表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノート:エーテル Side Persona  作者: 金欠のメセタン
31/70

第三十話「ティータイムのお供に幻術芝居」


 昼食後、各々で分かれてヤマトを観光することになった。


 ルシア、リサ、サラの三人は一緒にヤマトのあれやこれやをショッピングするそうだ。ヴォイド達男組はそれぞれが別行動で、バー爺はその辺に強者(ツワモノ)を探して、デイビットは表と裏の情報収集がてら買い食いに。


 そしてヴォイドはというと、一人珍しく本当にただ観光をしていた。



(そう言えばこの世界に来てから、完全に一人の時間は久しぶりなのか。思い返してみれば、何だかんだと精神的に休まるタイミングがあまりなかったかもな.....。どうせだ、懐かしの日本料理でも食べたりしてリフレッシュするか)



 そう思い至ってからのヴォイドの行動は早かった。


 まず最初にその辺の屋台で軽食を買い食いし、次に見つけた魔導具店で面白そうなものを吟味しては幾つか買い、その次は本屋でおすすめの本を数冊見繕って貰ったり、そのまた次は鍛冶屋で使い捨ての武具を買い込んだり。


 そんなこんなで気付けば一段落つき、散歩がてら商店街を抜けて観光客などが少ない通りを歩く。


 小さな噴水と広場、丁度いい加減で差し込む日光。商店街などから聞こえる喧騒が僅かに届く立地。


 休憩用のベンチで日光浴をしている二匹の猫を眺めながら、柄にもなくヴォイドが内心で「ここは静かで雰囲気もいい」と、ぼんやりそう思っていた矢先。


 路地裏から一人の少女らしき気配がしきりに背後を確認しながら走って来るのをヴォイドはスキルで感知する。


 ヴォイドは「まぁ当たらなければいいか」と思い、背後に視線を向けることなく少女が通るであろうルートから、するりと身を引いた。


 そしてその直後、少女がスレスレでヴォイドの横を通り過ぎる――――事はなく、何故かヴォイドの背中に軽い衝撃が走った。


(ん?)


 その事に一瞬、ヴォイドは僅かな違和感を覚えたものの、即座にその思考は現実に引き上げられる。



「わっぷ!?」


「っと、大丈夫か?」


「すまぬ、ちと急いでおってな」



 少女からそんな口調で話しかけられ、思わずヴォイドは内心で(まさか「のじゃロリ」って実在したのか.....)と、本当にどうでもいいことを考えていた。


 しかし、数秒後に少女が走って来た路地から「○○様ー!!」と誰かを探すような声が聞こえてきた。それを聞いた少女は焦った様子で「やべ、もう来た」と言うような顔をしてから、しかし即座に何か思いついたように反応し、ヴォイドに対して何故か上目遣いで請うように目を合わせる。


 内心でこれは絶対に面倒事だと分かっていながらも、ぶつかってしまった謝罪としてヴォイドは目の前の少女に渋々提案する。



「.....あー、手伝った方がいいか?」


「うむ、頼めるかの?」



 一切悪びれる様子もなく、目の前の少女はヴォイドに自らの逃走を手伝えと告げた。ヴォイドはそんな少女に「のじゃロリ」という世にも奇妙な存在が実在した事を教えてくれた礼の代わりも込めて、今回は手を貸すことに。


 即座に少女を抱き上げ、お姫様抱っこの状態へ。


 そのまま痕跡を残すことなく、文字通り音もなく瞬時にその場から跳躍する。そのまますぐ傍の家屋の屋根へと無音で着地し、その場で少女の気配も殺しながら眼下の路地を観察する。


 数秒後、ヴォイドと少女の真下を一人の女性が「サクヤ様ー!」と呼びかけながら、走り抜けていった。


 女性が走り去っていったことを確認した後、ヴォイドは少女を抱えて先程まで居た位置に再度降り立ち、少女を降ろす。


 少女は「ふぅ」と溜息を吐いて、思わず「やれやれ」といった表情だ。



「すまぬな、お陰で助かった。それとさっき聞いておったと思うが、ワシの名はサクヤじゃ。お主は?」


「ヴォイド。観光旅行中の、しがない冒険者だよ」



 「サクヤ」と名乗った少女は腰まで伸びる長い黒髪と、左右で色が違う青と黄色のオッドアイ。服装は日本の巫女服?の様な、しかし動きを阻害しない作りをしたどこか特殊な服装。


 格好から見れば、その辺の貴族の娘といったところか。



「ほう、冒険者とな!これも何かの縁じゃて、先程の礼も兼ねて、茶でも飲みながらお主の話を聞かせてくれんか?」


「そうだな.....なら、さっきあの辺で良さげな喫茶店があったから、そこにするか」



 そんな訳で、冒険者の冒険話に興味津々な「のじゃロリ少女」と一緒にお茶をする事になった。団子屋(という名の喫茶店)でテーブル席に座り、メニューにある串団子をサクヤは一通り頼む。


