第三十四話「一般のCランク冒険者」
何故か主人公が冒険者ランクがCのはずが、ランクBだと勘違いして題名などが間違っていたので、題名などを少々直しました。
恐らくカグヤのせいだと思われるが、勝負内容が何故か「5対1」の模擬戦になってる。どう考えてもおかしいだろう。しかも相手の全員が、見た限りではそれなりにいい装備を身に付けておられる。
その様子を見てとったヴォイドは、自分はどの装備を使おうかと考えるが、僅かに聞こえて来た向こうの会話からすると、どうやら彼らはヴォイドの事を魔術師か魔法士だと思ってるらしい。
その為、今回使用するのは『魔法/魔術』、もしくは『魔導術』とする。今回の模擬戦の立会人はカエデであり、相手の勇者達は既に準備万端の様子だ。
勇者達の構成は遊撃と火力担当の前衛二人に、後衛を守る盾役の中衛が一人、そして援護や誘導などを担当する後衛が二人。
総合的に見て、一般的な良い構成だ。前衛二人の得物は「聖剣」と「霊刀」。この世界産の霊刀は初めて目にしたが、基本的には聖属性を宿しているものらしい。
後衛の二人は中衛で佇むフルプレートに身を包んだタンクにしっかりと守られている。見た目だけで言えば「難攻不落」という言葉がしっくりくるだろう。
それ程に練り上げられた強さの雰囲気は感じられる。
(まぁ、とりあえず分析はこんなもんでいいか。後は、実戦あるのみってな)
そういう訳で、早速こちらも臨戦態勢へ。
今回使用する装備は、全ての指に嵌められた“不可視の指輪”。かの魔術王が持っていたとされる、神に授けられし指輪に複数の魔術をストックし、何時でも発動可能な状態へ。
同時に周囲の魔力をいつでも操作出来るようにし、保険として霊体の状態で『魔力糸』も周囲に展開する。
「双方準備はいいですか?....それでは、試合開始ッ!」
カエデの試合開始の合図と同時に、前衛の二人であるミツルとアヤカがヴォイドに向けて、左右に展開しながら疾走。
それと時を同じくして、タンクであるシゲルの背後から炎の槍が3発放たれる。初手から「手数で押し潰す」という思惑が透けて見えるほどの猛攻が、ヴォイドに向けて襲いかかる。
しかし、ヴォイドは冷静に状況を見極め、まずは迫る前衛の二人へ右手を向け、即座にストックしてある魔術を放つ。
『風属性魔術 “風刃”』
計10発。それなりの威力のものを五発ずつに分けて、更に『自動追尾』の術式も施して二人へと放たれる、風の刃。
これで彼らがヴォイドの間合いに入るまで、少しだけ猶予が出来た。ならば次は必然的に、炎の槍の対処となる。
先程と同様に、指輪にストックされている魔術のひとつを開放する。
『風属性魔術 “遊風”』
自身を起点として周囲の風の流れを操り、炎の槍の軌道を上空へと逸らす事で、最小限の消耗で無効化する。しかしここで、上空へと打ち上げた炎の槍の影から、予想外の者が飛び出してきた。
「キュイィィ!!」
それは竜の幼体。
一抱え程の大きさをした、恐らくは炎竜の子供。幼竜はさっきまで見当たらなかった。ならば一体どこから現れたのか。その原因を思考しようとするも、今それはどうでもいい事のため、思考を斬り捨てる。
(試合を止めないという事は、あの幼竜の事は周知の事実だったと言うだけのこと。なら、アレを含めた上で再度、対処法を組み直せばいいだけだ)
即座に思考を切り替え、幼竜の対処に移る。
小さな体を活かして素早く飛び回る幼竜の鋭い鉤爪がヴォイドに迫るが、ヴォイドはそれを気にも留めずに、完全に鉤爪を無視して自身に迫った幼竜の真下から左手でその首を掴み、体表を一瞬で氷結させる。
『氷属性魔法 “フローズンブリンク”』
体の周りだけを一気に氷結させる事で、対象の体の自由を奪うと同時に体力も徐々に奪っていく拘束魔法。幼竜の爪牙など、ヴォイドを包むコートに傷を付けることすら出来ない為、コイツの攻撃は殆ど無視しても問題ない。
動かなくなった幼竜をそのまま地面に放り投げ、自身の間合いに入る直前のミツルとアヤカの二人を無視して、思い切り前方へと突貫する。
『属性魔術 “風神脚”』
