第二十話「強力な固有能力と小さな宴」
いつの間にか相手が一人から二人に増えてしまったが、特に問題はない。実力的にユニークスキルを多少警戒すればいい程度なので、ヴォイドからすればこいつらが何人居たとしても決して驚異にはなり得ない。
塵が山となるだけ積もろうが、所詮は一つ一つはただの塵なのだ。ならばやはり、今のヴォイドに負ける要素など、ありはしない。
しかしその実力差に気付かぬままに、彼らは人数差が出来たことで自信満々な様子。何より二人は負ける気がないためか、それぞれ出し惜しむことなく大事な手札を晒す。
だがそもそも彼らとヴォイドとでは、文字通り立っている土俵が違う。
彼らがいくら頑張ったところで、この世界の人々によりランダムで選ばれただけの彼らでは、この神魔霊獣、魑魅魍魎が跋扈するこの世界にとっての特異点であるヴォイドに傷を付けることすら出来ない。
何より、もしここで万が一、億が一、ヴォイドを倒せたところで彼らの悪評が広まるだけな為、この戦闘行為にそもそも特に意味はないのだが、頭に血がのぼっている今の彼らでは残念ながら、その事には気付ない。
とそんな事をのんびりとヴォイドは考えつつ、若干見飽きてきたこのバカ共との遊びもそろそろ終幕へと向かわせるか、とヴォイドはぼんやり思う。
時間的に考えれば、流石にそろそろ衛兵などが来てもおかしくはないからだ。
そう思いヴォイドが動こうとした瞬間、目の前の男の一人が突然その姿を消す。前兆もなく、その様な素振りを見せることもなく。
だが焦ることはない。既にあの男の能力は何度か見て解析も済んでいる為、対処も簡単だ。
ヴォイドが即座に自身の真後ろに向けて斬魔刀の刀身を滑らせれば、「ヒッ」と小さな悲鳴が上がる。これではやはり分かりやす過ぎる。
今ヴォイドの後ろに居る男の固有能力は恐らく、『転移』。
範囲指定型なのか、何らかの条件のもとに特定の場所にしか転移出来ないのかはよくわからないが、スキルの使用者が馬鹿丸出しなので、基本相手の後ろに回るしか能がない。それ以外にも移動する直前に視線で大体の場所を予測出来る。更に『隠密』のスキルも熟練度が低く、感知系スキルで簡単に見破れる。
故にやはり、この程度では相手にもならない。
「『召喚武装』に『転移』。確かに能力だけを見ればかなり強いと言ってもいいけど、やっぱ使いこなせてなけりゃ宝の持ち腐れなんだよな。お前ら今まで命かけて戦ったことないだろ?動き全部に甘えや妥協が嫌って言うほどあるんだわ」
「は?命かけて戦う?お前バカだろ、俺達【勇者】はそんな必要ないんだよ。神々に授けられたこの能力があれば、さ」
「ってかなんで俺達の能力知ってんだ?高レベルの『鑑定』持ち?それともその『解析』っぽい能力がお前の固有能力だったり?」
「もうちょっと頭を使えよ、んなわけねぇだろ(どこぞのなろう系主人公じゃあるまいし)」
余りに的外れな質問が飛んできた為、即座にヴォイドは否定する。
そして同時に「オレアム皇国の教育環境どうなってんの?」と、皇国に若干不審を抱きつつ、どうやってこの場を収めようか思案する。
1、負けを認めるまでボコボコにする。
これは過剰防衛になりかねないので保留。
2、この場で奴ら二人を殺す。
これは国際問題に発展しかねないので却下。
3、腕や足を切り落としたり、へし折ったりして無力化する。
こちらも国際問題に発展しかねないので却下。
4、ひたすら凌いで時間を稼ぐ。
取り敢えず今しばらくはこれを採用。
という事で二人を相手に会話しながら、たまに「死ぬかも」と感じるような攻め手を繰り出しつつ、ひたすらオレアム皇国や召喚された勇者に関する情報を抜き出していく。
本来は国家機密であろう情報も、今は相手が冷静さを失っているからか、面白いくらいに情報を喋ってくれる。
因みに召喚されたという勇者達は総勢で約30人。現在は各々班で別れて各国を「見聞を広げるため」という名目で視察しているとの事。
