第44話 風花という名の女の子2
「ボクはソルをお嫁さんにするから、樹はボクをお嫁さんにしてね」
風花はリュザールだった。うー、頭が痛いよ。
リュザールとは頻繁に会うことが無いから、そのうち有耶無耶になるかもと思っていたけど、風花さんとは学校で毎日のように会ってしまう。嫌われてしまうってことだってあるかもしれないけど、こうなったからにはテラの生活をよくするための同志だ、できるだけ協力していきたい。
「風花さんは、樹に一目ぼれなの?」
「周りに誰もいないところでは風花でいいよ。樹と初めて会った時になんだか懐かしい感じがして、その時はそのまま別れたんだけど、それが何なのかよくわからなかった。でも今日、樹がソルだって聞いて、ソルに初めて会った時と一緒だったって感じたから、たぶんそうなのかな」
「樹はどうなの」
「僕は、風花のこともリュザールのこともまだよくわからないから、もう少しだけ時間をください」
「ボクはいつまでも待ってるよ。その代わり近くにいることは許してね」
「うん」
「やっぱりラブラブじゃねえか。やってられんわ」
「そういう竹下だって、ユーリルにお嫁さん見つかったじゃん」
「え、そうなの」
「そうそう、そうなんだ。それで俺、リュザールに頼みがあるんだ。早く護身術教えてほしい」
「どういうこと?」
パルフィの鍛冶屋での出来事を話すと
「あー、あそこの親父さんは強そうだもんね。でもパルフィさんらしいというか、ユーリルはそれでよかったの」
リュザールは、パルフィだけでなく彼女の親父さんにも面識があるらしい。
「俺は、ユーリルは、パルフィさんと一緒になれるなら、なんだってやるつもり」
「リュザールならあの親父さんに勝てるの?」
いくら護身術ができたとしても、あの親父さんの腕を見た感じからすると、リュザールの細腕では無理ゲーとしか思えない。
「うーん、やってみないとわからないけど、たぶん大丈夫だと思う。ただ、手加減できないかもしれない」
あの親父さんに勝てるんだ。リュザールってどんな腕前なんだろう。
「ユーリルに教えるのはいいけど、あちらではあまり会うことできないよね」
そうなのだ、ユーリルはカイン村で工房の仕事があって、リュザールはバーシを拠点にしているし、隊商の仕事もある。会えるのは月に一度もないだろう。
「こっちではできないの?」
竹下の言うこともわかる。テラと地球の間には記憶しか持っていくことができないけど、確かに向こうで覚えた技術はこちらでも使えることが多い。料理もそうだし、こちらで馬に乗ったことはないけど、うまく馬を乗りこなす自信はある。
リュザールが護身術の技を身に付けていたのなら、風花もできる可能性が高い。
「そういえばやったことないかも。ちょっと待ってて」
そう言って風花は立ち上がり、空手の型のようなポーズをとった。
そして軽く手を前に出しただけに見えたのに、風が切り裂く音が聞こえた。
「あ、できるかも」
「すごい! 音が聞こえた」
「俺も分かった! できるようになるかな」
「たぶん大丈夫だと思うよ。でもボクの流派は、攻撃よりも受け流すことを主流してるから、あまり派手ではないよ」
「受け流すって、合気道のような感じ」
「どうだろう、合気道がどんなものか知らないからよくわからないけど、育ててくれたおじいちゃんが、江戸時代から続く守るための技だって言ってた」
「今なんて言った!」
「あ!」
「江戸時代から続くって言い方なら明治時代の人かな、もしかして僕たちよりも前に行き来していた人がいたのかな。あのバーシの橋だっておかしいし、アラビア文字だけあるのもおかしい」
そう、文字は違うのになぜか数字だけは、地球で目にしているものと同じ数字を使っていて不思議に思っていた。
「もしかしたら、ソルのご先祖様のカイン村を作った人がそうなのかもしれないね」
「そうなのかな、確か早く死んじゃったって言ってたね」
「うん、それであまり発展させることができなかったのかも」
「でも調べようがないね」
テラには書物みたいなのが残ってないから、昔の記録とかは口伝しか存在しない。風花が江戸時代を覚えていたのは、それを口伝として残していたからだろう。
「まあ、わからないことを考えても仕方がないので、風花さんどうぞその技を俺とユーリルに伝授してください」
「いいけど、場所がないよ。少なくとも畳があった方がいいと思う。受け身も取りやすいし」
武術を習うのに、板の間やコンクリートの上とかはきついだろうな。
「場所なら心当たりがあります。二人とも俺に協力してくれるよね」
「なんか怖いけど、できる範囲でなら」
「ボクもユーリルは心の友なので」
「ありがとう。いい友達を持って俺は幸せだよ」
こいつのこういうところが、胡散臭い感じがするんだよな。
「ところで風花、口調がリュザールになっているの気付いている?」
帰り際、風花に聞いてみた。
「うん、わかっているけど、みんなの前ではこの方が話しやすいんだ。ここではこれでいいかな」
「そうなんだ、風花の好きにしていいよ」
風花がボクって話すのか、山下が聞いたら騒ぎ出しそう。
「あの山下が聞いたらボクっ子萌え~って言いそうだな」
竹下も同じこと言っているよ。




