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ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
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第三十三話「謁見と口車」

 少々過激な鬼ごっこを開始してから、早くも二時間ほどが経過した頃。ヴォイドは今現在も追われているのだが、割と「そろそろ、勘弁して欲しい」と思い始めていた。


 何故なら――――



(チッ、もう4回目(・・・)だぞ。飯食ってる最中に邪魔されるの)



 毎度毎度、彼らを振り切った後にヴォイドが良さげな雰囲気の店を見つけて入店し料理を注文、その後存分に堪能しているところで、それを尽く彼らはいいタイミングで現れては、得物を片手に追い掛け回してくる。


 これでは、早々食事を楽しむどころの話ではない。なので非常に不服ではあるが、ヴォイドは直接城に出向いてやることにした。


 また追われるのも面倒なので、後ろの連中の一切を振り切って王城に向かう事にする。昇格試験の際に『転写』しておいた『風属性魔術 “疾風脚”』の術式を大幅に書換え、その効果を増大させた魔術を今、使用(じっけん)する。



『風属性魔術 “風神脚”』



 今までの微弱な風の祝福と比べると、それはもはや別物ではないかと言う程にその効果が強くなった新たな魔術式『風神脚』。それが問題なく発動しているのを確認できた後、ヴォイドは更に別の能力を使う。


 それは同じように『体内世界』で実験していた事の一つであり、同時に新たに獲得した『魔導技能』の一つ。


 それをこの場で、誰にも見られることなく披露する。



『魔術重複 “ IV(テトラ) ”』



 「魔術王の指輪」の能力で書き換えた魔術式を、更にスキルで重ねる。「魔術に魔術を重ねる」というこの行為は、単純に数を重ねる毎に制御が難しくなる。


 そしてその行為がどれくらい難しいかを分かりやすく言えば、二重で「天才」と呼ばれる人種がギリギリ出来、三重であればそれはもう人ではないと見なされるレベル。四重など最早、神の領域に足を踏み込んでいると言っても過言ではない。


 そういうレベルの技能なのだ。『魔術重複』というモノは。


 とは言え鍛えれば会得出来るスキルではある。あるのだが、脳が焼き切れるリスクを背負ってまで習得しようとする者は、今まで殆ど居なかった。


 そういう理由で、魔術の『重複』という技術は時代と共に廃れていき、今では知っている者の方が珍しいくらいの代物である。


 そんな記録をこの星に接続した時に閲覧し、たまたま記憶していたヴォイドは己の固有能力である『能力創造』で『重複』のスキルを創り出し、その感覚を確かめ、後に本来を含めた多くの分身体がその技能を一から習得出来るまで、魔術の重複という行為を常時行わせた。


 その中には脳の処理が間に合わず、多大な負荷によって脳が機能停止する者や、魔力回路が限界に達し、溢れ出た暴走した魔力により周囲を吹き飛ばして消えた分身も居た。


 本体(オリジナル)の肉体ですら、幾度となく死に瀕する事があった。その度に強制的にスキルで蘇生、もしくは回復され、また同じ行為を繰り返す。


 能力創造で作ったモノに頼ったままではいけないのだ。肉体に染み込むまで、いや、魂に刻み込まれるまで、ヴォイドはその行為をただひたすらに繰り返す。


 本当の意味で、ヴォイドという存在そのものが覚えるまで。


 確かにヴォイドからすれば、『魔術重複』という一種の『能力』としてのベースがあれば、後はそれをスキルで好きに弄り回すだけでいい。だが、それではこの肉体を失った時に、もしくはスキルが封じられた時に、対処が出来ない。


 そんな有様では、ダメなのだ。故に血反吐を吐き、身を削りながら、その魂に刻むのだ。凡人ですらない無能の執念(どりょく)は、天に届くと証明するために。



 『魔術重複』でどこまで重ねられるかは当人の努力次第、ならばヴォイドに止まる余地など、ありはしない。


 極める事が出来れば、否、極めなければ届かない。故に余人が与り知らぬ『体内世界』にて、現在もヴォイドは自分達が今出来る最大限まで重ねた魔術を使って、果てのない研究をさせている。


 しかしやはり、ここまでしてもその成長速度は牛歩のごとし。元々ヴォイドが低能である事にも起因するが、やはりその難しさが更に成長を妨げている。


 現状はXIII(トリデカ)、つまり13までは重ねられるが、それ以上は強化された脳ですらその演算速度が間に合わない。


 だが、現状を鑑みれば限界まで重複しなければいけない状況は、殆どない。


 そして実際、たった今ヴォイドが使ったように『風神脚』を4回も重ね掛けすれば、使用者は文字通り“風”と化す。


 この速度域に付いて来られる者が一体、この世界に何人いるだろうか?あくまでもヴォイドの勘ではあるが、そう多くはないという確信があった。これ以上のレベルの速さに付いてくるのは、この世界で“最強”に限りなく近い実力を持っている者達しか居ない、と。


