第35話 セムトおじさん達との相談事
翌日、工房のみんなに断って、ユーリルと一緒にセムトおじさんの家まで向かった。
おじさんの家は村の中心部の東側の方にある。工房からだと歩いて20分ぐらいの位置だ。
おじさんは家の外でカスム兄さんと一緒に薪割りをしていた。カスム兄さんはおじさんの息子さんで私のいとこだ、今は確か他の隊商で修行をしていたと思う。
「おじさんこんにちは」「セムトさんこんにちは」
「2人ともいらっしゃい。ユーリル君、カスムは初めてだったかな」
「はい、初めましてユーリルです。今はタリュフさんのところでお世話になっています」
「初めましてカスムです。よろしくね。君がユーリル君か、聞いてるよ。ソルを振ったんだって」
「いや、カスム兄さん。振られたわけじゃないから。最初から何もないし」
どうしてそういう話になっているんだろう。おじさんも笑ってないで。ユーリルも自分の守備範囲じゃないとか真面目に答えなくていいから。
「ははは、急にどうしたんだい」
このままじゃ話が進みそうにないって思っていたら、おじさんが聞いてくれた。
「交易について相談があって」
「ふむ。それではカスム、休憩にしようか。2人とも家に入ってくれるかな」
おじさんの家はそこまで広くない。元々分家だし、羊や馬をたくさん放牧しているわけでもなく、家族が住めたらいいくらいの広さだ。玄関を入るとすぐに居間だ。そこから台所やそれぞれの部屋につながっている。
居間に案内され、座ろうとするとおじさんが聞いてきた。
「カスムも一緒でよかったかい」
「はい、おじさんがいいならこちらは大丈夫です」
「それなら一緒に聞いてもらおうか」
何でもカスム兄さんが修行している隊商のリーダーはリュザールさんと言って、元々おじさんの仲間の隊商の跡を継いだ人らしい。今はバーシ村を拠点にしているみたい。
おじさんの隊商とリュザールさんの隊商は、1つの隊商では手薄になるところを分担して回ったり、情報を共有したりしている同じグループのようなもので、私たちの糸車も一緒に扱っていく予定だそうだ。
サチェおばさんとチャムさんは留守のようで、カスム兄さんがカルミルを用意してくれて、私たちにも注いでくれた。
「相談とは何かな」
私たちは前に話し合った貨幣と通貨について話してみた。
「なるほど、麦を使った交易では発展が望めないか」
「父さん、俺もそう思うよ。同じような価値のものならいいけど、ソルが考えた糸車とか荷馬車を扱っていったら、間違いなく運べなくなるから」
カインから糸車10台をコルカまで持っていく。1台麦11袋で販売できたら、帰りは麦110袋だ、到底持ち帰れる量ではなくなる。
「私もそう思って、荷馬車を早く作ってもらえないかと頼んでいたのだがね。それでも足りないか」
「いまソルが育てている綿花も、来年からはその織物が売れるようになると思います。他にもいろいろと考えていることもあるようですし、その時になって準備を始めても間に合わないかもしれないです」
「確かにあの綿はいい生地ができそうに見えたね。羊毛と合わせてもいい絨毯ができるかもしれない。いくら荷馬車で運べても、こちらからの量を減らさないと帰りが積めないのなら、今とさほど変わらないか」
そういっておじさんは考え、しばらくして私たちに聞いてきた。
「準備をするとは言っていたが、私たちは何を準備したらいいのかな」
私たちはおじさんに考えていた方法を伝えた。
「なるほど、麦は最低限持ち帰って、あとは銅や銀、それに鉄などの金属類にして持ってくればいいんだね」
工房のみんなには、今のところ麦でお給料を払うことになっているし、材料の木材も麦で仕入れている。だから麦をなくすことはできないんだけど、必要な分だけにしてもらって、そのほかは鉱物類にしてほしいのだ。
おじさん達には糸車1台を麦6袋で渡す約束になっていて、麦の必要量が3袋ぐらいだから、麦3袋と鉱物というようにしてもらえれば、麦を集めた後に改めて鉱物を仕入れるより、手間はかからないと思っている。
おじさんも「私たちもそうしてもらった方が、荷物の嵩が減って助かる」って言ってくれた。
その後硬貨の材質や形状などの話し合いを行い、やはりいわゆるコインの形にして、見てわかるように何かの刻印を打った方がいいだろうということになった。
