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第18話 なぜか料理の約束をさせられる

 翌朝、梅雨もようやく明け、朝から太陽が輝いている。


 梅雨の間、綿花の鉢は念のために家の中に入れておいた。せっかく太陽が出たので、屋上に置き十分日光を浴びてもらおう。そろそろ花も咲きそうだ。


 今日は終業式だ。朝食までの時間、これから向かうコルカまでの道のりを調べるために、散歩には行かずに、本棚の地図帳を広げフェルガナ盆地あたりを見てみる。


 地球の地図には町がたくさんあるが、テラのその場所は草原だったり畑だったりで、村や町はあまりない。

 セムトおじさんや村を訪れる旅人に聞いてみても、他の地域も変わらないようなので、テラの人口は地球に比べてかなり少ないように思う。

 文化水準が低いのもそのあたりが影響しているのかもしれない。もしかしたら海の近くに近づくことができないというのも関係しているのかも。


 山や川の位置とかの地形自体はあまり変わらないと思うけど、地球の方では川が途中でせき止められダムや湖が作られていたりするから、気をつける必要があるかな。あと、鉱山の場所とかがわかれば、将来それを採掘することも可能なのかもしれないが、このフェルガナ盆地はいくつかの国の国境が入り乱れているせいか、鉱山の開発が進んでいないようだ。



 次にインターネットで閲覧できる衛星写真の地図を見てみる。最近のはすごく便利になっていて、かなり詳細な情報も見ることができるから助かっている。


 テラのカイン村は、キルギスのジャララバードの北東の丘陵地帯にあり標高約1200メートル。

 今いるバーシ村は、ジャララバードの南の方でカインから南西に行った川沿いにあり標高は700メートル。

 これから向かうコルカの町はバーシの村から数日西へ進んだところにあり、ウズベキスタンのコーカンドがあるあたりではないだろうか、だとすると標高は400メートル。

 そしてフェルガナ盆地の出口のあたりは標高300メートルぐらいなので、カイン村が盆地の奥の高い位置にあり、そこから出口に向かってなだらかに低くなっているようだ。

 また、バーシから南の川を越え、さらに南に行ったところの山の麓にビントという村があり、その先には山へと続く道がある。その道を通り、3000メートルクラスの高地を抜け、東へ行くとケルシーという大きな町がある。このケルシーはおそらく中国のカシュガルあたりになるのだろう。


 テラでも地球でも似たような場所に村や町ができるのは、そこが住みやすいということだと思う。


 なるほど、おじさんが言うように、コルカの町まで行くには、バーシの南で一度川を渡らないといけないように思えた。そこには橋が架かっていて、荷馬車でも通ることができるということだったけど、明日その川を渡る予定だから、本当に渡れるのかを見てみることになっている。



 学校へ行き、終業式を済ませ通知表ももらったので、あとは夏休みを楽しむだけ。

 ということで、今日は前回遊べなかった竹下と遊ぶ約束をしている。2人とも帰宅部なので、学校が終わってから直接竹下の家に遊びに行く。竹下の家は古くから続く呉服屋さんだ。店の中には高級そうな着物や帯が飾られ、可愛らしいバックや草履も並べられている。


 いつものように店の中に入り2階へ上がる途中、横に小さな機織り機(はたおりき)が展示してあるのに気付いた。

 立ち止まって眺めていると、竹下が聞いてきた。


「興味あるの」


「うん、どうなってんのかと思って」


「やってみる?」


「いいの」


「多分大丈夫なはず。聞いてくる」


 そういい、竹下はお母さんである女将さんのところに聞きに行ってくれた。


「もうセットしてあるからそのまま使ってもいいって」


 テレビで見たことのある方法を、見よう見まねでやってみた。


 縦糸の間に横糸を通して、(おさ)を使ってそれを押さえる。次に縦糸を逆に交わしてまたその間に横糸を通して、筬を使って押さえる。

 この繰り返しで生地を作っている。

 テラで使っている機織り機も同じ原理だけど、こちらの方がより効率的で、縦糸を交わす順番を変えることで複雑な柄も作ることができそうだ。


 やっぱりあると便利そうだ。いつかテラでも作ってみたいな。きっとコペルは喜んで使ってくれるはずだ。


 一通り織らせてもらった後、部屋に上がって、今流行のゲームをしてるときに竹下が聞いてきた。


「お前、結局将来なにするつもりなの」


 期末試験の時に話した続きを聞いてきたのかな。


「うーん、なんか料理も面白そうな気がしてる」


 昨晩のことが気になっていた。

 もちろんこちらでもたまに料理の手伝いはしているけど、包丁の使い方とかもあちらと同じようにできている。テラで経験したこともこちらで実践できるようだ。


機織り(はたおり)やりたいのかと思って聞いたら、料理って……お前できたっけ?」


「やれんことはないはず」


「気合で何とかなるもんなの? まあいいや、とりあえず今から俺になんか食わしてくれ」


「やだよ、人の家の台所使いづらいもん」


 どこに何があるかわからないとやりにくいんだよな。


「んじゃ、今度お前んちで頼むな」


「なんで食わせないかんの」


「グルメな俺が、腕前を見てやるから」


 グルメって、いつでも何でもおいしく食べているように見えるけど。


「うーん、わかった。でもあんま期待すんなよ」


 グルメかどうかはともかく、何か意見は言ってくれるだろう。


 さてと、なに作ってやるかな、こっちじゃ羊肉がほとんど見かけないんだよな。


 読んでいただきありがとうございます。

フェルガナ盆地の地図を見るとすごいですね。国境が……飛び地に、市街地の中を貫いていたり、ソビエト連邦の頃の名残とはいえ、現地の人たちはどうやって生活してるんでしょうかね。

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