更にそれぞれが強力な固有能力を所持していて、皇国の上層部からは魔王に対する対抗戦力として期待されている事。
それとこいつらが今ここに居る理由は馬車での長期間(数日)の移動でストレスが溜まっており、お目付け役がたまたま目を離したのをいい事に隙を突いて街中に遊びに来たのだと。
そして本来ならこいつらは、班の他の面々と一緒にこの地域一体を治める辺境伯のお宅へ挨拶に行くはずだったらしい。
と、ここら辺まで話を聞いた辺りでようやく噂の辺境伯と一緒に勇者様のお連れが登場する。見た限り、男子4人と女子3人の班だったようだ。それぞれ全員が問題児そうな見た目をしている。
偏見は良くないと言うかもしれないが、残念ながらあながち間違いではなさそうなのだ、これが。見た目、口調、態度、そのどれもが何というか、癪に障る。
それこそ、今この場でぶっ殺してやりたいくらいには。
しかしこれ以上戦う必要もないので、斬魔刀を納刀してから袖に仕舞う様に隠す。そのまま袖の中から『ストレージ』へと収納して、完全に武装解除した様に取り繕う。
しかしヴォイドのコートの中にはスミス謹製の暗器がびっしりと仕込まれている。またやつらが襲ってきたら、今度はその場で即座に殺すために。
勇者の二人はお目付け役にしっかりと説教されていたが、二人はまるで聞く耳を持たない様子。
辺境伯の護衛らしき魔術師の人物はずっとこっちを見てくるしで、彼らが来るまで待ったのは失敗だったなと思うヴォイド。
そのままぼんやりと情報を聞き終えたら即座に退散すべきだったなぁ、と考えていると、ヴォイドは近寄ってきた辺境伯に話しかけられる。
「すまない諸君。私の客人が、大変迷惑をかけたようだ」
「お気になさらず、辺境伯。こちらは特に被害という被害も出ておりませんので」
「僕も大丈夫です。傷はマスターに治して貰ったので」
「俺とナパリも、大丈夫です」
辺境伯は全員の受け答えを聞いて、「本当にすまない」と深々としたお辞儀で謝罪してきた。本来は俺達のような身分の相手に対して頭を下げることなど有り得ないと思っていた相手に頭を下げられ丁寧な謝罪をされたが、それでもヴォイドが彼らを許すことはない。
(すまんな、辺境伯。あいつらにはいずれ、絶対に死んで貰う。というか、俺が殺す。人の弟子に手を出したんだ。一体どこの誰に喧嘩を売ったか、理解してもらわないと困るんだわ。バー爺もこれじゃ納得しないだろうし、この借りはいずれ必ず返すから、その首洗って待ってろ糞どもが)
と、顔を見られないのをいい事に、フードの中で醜く顔を歪めながら殺気を己の内にぶちまけるヴォイドは、しかし辺境伯に向かっては「どうぞお気になさらず」とにこやかに笑いかける。
その後、そのまま辺境伯が彼らを連れて行き、無事一件落着。辺境伯は去り際に俺達の名前を聞いて、「後日改めて謝罪をさせてくれ」と言い残していった。
そして更にその後、ヴォイド達はバー爺やオスドなどの昇格試験を共にした者達と合流し、全員で雑談しながら風見鶏亭へと向かう。
今日こうして改めて集まったのは昇格試験の昇格祝いをまだやっていなかった為、空いている日に全員で集まってやろうというコワーナの提案によるものだ。
ヴォイド達が借りている部屋でそれぞれが昼間の内に買った物などを食べながら、ルシアとナパリは互いに今日買ったアクセサリーや服装を見せ合ったりして、女子トークで盛り上がっていたり。
逆に男性陣はバー爺の武勇伝で盛り上がったり、お互いの戦術やスキルの話で激論になったり。挙句に今日のヴォイドの戦闘に関しての話になったり。
ルシア達は先程まであんな事があったにも関わらず、まるで気にしていないようだった。少なからずそのメンタルの強さにヴォイドは内心驚きつつも、いい感じにみんなが酒も進んで、その日は夜遅くまで騒ぎ、結局バー爺とヴォイド以外が完全に潰れたのだった。
内容を少し編集しました。 2022/05/17




