第十三話「歩み寄る運命を拒絶する者」
リザードマンソルジャーの死体と槍を『ストレージ』に回収後、部屋の中に突如として出現したあからさまな宝箱。それとなくミミックではないのかと警戒しつつ、箱を開ける。
開けた箱がやっぱりミミックで襲いかかってくる――――という事もなく、宝箱の中から出てきたのは「スクロール」と呼ばれる、魔法や魔術が記されている巻物だった。
「現物を見たのは初めてだな」と思いつつ、スクロールを取ろうと姿勢を低くした瞬間、視界の端で何かが動いた為、ヴォイドはその何かを『サイコキネシス』のスキルで強引に動きを止める。
そのまま素早くスクロールを回収してから目をやると、そこには透明で縦長の丸い形をした宝石の類が壁にめり込むようにして存在していた。
『鑑定』で見てみればその宝石は「ダンジョン核」と表示されはしたものの、それと同時に宿ったこの肉体とスキルの『直感』が「それは違う物だ」と告げてくる。
「これが所謂、第六感ってやつか」とどこか冷静な思考をするヴォイドは本能に従い、『万物万象理解』を発動。
その途端、視界に入る全ての物の情報が一瞬にして頭の中へ流れ込んでくる。一秒にも満たない時間でヴォイドの素の演算能力を超えてくるため、堪らず思考能力上昇系の能力を複数起動し、情報を精査してゆく。
そして数秒の後、その情報の中に誰かの記録らしき....いや、「記憶」らしきモノが混じっている。
だがヴォイドがそこまで認識した途端、そのままヴォイドは数秒間意識を飛ばす。立ったまま、何者かにより意識を引きずり込まれそうになり――――
しかしすぐさま、こういう時の為に創られていた緊急用のスキル達により、引っ張られていたその意識を強制的に肉体へと押し戻した。
「ッ!?」
ヴォイドは意識が戻った瞬間に即座に宝石に見える何かから距離を取り、注意深く観察しながら全てのスキルを即座に起動する。
(意識を強制的に戻せはしたが、正直今のは危なかったな。身体の違和感は.....なし、か。.....いっそのこと破壊するか?だが、今後の事も考えて情報が欲しいのも事実だな。現状を考えれば確かにハイリスクではある、だが同時に得られるリターンもまた未知数。.....試すにしても一度だけ、だな)
素早く考えをまとめ、最大限警戒を引き上げ、更に分身を複数体通して再度宝石に見える何かへと接続を試す。
本体には絶対に危険が及ばぬよう、今持てる全ての力を使って守りながら。
ヴォイドの分身の一体が宝石へとゆっくりと触れ、その意識が再度、先程と同じように引きずり込まれ――――
そんなに怖がらないで。貴方に危害を加えるつもりはないわ。
頭の中に直接話しかけられているような感覚とともに、ノイズがかかった様な音でそんな言葉が告げられた。まるで、こんな状況になっているのは自分の本意じゃないとでも言うように、まるで自分は何も悪くないとでも思っているように。
『っ!?.......お前は、何者だ』
少しの沈黙の後に告げられた言の葉は無意識の内に、僅かな怒りが込められ語気を強くする。
強がるように、少しでも自分を大きく見せるように。弱い自分を守るため、強者の仮面を貼り付けて。
(さっきの記憶の持ち主か?チッ、分からん。今のところ敵意はない.....と見ていいのか?それすら分からんな、クソが)
この一瞬で溜まった怒りという名の毒を内心で少しずつ吐き出しながら、ヴォイドは己の魂に触れようとする者を拒絶する壁を創りだし、一方的に相手へと話しかける。
『もう一度聞く。お前は、一体なんだ?』
先程はこちらの問いかけに対し反応はなかったが、今度は違った。
『私?私は私よ。と言っても、貴方は納得しないわよね....。う~ん、そうね。敢えて言うなら、今の私はただの隠居人って感じかしら』
僅かにノイズがかった声で告げられる、情報があるようで一切ない自己紹介。それが今のヴォイドの神経を逆撫でしている事を彼女は知ってか知らずか、そう告げる。
それでもヴォイドは情報収集の方が重要と判断し、爆発しそうになる感情を抑制して平静を装う。
『隠居人だと?尚更、意味が分からない。何故此処に居る?何故俺に接触を図った?何故、俺の意識に触れられた?嘘偽りなく答えろ』
目の前の存在に問うは、その理由。
『あら、相手の事ばかり聞く男はモテないわよ?ただそうね.....一つだけ言えるのは、私はそんなに警戒する程の存在じゃないってことよ』
こちらの質問をまるで何でもないようにひらりと躱し、警戒を抱くなと告げる謎の存在。しかし――――
『は?お前まさか、ふざけてんのか?初めましてでいきなり人のこと気絶させておいて、私は危険な存在じゃないので警戒しないで下さい、なんて馬鹿な話、通る訳ねぇだろうが』
辺り一帯に濃密な殺気を振りまきながら、ヴォイドはそう答える。すると彼女は少し呆れた様子で『強情な人ね』とだけ返して、二人の会話はそこで終了する。
未だ沸々と際限なく沸き上がる怒りを少しずつ沈めながら、ヴォイドはその意識を現実に浮上させ、彼女と接触している時に常に感じていた違和感を確認するため、ボス部屋を後にする。
通路で隠れて待機していた監視官に対して目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛け、四肢を骨折させた後に気絶させ、自らの目の前にスキルで『狭間の回廊』の入口を展開する。
洞窟の暗闇の中に、更に深い闇によって穿たれた黒き回廊の繋がる先は、剣士を名乗る謎の男へ繋げられる。
それを確認したヴォイドは迷うことなく、その場を後にした。
※
洞窟の探索中、もうすぐ最下層かという所で正面の空間から抜け道を使ってヴォイドがバートの前に現れる。今のヴォイドはフードを深く被っていてその表情は見えないが、明らかな敵意が圧迫感という形でバートの全身に押し付けられる。
これほどの敵意を押し付けられる理由は分からない。故に平静を装い、一体何があったのか聞き出そうと口を開く。
「どうしたんじゃ?随分と急いている様じゃが――――」
ヴォイドは喋らない。敵意を向けられる理由すら分からない。それでも、何があったのかは聞き出さねばならない。何故なら己は、彼という特異点に付けられた監視役なのだから。
だがいつの世も運命というのは無慈悲なもので、ヴォイドに告げられる一言でその決意すら容易に揺らぐ。
「コレは、一体なんだ?」
「ッ!?」
こちらに見せつけるようにその手に握られていたのは、自分達が「彼女の欠片」と呼称するモノ。
(まさかこんな場所にあるとは、不注意であった....。どうにか、取り返さねば)
バートは一気に背筋が冷えるのを感じる。ここから先、彼に対して嘘は通じない。それどころか今、己が口を開けば間違いなく、アレを砕かれる。
そう直感的に思い、いっそのこと強引にでも奪い取ってしまおうかと考えたところでヴォイドから再度、別の質問を投げかけられる。
「お前達は、何者だ?嘘偽りなく答えろ」
「......」
驚く程にドスの効いた低い声が響く。対面しているバートにしてみれば、殺気を飛ばされている様にすら感じた。
そんな洞窟内の一角で、ポタポタと天井から滴る水滴の音だけが周囲に不気味に響き渡る。
そんな今までに体験したことのない修羅場を前に、剣士バートは高速で頭を回転させる。何としてでも彼が持つ「彼女の欠片」を回収し、彼を説得するために。
内容を少し編集しました。 2022/05/02