やはり『重複』スキルを使った時ほどの速さは出ないが、それでも二人を相手に一瞬姿を眩ませるには、十分な瞬間速度を引き出す。
「なっ!?」
「速い!」
そのまま後衛二人を守る盾役のシゲルの正面まで移動し、どれだけの防御を誇るのか調べるために、少し強めの攻撃を行う。
空中で不可視化の幻術を用いて紡がれる魔法の詠唱、それは「爆裂しろ――――」というごく短い詠唱。
発動されるは――――
『火属性魔法 “エクスプロード”』
火属性に分類される、爆裂/爆発効果を持った攻撃魔法。それを構えられた盾に対して、零距離で炸裂させる。ヴォイドはその攻撃で発生した爆風に身を任せて、そのまま後方へと飛ぶ。
しかし――――
『防御スキル “鉄壁”』
煙が立ち上る正面からは、無傷のシゲルが姿を現している。
ヴォイドは瞬時に空中でそれを確認した後、背後から迫る二つの刃を空中で身を捻って紙一重で躱しきり、更に後方へ跳んで彼らから距離を取った。
正直、思っていたよりも彼らはちゃんと強い。
既に凍らさたはずの幼竜は戦線に復帰済みで、後衛二人の攻撃魔法も準備されてる。趣味の悪い事に、いつの間にか周囲に設置型魔術でトラップまで展開されている。
そして更に厄介なのは、今しがた彼らを包み込む強化魔法である。
「フン、中々やるじゃない。褒めてあげる」
「そりゃどうも、出来ればもう少し手加減してくれねぇかな」
「それは無理な相談ってものでしょ。ミツル、アヤカ!」
ショウコの呼びかけと同時に、彼女オリジナルの魔術が周囲に展開される。それは広範囲を埋め尽くす、氷の大地。
ヴォイドの『鑑定』で導き出された術式の名称は―――
『氷属性魔術 “氷結神殿”』
気付いた時には既にヴォイドの足が氷によって地面に張り付き、容易く動くことが出来なくなっていた。
しかし対処法はある。それは『火属性魔法/魔術』を用いて、足元を熱し続けること。
その思考をヴォイドは即座に実行し、足元の氷を溶解させ、前方から迫った二人を対処する。目の前には、刀をその手に握る少女が一人。右の氷柱の影からは、聖剣を持つもう一人の気配。
先程と同様に幻術を用いて見えなくしている魔力を使って、空中に文字を描き、魔法の詠唱を瞬時に完了させる。
放たれるは――――
『雷属性魔法 “トニトルス”』
残光を残して空中を駆ける、迅雷の魔法。それは右の氷柱から姿を現していた者へと迫り、しかし直撃することはなく、その周囲をまとわりつく様にして攻撃した。
しかし正面の少女はそれを気にする事なく、ヴォイドに対してその刃を振るう。
容赦なくこちらを捉えに来るアヤカの振るう刃にはそれぞれ型らしきものがあり、それらを繋げる事で隙の少ない連撃を繰り出してきていた。
型に沿った動きはまさに流麗。どこまでも美しく、研ぎ澄まされたそれらの動き。
ヴォイドはその数撃目をコンパクトに跳躍する事で躱す。しかしそれは、相手からすれば絶好のチャンスだ。空中という踏ん張りの効かない場所で、この連撃は躱せない。
そう確信した表情。だが、それはただの「誘い」。それに気付かず乗せられてしまうから、容易に表情に出てしまうからこそ、彼らはまだまだ、若い。
即座に指輪より選出された術式は、「風」。
『風属性魔術 “風槌”』
アヤカが上段からの攻撃を行うために素早く振りかぶった、一瞬の隙。刹那の時とはいえ、無防備になっていたその上半身に、まるで硬いものを叩き付ける様な突風が激突した。
「かはっ!?」という肺から空気が抜ける音を出しながら、アヤカは後方へと吹き飛ぶ。
それに対してもちろん、ヴォイドは追撃を行う。『風神脚』で即座に彼我の距離を詰め、その首へと手を伸ばそうとした所で、ヴォイドに邪魔が入る。
それは幼竜による、未熟なブレスの攻撃。視線を向ける前に気付いたヴォイドは直ぐに身を翻し、幼竜の迎撃へと意識を向ける。
指輪の中から術式を選出しつつ、同時に空中で見えない文字を用いて詠唱を紡ぐ。此度選ばれたのは、「雷」。
『雷属性魔法 “ライトニング”』
ある程度の行動の予測を加味された上で幼竜へと放たれた数発の雷撃が、縦横無尽に飛び回る幼竜へと迫ったが、その全てが綺麗に躱される。
