第32話 ユティ姉のお願い
父さんからは、ジュト兄が一緒ならユーリルと3人でコルカまで行っていいと言われているので、夕飯が終わった後、早速ジュト兄にアラルク達の迎えのためにコルカまで付いて来てもらえるか尋ねることにした。
ジュト兄を長い間借りることになるから、ユティ姉にも一緒に聞いてもらった方がいいだろう。
「ジュト兄、ユティ姉。ちょっといい。今度新しい職人をコルカまで迎えに行くんだ。その途中ユーリルに見てもらいたいものがあって、付いて来てもらいたいのだけど、2人だけで行くことができないでしょう。だからジュト兄も一緒に来てくれないかな」
ジュト兄は考えている様子だ。
「ねえ、ソル、戻ってくるまでにどれくらい時間かかるの」
ユティ姉が聞いてきた。
どれくらいかかるだろう。予定では行きは馬に乗っていけるから3日か4日、帰りは歩きだから7日かかって、そしてコルカでも2日ぐらいはいないといけないから。
「12、3日ぐらいかかると思います」
「ありがとうソル。ねえあなた、もし行かれるのなら私も付いて行きたいのですがいいでしょうか」
ジュト兄はびっくりした様子だ。私もびっくりしている。
「さすがに2人一緒に行くなら父さんに聞かないといけないからね。ちょっと待っててくれる」
そういうとジュト兄はユティ姉を連れて父さんたちの部屋に行った。ということは、ジュト兄は付いて来てくれるつもりなんだ。
しばらくするとジュト兄たちが戻ってきた。
「父さんも母さんも行っていいって。ただ、薬を切らさないようにしてくれって言われた」
「よろしくね。ソル」
私たち3人とユーリルが一緒に出ていくと、この家には父さん母さんとテムスにコペルだけになる。コペルは工房の仕事があるので、薬師の仕事を手伝うことができないし、母さんとテムスだけでは、薬の調合が間に合わないことも出てくるだろう。出発までの間にできるだけ用意しておかないといけない。
「ところでソル、出発はいつ頃になる予定かな」
「あちらの準備が整うのに合わせないといけないので、半月後ぐらいだと思う」
「お父さんたちにご迷惑かけないようにしないといけないですね。ソル、急にお願いしてごめんね。薬の準備はできるだけやりたいけど、私だけでは不安だから手伝ってもらえると助かるわ」
「もちろんです。もともと私からお願いしてることだから。それにしてもどうしてユティ姉はコルカについてきてくれるの?」
「そうねえ、今までバーシから出たことなくてこのカインに来たでしょう。他のところに行ってみたいというのもあるんだけど、せっかく妹になったソルと一緒に出掛けたいというのが一番の理由かな」
私と一緒に行きたいって、嬉しいな。
「本当ですか、嬉しいです」
「それに、ソルはこれからどんどんと忙しくなって、きっと一緒に行ける機会なんてなくなってしまうって思ってるの。だからね」
「さあ、そうと決まれば明日から準備で忙しくなるね。ソルも早く体を休めておきなよ」
「2人ともよろしくお願いします。それではおやすみなさい」
「「おやすみ」」
部屋に戻るとローソクの明かりを頼りに、コペルがフェルト生地に刺繍をしていた。テムスは引き続きユーリルの部屋で寝ることになり、コペルは父さんが帰って来たのでこの部屋に戻って来ている。
「コペル、なに作っているの」
「ミサフィ母さんにハンカチをあげようと思って」
「わぁー、母さん喜ぶよ」
手先が器用なコペルの刺繍はかなり綺麗で評判だ。きっといいものが出来上がると思う。
私も花嫁修業だと言われ、作る練習をしたことがあるけどなんかうまくいかない、昔コルトに作った刺繍を見られて笑われたことがあった。あの時は腹が立ったけど、コペルの出来上がりを見たら確かに笑われても仕方がない代物だったと思う。最近やってないけど、今度コペルに教えてもらおうかな。
「コペルごめんね。帰って来たばかりなのに、また半月ぐらいしたらコルカに行くことになりそうなんだ」
「タリュフさんも行くの?」
あ、父さんはまだタリュフさんなんだね。頑張れ父さん。
「今度はジュト兄とユティ姉にユーリルと一緒に行く。父さんがいるから母さんのところでは寝られないけど大丈夫?」
「私は1人でも大丈夫だよ」
「寂しいけどしばらく我慢していてね。それとね、コルカからパルフィという年上のお姉さん来てくれることになっていて、そしたらこの部屋に3人になるけどいいかな」
「うん。大丈夫。優しい人?」
「そうだね。お姉ちゃん! って感じの人かな、頼りになると思うよ」
お姉ちゃんというか姉御って感じだけど、面倒見はよさそうに思ったから大丈夫だろう。
「楽しみにしとくね」
よかった。コペルにも伝えることができた。これでパルフィを連れてきても大丈夫だ。
「遅くなると明日がきついからそろそろ寝ようか」
「うん」
明日から限られた時間の中で準備をしなくちゃいけない。糸車の製造はもちろん、荷馬車に綿花。薬の準備も必要だ。そうだ、ユティ姉も私もいなくなるから、綿花の世話を誰かにお願いしないといけない。テムス1人ではさすがに危ないから母さんにお願いしよう。
いつものように日の出とともに目が覚めたら、すでに竹下からメールが届いていた。発信時刻を見ると送ったのはついさっきのようだ、確かあまり早起きではなかったと思うけど、テラでの生活の影響かな。
メールの内容は、コルカ行きはどうなったか……こんなに急いでこちらで聞かなくてもいいと思うんだけど、何かあったのかな。とりあえず返信しとこう。
『コルカ行き決まりました。ジュト兄だけでなくユティ姉も一緒に行きます』っと送信
ピコーン!
返信早い。
『やったーパルフィさん迎えに行ける。それにユティさんも一緒だ。楽しみ!』
これが聞きたいがためにわざわざ朝早くからメールしてきたのか。ユティ姉と一緒で楽しみとか余計なこと考えているんじゃ。釘を差しとかないと。
『お前、ユティ姉に何かしたらただじゃおかないからな』
『ユティさんにはジュトさんがいるじゃん。何もしないよ。それよりも男だけの3人旅に花が添えられるんだぜ。楽しくなるに決まっているよ』
これはネタなのか。目の前にいたらとりあえずゲンコツするんだけど。
『男だけって、一応ソルもいるけど……』
『ソルはほら、中身お前じゃん。外見は確かに女の子なんだけど、考え方がやっぱ男なんだよな。初対面の人でも半日もすれば、きっと男と話していると思うって』
今度どこであっても一発殴るの決定。
『次会った時、楽しみにしていてね。byソル。
それよりも出発まで時間があまりなくて、ユーリルにも無理お願いすると思うから今のうちに謝っとく』
『俺、カイン村に来てからテラでの生活が無茶苦茶楽しいんだ。そのおかげで地球でも頑張ろうって気になっているからさ、気にしないで頼んでくれよな』
2つの生活を楽しむって言っていたけど、本当に楽しめているんだ。
最後に今日来るかと尋ねてみたけど、今日からしばらくお店の手伝いで出かけられないらしい。年に一度の創業祭の手伝いだそうだ、呉服屋の息子も大変だ。