表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/204

第30話 カイン村到着1

 翌朝早朝にカインに向かって出発する。


 クトゥさんは食事がおいしかった、助かったと何度も頭を下げて、宿代いらないからいつでも来てくれと言ってくれた。さらに今回の宿代もサービスしてくれたらしい、10人分以上作るから2人分くらい増えても手間はあまり変わらないんだけどね。2人分の材料はクトゥさん持ちだったし。


「アラルク、戻って来られるまで1か月くらいかかるから、しばらく待っててね」


「うん、兄さんたちももう少しで帰るはずだから、そうしたらいつでも行ける。待っているよ」


 カインに戻ったら、アラルクとパルフィを受け入れる準備としないとな、ユーリルもすぐにできるようにしているようだけど、目立ってできないのがもどかしいようだ。



 帰り道は私も父さんも馬にいっぱいの荷物を載せているので、馬を曳いての歩きだ。さらに体にも荷物を持っての移動な上に、向かっているカイン村は盆地でも高地の方になるので上り坂を歩くことになる。

 移動距離は町や村の距離に合わせないと野宿になってしまうので、いくら上りでも速度は落とさずに歩かないといけないらしい。ただ、今は夏なので昼間が長いから多少遅れても大丈夫なようだけど、早くつくに越したことはない。



「ソル、荷馬車は通れると思うかい」


 コルカを出発してから数日が過ぎ、もう少しで半分の道のりが過ぎようとした頃おじさんが聞いてきた。


「これまでの感じでは通れそうに思いました。最初は道がないところを通らないといけないので早くは走れないかもしれませんが、何度も通るうちには通りやすくなるはずです」


 今歩いているところは、馬や人が通るあたりだけ草が生えてない程度の道だ。荷馬車が通るようになり、轍ができれば雨が少ないテラでは通りやすくなるだろう。

 それにコルカのあたりは高低差も少ないので走りやすいと思う。ただ、カインとバーシの間は登りがきついから馬にあまり無理されられないかな。


「糸車を売りに行くときに使いたいのだけど、間に合うかな」


「うーん、ジュト兄とユーリルが頑張ってくれてると思いますが、荷馬車の部品をコルカで頼んできましたので、それが完成するまでは難しいです」


「部品はいつ頃完成するのかい」


「パルフィに頼んでいるから。部品はパルフィと一緒にカインに到着します。それから組み立てだと思うので、もうしばらくかかりそうです」


「そうか、糸車ともなるとコルカまではさすがに馬では厳しそうなんでね。荷馬車ができるまではバーシやビントあたりの近場に行ってみようかね」


「ごめんなさい。よろしくお願いします」


「謝らなくてもいいよ。それと、その荷馬車はもちろん買わせてもらうからね。他にも欲しいという行商人がいると思うから、数揃えられるようになってくれたら助かるよ」


「おじさんにはいつも相談に乗ってもらっているから、荷馬車の代金はいただけないです」


「だめだよソル。どんな時でもきちんと代金は取ること、工房の人たちに給金を払わないといけないからね、そこを間違ったらいけないよ。私も荷馬車があれば今以上に儲けることができるからね、売ってもらうだけでもありがたいことなのさ」


 父さんもおじさんも私に大切なことを教えてくれる。本当にうれしい。


「ありがとうおじさん。立派なものを作るから楽しみにしててね」


 糸車に荷馬車、綿花に硬貨まで作るとなると明らかに人手が足りない。でも、急に増やすとみんなも心配するだろうし、よくわからないところには誰も来てくれないと思う。

 アラルクにパルフィが来てくれることになったのは、父さんたちのこれまでの信頼の上に乗っただけだ。いくら仕事を探していたとはいえ、普通初対面の14歳の女の子の所で働こうとは思わないだろう。


 テラのために急ぎたい気持ちはあるが、できるところから少しづつやっていって信頼をつかんでいこう。

 まずは糸車と荷馬車。綿花は今年出来た種を来年植えて、その収穫が済んでからが本番だから少し時間はある。生糸もまだ繭を作る昆虫さえ見つかってないし、見つかったとしても絹の織物が作れるようになるのは数年先の話だ。

 パルフィには荷馬車部品や村の道具の製作の合間に銅の硬貨を作って貰っておこう。おじさんに相談してから決めることになるけど、ある程度の硬貨が貯まっていないと普及させることもできないだろうし。