 二人でそんなに食べるのか、と店員や他の客に見られたが、ヴォイドはそんなことは気にしない。


 というか何なら店員の女性が「結構な量がありますが、大丈夫ですか?」と聞いてきたが、多分大丈夫だろう。古今東西、「甘い物は別腹」と言うし(言いません)、最悪目の前の彼女が全部食べてくれそうだ。


 そもそも世の女性達は我々男性と違い、その胃袋の構造が異なる為か、甘味の類は不思議と普通の食事よりも入る(とされている。知らんけど)。


 何より女性達は、甘いものに対しての執着がすごい。特にこの文明レベルだと、ヴォイドですら恐怖を抱くレベルに。



 だがそんな事はさておき、数分して運ばれてきた色とりどりの団子兄弟達を紹介しよう。


 まずは安定の「三色団子」、実家の様な安心感である。そもそもこの世界に存在すること自体結構驚きなのだが、もうその辺は全部「異世界人の仕業」として片付けようと思う。


 そして何気にヴォイドはこれが一番好きだ。


 次はみたらし、きな粉、ずんだの三種。どれも安定して美味しい万民受けの味である。最後は変わり種で芋や栗に似た香りをさせる何かを使った団子まで運ばれてきた。


 そんな沢山の種類の団子が並ぶ中で、ヴォイドはまず三色団子を手に取る。既に飲み物も緑茶の様な物を用意してあるので、準備は万端。



「ふむ、最初にそれを選ぶとは、ヴォイドは中々楽しみ方を弁えておるの」


「モノにはそれぞれ、正しい嗜み方ってのがあるからな」



 そう言って、ヴォイドは団子を一口。何度か咀嚼し、香りと食感を楽しむ。喉を通れば、ほんのり鼻の奥に残る“桜”のような香り。これは恐らく、生地に何かしらの処理を施した花弁を練り込んで作っているのだろう。


 鼻腔をくすぐる花の香りが、容易に春の景色をその脳裏に映し出す。食感と甘味、そして僅かに残る香りを十分に楽しみ、熱いお茶で一息つく。


 テーブルを挟んで向かいに座る彼女を見れば、彼女は初手からみたらし団子に豪快にかぶりついている。そのまま一瞬で串一本分を平らげ、こちらもお茶を一口。


 「ほっ」と一息ついて、少女はこちらに再度問いかける。



「ではそろそろ、お主の体験した冒険の話を聞かせてもらえるかの?」


「そうだな、まず何から話そうか.....」


「では、最近やった冒険者らしい事(・・・・・・・)で面白かった出来事なんてのはどうじゃ?」


「ふむ.....なら、とある()と戦った話なんかはどうだ?」


「ほう!竜か!それでこそ冒険者、といった感じじゃな!」



 一ヶ月ほど前に戦った、ダンジョンの最奥にて君臨していた竜帝バハムートとの話を、ある程度抽象的にしながら、戦闘場面は詳細に、臨場感が出るようにして『話術』の能力も使い、話していく。


 しかしあくまでも口頭であるため、より詳細な細部の動きなど、伝えきれない部分も少しずつ出てきてしまう。


 それ故に、ヴォイドはその場の思い付きではあったが、話の内容が三分の一を過ぎた辺りで『幻影魔術』、通称『幻術』を自分と彼女の間の空中に投影し、戦闘の映像を流しながら物語風に話してみた。


 スキルであらゆる角度から『撮影』していた戦闘の一部始終をそのまま立体映像として投影し、所々でこれまたスキルで『変声』して、ある程度誇張した展開のもとセリフやナレーションのようなものを入れてやる。