しかしそんな事はヴォイドも既に計算済み。今のはただ先程と同じく、“誘導”する為の攻撃だ。
雷撃に追尾性能の着いた『トニトルス』を使用しなかったのは、より違和感なくその場へと誘うため。動かされたなどと、気付かせない為の偽装工作。
そして射程に入ってしまえば、逃げることは叶わない。
『雷属性魔術 “雷弾集撃”』
あらかじめその場に設置されていた雷の弾丸が、突如その姿を現し四方八方から幼竜目掛けて迫った。
それは直前まで『幻術』で隠されていた罠であり、逃げ場がなくなった幼竜は自らの身を固める事で防御しようとしたが、しかし結局そのまま意識を手放して墜落した。
「はああッ!!」
そのタイミングで、背後から猛スピードで聖剣を振りかぶったミツルが迫る。
ヴォイドが対処しようと僅かに動き出せば、合わせるように真上から押さえつけられるような衝撃がヴォイドを襲う。
それはショウコが放った『風属性魔法 “エアプレッシャー”』。周囲に逃れようとしても、足元や空中に敷き詰められている設置魔術によるトラップ。
先程の幼竜と同じように、今のヴォイドも逃げ場は、ない。
(おっと、思ったよりヤバイな。見えるところに逃げ場はなし、行動を制限されてる以上、まともな対処は出来ない。その上で見えない第二波の準備も殆ど完了してるな。仕方ない....使う気はなかったが、切るか)
油断していたのは否定出来ない事実。そこに漬け込まれ、一瞬にしてこうして立場が入れ替わったのもまた、事実。
「見誤った」と、言わざるを得ない。
故にヴォイドは出し惜しみをやめ、実力を誇示する事を決意する。彼らもあまり目立つ手札は晒さないが、それなりに本気で向かい合ってくれている。
ならばこちらも手札を切らねば、無作法というものだろう。
『“拡張魔術式展開”――――』
『疾風脚』の魔術式と『魔術重複』についての諸々を研究中、ヴォイドはふと思いついていた事があった。
『疾風脚』という“魔術は風の精霊の祝福を、何かしらの条件付きで再現し、それを足という部位に限定する事”で成り立っている。ならばその術式を大幅に、それこそ根本からその殆どを書き換えることに成功すれば、足という部位に限定する必要性が無くなるのではないか、と。
結果から言えば、出来た。いや、出来てしまった。
しかし、研究に取り掛かってしばらくした後に気付いたが、これが成功してしまえば『魔術重複』という新たな『魔導技能』はあまり必要性がなくなってくるのではないだろうか、と。
そしてヴォイドの予想は、的中する。『疾風脚』の魔術式を元に、腕や胴体など、かなり細かい部分までを含めてそれぞれの部位ごとに術式が出来上がった。
それらは同時に別々の部位へと使用することが出来るし、その際に『魔術重複』のようなデメリットも発生しない。何故なら、同じ魔術式を重ねるわけではないから。あくまでもこの行為は別々の術式を別々の場所で発動しているに過ぎない。
しかし何よりヴォイドが驚いたのは、その効果だった。なんと大幅に改変された術式は脚だけに限らず、その他の部位に使用された術式の効果も『疾風脚』の効果である「移動速度上昇」を発揮した為だ。
施す部位によって上昇する移動速度の上限は変わったが、それでも全身へと付与した際は途轍もない全能感がヴォイドを支配した。
そして更に、ヴォイドは元にした『疾風脚』の魔術式をあろう事か、更に改良された『風神脚』の術式へと書き換えることに成功する。
これは早々、思いついてしまったヴォイドの執念の成果とでも呼ぶべきモノだ。
ただでさえとんでもない速度を発揮する『風神脚』の術式を己の五体にそれぞれ施すことで、ヴォイドは本当の意味でその身を「風の化身」とする術を手に入れてしまったのだ。
その行為は前述した通り、肉体を部分で分けて『風神脚』を使用するため、『重複』の技能を使わずともそれ以上の効果を得られる。
そんな術式のその全てを、今ここで発動させる。
「さあ、往こうか」という内心の呟きに続き、ヴォイドは術式起動の為の鍵を己の内で思い浮かべる。
シンプルにただ一言――――