 しかし、追いつく可能性を秘めている存在というのは、存外探せばどこにでも居る。故にヴォイドは決して、立ち止まることはない。


 そんな地獄を何ともない様子で過ごすヴォイドはその身を疾風と化し、そのまま王城への道を駆け抜ける。


 視線も音も、痕跡すら置き去りにして。





 東国ヤマト 宮殿の廊下にて




 この国の実質的な王であり、【水神の巫女】と呼ばれる特別な一族の末裔でもある少女は、女性の護衛を一人だけ連れて、城の廊下を歩いていた。


 それは自らの執務室へと続く、一本道の長い廊下。いつもならそんな廊下の窓から見られる景色など、あまり興味はなかったのだが、今日は珍しくその廊下の窓が一つ空いていた。


 そこから入る優しいそよ風が、彼女の長い黒髪をなびかせる。



「何者だ、隠れているのは分かっている」



 護衛の女性が警戒する声が背後から聞こえる。恐らく、誰かがこの開いている窓から侵入したのだろう。しかし不思議と、こちらを害そうとする様な雰囲気を少女は感じられなかった。


 更に言えば、その見えない相手からは感情の一切が感じられなかった様な気がした。冷たく、鋭利で、無機質な――――



「アンタらが王命なんて大層なモノまで使って呼び出すから、わざわざこっちから来てやったんだろうが」



 突然聞こえてくるその声と共に、護衛の女性のその背後の空間から、全身を黒で塗り潰した黒衣の人物の姿が浮かび上がる。


 そしてそれは彼女が昨日、一日を共にした「ヴォイド」という名の冒険者の青年だった。





 『存在希薄』のスキルで気配を薄くして様子を伺っていたヴォイドが、空間を歪めるようにして姿を現しながら、そう告げる。


(カエデ、とか言ったか。あの護衛の女は流石の洞察力だな。周囲のほんの僅かな違和感から、即座に俺の存在を導き出したか)


 「バー爺が見たら喜びそうな手合いだ」と内心思いながら、ヴォイドは改めて目の前の二人に視線を向ける。



「貴方は昨日の.....ヴォイドさん、でしたか」


「カエデや、ヴォイドを呼んだのはワシじゃ。しかしまさか、窓から入ってくるとは思わなんだがな」


近道(ショートカット)ってやつだ、効率的だろ?」


「ふむ、しかし一つ気になるんじゃが、手紙には差出人がワシとは書いてなかったような.....?」



 少女のその言葉に、ヴォイドは沈黙を持って答える。



(まったく、なんでこの小娘はそういうところで変に勘が鋭いんだ。まぁ確かにそうだわな、手紙に名前は書いてなかったし、初めて会った時も彼女は「サクヤ」だと名乗った。とはいえ、あれだけ状況証拠が揃っていれば、俺みたいな馬鹿でも答えに辿り着く事が出来たんだ。それくらいはあっちも思い至っているだろう)



 普通に見ただけならば、目の前の少女はこの国の王などではなく、どこかの貴族のやんちゃな令嬢だと思うだろう。


 ヴォイドですら最初にそう思ったのだ。しかし臆病なのが功を成し、彼女が一般人ではないことを殆ど最初からヴォイドは知っていた。


 その事について言う気は今のところないが。



(こういう相手と話す時は、どんな情報でも大切だからな。見た目を使って騙すってのもよく使われる手法だ。国王ともなれば、その腹芸は常人では分からん程に隠されているだろうさ。だからこそ――――)



 大事な情報になり得る事は決して、明かすことはない。


 カエデはそんなヴォイドに対する警戒を更に強めていたが、当の国王様はまるで気にしていないように「まぁいっか」みたいな顔である。


 そのまま二人は歩きだし、ヴォイドがそれに付いて行くと謁見の間の様な、かなり広い和室に通され、茶と菓子を出される。部屋は旅館の様な一室で、高そうな屏風や掛け軸などもあった。


 ヴォイドはご丁寧にも座布団の敷かれた足元へ、静かに腰を下ろす。


 そして出されたお茶に、躊躇することなく口をつける。そのまま菓子も摘んで、もう一度茶を飲んで一息。毒の類の警戒はスキルで必要ない、ならば出されたものは頂かねば、失礼と言うものだろう(毒が入っていれば、その行為は相手に対しての威圧にもなる)。



「微塵も警戒しないのですね.....」


「まぁ、毒の類は効かないからな。......ん、この菓子中々美味いな」


「呼び出しておいてすまぬが、もう少しだけ待っていてくれるかの」



 苦笑を零しながらヴォイドへとそう告げるサクヤだったが、その言葉はヴォイドによって否定される。



「いや、その必要はない。どうやらもう来たみたいだしな」



 そんなヴォイドの言葉と同時に、使用人らしき女性が襖を開けて数人の男女を連れて来た。広間に入って来た彼らはそれぞれ、茶髪や黒髪黒目といった、日本人特有の特徴を持っていた。


