第二十八話「海魔、一刀両断」
ヴォイド達が山脈都市モンテのダンジョンにて竜帝バハムートを下してから、はや一ヶ月程が経過した。
しかし未だ、ヴォイドがBランクへと昇格した旨の連絡はない。数日前にモンテのギルドマスターから届いた手紙では、王都の方から何かしらの連絡が来るのを待っている状況だとか。
それとあの日何故か挑んできた馬鹿に関しては、ギルドの方で適切な処罰を下したと書いてあった。本来であればそういう冒険者同士の事に関してはギルドが出張ってくることはないはずだが、こちらに恩を売りたいのか、それともバハムートの死体を提供した事へのお返しか、ヴォイドには判断に困った。
だが、個人的にはそんな事は正直どうでも良かった為、読み終わってからすぐに手紙は燃やした。
そしてそんなヴォイドは今、大海原を往く一隻の商船の見張り台で日向ぼっこ中である。一応こんなでも見張りも兼ねてはいるが、特に襲って来るような魔物はこの近海には居ないらしい。
数時間前に一度、クラーケンによる襲撃を受けたものの、ヴォイドが遊び半分で魔術の実験台にしていたら撃退出来た為、今はのんびりと過ごしている。
そしてこの商船が向かっている目的地は、四大国家の存在する大陸から海を挟んで東に存在する「東国ヤマト」という国。
名前から分かる通り、恐らくは「和の文化」が浸透している国で間違いないだろう。この世界にも刀や着物の知識が存在している時点である程度予想はしていたが、建国に日本人が関係していると見ていいだろう。
そしてそのヤマトへ赴く理由だが、ぶっちゃけると特にはない。
強いて言えば、ただの休暇兼旅行である。デイビットがパーティーに入ってから、まだそんなに日数は経ってないが、実は数日前にもう二人追加したのだ。
どう考えてもパーティーの男性比率がおかしかったので、今後の事も考えて追加する人員は女性二人となった。
ぼんやりとした中、数日前の記憶を呼び起こしていると、そんなヴォイドの思考を中断するように声を掛けてくる女性が一人。
「ヴォイド様?どうかなさいましたか?」
「.....いや、何でもない」
見張り台の手摺に座っているヴォイドの後ろで控えている黒髪メイドの女性、彼女が新しいメンバーの一人。
長い黒髪に水色の瞳をした、まるで日本人の様な外見をしているメイド服を着た美女。こう見えて、種族は人ではなく「雪女」だ。
ステータスはこんな感じ。
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名前:サラ (Sara)
種族:雪女(人工生命体)
職業:魔導剣士/側近メイド
固有:冷気蓄積/零度開放
装備:妖刀・凍氷翠/超高性能メイド服
「スキル一覧」
・パーフェクトメイド
・絶対の忠誠
・演算思考
・氷属性魔法/魔術
・肉体変異
・成長限界突破
・弱点無効
・幻創一刀流
etc....
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勘のいい人ならもう気付いたかもしれない。
そう、彼女は「人工生命体」。つまりはホムンクルスと呼ばれる存在だ。バレれば「生命を創造するなど主への冒涜だ!」とか「生命の創造は禁忌だ」とか、「倫理観が―――」とか言われるかもしれないが、知ったこっちゃない。
俺の能力で生み出した俺の所有物だ。他人にどうこう言われる筋合いなどない。
それに、転生/転移者がそれなりに多いこんな世界の現地人など、怖くて信用出来たものじゃない。「疑わしきは罰せよ」という偉大な言葉もあるくらいだ。ならば無理に現地の人間を引き入れるより、自らで創造した存在を連れていた方が、よっぽど安全と言えるだろう。
そしてやはり、異世界転生を果たしたのならば美人なメイドが居なくては始まらない、という事で。種族が人じゃない事や、装備、外見諸々含め気になるだろうが一言だけ言おう。
――――ただの“趣味”だ
因みに彼女だが、色々と設定を詰め込み『体内世界』で試運転がてらに何度か全力を出して貰って戦ったのだが、その成果として幻創一刀流を修めた中で今のところ唯一の「免許皆伝」を得ている。
生み出しておいて何だが、中々に強い。
そしてそんなサラと同じ様に、甲板で釣りをしているルシア達の後ろに控えているのが二人目のメイド。茶髪のショートヘアに赤紫の瞳。ミニスカートタイプのメイド服を好んで着用する、大鎌使いの美女。
こちらの視線に気付いた彼女は軽くこちらに会釈して、再び視線をルシア達に戻す。
彼女の名前はリサ。彼女らの名前が似通っているのは、ヴォイドが彼女らの元となった素体を生み出し、実験を繰り返していた時期が全く同時期であった事と、名付けの際に本人達からそういう要望があったからだ。