『“風神化”』
ぶわりと、突如高まったヴォイドの魔力に呼応するように、ヴォイドの足元には彼を包むようにして姿見えぬ風の膜が形成される。高められた魔力は頭上にて未だ発生していた押しつぶすような風圧を容易く破壊し、発動される術式に伴い風の属性を与えられて姿を変える。
自身が纏う風は緩やかな旋風を、周囲を荒ぶ風は激しい暴風を。顕現せしは、自然の猛威を纏う漆黒の怪物。
足元を埋め尽くす絶対零度など最早意味を成さず、抉り、砕き、破壊の限りを尽くしながら、怪物は最初の一歩を刻んだ。
対峙している者達にしてみれば、その様子はどこか優雅ですらあっただろう。しかしてここまでの動作、その全てが行われた時間が一瞬にも満たぬ刹那という事実。
故にその光景を目にしていようがいまいが、この場に集う者達では目の前の怪物に対抗するどころか、反応することすら出来るはずがない。
何故なら彼らが今対峙しているのは、たった一人で風の神の権能の一端を再現してのけた、正真正銘の化け物なのだから。
そんな怪物の刻んだ二歩目。追えた者は先と同様に、誰一人として居ない。そんな怪物によって最初に行われたのは、勇者達の後衛二人の無力化。
彼らが気付いた時にはもう、賢者を目指す女魔導士は既に崩れ落ちている。怪物はフードの中で微笑みながら、ゆっくりとした動作で隣へと振り向く。そんな動作であっても、今のこの状況では見えない圧力が対峙する彼女を縛り付ける。
震える身体に鞭を打ち、歯を食いしばって動き出す武僧。怪物を前にしての行動としては、些か遅すぎはする。しかし、その行動を怪物は存外高く評価する。
今の己を前にして、一秒と少しで気圧されながらも精神を立て直し、更にこちらに対して今出来る全力の攻撃を仕掛けようというのだから。
しかし怪物は、そんな事で容赦などしない。放たれた拳打を摺り抜けるようにしてするりと躱し、ヒナと言う名の武僧の背後に移動する。
彼女はそんなこちらに未だ反応すら出来ていない。そんな相手の首へ、手刀を一撃。
これで、二人目。勇者達を設置型魔術やバフなどで陰ながら支援していたのは彼女な為、怪物はこれで「やっと自由に動ける」と嬉しそうに笑みを深める。
しかし直後、恐らくタンクであるシゲルという人物が投げたであろう魔槍が、怪物の顔のすぐ真横へと迫っていた。当たれば間違いなく、致命傷。
だが怪物はまだ『風神化』を解いてはいない。
故に怪物はその魔槍をまるでなんともないように紙一重で躱し、その上で飛翔していた魔槍を事も無げに掴み取った。投擲した者にとってはそれだけで絶望を、更にその後ろでその様子を見ていた前衛の二人には恐怖を、たったそれだけの行動で怪物は容易く、彼らにトラウマを刻み、植え付け、支配する。
それでも怪物は止まらない。
掴み取った魔槍を投擲した者へと投げ返し、同時に突貫。投擲された槍がシゲルの構えた盾に激突した衝撃が来た次の瞬間には、怪物の放った二撃目がその身を震わせた。
『仙法 玄武の型 “鬼鎧通シ”』
怪物は正面に立ち塞がる大盾に、ただふわりとその手のひらを押し当てた。たったそれだけのことで、怪物の体内で練り上げられた仙気が大盾を容易く貫通し、シゲルを守る鎧の内部へと浸透する。
それでも耐えたシゲルは賞賛されるべきなのだろう。しかし、怪物は止まることを知らないのだ。故に続けてもう二発、浸透勁を同じように打ち込み、最早立ち上がれぬ程のダメージを負わせて無力化する
これで残りは、二人。
研ぎ澄まされた五感が察知した、突如背後から迫った複数の飛斬。前衛の二人は先程まで間違いなく、自らの正面に居たと認識していた為、怪物は違和感を覚えながらもその飛斬を流れるように躱していった。
しかし、躱した先にはまたしても聖剣を振るうミツルが待ち構えており、怪物は迎撃を余儀なくされる。
思考はある程度の余裕を持って行えている。視界もいつもより広く取れている。場の主導権も握っている。
であれば――――
『幻惑魔法 “ミラージュボディ”』
ヴォイドの姿が二人に分裂し、左右から勇者に迫った。