 カイン村到着までまだ数日あるけど、今回の旅はほんと来てよかったと思う。いろいろなことがわかったし、いい人材も来てもらえることになった。



 コルカ出発から7日目の昼過ぎ、予定通りカインに到着した。


 まずは村の広場まで行き、隊商の解散を行う。それぞれの物資の分配もこの時に行い、その後各自が余った物資を村で販売したり、次の交易のための元手にしているようだ。


 私たちも、今回の診察の受付を担当してくれたコルトに報酬を渡す。


「コルトありがとう助かったよ」


 コルトは意外と捌けていて驚いた。子供の頃遊んでいた頃とは大違いだ。まあ、相変わらず余計なことは言っていたけど。


「タリュフさんありがとうございます。いつもこんなに頂いて助かります」


「コルトは次の交易もおじさんたちと一緒に行くの」


「うーん、そろそろ1人で行ってみたいんだ。セムトさんに聞いてみようとは思っている」


 隊商は自由参加だ。道中が安全に行けることと知識が共有できることで参加する人は多いけど、もちろん1人で行商する人たちもいる。

 コルトはこれまでセムトさんたちの隊商に同行し、修行していたような立場だったらしい。このままずっと隊商の一員でいることはできるけど、やはり1人で行商することで得られる経験や人脈もあるらしく、ある程度経験を積んだら一度隊商から離れることが多いようだ。

 ただ、隊商のリーダーであるおじさんが大丈夫だと判断しないと、失敗したり途中で命を落としたりする可能性があるから、それを確認したいのだろう。


「コルトはもう大丈夫だと思うが、……いや、もう少し経験があった方がいいかもしれないね」


 話を聞いていたのかおじさんが近づいてきた。


「そうですか」


 コルトは少し残念そうだ。


「少し考えるから、明日にでもうちに来てくれるかな」


「わかりました」


 おじさんの隊商から独り立ちした人はたくさんいるし、その人たちはほとんどが今でも行商を続けられている。おじさんがもう少し経験が必要というのならその通りなのだろう。無理をして命を落としたら元も子もないのはコルトだって知っている。だから素直に従っているのだと思う。


 物資の分配も終わり、それぞれが帰途につくことになる。カイン村に来て新しく隊商に入った人たちも、それなりの報酬にはなったようだ。十分食べていける量はあるから、これからも大丈夫だろう。



 私と父さんも馬いっぱいの荷物を載せて家へと向かっていく。

 広場から離れた頃、向こうから駆けてくる人影が見える。テムスとユーリルだ。


「お父さん、ソル姉お帰りなさい」


「タリュフさん、ソルご苦労様でした」


「ただいま、2人とも」


「ただいま、長い事、家を空けて済まなかったね」


 2人して私たちの荷物を運んでくれるようだ。


「ねえねえ、ソル姉、僕1人で寝れるようになったよ」


「1人でじゃないだろ。僕と一緒だろ」


「えへへ、そうともいうかも」


「おお、テムスはユーリルと一緒に寝るようになったのか。それでは夜は工房まで行ってるのか」


「うん、トイレも行けるよ」


「一応まだ僕もついて行っています」


「ユーリルすまないね。迷惑かけてないかい」


「いえ、僕も弟ができたようで嬉しいです」


 2人が仲良くて何よりだ。


「ん、ソルは驚かないのかい」


「え、てっ、テムスが急に大きくなったような気がしてびっくりしちゃって」


 危なかった、あらかじめ聞いていたから反応するのを忘れていた。ユーリルも苦笑いしているし。


「いやー、男の子は急に成長するね。ユーリル、これからもテムスのこと頼むよ」


「はい、任せてください」


 父さんとテムスが話をしているときに、ユーリルが小さな声で話しかけてきた。


「危なかったな()()


「ごめん()()。気を付けていたんだけど忘れてた」


 そういい2人して笑いだしてしまった。本当に竹下とユーリルが同一なのか心配していたから安心してしまった。ユーリルの方もそうだったのだろう。


「なになに、何か面白いことでもあったの」


「いや、テムス。ソルが今度美人のお姉さん連れてきてくれるって」


「面白い人なの」


「面白いかどうかわからないけど、女の鍛冶屋さんらしくて僕期待しているんだ」


「鍛冶屋さん、村にいないから助かるね」


「そうだね、特にお姉さんていうのがいいよね」


 ユーリルとテムスの話の中身を聞いて、父さんが耳打ちしてきた。


「なあソル、もしかしてユーリルって年上が好みなのかい」


「そうみたい」


 父さんもそうなんだという顔をしている。そう、ユーリルの年上好きは筋金入りのようです。


 読んでいただきありがとうございます。

 タリュフさん。ユーリルのソルに対する目つきがどうして恋の相手にならないのか、腑に落ちた瞬間でした。

 それにしても、ソルに演技をさせるときは、打ち合わせをしておく必要があるみたいですね。アドリブを絡めると危ないようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