 更に追加でテーブルの上にあるものも使って、映像から意識が逸れないようにそれとなく効果音も付けてやれば、それは一つの立派な作品になった。


 彼女はそれが余程珍しかったのか、投影された幻術を食い入るように見ながらしっかりと話を聞いて、物語の終わりを見届ける。



 そして遂にバハムートとの死闘の話が終わりを告げると、「次は、次はないのか!?」と身を乗り出して迫って来る始末。


 仕方がないのでこれも思いつきではるが、今日戦った一匹の海魔(クラーケン)の話も同様に、幻術を用いて話す事にした。


 クラーケンとの戦闘をメインに描写するのではなく、王国の港街でチラリと耳にした、その周辺地域に今も伝えられている、一つの古い伝承を元に、その場で話を創り上げる。


 話の始まりはこうだ。






 それは遥か昔の、とある大海原での出来事。


 その日、彼らはいつもの様に多くの商品とお客を乗せて、大海原へと漕ぎ出した。しかし出港したその日の内に、彼らは海の只中で運悪く大きな嵐に飲まれてしまう。


 海上には潮風が激しく吹き付け、周囲の波は荒れに荒れている。その影響で船は激しく揺れ、船内では怒号と悲鳴が響く中、船員達が慌ただしく駆け回っていた。


 しかし不幸とは続くもので、気付けば彼らはとある海域(・・・・・)へと足を踏み入れてしまっていた。


 それはその時代の冒険者や漁師達、果ては海賊の間でも長く語り継がれていた、「(いにしえ)の伝説」。


 遥か昔から現代まで、長い時をかけて親から子へ、子から孫へと語り継がれてきた夢物語。


 その伝承には、人知の及ばぬ(・・・・・・)悪魔が棲む(・・・・・)との記述が今も残されており、伝説を確かめる為に向かった者やたまたま足を踏み入れてしまった者達は例外なく、誰一人として帰って来ることはなかったという話もある。


 そこは通称、【死の海域】と呼ばれ、恐れられる禁足地の一つ。


 そんな海域の下、太陽の光など一切届かぬような海の底で、「海底都市■■■■」と呼ばれる場所の跡地に、ソレ(・・)は眷属達に守られるように存在しているという。


 その存在を、存在に関係するモノの名を目にするだけで、口にするだけで、気が狂ってしまう様な者も居た。故に、それらの名は不思議な力を持つとされた暗号や古代の文字に変換され、名を残されていると言う。


 故にその名を表す事は出来ず、その者の名は“■■■■■”と表現する他ない。



 彼の者は海に棲む数多の生物達を根こそぎ喰らい、その糧とする。その在り方はまさに、【深海の覇者】たる有様。そんな存在が太古の時代から存在し、現代まで語り継がれていると言う、異常。


 それは即ち、未だその怪物はこの世界に存在しているということに他ならない。


 そして此度足を踏み入れてしまった彼らはその化け物を、悠久の眠りから起こしてしまった。



 嵐と共に“■■■■■”の声を聞いた乗客や船員達は、その誰もがすぐ傍に感じる強大な存在に恐怖を、絶望を示す。


 そして同時に、精神の弱い者達は咆哮一つでその精神を破壊され、狂ってしまう。狂った者達は皆一様に同じ方向を向き、何やら聞いたこともない別の言語(・・・・)をブツブツと紡ぎながら、虚ろを映すその瞳は天を覆う星海を覗く。


 次第に広がる混乱と絶望。ある者は必死になって神に祈り、ある者は刃物を手に自らその命を絶つ。


 そしてまたある者は、「もしかしたら」という一途の望みを掛けて、精神を侵されながらも、狂気を振りまく彼らが紡ぐ謎の言語を死に物狂いで、既存の言語に書き起こすことに成功した。


 しかし彼もその後、彼らと同様にその精神を破壊され、狂ってしまった。


 そして、遂にまともな人間が誰一人として居なくなった船上に、雨や潮で濡れてぼやけたインクで記されていた一枚のメモには、こう書いてあったと言う。



『フんぐルイ ムぐるウナふ ■■■■ウ ルるイエ うがふナぐル フタグん』と。



 この一文の後は、ひたすら『いア!イあ!“■■■■■”ふタぐン!』という謎の言葉が敷き詰められたように書き綴られていた。


 しかしその言葉が意味することを知る者は、既に居ない。そこにあるのはただ、無数の触手により暗い海へと沈みゆく船と、元は人であった者達のみ。


 狂乱へと誘われた彼らに希望などなく、昏い海がその全てを呑み込んだ。



 故にその後、船に乗っていた者達が一体どういう末路を辿ったか、未だに真相は闇の中である。


 そして今現在も、あの研究者が死に物狂いで残した言語を理解出来た者はおらず、未だ研究が続けられている。




 と、こんな具合で勝手に過去編っぽいものを自分なりに作りながら話し、過去編を終わらせる。その後、今日戦ったばかりの粘着質だった海魔の話を、まるで先の話と繋がっているかの様にして話す。


 「彼の者の眷属達は今も、眠っている自分達の主が目覚める時を、今か今かと待ち侘びている」と。


 そして、最後はこう言って終わるのだ。『しかし彼らがあの時見たソレは、本当にただの魔物だったのでしょうか?』とね。



 ここまで話すと、流石に一時間ぐらいの長編になってしまったが、何だかんだとお客さん達(・・・・・)からは大好評だった(拍手喝采付きで)。


 因みにお客さん達(・・・・・)と言うのは、途中から他の客や店員がいつの間にか集まりだした結果だ。察してくれ。


 こうして楽しいお茶会は、何故か演劇が終わった後の様な雰囲気をしながらも終わりを告げた。



 誤字脱字が確認されたため、修正しました。


 内容を少し編集しました。 2022/05/23

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