるのだろう。
そんなルシアのまっすぐな眼差しに射抜かれて、「これからの成長が楽しみだ」と改めて思う自分は、きっと彼女には特別甘いのかもしれない。
内容を少し編集しました。 2022/06/03




