第二十九話「天空城と食文化」
ヴォイドは海面にぷかぷかと浮かぶクラーケンの死体を回収後、何でもないように海面を疾走して先程先行させていた商船に追い付き、飛び乗った。
飛び乗った際に周りに居た船員や乗客は何事か変な声を上げていたが、ヴォイドはそれを無視して船長の下へ向かい、クラーケンは再度撃退したと伝え、回収したクラーケンの死体は『体内世界』で分析班へと回す。
その後、数日に渡り何度か似たようなハプニングに見舞われながらも、ヴォイド達を乗せた船は無事に東国ヤマトに到着した。
到着した港で船長や船員達に感謝されながら、ヴォイド達は港を後にする。今回の遠征の目的はただの旅行なのでこの街に留まっても良かったのだが、どうせなら「その国で一番栄えている所へ」という事で。
早速港街を出て、目的地である“宮処”と呼ばれる場所へ向かう。とはいえ今回からは人数が少し多くなってしまった為、移動手段を変更した。
そしてその移動手段はなんと、陸路ではなくまさかの空路。この異世界では未だ発展していない空を制する力。
しかしてその正体は空飛ぶ絨毯か。 否、では飛行船か。 それも否である。その答えこそ――――
「“空飛ぶ城”」である。
身も蓋もない言い方をすれば、ただの空飛ぶ宮殿。
インド神話等で登場する、「空飛ぶ宮殿、もしくは戦車」である。建造するにあたってモデルにした原型は、某作品の女帝が持つ、彼の「ハンギ○グガーデンズ・オブ・○ビロン」。
「虚栄の空中庭園」と呼ばれた、とある女帝の天空城。
それをベースに随所にアレンジを加え、自分好みに土台から設計し直し、色々な要素を詰め込んで遂に完成させた。
今の今まで『体内世界』にてちまちまと制作を続けていたが、それでも一ヶ月以上もかかってしまった大規模な計画。
夢を詰め込みすぎた結果、少々でか過ぎるのが玉に瑕だが、そこは特に問題ないようになっている。
魔術的な隠蔽に、自然に溶け込むように細工された複数の結界。その警備の為の罠や、複数の自律型魔導刻印が施された特殊なゴーレムやオートマタ達。
その全てが合わさったこの城は文字通り、難攻不落を誇る。
そして肝心なこのヴィマナの名前だが、『虚像の天空城』と名付けた。
そんな空飛ぶ宮殿のひと部屋で、現在ヴォイド達は優雅に紅茶を飲みながらゆったりとした時間を過ごしていた。
「しかし、まさかこんなどでかい城を作っとるとは思わなんだわい」
「俺もこれは流石に知らなかったっすね。でも天空城って事はもしかして、元々は飛行船なんかも?」
「鋭いな。確かに最初は飛行船も考えはしたな。ただ、その設計上どうしても脆い部分が表に出てくきてしまう。だから――――」
「他の建造物や結界で脆弱な部分をなるべく覆い隠せるように、ってこと?」
「正解、よく出来ました」
そう言ってヴォイドは隣に座っていたルシアの頭をわしゃわしゃと無造作に撫で回す。するとその動作に連動するようにして、ルシアのキツネ耳がピコピコと何度か反応を見せた。
内心で「なにあれ可愛い、後でもっかいやろ」と思ったのは秘密である。
そしてなんやかんや雑談などして時間を潰せば、あっという間に噂の“宮処”に到着する。
本来であればつい数時間前まで居た港街から馬車で5日以上かかるのだが、ご覧の通り空路ならあっという間である。
とは言えその規模や技術力、使われている資材など諸々を含め、そう安々と見せるのは躊躇われる。
故に宮処と呼ばれる都市から少し離れた森の上空で天空城を停め、地上に『狭間の回廊』を繋げて天空城から降りる。
そしてそのまま街へと続く街道を全員で歩いて行った。
一時間ほど歩いただろうか、遂にヴォイド達は宮処と呼ばれる都市に到着した。関所には結構な数の観光客や商人が並んでおり、その最後尾にヴォイド達も並ぶ。
その間にも数えるのが面倒になるほどの出入りが繰り返されていた。
そして特に問題が起きることもなく、三十分ほどしたところで無事ヴォイド達も噂に名高い宮処へと、その足を踏み入れる。
その瞬間、ヴォイド達の視界全てに広がるどこか見慣れた和風建築と、着物や刀といった代物。少し歩けば、鼻腔をくすぐる香ばしい匂い。
これは、紛れもなく“醤油”が焦げる匂いだ。
「醤油か....うまい米もあればいいんだが、どうだろうな」
思わず一人呟いてしまうヴォイド。その後方で「わかる」と何度か頷いていたデイビッドも居たが、その事についてリサが首を傾げて尋ねる。
「無知で申し訳ないのですが、その『米』という物は、一体どのような食べ物なのですか?」
「うーん、そうっすね。簡単に言えばお米はパンなんかと一緒で、おもに主食として扱われる穀物類の一つっすね」
「マスター、それってどんな味なの?」
予想外の方向から飛んできた予想外な質問に対し、ヴォイドは改めて考えていた。「米ってどんな味だ?」と。しかしこれがまた何と言えば良いのか、言語化するのが非常に難しい。
ただ――――
「そうだな、詳しく言語化するのは難しいが、敢えて言うなら美味い米は甘い、だな」
そう答えたヴォイドに対して、先程と同じようにルシアとリサの二人が首を傾げている。
「甘い.....ですか?少々、想像が難しいですね」
「あー、でも確かにそれが一番しっくり来る気がしますね。美味しい米ってなんでか分かんないっすけど、おかずとかが要らないくらいご飯単体で完成されてるというか」
「分かる分かる。初めて食った時は美味すぎて興奮しながら感動したのを覚えてるよ」
「????」
このパーティーの中で唯一、米の味というものを知るヴォイドとデイビットの二人だけが、双方の意見に共感を示す。ルシアやリサは、相変わらず「よく分からない」といった様子で、首を傾げて考え込んでいる。
しかし無理もないだろう、先程の説明では確かに分かるものも分からない。
「まぁ、“百聞は一見に如かず、百見は一触に如かず”って言うしな。取り敢えず米を扱ってそうなその辺の飲食店で、軽く昼飯でも食べるか」
時間も丁度お昼頃なのもあり、ヴォイドの提案で周辺の飲食店で昼食を摂ることにする一同。
そしてそんなヴォイド達が入った飲食店は、どこか「定食屋」の様な雰囲気が感じられるお店であった。着物の様な服を着た女性に席へ案内され、メニュー表を渡される。
メニューはやはりというべきか米が使われている料理が多く、「丼もの」まで網羅されていた。
各々が気になった料理を注文し、少しして店員が出来立ての料理をテーブルに運んでくる。バー爺とデイビットとルシアは丼もの。対して、俺とリサとサラは定食を。
ヴォイドとデイビットと、何故かバー爺までもが箸を慣れた様子で使って食べる中、他の面々はナイフとフォーク、スプーンといった使い慣れた物で、この世界の和の料理に舌鼓を打つ。
(メニュー表を見て思ったが、日本の文化が浸透しすぎじゃないか?やっぱりこの国、日本人がどこかしらで深く関係してるのは確定だな)
そう考えながらも、何気に久方ぶりの日本料理を満足行くまで楽しむヴォイドであった。
内容を少し編集しました。 2022/05/21




