第二話「現地人確保と逃走劇」
「あ、やべ...」
殺しておいて早々に後悔しながらそう呟くヴォイドは、今しがた落雷で消し飛ばした魔物の事を思う。
彼らはこの世界で初めての敵生命体だったので、死体を回収して色々と調べたかったのが本音だ。
とはいえそんな事を考えながらも、一応助ける形になってしまった獣人族の少女に視線を向ける。
少女は不思議そうに、そのたまご色の瞳をこちらに向けてくる。
(いや、“視られてる”な。「何を」かは知らないが。多分、能力関係でも覗こうとしてるんだろう。絶対無理だろうけど)
白髪でピンと伸びたキツネ耳と、丸みのある尻尾を僅かに揺らしながら、こちらを執念に観察している。
だがヴォイドも便利な『鑑定』の能力で、彼女のステータスの確認は済んでいる。
ただ見たところの本音を言えば、割とピンチになるかもしれない。
彼女が持っている『魔眼系スキル』の『真実の瞳』と『薄明の魔眼』ってやつの効果がヤバイ。もしかしたら俺が“異世界人”だとバレるかもしれない。
『真実の瞳』は名前の通り、その眼で見た対象真実と理を暴くというもの。もう一つの『薄明の魔眼』は単純な視力向上と暗視効果など、その他にも視覚を介した違和感に気付きやすくなる他、更に魔力の可視化すら可能と来た。
万が一、億が一、コートの付与効果を突破されるとまずいのだが、「どうしたものか」とヴォイドが悩んでいると、獣人族の少女が突然、パタリと意識を失った。
....
......
........
取り敢えずそのまま捨てるわけにもいかなかったので、少し離れた水場の近くにテントを立てた。
即席で造ってみたこの世界で言う魔導具のテントだが、スキルと素材をこれでもかとふんだんに使ったので、性能は言わずもがな。
中は『空間属性魔術』で貴族邸一個分くらいには広げてある。
部屋も細かく幾つかに分けてあり、その内の一つの寝室で先ほどの少女を休ませている。ベッドに関してはこの世界の文明的に羽毛布団がそこまで主流ではないが、個人的に睡眠は気持ちよく取りたいので、こちらも素材に妥協をせずに作った。
そんな獣人族の少女が寝ている部屋には興が乗ったので気分で作ってみた「アロマ」なんかも焚いているので、今頃は熟睡しきっているだろう。
我ながら気遣いの出来るいい男だ。
そして因みに彼女だが、いわゆる「奴隷」というやつでした(この展開もテンプレ過ぎて失笑したのは内緒)。変なチョーカーを付けてるなと思ったら、あれは「隷属の首輪」という魔導具の一種だったらしい。
邪魔だったからぶっ壊したけど。
体も『クリーン』とかいう非常に都合のいい魔法で綺麗にして、服も今は無地の白シャツとショートパンツを着せている。
因みにそのタイミングでケモ耳美少女の裸体を見たが、何故か「肉欲」というものが沸かなかった(因みに少女には指一本触れておらず、全て『サイコキネシス』のスキルで行った。残念だとは思っていない、決して)。
それと勘違いしないで欲しいのだが、断じて俺は幼女で興奮するようなロリコンではないという事を言っておく。ただ俺は、“ケモ耳美少女”が好きなだけの一般人だ。
それと余談だが、彼女はまだ“純潔”だった。一安心。
(あんな芸術的なケモ耳美少女が汚されていたら、俺はこの世界を危うく滅ぼすところだったぞ、まったく)
あと、傷の治療をするタイミングで『奴隷紋』と呼ばれる代物まであったので、それも術者にバレないように消し飛ばしておいた。
そしてそんなこんなで気付けば時刻は既に夜。テントの外で焚き火をしながら、周辺を警戒する。
俺は能力と肉体の性質上、三大欲求、つまり睡眠や自家発電(意味深)が必要ではなくなった。それは食事も同様であるのだが、今はなんとなく気分でジャーキーを齧っている。
このジャーキーも能力から生み出したものであり、生成元はなんとただの魔力である。異世界超便利だ。
そんな感じで時間を潰していたら、どうやら眠っていた彼女が目を覚ましたらしい。
※
柔らかい布団の感触と心地よい温もりに包まれながら、ゆっくりと瞼を開ける。未だ完全に目が覚めている訳ではないが、危険な状況からは脱したのは理解出来た。
(ここは、どこだろう?)
