第十七話「昇格試験のその後」
ヴォイドとバートによる全力の殺し合いなどまるでなかったかの様に、昇格試験は無事終わりを告げた。
それでもヴォイドが勝ちを一人で掻っ攫ったため、多少不満の声はあったが。
因みに入手したリザードマンソルジャーの死体とスクロールについては、入手した当人が好きなようにしていいそうだ。リザードマンの死体に関しては言うまでもなく、売却だろう。だが、スクロールが問題だ。
入手したスクロールに記されていたのが使いきりの魔法ではなく、スキル獲得型の魔術だった為に、少し判断に困ったのだ。
記されている魔術は『風属性魔術 “疾風脚”』。風の精霊の祝福を条件付きで、一部位のみに限定的に再現したと言われている一般的な風魔術。他の効果といえば、この世界の使い方では蹴りを加速させたりするくらいである。
オスドやコワーナ達曰く、ハズレを引いたらしい。実際間違っていないので、何とも言えなかった。何より俺自身が既に扱える代物なので、単純に必要ない。
そんな訳で、ルシアに使わせてみた。
こういう時に割と素直に受け取ってくれるのは、非常に面倒がなくていい。因みに独自に魔術式(という名の魔法陣)を書き換えればそれなりの出力になったりするらしいのだが、攻撃用というよりは移動用として使った方が何かと良さそうだ。
という事で昇格試験が終わってから数時間、ルシアにはスクロールに記されていた魔術を獲得させ、その魔術の練習をひたすらさせている。
いずれは実戦で『縮地』と切り替えながら使うことを目標にして、今の内から戦闘以外でも使うことを常としておく。
そして試験は終わったので、既に全員で辺境都市ウロに戻ってきている。
それと昇格試験の合否についてだが、街の入口に戻ってすぐその場で「全員合格」を言い渡された。後なんでか試験官滅茶苦茶に睨まれたけど、多分監視官への妨害の事だろう。
そんなものは知りませんがね。
「マスター、これ何時までやればいいの?」
「取り敢えずは手持ちの魔力が切れるまで。今後は戦闘でも使ってね」
「あ、なるほど。その為の反復練習」
「そう、理解が早くて助かる」
因みにこの場に居ないバー爺だが、色々こちらに対して隠していた事に関しては許してないので一時的にパーティーリーダー権限で“罰”を与えた。
数日間の商人の護衛依頼に半ば強制で同行して貰っているので、現在最低でも三日は居ない事になっている。
そしてあの時手に入れた「彼女の欠片」なる物だが、今はネックレスになっている。
ルシアの首元に輝くソレは、平たく言えばあれもバー爺への嫌がらせの一つだ。あれならバー爺も無闇に手は出せないし、何より彼女本人が快諾してあそこに居る。
本人曰く、「ささやかな抵抗だけれど、あの子達のあんな顔が見られるかもしれないなら、もう少しこのままでもいいかも」という事らしい。
それと、一々喋るために意識を持っていかれるのが非常に不快だったので、『念話』や諸々のスキルを“付与”した。
現在はルシアの意識の中に自分の意識を投影して、アドバイザー感覚で意識の中に居座っているとか。
それとそんなヤバそうな欠片をルシアに装備させているのは、アレ自体が一種の魔力タンクであり、同時に魔法や魔術の発動媒体になる為でもある。
現に今も『疾風脚』の魔術式を保存して、いつでも使えるようにストックさせている。
術式の書き換えについても鍛錬の時にルシアに教えたのだが、ルシアが天才なのか、それとも彼女の入れ知恵か、覚えるのが早すぎて早々に教えることが無くなってしまった。
「もしかして、俺もう必要じゃなくね?となるともう、免許皆伝か?」
「.....えっ?嫌だ!」
「そう言われてもな、もう教えられる事があんまり無い。後は“視て盗め”としか」
そうヴォイドが言うと、ルシアはまるで絶望したような顔をして、ヴォイドを見つめる。とは言え、教えられることがもう殆どないのもまた事実。
故に選択肢としては『仙術』位しかないのだが、アレは理論上この世界では先天的な才能、もっと言えば超感覚的なモノがなければ、そもそも仙気を練り上げることすら至難の業なのだ。
なのだが、何故かルシアはヴォイドの目の前で仙気をドヤ顔で練り上げ始めている。「すごいでしょ!褒めて!」と言わんばかりにその尻尾が動いているのは気付いていないフリをしたが。
「これが本物の天才というやつですか.....」
ヴォイドが堪らず零してしまった愚痴に近い呟き。目の前で今一度、自分と彼女の才能の差という絶対的な壁を見せつけられてしまったのだから。
それも当然というものであろう。ヴォイドは仙気を純粋な自分の力だけで練り上げる事が出来るようになったのは、つい先日なのだから。『体内世界』で行われている数多の分身による修行や鍛錬を積み上げて積み上げて、ようやくだ。
時間換算すれば、容易に百の桁など超えていく年月分の苦行の末に得た技能だというのに、目の前の天才はそんなもの知ったことかとばかりに容易くの飛び越えていく。
そんなモノを見せつけられれば、嫌でも認めるしかない。
(天才ここに極まれり、ってか。こんなもん、イラつく事すら馬鹿馬鹿しくなるわ。最早「呆れ」しか出てこん)
フードの中で若干ムスっとしながら、仙気を難なく練り上げるルシアに歩み寄り仙気の使い方を軽く教え始めるヴォイドと、それを嬉々とした表情でどんどんと吸収していくルシア。
そして、項垂れつつ数人の冒険者達と商人の護衛依頼をこなすバート。
三者共に、今まで通り平和な日々が戻り心穏やかに過ごす中、水面下ではヴォイド達の知らぬところで悲劇の始まりが歩み寄る。
ヴォイド達はその存在が訪れるまでその事実に気が付くことはなく、そのせいでひとつの茶番が起こることを、この時はまだ誰も知らない。
誤字脱字が確認できたため、修正しました。
内容を少し編集しました。 2022/05/16




