第十四話「その魂に宿していたもの」
ヴォイドがバートへと放った、二つの問い。ヴォイドが所持している「彼女の欠片」と彼らが呼称する何かについてと、バート達の事について。
しっかりとした根拠は今のところない。しかし、ヴォイドは己の器である肉体が訴える勘を無視することはない。いや、出来ない。
何故なら同時に、彼が持ちうるスキルまでもが同じような反応を起こしていたから。
故に彼は、問いかける。
今尚、己の手の中で静かに在るだけのこの欠片と意識を接続した時、彼女と会話をしていた時、常にどこか感じていた「このデジャブは何だ?」と。
それは本来、存在する筈のない、存在してはいけない感覚。その僅かな違和感に気付こうが、本来は辿り着けぬ筈の答え。
だが運良くと言うべきか、ヴォイドは彼女という超越的で絶対的な存在との意識の接触により、彼が望む望まぬに関わらず、その運命の歯車は動き出す。
そして既に後戻りなど出来ぬことに、彼自身気付いている。故にこの場で、更なる飛躍を求めざるを得ない。
この先誰にも追従など許さない、才能などという理不尽を前にしても決して揺るがない強さを、圧倒的なまでの力を手に入れるための、最初の試練。
「デジャブ」というたった一つの僅かな手掛かりから彼が閃きによる限りない速度での思考により導き出した.....いや、辿り着いた答えは「平行世界」と言う概念。
ヴォイドはこの異世界で日常を過ごす中で度々、得も言われぬ違和感を感じ取っていた。違和感とも言えないような、極々小さな矛盾点。それもたった数度。
だが今回の出来事でその違和感を生み出していたのが、バートの言動であるとヴォイドは思考の末至る。
最初にこの感覚を感じたのは、バートと初めて会って剣を交えた時。二度目はその後に一緒に酒を飲んで遅くまで語り合った時。
そして三度目は、休日に手料理を振舞った時。
どれもがこの世界の日常の何気ない一コマだが、バートが度々見せる反応にヴォイドは「そう言えばそうだったような」という、ありえない感覚を覚えていた。
ヒントはあった。違和感も肉体は感じていた。足りなかったのは、考えること。
初めは警戒していたはずなのだ。それがいつの間にか予想外に仲良くなり、今では普通の親友だ。
だからこそ、そんな馬鹿な自分を許せず、同時に何も言わなかったバートの事も許せない。
しかしだ、普通ならここまで確信出来たとしても何もしない、いや出来ないだろう。別の世界から来たから、別の世界の自分を知っているから、なんだというのだ。
普通の人間に、世界を渡る術などありはしない。世界を繋げる為のエネルギーが足りない。観測する技術が足りない。渡る知識が足りない。
だが生憎と、彼は違った。無条件で繋ぎ、観測し、行き来する為の力と肉体があった。
故にヴォイドはバートの前に姿を現す直前、とある事を「秒速」で行った。
それは思考速度上昇系スキルの全てを、『体内世界』で生み出した全ての『分身』に行使させながら、その分身達を使って数多に存在する「並行世界の自分」へと接触するという力技による偉業。
理由は単純明快。何事も情報収集は重要だから、という理由だけ。人は未知を恐れる。故に出来る限りその未知を限りなく既知に近づけてしまえば、必要以上に恐れる必要はない。
だからこそ彼は、数多に存在する「自分達」に話を聞いた。
「彼ら彼女らは一体何者で、何が目的なのか?そして自らは彼ら彼女らを敵に回した時、果たして勝てるのか?」と。
それに対する返答が、前者は「抑止力」と似た存在や「守護者」だと。後者に関しては「今の状態ではほぼ不可能」とだけ。
ならばどうするか?そんなもの聞くまでもない。答えは単純。
“知っている者に聞けばいい”。
故に彼は「自分」という存在達から、あらゆる知識と経験を学んだ。しかしそれでもまだ、足りない。
だからこそ彼は自分という個を殺すことになる可能性があろうと、数多のオリジナルと『意識』『記憶』『経験』を常に共有し続ける事で、存在としての強さを更に飛躍的に上昇させた。
だがこれでもまだ、スタート地点にすら立てない。
故に、消滅し既に存在しない自分の記録を分身達を通して追体験する事で、その経験すら糧とする。
その中には、俺が目指した『完成形』に近い者達の記録も幾つかあった。
それは紛れもない、自分が至るかもしれなかった未来の一つ。
その「夢想の体現者」を追体験により憑依させ、俺達は時間が何千倍にも加速した『体内世界』で戦闘を繰り返した。結果として、俺は彼らの「能力」と「技術」を先取りし、遂にはその「刀技」すら譲り受けた。
彼等から俺が受け継いだものは、大きく二つ。一つはこの世界で顕現スキルと分類される、スキルの最高峰である『阿頼耶識(偽)』。
そしてもう一つが本来存在しないはずの継承スキルという分類と共に出現した、『創刀幻技』という名のスキル。
『阿頼耶識(偽)』は共有系スキルの辿り着く可能性の一つ。「無限に存在する自分」と、自身の存在全てを共有する事でしか得られない特別な力。
それは別世界の同じ人間の意識を無限に共有し、意図的に「集合体無意識」を造り上げるという狂気から生み出される、概念的な力。
その結果として我々は、存在の根底で自分達が作り上げたその「源流」と繋がる事になる。
そんな全てが偽りで飾り付けられた虚無の中で、我ら虚人は何を求めるか。「根源」か「真理」か、はたまた「神」か。
しかし辿り着いた先は、そのどれでもない。
己の起源は「虚」。だが、本来何も無い筈のその存在の根底には「無」が在った。その矛盾した「無」が唯一生み出せたのが、偽りで形作られた贋作の「全」。
だが繋がることで自身の内より滲み出る「虚無」の本質を理解した今、彼の贋作は、本物へと昇華された。
『俺は、俺の持ちうる虚無を以て、“全知全能”の存在へと至ってみせよう。他人の入る余地など与えない、降りかかる理不尽など容易く消し飛ばそう。その為に、俺はここまで生き延びたのだから』
バートの返答を待たず、手に握る「彼女の欠片」を『ストレージ』へと仕舞う。その瞬間、バートは腰の刀に手を掛ける。見れば既にその鯉口も切られている。
吹っ掛けたのはこちら。相手も殺る気は満々。それならば、場所はこちらで提供しよう。
(さぁ、存分に抵抗してくれ給え、小さき剣士よ)
フードの中で三日月型に歪められた口から紡がれるは、昏き詠唱。しかし発動されるのは魔法でも魔術でも、ましてや魔導でもない。
溢れ出る殺気は最早止めどなく、その身から放出されるは夢幻の力。未だ目覚めぬ者に貸し与えるは、虚空の玉座にて終わりの到来を待つ、我らが偽王。
「日陽佚墜、陽光よ反転せよ。聖浄を蝕み、呑み込み、穢し給え。赤き大地は灼熱を、黒き太陽は侵食を、鳴響する怨嗟は恐怖を」
呼び覚まされるは地獄の大地。鳴り響くは怨霊の叫び。上書きされし穢れた国土は、命を貪る呪いを孕む。
穢らわしきその世界の名は――――
「数多の魑魅魍魎を従えて、我が呼び声に応え顕現せよ、厭離穢土」
内容を少し編集しました。 2022/05/09




