第十二話「新たな技能と後手必勝」
試験官から昇格試験開始の合図が出され、その合図を聞いてすぐにコワーナ、ナパリ、オスドの三人は洞窟へと入っていった。
コワーナとナパリの二人は今回、安全を取ってペアで攻略するそうだ。オスドは元々ソロである為、一人で迷いなく進んでいった。
そんな三人に続いてヴォイド達も洞窟へ入ると、少し進んだ先に程なくして二つの分かれ道が現れる。左に続く道からは気配が三つ感じられたが、ヴォイドはその事を「やはり」と思うのみで、すぐに興味を失い右に続く道へと視線を向ける。
そしてその分かれ道を迷うことなく、ヴォイドは右に進む。
更に下りの一本道を歩けば、また分かれ道が目の前に広がる。それも先程の様な二択と違い、今度は4つの道。更にその内一つに、オスドらしき人物の気配がある。何故か感じた気配は二つあったが。
しかしヴォイドは少し思案した後、真正面に続く道を見ながら宣言する。
「各々、正面突破で」
「「異議なし!」」
僅かの躊躇いもない満場一致の回答。
示し合わせたように、同じタイミングで全員が駆け出す。各々が正面に広がる穴の奥へ。ヴォイドも迷わず、自らの正面にあった道へと飛び込む。
とは言え勿論ここは洞窟内。新しくダンジョンになったと言うことらしいが、それでもまだこの辺りの浅い階層は普通の洞窟と何ら変わらない。
それ故に本来であれば明かりの類がなければ殆ど何も見えない筈なのであるが、そこはやはりヴォイドの能力や宿った器のスペックが違う為、何も問題はない。
同じようにバートやルシアも明かりの類は使わずに、陽の光が届かない真っ暗な洞窟内を疾駆しているが、やはり彼らもヴォイドと行動を共にしているだけあってこの程度の暗闇であればやはり、その行動に支障はない。
ヴォイド達がそれぞれ通路に駆け出してから約数分が経った頃だろうか、先程からそれなりの速度で洞窟内を疾駆しているのにも関わらず、その背中に常に視線が付いてくる。
とはいえその正体に関しては恐らく冒険者ギルドが雇った、もしくはギルド直轄の試験監視官のようなものだろうと、ヴォイドは半ば確信していた。今回の試験の内容が未熟なダンジョンの踏破である以上、常に死の危険は付きまとう。
それ故に試験を受ける冒険者は何をするか分かったものではない。例えば同じく試験を受けている者達を殺して、その後にダンジョンを攻略すれば――――と考える者も少なからず居るのだ。
そう言う行動を取りそうな場合や、冒険者がこれ以上探索を続けるのは不可能な状態に陥った場合に限り、ギルドにより派遣された監視官の判断で「試験失格」を告げる事が出来る。
とはいえ前述の情報は勿論極秘の情報なため、今のところヴォイドが知る由もないのだが。
しかし彼らはヴォイドから見ても、普通に練度が高い。この真っ暗な環境下で、更に漆黒の衣装で余すことなく全身を包んでいるヴォイドから決して目を離すことなく付いて来ているのだから、それこそ賞賛に値するだろう。
とはいえ、ヴォイドとしては一方的にこちらの情報を抜き取られるのは面白くない。動き方一つ取っても、得られる情報は多くある。それが戦い方となれば、尚更の事だろう。
(まぁ、今のところ邪魔をするつもりがないなら、いいか)
軽く、本当に軽く「都合が悪くなったら後で消せばいいか」と、何の躊躇いもなく浮かぶ辺り、やはりヴォイドは周りとどこかズレているのだろう。この世界ではそのズレがあまり異端として扱われないのが、ある種の救いではあったが。
そんな事を軽く考えながら動いていたヴォイドだったが、最初にルシアとバートの二人と別れた時点で既に、洞窟内部の立体地図はスキルによって脳内で完成している為、ヴォイドはその地図に従って最短距離で最下層まで移動するだけでいい。
故に、この試験開始と共に始まった競争の勝敗に関しては、全くと言っていい程に負ける要素はない。
だがバートやルシアの様な天才がどんな手段を用いてくるか分からないのも事実な為、ヴォイドは足を止めることなく進んでいる。
その途中出くわすゴブリンやキラーアント、ダイアウルフなどの魔物は全て体術のみで屠っていく。死体は触れるだけで『ストレージ』に収納出来るため、その場に残るのは精々が血痕のみ。
そしてそのまま五分ほど走り続け、感覚的には5階層分ほど降りた辺りで、ヴォイド早々に目的地であるボス部屋と思しき扉の前に到着した。
そのままボス部屋へと入る前に、ヴォイドは背後で未だこちらを監視する者に対して身体が強張る程の濃密な殺気を飛ばし、一瞬動きが止まったのを確認した瞬間に扉の中へと滑り込んだ。
確かにこの暗闇の中でこちらを見失わずに付いて来た功績は賞賛に値するが、こちらもみすみす能力をバラすつもりはない為、ここでご退場願う。
部屋内に滑り込む刹那、おまけとばかりに『フラッシュ』の魔法をスキルにより強引に無詠唱で発動し、監視官の目を潰しておく。