「硬貨を作って利益を得ることはできないのかな」
カスムさんが聞いてきた。
「硬貨を発行することで利益を得ることはできますが、今まで誰も使ったことが無い物を使ってもらうためには、それを使って得だと思ってもらう必要があると思います。だからできるだけ、硬貨の元の素材の価値と硬貨自体の価値が変わらないようにして、硬貨を持っていても損することはないとわかってもらえたら、硬貨を使ってもらえると思います」
さらにユーリルは続ける。
「ただ、硬貨自体の価値が素材の価値を下回った場合、硬貨は硬貨として使わずに、素材として使われてしまうので、ある程度の差は必要だと思います。そのため、硬貨を作るための製造にかかった費用分くらいは上乗せしないといけないと思っています」
「なるほどね。しかし誰かに偽造されることはないのかな」
今度はおじさんが聞いてきた。
「その心配はあると思います。でも、僕たちが作る硬貨はできるだけ品質を上げて、普及させようと思っています。同じ品質の物ならほとんど利益が得られないので誰も偽造しようと思わないでしょうし、仮にされてもこちらとしては痛くも痒くもありません。逆に流通する硬貨が増えるので、どんどんしてもらいたいくらいです。
ただ、品質の悪い硬貨を作られてしまったら困ります。悪い硬貨と良い硬貨の見分けがつかなかった場合、みんなは持っている硬貨の価値に不安を持ってしまって硬貨を使うのをやめてしまうかもしれません」
「何か方法はあるのかな」
「一番いいのは品質の悪い硬貨を作らせるのを止めさせるのがいいのですが、ここではそれを止めさせることができる人たちがいません。だから見た目で分かるように硬貨をつくるときに工夫しないといけないと思います」
「硬貨を作る方法か。あてはあるのかな」
「それについては、これから迎えに行くコルカの鍛冶師のパルフィと相談しないといけないと思っています」
「ふむ、そうだね。専門家の意見も聞かないといけないようだね」
日本の500円硬貨にはいろいろな偽造防止の技術が施されているらしい、それを応用出来たらいいに決まっているけど、テラでの技術で出来るかどうかはわからない。だからパルティと相談する必要があるのだろう。
それにしてもユーリルはすごいな、ここまでの話はほとんどユーリルだけで説明してくれた。竹下は頭がいいけど、ユーリルはその前から、私が少ししか話してないのに理解していたこととかあったから、元々頭がいいんだと思う。一緒に来てもらってよかった。私だけじゃ、ここまでうまく説明できる自信はなかったから助かったよ。
「いずれにしろ銅貨については価値が低いから、わざわざ偽造しようと思う者もいないだろうね。ただ銀貨や金貨は気をつけないといけないのは分かったよ。それならまずは銅貨の普及を進めることにしようか。カスムはどうする」
「俺もいいと思う。うちの頭にも伝えて銅を集めておくことにするよ。他の金属はどうするんだい」
「それなら鉄をお願いしたいです。道具を鉄製に変えていきたいです」
パルティに炉の材料を聞くときに鉄はどうすると聞かれたので、鉄の道具も作っていきたいと答えていたのだ。だから炉の材料もそれ用になっていると思う。
「鉄の道具か、確かに今は打てる職人が少ないからあまり出回ってないね。その職人は打てるのかい」
「任せとけって言ってました」
「それはいい職人だね。大切にするんだよ」
パルフィの腕はいいようだ。おじいさんはその腕を惜しんで、他の町に行ったとしても職人を続けてほしかったのかもしれない。
「それと、銅は別にソルたちだけで集めなくてもいいようだね。私の隊商でも集めて預けておくよ。銅貨ができたらその分を渡してくれたらいいからね」
「それならうちの頭にも言っておくからこちらの分も頼むね」
銅は思ったよりも早く集まるかもしれない。パルフィさん来た早々忙しくなりそうだ。
「ところで、ユーリル君はコルカに鍛冶師を迎えに行くと言っていたけど、いつ頃行くんだい」
そろそろお暇しようとしたときに、カスム兄さんが聞いてきた。
「コルカには、ソルとジュトさんたち夫婦と一緒に、半月後に出発します」
「ソルも行くのかい。その頃なら私の所の隊商もコルカにいそうだな。着いたら市場を覗いてみてくれよ。うちの頭紹介するからさ」