相手はそれを見て明らかに動揺を示し、その動きが一瞬止まった。それぞれ既に攻撃を仕掛けようとモーションに入っている右の怪物は拳を用いて、左の怪物は何処からか取り出したクナイを用いて。
攻撃は同時ではなく時間差。同時では防がれてしまう可能性があるから、あくまでも初撃で崩すのが目的。
しかし突如選択を迫られたミツルは、即座に左の幻影に攻撃することを選択してしまう。理由は二つ。先に攻撃が到達するであろう右の怪物は素手でありながら、左の怪物は刃物を手にしていること。
二つ目の理由は、恐らく相手の狙いが一手目で幻影に反応させて、迫った二手目でこちらを捉える狙いがあること。
それらに思い至ったミツルだからこそ、その刹那の思考の判断に委ねて選択した。
だが、本体の怪物はフードの中で笑みを更に深めて内心で呟く。
(これで、“王手”)
怪物はこの一手で勝利が手の届くところに来たと確信したが、しかし運命の女神とやらは彼ら勇者に味方をしたのか、またしても怪物に邪魔が入る。
「『“斬鉄剣”』っ!」
怪物の真横から聞こえてきた声と、何かが飛翔して迫ってきていると告げる聴覚。
アヤカが咄嗟に移動しながら勘で放ったのは、物の硬度を問わず、使用すればそれだけで対象を完璧に切断する固有能力。放たれた対象は言うまでもなく、幻術で作り出された偽物ではなく、怪物の本体。
流石にこの斬撃は、怪物の身を包む漆黒のコートでも防げない。しかし、この距離では躱すことも間に合わない。
故に、怪物は保険を使った。
『操糸術 “首糸絡倒”』
自らが操る『魔力糸』を自らの首に巻きつけ、そのまま怪物は躊躇うことなく、強く引いた。
傍から見れば、その様子はかなり常軌を逸していただろう。幻術により見えなくされている糸によって行われた、怪物なりの緊急回避。突如見えない何かに引っ張られるようにして、いきなり怪物は後方へと倒れこむように迫った斬撃を躱したのだから。
多くの者はこの現象をたまたまと言うかもしれないが、対峙していたアヤカは間違いなく「取った」と確信していた渾身の一撃を紙一重で「躱され」と確信していた。
あれはたまたまああ言う行動を取ったのではない。あれは意図的に、こちらの攻撃を避けるために行った行動なのだ。でなければ、「躱された」などと、こんなにも強く思うはずがない。
故にその事実はアヤカの心を大きく揺さぶり、動揺を隠しきれない程にまで膨れ上がらせる。
「ッ!?あの体制から、どうやって!?」
「アヤカ!止まっちゃダメだっ!」
迫った幻影を斬り裂きながら叫んだミツルの警告は意味を成す事なく、アヤカの一瞬の思考放棄が文字通り、ここで勝敗を分ける事になる。
技を放った後の、刀を振り切った無防備な状態。そんな彼女に向けて、怪物は内心で賞賛を送るとと共に、その手で攻撃を送る。
空中で見えざる詠唱を紡ぎ、即座に構築された魔法。
『状態異常魔法 “パラライズ”』
放たれたそれは、対象に麻痺状態を直接付与する魔法の一つ。
効果範囲は狭く、射程すら短い。しかし食らってしまえば、少なくとも数分は動けない程には効果が高くなるように魔力を込めた。
そしてあの体制、あの精神状態では、普段躱せるものも躱せない。
アヤカが無事に麻痺効果により地面へと這いつくばったのを確認した怪物は、半ば勝利を確信して勇者へと向き直る。
これで、残りは一人となった。
最後に残ったミツルは固有能力である『限界突破』を発動し、先程までとはまるで比べ物にならない速度で風を纏う怪物へと肉薄した。
「セアアッ!!」
しかし、怪物は微笑まない。残念で仕方ないからだ。もう少し早くに、それこそ怪物が怪物へとなる前、もしくはその直後にでもその能力を使っていれば、まだいい勝負が出来たかもしれないというのに。
出し惜しんだのだ。目の前の勇者は負けが確定する、この瞬間まで。
ヴォイドはそれだけが、非常に残念でならなかった。だが、それなりに楽しめたというのもまた事実。故に、彼らに対して多少の敬意を抱きつつ、怪物は一歩を踏み込んだ。
やはりその速度は捉えること能わず、『限界突破』を使用したミツルですら、一瞬見失っていた。