当然の疑問が頭を過る。
(部屋は全体的に暗めになってはいるけれど、それは多分“僕”を寝かせる為だよね。この寝具もかなり高級品みたいだし、部屋全体に安心する香りが漂ってる...?)
それなりに戸惑いながらも、部屋の雰囲気や自身の服装などの事を確認していると、全身を漆黒のコートで身を包む人物が音もなく部屋に入ってきた。
「起きたか、体の具合はどうだ?違和感はないか?」
「えと.....はい。特にはない、です」
「そうか、なら少し待っててくれ」
そう言って、また音もなく部屋の外へと消えていった。
そして言われて初めて気が付いたが、いつの間にか奴隷紋も隷属の首輪も無くなっていた。
あの人が外してくれたのだろうか?と未だ疑問は尽きないが、それでも彼女は取り敢えず今は状況の把握に専念する事を決意する。
そのまま少しして、先程の人物が食事を持って戻ってきた。
「野菜のスープとパンだ。食えそうなら食っておけ」
「あの、ありがとうございます。何から何まで.....」
「あぁ気にするな、必要そうな“イベント”をこなしただけだ」
「.....いべん、と?」
初めて聞く言葉に、意味がよく理解出来なかった。しかし言うが早いか、彼は食事を近くのテーブルに置くと、「俺は外に居るから」と言って再び出ていく。
種族や名前すら聞かれない。こんなことは初めてで、彼女はこの時どうしたら良いのか、よく分からなかった。出された食事は温かくて、何より美味しかった。
彼が自分に気を使ってくれたのか、量も少し多めに入れられていた。その事に内心で感謝しながら、失った血を補充するためにゆっくりと全て完食した。
そして食べ終わってからはもう一度ベッドに戻って、心身共にしっかりと休む事にする。
「起きたらちゃんと、助けてくれた事に感謝しないとなぁ......」
その小さな呟きを最後に彼女は再度、深い眠りに落ちていった。
...
....
.....
翌朝、休んでいた場所が実は魔導具のテントだった、という事に結構な衝撃を受ける事になった。とはいえ確かにテントと言うには少々広すぎるし、何より「窓」もあった。
見えてたのは水中の景色ではあったが。
それでも彼は魔導具のテントとは言っていたが、やはり少し、というか大分過剰なほど品質が高いものが多かった。それこそ下手をすれば、国宝級以上の物ではないかと思うほどに。
そして彼との朝食の時に色々と話して、彼が「ヴォイド」という名前でいわゆる“仙人”と呼ばれる存在という事が分かった。
それにも驚かされたが、自らの名前を教える前に「名前はルシア、だろ?」と分かっていたりした事に、何だかんだ今日一番驚かされた。
ちなみにこの世界に“仙人”という存在が居るのは知っていた。だがまさか自分が出会う事になるとは思いもしなかった。
それに彼は他とは違う“独特の気配”をしていて、何より自慢の『眼』でも何一つ視えなかった。
彼の容姿は褐色の肌に金色の瞳、そして銀髪の長い髪の前髪だけを雑にかきあげただけという、ちょっと変わった見た目をしている。
だが基本、常に黒いコートに付いてるフードを深く被って顔を隠している。
本人曰く「こうしている方が落ち着く」らしく、そうしているのだとか。彼はずっととある森で暮らしていたらしく、色々と知らない事が多いので教えて欲しいと言っていた。
それと僕は一応「奴隷」だったので、今後しばらくは彼の奴隷という事で過ごす事になった。
主人に新しい服や装備を貰ったので、早速身に付けてみる(マスターという呼び方は朝食の時に取り決めた事の一つ)。
軽い外被やポーチ。挙句には護身用と言って、一本の長くて黒いナイフも渡された。
そして現在、何故か僕はマスターに抱き抱えられて、森を疾走中です。
今まで感じた事のない速度で、景色が視界を過ぎて行く。最初は抱き抱えられる事に恥じらいもあったが、今ではそんな余裕はない。
この森ではそれなりの数の魔物に頻繁に遭遇する為、自らを抱き抱えているマスターは当然、上下左右に避けて行く。
その結果、抱えられている僕も同様に、上下左右に揺られる訳で――――
「うっ、マスター」
「悪い、もうちょっと我慢してくれ」
そう言われた途端、ルシアとヴォイドの二名の身体は、ふわりと浮遊感に包まれた。
文章を大まかに編集しました。 2022/03/05




