第二十七話「成果と愚者の末路」
山脈都市モンテに存在する冒険者ギルドのギルドマスターであるイメツ・ツトゲリヒは現在、一人の受付嬢から齎された、にわかには信じ難い報告で頭を抱えていた。
それは、ここ最近辺境都市ウロの方で頭角を現し始めたという一般のCランク冒険者四人が、この街にある「黄金の洞穴」というダンジョンをたった二日で踏破した、という報告。
最初は受付嬢の頭が疲労でおかしくなったのかと思ったが、「黄金の洞穴」の攻略階層の踏破記録は正しく彼らの冒険者証に記録されているのをこの目で見てしまった。
それでも最初は偽装でもされているのだと疑った。だが、調べて出た結果がほぼ間違いなく偽装はされていない、という結果が何度やっても変わらなかった。
そして極めつけに、解体所に運ばれたという守護者の死体。そちらもこの目で現物を見た。
あれを見てしまっては、もはや彼らを疑う余地など容易に吹き飛ばされた。何だ、死体であの迫力は。
しかも彼らはそれをあろう事か、私に対して「必要ないので全て売却したい」と言い出した。正直、この時ばかりは受付嬢ではなく彼らの方がイカれていると思ったのは内緒である。
しかも後から聞いた話だが、あのバハムートと戦ったのがパーティーメンバー4人全員ではなく、その内の二人だと言う。ここまで奇想天外な出来事、普通ならば信じられないが、実際に冒険者証の記録と守護者の死体がある以上、信じるしかない。
故に、ギルドマスターのイメツ・ツトゲリヒはこれを上にどう報告したものか、と現在その頭を抱えているのだ。
まず普通に報告したとても、まともに信じては貰えないだろう。しかし、守護者の死体があればどうだろうか。少なくとも、あのバハムートが討伐された事、即ちダンジョンが何者かによって踏破されたことは認めるだろう。
だが、踏破した者達についてが厄介な問題なのだ。
各街の冒険者ギルド共通の情報によれば、パーティーリーダーの「ヴォイド」という青年はCランクに上がってからまだ日が浅い。それどころか、デイビットという青年は最近冒険者になったばかりだ(正確にはメンバー全員が冒険者となってから半年と経っていない)。
だというのに、この目で見た限り「黄金の洞穴」を踏破した者達の実力は恐らく本物(二人ほど、まともに実力が視えなかったが)。
とは言えやはり、信じてもらえる可能性が限りなく低い。
そして仮にこの事が本当だと信じて貰えた、もしくは事実だと確認が取れてしまった場合、間違いなく彼らは厄介事に巻き込まれる事になる。
(しかし、ぶっちゃけ私じゃどうしようもないんだよな。今は暇な時期だったからいいものの、今後は出来れば別の場所で報告が上がって欲しいね、まったく。出来るだけ報告書には、本当だという事をくどいくらいに書いておくか.....)
執務室で報告書へと筆を滑らせながら、イメツは内心でヴォイド達に謝罪する。報告書である以上、嘘は書けない。何より既にダンジョンが踏破された事に関しては情報が広まりつつあるだろう。
故に、こういう時にも否応なく回る思考を紅茶を一口飲むことで強制的にシャットアウトし、イメツは気持ちを切り替えて仕事に戻るのだった。
当のヴォイドはそんなギルドマスターの苦悩など露知らず、解体屋に対して少し多めの手数料を支払い、解体所を後にしようと出口へと足を向ける。
同時にその場に最後まで居た受付嬢のお姉さんに、「素材は全て売却するから、金は口座の方に預けておいてくれ」とだけ伝えて。
「初めてのダンジョンでしたけど、結構楽しかったっすね」
「そうだな。この世界の竜種とも戦えたし、個人的には結構いい暇潰しにはなったかな」
今回の実績でBランク以上へと昇級出来るかどうかは別として、バハムートとの戦闘はなかなかに得難いものだったとヴォイドは思う。
特に、新しい装備の実験として二つの装備を使用したが、どちらも概ね満足のいく結果だった。
一つは「魔術王の指輪」という魔法/魔術の発動媒体であり、ヴォイドの初期装備でありながら今まで殆ど使われていなかった代物だ。それは真鍮と鉄で出来た五対の指輪で、指輪本体には見えない内部部分も含めて、夥しいほどの術式が刻まれている。
そしてその効果は『全適性完全無視』『全魔法/魔術無効化&支配』『全魔法/魔術創造&改変』『全術式無限貯蔵』『魔力絶対隠蔽』『発動エフェクト&装備不可視化』『発動時間完全操作』『詠唱効果超増大』『魔力消費超軽減』『魔神/悪魔/精霊召喚&使役』という、一つだけでもかなりのバランスブレーカーな性能を誇っている。
とはいえあくまでも「魔術王の指輪」は安全装置としての役割が大きいため、今回の使用は試験的な、動作確認の為のものである。
そしてその結果は、ヴォイドが思わずフードの中でホクホク顔になる程には、充分に満足出来るものだった。
