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第63話 村長さんたちのもとへ

 今日は春の中日、地球で言うところの春のお彼岸だ。今日、私、ユーリル、リュザールの三人は揃って16歳になった。

 地球では高校受験も無事終わり、4月になったら三人そろって同じ高校に通うことになる。そして、明日の祝日には三人で一緒に、高校で必要な物を買いに行くことになっていて、楽しみにしているんだ。



「ユーリル大変、また来ちゃった」


 ビントから来た職人さんたちは雪が深くならないうちに送り出し、冬の間は新しく入ったジャムやリムン、ルーミンの他に、リュザールとセムトおじさんが連れてきてくれた4人の職人に仕事を教えたりして過ごしていた。

 リュザールも、隊商が冬の間は動けないから工房の仕事を手伝ってくれていて、こういうのんびりできるのもいいなって思っていたんだけど、雪が溶けだしてから一変した。

 ビントの村長さんから聞いたのか、次々にあちらこちらの村の村長さんたちがやって来て、自分のところも何とかしてくれと言ってきているのだ。


「えー、また。ちゃんと連絡するからって言って帰ってもらった?」


「うん、そう言って帰ってもらったけど、すぐにでも返事に行かないとまた来ちゃうよ」


「でもねえ、荷馬車作ってもらってもいいけど、あっちこっちでいっぺんに作っちゃうと需要がくずれちゃうんだよね」


 そうなんだ、今はまだ荷馬車が足りてないから、作らせることは可能だけど、行き渡ってしまったら作っても売れなくなって、結局その村の人達が困ることになる。


「ねえユーリル。何とかできないかな」


「そう言われても……第一、他の村のことなんて僕たちが気にすることないと思うけど、ソルは助けたいって思っているんでしょう」


 うんと頷くと、


「じゃあさ、みんな同じようにできないから、優先順位つけて困っているところから助ける。そして、その土地でしかできないことを教えてあげる」


 どういうこと?

 ユーリルに詳しく聞くと、


「まずは、シリル川下流の村が、川のせいで荷馬車が渡れなくて困っているって言っていたよね」


 そう、そこの村の人はこれまでは隊商の人たちが川を馬で渡っていたので困ることもなかったけど、荷馬車になって川を渡ることができなくなって、コルカからの隊商が寄る回数が減ってしまって困っているようなのだ。

 便利になると思って作った荷馬車で、困る人が出てしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになっている。


「あそこの村の近く川に、バーシの人たちに橋を架けてもらう。その橋の費用を賄うために荷馬車を作ってもらう」


「荷馬車を? でも橋がないから川を渡れないよ」


「うん、だけど、あの川の向こうにはいくつか村があるんだよね。それに川を渡らなくてもコルカを通らずにカルトゥまで行く道もある。遠いけどね」


 ユーリルによるとその村から川に沿って盆地の出口へと向かう道があるらしい。盆地の出口の方では川が広くなっていて深い場所もないから、荷馬車でも渡れるみたい。そこまで行けば、カルトゥにもコルカにも行くことができる。

 来てくれる隊商がいないのなら、近くの村と一緒に隊商を組んで、自分たちで荷馬車を使った交易をしたらいいんじゃないかということだ。

 それに荷馬車を作る場所を、カインとビントとその村だけにしたら、荷馬車が行き渡っても買い替えとか修理とかがあるはずだから食べられなくなることもないって言っていた。


「他のところはどうするの?」


「土地が広くあるところは綿花を作ってもらって、できるなら糸まで加工してもらう。土地がないところにはここから機織り機を納めて、綿花を作った村から仕入れた糸で織物をしてもらう。できた織物は他の村や町に交易で売っていけば仕事になると思うんだ。

 そして、マルカ村の人も来ていたでしょ。そこはそれこそ養蚕(ようさん)してもらえばいいよ。桑の林もあるし繭作る昆虫もいるのだから」


 確かにこれならどの村も仕事を確保出来て、尚且つ、需要を無視した供給にはならないような気がする。



 そうと決まったら、村長さん達にその話を伝えに行かなければならない。

 まずは、さっき来てくれた村長さんだ。今日は隊商宿に泊まるって言っていたから、このことを伝えたら喜んでくれるだろう。


「ちょっと待って、今から隊商宿にいる村長のところに行くんでしょう。それならこれ持って行って」


 そういってユーリルが手渡してくれたのは、パルフィの工房で作っている銅貨だった。冬の間中作っていたから結構貯まっていると思うけど、まだみんなに配るのには足りなんじゃないかな。


「これどうするの?」


「銅貨を配るときに協力してもらおうと思って」


 自分では説明できそうにはないので、ユーリルに付いて来てもらって隊商宿にいる村長さんのところに行くことにした。



 カイン村の隊商宿の主人はミサフィ母さんのお兄さん。つまり、私のおじさんにお願いして村長さんを呼んできてもらう。


「これはソルさん、先ほどは失礼しました。無理なお願いをしてしまって申し訳ありません。それでどうされました?」


「ちょっと思いついたことがありまして、こちらにいらっしゃるうちにお伝えできればと思い参りました」


「はあ、それでどういった内容でしょうか」


「私ではうまく伝えきれないので、詳しくはこちらのユーリルから聞いてもらえますか」



「ユーリルです。よろしくお願いします。まずは、こちらの生地を見ていただけますか」


「これは、いまカイン村で作られている綿の生地ですよね。私の村にはまだ来てないので、早く手に入れてくれと村人からも急かされております」


「村長さんのところは土地が広いと聞いております。もしよかったら空いた土地で、この綿ができる植物、綿花を栽培していただけませんか?」


「え、この生地の元になる植物を? 本当によろしいのですか」


「はい、ただ、一つ条件があります。この植物は、工房の主であるソルがこの地方で作るために取り寄せたものです。試しにカインで栽培してみてわかったのですが、栽培に結構な量の水を使います。もし、広い面積で栽培してしまうと水が枯れてしまう恐れがあります。だから、必要以上に広めないでいただきたいのですが、それを守っていただけますか?」


