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第73話 新居建設とタオル

 僕たちの仲間に、リムンとルーミンが加わってから約一か月の時が過ぎていた。



「なあ、ソル。ユーリルとパルフィの新居の方はどうなっているんだ」


「うん、父さん。パルフィの希望で鍛冶工房に繋げて作ることになったみたい」


「そうか、あの場所ならうちの井戸が使えるから、マユスに頼まなくてよさそうだな」


 ユーリルとパルフィの結婚式は、予定通り夏に入った頃に行うことになった。そうなると当然二人が生活する新居が必要になるわけで、パルフィに希望を聞いたら、予想通り鍛冶工房に引っ付けて作ってくれと頼まれた。


「そこなら、子育てしながら鍛冶も打てるからよ」


 って言っていたけど、あんなうるさいところに一緒にいたら、赤ちゃん泣き出しちゃうんじゃないのかなぁ。


「あたいもそうやって育てられたから心配いらないぜ」


 本人がそういうので、工房のみんなも手伝って、明日からユーリルとパルフィの新居を作ることになっている。


 新居ができたら、ユーリルとパルフィは結婚の準備のため一度コルカに行くのだけど、その時にはアラルクとラーレも一緒だ。というのも、アラルクとラーレの結婚も決まって、せっかくだからということで二組同時に結婚式を挙げることになったのだ。


「そっちの新居はどうなっているの?」


 工房の織物部屋で作業中、ラーレに尋ねてみた。


「うん、お父さんが村の人に手伝ってもらって作ってくれている」


 ラーレは馬が好きだから、たくさん馬を飼っている自分の実家の近くに新居を構えることにしたみたい。

 それに理由はそれだけでなく、「近くにいた方がお母さんに赤ちゃんの世話頼みやすいし」と、言っていたから、もしかしたらそちらの理由の方が大きいのかもしれない。



 さてと、あと工房の仲間で嫁ぎ先が決まってないのは……


「コペルには誰か気になる人はいないの?」


「私は待っているから」


 コペルは機織り機でタオルを織る作業を止めずに返事をした。


「え、誰を?」


「それはまだ言えない」


 誰か心に決めた人でも出来たのかな。まだ言えないというのを無理やり聞くわけにもいかないし、話してくれるまで待つしかないのかな。



 ちなみに只今工房の織物部屋では、タオルを絶賛量産中。


 コペルがユーリルから頼まれて織ったタオルは、見るからにふわふわでそれでいて耐久性もある優れモノだった。まずは工房のみんなの分を作ってくれたんだけど、それは当然家族の目にも止まり、使ってみたら私も欲しいとなり、以前の糸車の時のように注文が殺到した。

 コペルに量産可能かと聞いたら、作り方がわかったらみんなで織ることができるという。そこで、ユーリルたちに頼んで急いで追加の機織り機を作ってもらい、冬の初めころからみんなしてタオルを作り始めているのだ。


 そのタオルなんだけど、冬の間に村の各家庭にある程度行き渡ったので、せっかく設備があるからと、今年の春頃リュザールたちに頼んで隊商で扱ってもらうようにお願いしたのが失敗だった。

 他の村でもタオルの評判は良く、隊商に預けたタオルはすぐに完売している状態で、今では、手に入れるためには多少高くても買おうという人たちまで出てきているみたい。どうもこのままでは問題になりそうな感じなのだ。

 元々の値段も、機織り機を使っても手間と時間がかかるのでタオル2枚で麦半袋、日本円だと1枚2,500円~3,000円くらいになるから決して安くはないんだけどね。


 とにかく、みんなの不満が溜まらないように春からずっとタオルを作り続けているんだけど……


「ソルさん、そろそろ誰か入れてくださいよー。タオルばかりで飽きちゃいました」


 そう言ったのはルーミン。……他にも頷いている子たちがいるようだ。


「そうは言っても、なかなか女の人が来てくれなくて……」


「この際男でもいいですからお願いします」


 そうかといって、ユーリルたちの組は機織り機を作るのに忙しいし、アラルク組の方は荷馬車がまだ足りていない。リムンやコルカから来てくれた鍛冶職人を鍛冶工房から移したらパルフィが黙ってはいない。これはもう一度他の村の村長さんたちに頼まないといけないかな。


「みんなは男の人がここで作業しても大丈夫?」


「ここにはソルとルーミンがいるから大丈夫よ」


 みんなは、私もルーミンもリュザールから武術を習っていることも、多少の相手では負けることが無いことも知っている。


「わかった。何とかしてみる」


 とは言ったものの、機織りを男の人にやってって言っても聞いてくれるかなあ。





 休憩の時、隊商から帰ってアラルク組の荷馬車を手伝ってくれているリュザールに聞いてみた。


「そうだね、難しいような気がするけど、もしかしたら今なら何とかなるかもしれない」


「今なら?」


「うん、コペルが作ってくれたタオルが評判なのは知っているよね」


 知っている。それで明けても暮れてもタオルばかりだと、ルーミンが文句を言ってきているのだから。


「ソルが話してくれたじゃない、春先に村長さんたちが何とかしてくれって押し寄せてきたって」


 そうそう、まさに押し寄せてって感じだった。


「あの人たち、今度は村人からタオルをどうにかしてくれてって言われているらしくて、ボクたちに相談があっているんだけど、これ以上作ることできないでしょう。だから、カインに来ても手に入れられないから来ないでくださいって言っているんだよね。そうしないとまた押し寄せてきそうだったし。それでも村長さんたちは、村人のために何かしないといけないはずだから、うまくやったら人の都合つけてくれるんじゃないかな」


 相変わらず村長さんは大変だ。


「でも、そういう交渉って」


「ユーリルが得意だよね」


 ユーリルは新居を作ってコルカに行かないといけないし……あ、そうか!


「ソルもわかったようだね」


 リュザールは、私を見てにっこりとほほ笑んだ。





 ユーリルとパルフィの新居の建設は工房から多くの職人が参加して行う。隊商から戻って来ているリュザールとユーリルたちの機織り機組、鍛冶工房のパルフィとリムン、そして織物部屋からはルーミン。


 普通なら建設には女の子は参加しないけど、ルーミンが息ぬきをしたいと言っていたので、手伝いをしてもらうことにした。


「よかったです。タオルを嫌いになるところでした」


 大げさだけど、ルーミンはこちらと繋がって以来タオルばかりの毎日だったから、さすがに可愛そうだったんだよね。


「テラに来たら、もっと派手な人生を歩めると思ったんだけどなあ」


 そんなに甘い話はありません。日々の生活をやっていくだけです。


あとがきです。

「ソルです」

「ルーミンです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「こちらのことがわかって、幻滅しちゃった?」

「ルーミンとしては、ずっと生きてきましたから幻滅はしてないですけど、ソルさんたちはもっと派手に生きているのかと思ってました」

「いつもは普段通り生活しているだけだよ。旅にもあまり行かないよ」

「こうなったら私も早く旦那さん見つけないと、退屈で死んじゃうかもです」

「それくらいでは死ないと思うけど、ルーミンは男の人と結婚することに抵抗はないの? 私は最初の頃は無理だって思っていたよ」

「そうですね。今はもうルーミンと海渡の記憶が一緒になっているでしょう。そしたら男の子のことも女の子のこともわかるようになって、いろいろと経験したいって気持ちが強いんですよね。だから子供を産んでみたいです!」

「そ、そうなんだ。頑張ってね」

「しばらくテラでの話が続きます」

「「それでは次回もお楽しみに―」」

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