そんな彼の胸元に、気付けばふわりと怪物の手のひらが添えられていた。これでは何をしようが、間に合うことはない。
(“俺の勝ち”だ)
内心でヴォイドは告げる。自らの確定した勝利を、討ち取ったという報告を。それに呼応するように、体内にて練り上げられた仙気が雷の属性を付与され、迅雷の如く迸った。
『仙法 麒麟ノ型 “雷痙掌”』
勇者の鎧、その胸元に添えられるようにして当てられていたヴォイドの手から、稲妻が走る。
それは食らった対象を感電させ、意識を失わせる程の電流を纏った掌底。
ミツルはそれを鎧越しに食らったが、鎧が鎧としてまともに機能することはなく、結局(ほぼ全員が)何をされたのかよくわからぬまま、その意識を手放すことになるのだった。
内容を少し編集しました。 2022/05/26
※おまけ
細かい数値の入った、現在の勇者5人組のステータス表記です。
――――――――――――――――
名前:カツヤマ ミツル(男)
Lv:67
職業:勇者
体力:4300/4300
魔力:2890/2890
筋力:362
耐久:503
敏捷:426
幸運:777+
装備:聖剣エクスカリバー(S級)
聖鎧セレスティア(S級)
聖盾アルテミス(S級)
アイテムボックス(S級)
スキル:限界突破(固有スキル)
運命福音(固有スキル)
剣術(S級)
二刀流(A級)
光魔法(A級)
回復魔法(B級)
鑑定眼(A級)
気配察知(B級)
危険察知(A級)
隠蔽(C級)
胆力(S級)
鉄壁(B級)
成長率倍化(S級)
.....
加護:光神の加護
転生神の加護
――――――――――――――――
名前:ヒイラギ アヤカ(女)
Lv:69
職業:剣豪
体力:4200/4200
魔力:1820/1820
筋力:263
耐久:325
敏捷:630
幸運:212
装備:霊刀カマイタチ(A級)
風竜の篭手(S級)
天翔馬の靴(S級)
スキル:斬鉄剣(固有スキル)
天翔縮地(固有スキル)
剣術(S級)
風魔法(B級)
鑑定眼(C級)
気配察知(A級)
危険察知(A級)
隠蔽(A級)
胆力(B級)
成長率倍化(S級)
.....
加護 :風神の加護
転生神の加護
――――――――――――――――
名前:ゴウダ シゲル(男)
Lv:67
職業:ロードナイト
体力:6340/6340
魔力:1240/1240
筋力:483
耐久:840
敏捷:201
幸運:192
装備:魔槍グングニル(S級)
騎士王の鎧(S級)
イージスの偽聖盾(A級)
スキル:封壁(固有スキル)
孤軍奮闘(固有スキル)
槍術(A級)
鉄壁(S級)
岩魔法(B級)
鑑定眼(B級)
気配察知(C級)
危険察知(A級)
隠蔽(C級)
胆力(S級)
成長率倍化(S級)
.....
加護 :岩神の加護
転生神の加護
――――――――――――――――
名前:ヨシノ ショウコ(女)
Lv:66
職業:賢者見習い
体力:2780/2780
魔力:6220/6220
筋力:187
耐久:299
敏捷:311
幸運:203
装備:世界樹の杖(S級)
賢者の法衣(S級)
火竜の首飾り(A級)
スキル:無詠唱(固有スキル)
魔法/魔術構築(固有スキル)
炎魔法(S級)
氷魔法(A級)
鑑定眼(A級)
気配察知(B級)
危険察知(C級)
隠蔽(A級)
胆力(B級)
成長率倍化(S級)
.....
加護 :炎神の加護
転生神の加護
――――――――――――――――
名前:アサクラ ヒナ(女)
Lv:67
職業:武僧
体力:3240/3240
魔力:4020/4020
筋力:392
耐久:360
敏捷:412
幸運:307
装備:神官の法衣(A級)
巨人の指輪(S級)
女神の涙(S級)
スキル:蘇生魔法(回数制限有り)(固有スキル)
罠魔法/魔術(固有スキル)
体術(A級)
回復魔法(A級)
水属性魔術(A級)
鑑定眼(B級)
気配察知(A級)
危険察知(B級)
隠蔽(A級)
胆力(C級)
成長率倍化(S級)
.....
加護 :水神の加護
転生神の加護
――――――――――――――――