 彼らのことをヴォイドが『鑑定』で覗くと、その正体はどこぞの国のお抱え勇者様達であった。


 ほんの一瞬だけ、これは自らへの嫌がらせかとも深読みしたが、どうやら違うらしい。


 勇者達が少女の前にて並び立ったのを確認した後、少女は口を開く。



「皆の者、よくぞ集まってくれた。妾が、東国ヤマト現国王、“カグヤ・スズキ”じゃ。先も言った通り、此度は急な呼び出しに応じてくれたこと、感謝しよう」



 カグヤと名乗った少女のファミリーネームの「スズキ」を、恐らくは「鈴木」という苗字が元だろうと結論づけるヴォイド。


 そして同時に、この国の初代国王に日本人が何らかの関係があるのは、ほぼ確定事項だとも確信する。



(しかしまぁ、歳と見た目に似合わぬ気品と佇まい。まるで昨日のあの姿が嘘みたいな風格じゃねぇか。まぁ、だからといって特にどうとも思わないが)



 艶のある腰まで伸びた黒髪と、煌びやかな着物を着込むその姿は、まさに古き良き日本の姫。そんなカグヤに体を向けながら話を聞き流し、視線だけで隣を見れば、既に片膝をつき頭を垂れた状態の勇者達がご丁寧に挨拶を開始している。


 それぞれの素性は、以下の通りだ。


――――――――――――――――


勝山(カツヤマ) 光流(ミツル)


 勇者達一行の中で、唯一本物の「勇者」の職業(ジョブ)を持つ人物。現段階の勇者達一行の中で、最も優秀な五人組のリーダーを務めている。



剛田(ゴウダ) (シゲル)


 勇者パーティ(仮)の重装騎士(タンク)役を担う人物。恵まれた体格でありながら武人気質であり、その正確は冷静沈着。



吉野(ヨシノ) 翔子(ショウコ)


 勇者達一行の中で「賢者見習い」という希少な職業(ジョブ)を授けられた人物。自分が特別だと思っているフシがあり、少々傲慢な態度を取ることがある。



(ヒイラギ) 綾香(アヤカ)


 雰囲気がどことなく、カエデとキャラ被りしている人物。黒髪黒目の長いポニテで、腰には刀を帯刀しており、その実力はヴォイドから見ても五人の中で一番上である。



朝倉(アサクラ) (ヒナ)


 神官の服に身を包む、一見気弱そうな人物。しかしその実、服装で隠されている足運びや重心の移動で、彼女が体術も会得しているのが見て取れる。


――――――――――――――――


 皇国の勇者と宣伝されている彼らだが、実際に「勇者」のジョブを持っているのは一人だけらしい。それが今、ヴォイドの目の前に居る「勝山 光流」という人物だ。


 正義感に満ち溢れた、穢れのないその眼と雰囲気。ヴォイドはこういう手合いを見ると、無性に吐き気がする。どこかの誰かもそうだが、自分を犠牲にしてまで誰かを救おうなど、正気の沙汰ではない。



(ほんと気持ち悪い眼だ。あれは人の、世界の醜さを知らない眼だ。いや、知っていて目を背けてるのか?どっちでもいいが、あの眼がこっちに向けられたら、ちょっと反射的に殺してしまいそうだな)



 と、ヴォイドは誰にも気付かれぬ様に感情を抑制しつつ、カグヤの話に耳を傾ける。


 カグヤの話によれば、今回ヴォイドと彼らを招集したのは、協力してやって貰いたい事がある為らしい。しかしそこまでカグヤが伝えたところで、「賢者見習い」のジョブを持つ、ショウコという女が口を挟む。



「ちょっと待って。一つ聞きたいんだけど、そこの人はちゃんと使い物になるの?見たところ一般の冒険者みたいだけど、正直信用ならないわ」


「ふむ.....妾の人選がそんなに不満なら、一度そやつと模擬戦でもやってみるといい」



(人が黙って聞いてりゃコレだよ。しかし何だ?あの生意気な小娘は。「賢者見習い」とかいう大層なジョブ持ってるからって、一般の冒険者見下し過ぎだろ)


 昇格試験の時に一緒になった、オスドの空中に魔力で字を書く技術などは『ルーン魔術』にも通ずるところがある。それにこの国の冒険者の平均値はそれなりに高い。目の前の女より強いレベルなら、それこそ結構な数が居るはずだ。


 と勝手に一人で考え事をしていると、あれよあれよと兵士達の訓練用の広場へと連れて来られていた。個人的には完全にただ巻き込まれただけなのだが、相手側がもう準備してるので今更色々と言い出しにくい。



(けどまぁ、「勇者」のジョブ持ちの強さを見れるいい機会ではあるし、多少は思惑に乗ってやるか)


 内容を少し編集しました。 2022/05/25

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