そして二つ目が「魔力糸」という装備。だが「魔力糸」はその性質上、装備というよりはスキルに近い。その正体は、「糸」という形状を意識して魔力を活性化させる事で、初めて実体化するという霊体で形作られている特殊な糸である。
だが「魔力糸」にはこれといって特殊な効果がある訳ではない。敢えてその特徴を上げるのであれば、固く、鋭く、細いという特性。それぞれの特性は込める魔力量によって自由に変えられる為、例えばその切れ味は魔力量次第で人体程度なら全く抵抗を感じさせずに斬り裂ける様になったりする。
こちらもヴォイドとデイビットが概ね満足出来るだけの性能だった為、今後デイビットは即座に戦闘に入れる為メインウェポンとして、ヴォイドは暗器と兼用して使用する為サブウェポンとして使用することになる。
そんな二つの装備の試験運用の成果を思い返しながら、ヴォイドがギルドを出ようとしたところで、見知らぬとある一団がヴォイド達の前に立ち塞がった。数は全員で11人、若い男女で構成されたパーティー。
その中央にはやたらと顔がいい青年が一人。その見た目は金髪のロングヘアに空色の瞳、そして無駄な装飾が多く施された金色のフルプレートアーマー。
堪らずヴォイドはフードの中で眉を顰める。
「君達だね?“バハムートを倒した”っていうパーティは」
「誰だ?あと邪魔だ、どけ」
「僕はクラン[流星群]のリーダー。【超新星】のルイスと呼ばれているよ」
「そうか、ご丁寧にどうも。それと、通行の邪魔だからどいてくれないかな」
二度目はヴォイドにとっては割と懇切丁寧に言ったつもりだったのだが、目の前のルイスという人物からはまるでどいてくれる気配がない。
それどころか、周りのクランメンバー達も一緒になって、ヴォイド達を少しずつ包囲し始めている。
(マジでこいつら誰だ?聞いたこともないぞ。【超新星】だか[流星群]だかは知らないが、取り敢えず目の前のこいつがなんかキラキラしててうざいのだけは分かったな)
「先程、君達が黄金の洞穴を踏破したと聞いてね。とは言え、聞いた情報はどれも素直に信じられる様な内容じゃない。だから.....確かめたくなったんだ」
「確かめる?まさか実力をか?やめとけ、怪我するだけだぞ」
ヴォイドはそれだけ告げ、ルイスを全く相手にせずに彼らの横を通り過ぎてギルドを後にしようとしたとその時、僅かな殺気を放ちながら、ルイスがいつの間にか抜いていた剣で上段から斬りかかってきた。
(警告はしたよな。それを聞かずに先に手を出したのはアイツらだ。まあだから、これから行われることは誰がなんと言おうとも、正当防衛だよなァ)
自らの左の肩辺りに迫る刃を当たる直前に素早く半身になることでするりと、まるで滑るように躱し、ヴォイドはそのままルイスから少しだけ距離を取る。
「うん、今の攻撃すら対処出来ないようならどうしようかと思っていたところだよ。けど、これで少なくともあのダンジョンに潜れるだけの実力があるのは分かったよ」
「先に手を出したな。証人も周りに沢山居る。今更取り消しても、もうおせぇぞ」
「そんな事、百も承知だとも。だが、僕はまだ君の底を見せて貰っていないからね、まだまだ――――」
本人の口から言質はとった。
そして余りにも敵前で長々と話すものだから、ヴォイドは我慢出来なかった。先程のルイスの一撃を躱す隙に仕込んでおいた、不可視の状態の『魔力糸』。それをただただ力任せに、真後ろへと強く引く。
それと同時に、『縮地』を使用して即座にルイスへと距離を詰める。ルイスは油断していた結果、魔力糸により体勢を崩してまともな防御が出来ない無防備な体制。
だからこそ、ヴォイドはその綺麗なだけの顔面に、思い切り引き絞った右拳を捻って撃ち込んでやる。
『金剛八式 “衝捶”』
鼻の骨が砕ける感触と鈍い音を伴って、拳がクリーンヒットしたルイスは弾丸の様な速度で吹っ飛んだ。ギルド内に崩壊音を響かせ、ギルドの受付の奥へ奥へと飛ばされて行ったルイス。
あれでは早々、まともに動くことは出来ないだろう。ルイスに付き従っていた仲間達はそれを見て、青い顔をして即座に駆け寄って行った。
(回復の魔法や魔術を使わないなら、早くて全治一週間ってところか)
そう判断したヴォイドは、ギルドを立ち去る前に足元に落ちていたルイスの無駄に装飾の多い剣を粉々に踏み砕き、その場を後にした。
数日後、山脈都市モンテではルイスが竜殺しに挑んだ愚者として少しだけ有名になるのだが、その時には既にヴォイド達は辺境都市ウロに戻っており、幸いにもその話題を知ることはなかった。
そして現在のヴォイドは未だ【竜殺し】となった事を正式に公表されていない為、Bランクへの昇格も出来ていない。
だが「どうせ時間の問題だ」と本人は特に気にしておらず、既にその思考は次の遠征に向けられていた。
内容を少し編集しました。 2022/05/20