この暗闇に慣れきった状態の視界にいきなり眩い光が放たれるのだ、さぞかし眩しいだろう。
そんなこんなでヴォイドが無事ボス部屋に入ると、その行動を鍵として部屋自体が特殊な結界として作動し、挑戦者が勝つか負けるかしないと入口の扉は開かなくなる。
だがヴォイドに付いて来ていた監視官も流石の練度か。扉が閉まり切るギリギリのところでネズミの使い魔を放って物陰に潜ませ、俺を未だに監視している。
(すごい執念だな。まぁ、あれは戦闘中に事故を装って消せばいいか)
と考え即座に思考をまとめ、眼前に佇む鱗人と対面する。屈強な肉体と蜥蜴の様な顔付き、所々に付けられている防具の名残。
そしてその全身を包む鱗と、腰から伸びる太い尻尾。
(あれは確か、討伐難易度Cランクに分類されるリザードマンだったか。だがあの手元の槍と防具の名残、何よりあの感じは多分戦い慣れてるな。ならやっぱり、リザードマンソルジャーか。それも将クラスと見た)
目の前の相手についての情報を思い出しながら、ヴォイドは早速今日覚えたばかりの魔力を空中で文字にする技術を用い、相手の死角となる場所で複数同時に魔法の詠唱を紡ぐ。
対するリザードマンはその事に気が付く事はなく、その手に握る鋭利な槍の切っ先をこちらに向け、短く吠える。
「キシャアッ!!」
戦闘開始のゴングが鳴る。それはこちらを威嚇するようなリザードマンの鳴き声。それと同時にリザードマンは素早い踏み込みを遂行し、対するヴォイドを射程内に捉え初撃の突きが放たれる。
ヴォイドはそれを最低限の体捌きのみで容易に躱し、それどころかリザードマンが放った槍を脇に抱え込むことで強制的に相手の動きを止め、更に素早く足を絡めて相手を押し出し、その体制を完全に崩してみせる。
結果として、リザードマンは槍を手放さざる負えず、しかし倒れた体制を即座に立て直すことに成功する。
それを見ていたヴォイドは手元の槍は邪魔であると判断し、部屋の片隅へ投擲するようにして投げ捨てる。その際何かしらの生物が死んだような声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。
リザードマンはそんなヴォイドに対して警戒するような視線を向け、じっくりと観察している。しかしリザードマンが今相対しているのはあのヴォイドなのだ。ならば必然、彼がただ相手を逃がすはずがなく。
物陰で文字の形へと操られる魔力が紡ぐは、初級の雷撃魔法。
『雷属性魔法 “トニトルス”』
リザードマンの背後と左右の三ヶ所より魔力が収束し、雷となって飛来する。目標は体勢を立て直してすぐのリザードマンソルジャー、しかして速度は雷速。気付いた時には既に時遅く――――
「ギャァァアアアアッ!?」
聞いたこともないような絶叫を上げ、リザードマンはその身体を痺れさせる。食らったのはたった三発の雷撃。しかしタイミングを完璧に合わせて放たれた初級の雷撃魔法は威力だけなら中級に届くのではないかという威力を発揮し、鱗人をその場に縛り付けた。
そしてその隙はヴォイドにとって致命的であるのは言わずもがな。故にその隙をヴォイドが逃すはずもなく――――
『仙法 基礎ノ型 “縮地”』
それは体内にて練り上げた仙気を用いて己と敵の間に広がる空間や地脈に干渉し、互いの距離を限りなく零に縮める事で、瞬間的に移動したように見せる仙術の基礎技。『縮地』は使用の際に縮める距離によって対象の動きに緩急を作り出し、敵を翻弄するといった使い方も出来る為、使い方は千差万別である。
そんな『縮地』により文字通り一瞬でリザードマンの懐に深く入り込んだヴォイドは、続けて攻撃用の仙術を使用する。
闘気の守りなど容易く貫通し、相手の内部、即ち内蔵を破壊するべく心臓付近に放たれるその剛拳。
『玄武の型 “鎧壊勁拳”』
射出されるは練り上げられた岩属性の仙気を纏いし内部破壊の浸透勁。打ち付けられるはリザードマンの左胸。
狙いは寸分違わず心の臓。
貫通することなくリザードマンの体内でのたうち回るは、波の様に反響する仙気の衝撃。それらがリザードマンの体内で一点に集中した後、衝撃は爆発的に膨れ上がることで内部器官のほぼ全てを破壊する。
鎧のような鱗ごと、衝撃を体内で反響させる事で内部からも外部からもその肉体を破壊する拳技は鎧如きで防御すること能わず、無慈悲な音を立てて死を宣告する。
肉体内部で押し止められなくなった衝撃はリザードマンの鱗に歪な線を走らせ、隙間や穴からその鮮血を迸らせる。
外部まで漏れ出た衝撃により、部屋内には薄く土煙が立ち上り、両者の視界を少しの間遮る。しかしヴォイドは動かない。
何故ならば――――数秒後、土煙が晴れてその中から姿を現したのは、全身にヒビが入り、その割れ目から血を流すリザードマンソルジャーの死体だったから。
誤字脱字が確認できたため、修正しました。
内容を少し編集しました。2022/04/30




