第49話 新しい仲間たち
「ねえ、パルフィ。昨日は眠れた」
「おう、あたいはどこででも眠れるからな、朝までぐっすりだぜ。それよりも女同士でわちゃわちゃするのも楽しいな」
昨夜は食事が終わったあと、帰ってきたばかりだから早めに休もうとなったのだけど、部屋に戻ってからパルフィ、私、コペルの3人で、しばらく喋ったりふざけあったりして過ごしたのだ。
パルフィは、これまで鍛冶修行一筋で、女友達と絡むこともあまりなかったから、こういうことが珍しかったらしい。
「またやろうな」
またやるのはいいけど、昨日みたいに遅くなるのは勘弁だよ。朝起きるがつらかったのは久しぶり。ほら、コペルも眠たそうにしてるし。
顔を洗いに井戸まで向かうと、工房の方からも4人が出てきた。
「おはようソル姉」
「おはようテムス昨日は眠れた」
「うん、お兄ちゃんたちと喋ってたらいつのまにか寝てた」
あちらでも夜すぐに寝たわけではなかったようだ。
「おはよう、ボクがやるよ」
テムスに井戸から水を汲んであげてたら、リュザールが来て、私の代わりに釣瓶を引き上げてくれている。
「おはよう。あ、ありがとうリュザール」
「おはよう。なんか朝から見せつけられてるんですけど」
「ユーリルおはよう」
「ソルおはようございます……」
「アラルクおはよう……」
なんかアラルク元気なさそうだな、旅の疲れが出たのかな。
「お、みんな揃ってるな。おはよう、今日からよろしく頼むぜ」
パルフィもコペルと一緒に出てきた。井戸の周りは大騒ぎだ。
顔を洗ったあとは、みんなで分担して朝の仕事に取り掛かる。
昨日話し合いで、女性陣は食事の用意と家の掃除を、男性陣は馬小屋の世話と工房の掃除をやることになった。
リュザールも数日しかいないけど、ここにいる間は手伝う予定だ。
今日は、私とパルフィが当番なので食事の支度に向かう。
「パルフィ。鍛冶工房だけど、どういうのがいいの」
食事の用意をしているときに聞いてみた。
「そうだな、ここは冬は寒いんだろう」
「うん、かなり」
「それじゃあ、コルカみたいな作りじゃだめだな。冬場に窯の温度を上げるのに苦労しそうだ」
鍛冶工房作っておかなくてよかった。作り直すはめになるところだったよ。
「どうしたらいいの?」
「風が直接当たらなくなるだけでもかなり違うからな、そのあたりを工夫して考えるぜ」
パルフィだけに任せられないから、私たちも協力して考えよう。
朝の食事が済んだら、それぞれの仕事だ。その前に父さんがリュザールを呼びとめている。
「リュザール君、今から診察をするから一緒に来てくれ」
リュザールのことは気になるが、工房や綿花のこともほったらかしにはできない。
工房に向かい、改めてアラルクとパルフィの紹介を行ってから作業を開始した。進捗状況を尋ね、アラルクには糸車の製作を、パルフィにはユーリルと一緒に荷馬車の製作を頼んだ。
綿花を見にテムスを呼びに行こうと工房を出たところで、診察室から出てくるジュト兄を見かけた。
「ソル、ちょうどよかったちょっと来て」
リュザールに何かあったのだろうか。
私は慌てて診察室に向かった。
「リュザール大丈夫?」
診察室に飛び込んで見た先には、のんびりとカルミルを飲んでいるリュザールの姿があった。
「慌ててどうしたの」
「え、いや、兄さんが来てって言うからてっきり……」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」
そうかよかった。
「リュザール君、大丈夫というわけではないからね」
え、どういうこと?
「父さんの診察によると、リュザールはね、内臓を傷めているらしくてそれで時折熱が出ていたみたいなんだ。だからしばらくはうちにいて体を休め、しっかりと食事を食べて薬を飲む必要があるって」
「そうしたら治るの?」
「ああ、無理をしなければね」
「よかったぁ。みんなに知らせてくる」
「あ、ソルちょっと待って。呼んだのは、その事でリュザールが仕事を休まないといけなくなるから、それをどうしようかという相談だよ」
そうか、リュザールはバーシの隊商の隊長だ。責任もあるはずだ。
「リュザールはどうなの」
「ボクはバーシの人たちのために、そんなに長く仕事を休むことはできない」
「父さん、リュザールはどれくらい療養が必要なの」
「少なくとも1か月は必要だね」
「そんなには休めません」
「こんな風にさっきから堂々巡りなんだよ」
なるほど、ジュト兄が私を呼びに来た理由がわかった。リュザールを説得してほしいんだ。ただ、リュザールの気持ちもわかるから。無理やりには言いたくはない。それなら。
「カスム兄さんに相談した方がいいと思う」
せっかくカイン村に帰ってきているから、カスム兄さんの意見も聞いておいた方がいいと思う。
「そうだな。すまないがソル。カスムにそのことを伝えてきてくれないか」
私は急いでカスム兄さんのいるセムトおじさんの家まで向かった。
セムトおじさんの家に着くと、カスム兄さんは外で薪割りをしていた。
「カスム兄さんちょっといい」
「昨日はお疲れ様、どうしたんだい」
事の次第を伝えると
「ちょっと待ってて父さんも帰って来てるから、一緒に来てくれるかな」