因みに彼女も種族は人ではなく、吸血鬼と人間の混血とされる「ダンピーラ」である。彼女は条件次第でサラ以上の実力を誇るため、今しばらくは監視の目としてなるべくバー爺の傍に控えてもらっている。
そんな新たな二人を加えたヴォイドのパーティーは、今回の船旅に大いに貢献している。初めは風がなくなって速度の出ない船のマストにヴォイドが魔術でひたすら風を当て続けるという功績から始まり、次は突如として襲ってきたシーサーペントの群れと、クラーケンの討伐と撃退。
その後、船の修復に船員への手当てと、その万能っぷりを発揮した。そのおかげか、船長含め船員達からの好感度が爆上がりし、気付けば船内でVIP待遇をされている。
船員達と会えば軽く挨拶をされるし、部屋も一番いい場所を使わせて貰っている。昼間に釣ったりした食材を厨房へ提供すれば喜んで調理してくれたりと、何不自由なくヴォイド達は過ごしていた。
とここで、下に居るデイビットからヴォイドに対して『念話』が入る。
『ヴォイドさん、船長からの要望で、風が出てきたみたいなのでマストに当てる風を弱めて欲しいそうです』
『了解』
短く返事を返すと、デイビットとの『念話』はそこで切れる。それと同時に、ヴォイドはマストへの風を弱めようと魔力を操作する。が、しかしここで、本日何度目かのハプニングが船を襲う。
突如として、船の周囲の海面から前触れもなしに出現する、吸盤の付いた触手。しかしその触手の肌は、先の撃退時の傷がまだ残っている。黒く焦げるまで火傷を負った部分や、沢山の切り傷に覆われている部分など。
そう、こいつは数時間前に一度この船を襲撃して、無様にも撃退された個体のクラーケンだ。
どうやら、常時展開していた『感知系能力』の探知外の海底で身を潜めながら、俺達を仕留められる瞬間を伺っていたらしい。船が進む速度を緩めたのを見て、どうやら隙と受け取ったようだが、特にヴォイド達が困ることはない。
ヴォイドは再度、船のマストに当てる風を強めて商船だけを触手の包囲から抜け出させて安全地帯へと向かわせる。それと同時にそのまま自分だけ商船から飛び降り、スキルでクラーケンのヘイトを強制的に船からヴォイドへと切り替えさせ、水面に着地する。
『ヴォイド様、援護は――――』
『悪いが必要ない。襲ってきた目的もさっきの仕返しだろうしな』
サラから届いた念話に対して食い気味に返答しながら、能力を用いてクラーケンの位置を正確に探知する。
それと同時に、海面から飛び出し迫り来る触手をどこからともなく取り出した斬魔刀の一太刀にて斬り落とす。
「試したかった事もあるし、丁度いいか」
呟いた瞬間、再度足元から攻撃を仕掛けようと飛び出してきた触手を、高く真上に飛び上がることで回避する。
そしてヴォイドは落下が始まる瞬間にそのまま空中で、対象が居るであろう海面に向けて居合の体制に移行する。
「『能力開錠』」
呟かれたキーワードにより、脳内で「ガチャリ」という音が鳴り響く。
今後使う予定があるかどうかは分からない。しかし、あって困る事はないとヴォイドは判断し、斬魔刀に秘められている能力の一つを今ここで開放、いや、“開錠”する。
「試し打ちとは言え、どこまで斬れるか...」
落下の勢いに身を任せ、空中で斬魔刀の鯉口を切る。目視でクラーケンの本体は見当たらない。だが「この下に居る」という確信を胸に、その白刃を解き放つ。
『斬魔刀 “次元斬”』
魔を屠る光の刃が、視界内の景色を文字通り一刀両断する。
一瞬の煌きと訪れる静寂、神速をも越えた斬撃で横一閃に斬り裂かれる、眼下の海。しかし次の瞬間にはもう、斬魔刀の刃はその鞘へと納められている。
解き放たれたのは、次元をも断つ一撃。その一太刀を以て、ヴォイドはクラーケン諸共に海を割った。いや、断ち切ったという表現の方が、この場合は適切だろう。
そんな割れた海水から覗く海底には、かなり深くまで斬り裂かれた痕跡を残している。たった一撃、されど一撃。それは間違いなく、必殺足り得る一刀であった。
故に――――
数秒の後、轟音を響かせて斬り裂かれた海が元に戻っていく。
そしてしばらくして元の姿へと戻ったその海面には、無惨にも真っ二つに両断されたクラーケンの死体が浮かぶのだった。
内容を少し編集しました。 2022/05/20
※おまけ
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名前:リサ (Risa)
種族:ダンピーラ(人工生命体)
職業:鎌魂師/側近メイド
固有:魅了/吸魔の魔眼
装備:ブラッドローズ/超高性能メイド服
「スキル一覧」
・パーフェクトメイド
・吸血衝動(小)
・変幻武装
・絶対の忠誠
・演算思考
・魂喰い
・成長限界突破
・属性任意変更
etc...
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