「水をですか……わかりました。気を付けて植えることにします。それで収穫した後の種はどうしたらいいでしょうか?」


「必要以上に広めないということであれば、そちらで管理していただいて構いません」


「おお、それはありがたい。戻りましたら村人に伝えます。きっと喜んでくれることでしょう」


「あとですね。これはお願いなんですが聞いていただけますか」


 そういってユーリルは銅貨を見せて、普及するときには協力してくれるように頼んだ。

 村長さんも最初は、硬貨なんてなくてもうまく行っているのにどうして必要かという顔していたけど、綿の生地をたくさん作って荷馬車で運んで、戻ってきたのは大量の麦という話を聞いた時にハッとした顔をしていたから、理解してくれたと思う。




 翌日の春分の日の休日、予定通り三人で集まり買い物に行く予定だ。とはいえ、目的地の繁華街は家から歩いて10分くらいなので、今日は僕の家に集まって一緒に行くことにしている。


 ピンポーン! 少し早いけどどっちかな。あ、お母さんが出ちゃった。


「おはようございます真由美さん。樹君いますか?」


「あら、風花ちゃんおはよう。もう、家のお嫁さんに来てくれるんだからお義母さんって呼んでもらってもいいのよ」


 クリスマスの劇の出来事が、顔の広いお母さんの耳に入るのは当たり前のことで、僕がいくらあれは劇の中の話だと言っても信じてもらえず、風花も風花で顔を赤らめて嬉しそうにしているものだから、もうそういう話が出来上がってしまっている状態なんだ。


「お、お義母さん?……」


「ふ、風花ちゃんかわいい!」


 もう、好きにして……


「おはようございます。樹いる? うわっ。玄関先で何やってんの風花と樹の母ちゃん」


「あら、剛君おはよう。樹、風花ちゃんに剛君来ているわよって、いつからそこにいたの」


「最初からいたけど、口出しする暇がなくて……お母さんそろそろ風花を離してあげて」


「あら」といって、お母さんは抱きしめている風花を残念そうに離した。


「お母さん、買い物に行って来るからね」




「風花も嫌なら嫌と言わないとだめだよ」


 繁華街への道すがら風花に話す。


「樹君のお母さんだから嫌じゃなかったよ」


 風花がいいんならいいんだけどさ。


「そんなことより、樹は風花にあのこと言ったの?」


 そうだった。今日のうちに言っておかないといけなかった。


「あのね、風花。ソルとユーリルとアラルクで村々を回ることになったんだ」


 リュザールは雪が少なくなったということで、数日前からセムトおじさんたちの隊商に参加してコルカに向かっている。昨日こちらで聞いた話だと、もうそろそろコルカにつくころだと思う。


「ソルたちはいつ出発するの?」


「明日かな。シリル川の北の村にも行かないといけないから、リュザールがカインに戻ってもまだ帰って来てないかもしれない」


「そうなんだ。明日からコルカでしばらく町にいないといけないからなあ、どこかで合流できたらいいんだけど」


「毎日連絡するよ。会えそうなら会いたいからね」


 テラでは移動中に襲われることがある。特に旅人とか少人数場合は注意が必要だ。

 だから本来はリュザールたちの帰りを待って、次の隊商の時に同行したらいいんだけど、今回の場合は早めに行っておかないと今年の綿花の作付けに影響が出そうなのだ。

 綿花を作ってもらう村には、綿花用の畑を用意してもらっておかないと、今年の綿花の種まきができなくなってしまう。そしたら、一年間無駄にすることと一緒だ。


「アラルクも一緒なら大丈夫だと思うけど、盗賊には気を付けてね」


 そのあとの僕たちは、高校生活に必要な品をあーじゃない、こうじゃないと言いながら買い求め、楽しい休日を過ごすことができた。



 そしてその翌日、私とユーリルにアラルクの三人は、カインに来てくれた村長さんたちに返事をするためにカイン村を後にした。


あとがきです。

「ユーリルです」

「アラルクです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「アラルクはここ初めてだよね、緊張してない?」

「だ、大丈夫だよ。でも、俺って影薄い気がしているんだけど、ここに出てもよかったの?」

「全然問題なし。アラルクのおかげで、寮とかも早くできているんだから、みんな助かっているって思っているよ。でも、僕としてはあまり目立ってほしくないかな」

「え、どうして?」

「今回の旅もそうだけど、アラルクは護衛要員の一面もあるでしょう。そっちで活躍されるってことは、僕たちが危険な目に遭っているってことになるから……」

「それもそうか、せっかくならのんびり旅できる方がいいよね」

「そうそう、それでは締めのお時間となりました。次回から数話、旅のお話が続きます」

「「皆さんこれからもよろしくお願いします」」

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