おじさん帰ってきていたんだ。
居間に行くと子供たちと遊んでいるおじさんの姿があった。
「父さん、ちょっといい。うちの頭のリュザールのことでソルが話があるんだって」
「お、ソルかい。お帰り。いいよ話してごらん」
おじさんには、リュザールの病気のことは私が話したけど、結婚の申し込みの件についてはカスム兄さんが話してしまった。
内緒にするつもりはなかったけど、今でなくてもいいと思うんだけどな。
「タリュフもリュザールも家にいるんだろう。ちょっと行ってみようかな。カスムも付いておいで」
おじさんたちと一緒に家まで向かうことになった。
家に着くと診察室には父さんとジュト兄だけで、リュザールは工房にいるということなので
「リュザールちょっといい、おじさんとカスムさんが話があるんだって」
荷馬車製作の手伝いをしていたリュザールに声をかけ、診察室まで来てもらう。
「セムトさんこんにちは。お久しぶりです」
「リュザールいろいろと聞いたよ。困っているようだね。そうだ、時間がかかるかもしれないから、ソルはちょっと席を外していてもらえるかな」
「わかりました。それじゃ私は薬草畑に行ってきますね」
工房を手伝っていたテムスに声をかけ、薬草畑まで向かう。
テムスと母さんが、綿花の世話もしてくれていたから心配はしてないけど、もう半月近く様子がわからないからどうなっているか気になる。
「テムス。母さんの世話はどうだった」
「母さん本当によく知っていた」
「でしょう。私も母さんからたくさん教わったんだ」
久々だったので、テムスと一緒の馬に乗り、話しながら行ったら畑まであっという間だった。
畑には季節の薬草が生い茂り、綿花の生育も順調そうに見える。
「この膨らんでいるところに綿ができるの?」
「そう、綿ができると、これが弾けるらしいよ」
「弾けるの? 見てみたいな」
「いつ弾けるかわからないから、見るのは難しいかな」
いつ弾けてもいいようなものもある。弾けたら綿がむき出しになるので、雨が降らないうちに収穫しないとカビがふいてしまうかもしれない。これからは毎日様子を見に来ないといけないな。
畑の世話とその日の薬草の収穫をして、そこでの作業を終えた。
リュザールの話はどうなったろうか。気になるな。
工房に帰ると、診察室から戻って手伝いをしていたリュザールが駆け寄ってきた。
「ボク、ソルと一緒にいることができるようになったよ」
おじさんたちと、どんな話になったんだろう。
「隊商やめるの?」
「しばらくは休むように言われてるから休むけど、よくなったら続けるよ。隊商の仕事好きだもん」
リュザールが隊商をやめないのなら、私がバーシに行くようになるのだろうか。いや、それは困る。
「私もここから離れられないよ」
「うん、わかってる。だからボクがカイン村に来ることになったんだ」
ん、どういうことだ。カイン村の隊商にはおじさんがいるし、おじさんの跡継ぎはカスム兄さんのはず。あ、隊長に拘らなかったらおじさんの下で働いてもいいんだ。でもそうなったらバーシ村の隊商は誰がやるんだろう。
「リュザール。もう少し説明してもらえる」
リュザールが話してくれた内容は、なるほどこういう手があったかというものだった。
リュザールの隊商は、まずはカスム兄さんが引き継ぐ。小さい頃からおじさんと一緒に交易してたから、経験も豊富だし人脈も多いので隊商の隊長を務めるのに申し分ない。
リュザールは当面おじさんの隊商で働くが、今後も隊商の人が増えるようなら別動隊を率いることもあるそうだ。
そして、おじさんが引退したら、カスム兄さんが戻っておじさんの隊商を引き継ぎ、バーシ村の隊商はその時能力がある者がその後を継ぐ。リュザールの別動隊はそのままリュザールの隊商となる。
これから工房でいろいろなものを作っていくから、隊商が増えても問題ないらしい。
「だから、カイン村にいるときはソルと一緒にいるから、手助けが欲しいときはいつでも言ってね」
これでリュザールの問題点は解決してしまった。あとは私の気持ち次第……
翌日リュザールはカスム兄さん家族と一緒にバーシに向かい、カインに来るための準備を行うことになった。明日には準備を終えてこちらに戻って来る予定だ。
「ソル、すぐに戻って来るからね」
そういってリュザールは出発していった。
さてとリュザールのことは一旦置いといて、糸車に荷馬車、このあたりを進めていきますか。
糸車の製造は順調よく進んでいる。出来上がった物は、おじさん達の隊商が近隣の村々に売りに行ってくれ、麦も銅も集まってきているから、硬貨の製造を進めるのも問題ないだろう。
荷馬車についてはすぐにでも1台目が完成しそうだ。やはりパルフィの協力が大きかったみたい。パルフィが持ってきた部品を荷馬車の形状に合わせ加工し直し、強度も耐久性もいい感じになったと思う。
まあ、パルフィ自身はまだまだ納得いってないようで、炉が完成したらいろいろと試したいそうだ。
そのパルフィの鍛冶工房もユーリルは自分も手伝うと言ってきかないし、リュザールも休んでいる間は手伝ってくれるそうで、思いのほか早くできるのかなって思っている。建設開始は1台目の荷馬車が完成してからだけどね。