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第16話 コルカ行きが決まりました

 セムトおじさんは新しく隊商に入った人たちを連れ、近々訓練も兼ねてコルカの町まで行商に行くと言っていた。


 出発前に相談したいことがあると伝えているけど、新人さんたちに交易のイロハを教えているらしく、まだ会えていない。おじさんにはコルカまでの間の道の様子を聞きたかったけど、先にジュト兄たちに荷馬車のことを話すことにしよう。

 実はネットで荷馬車の模型を見つけたので買ってみたのだ。模型には設計図もついていて、その通りに組み立てたら問題なく動かせることができた。強度と耐久性が大丈夫なら、サイズを実物に合わせたらいけると思っている。


 朝ごはんを食べた後ジュト兄とユーリルに時間を取ってもらい、荷馬車を作ってほしいと頼んでみる。


 模型を作った時の記憶を頼りに、地面に荷馬車の絵を書きながら説明し、聞かれたことに答えていく。ジュト兄とユーリルは話し合いながら、荷馬車の設計図を羊皮紙に書いている。

 作るの大変そうだけど、出来上がったら物を運ぶのが楽になるねといって、二人は作ってみると言ってくれた。



 5日後、ようやく最初の糸車が完成。


 1つずつ作っているわけではなく、工程ごとに仕上げていっているので、数個が一度に完成している。最初の方はさすがに車の部分の加工が難しかったらしく、いくつか作り直しをしなければならなかったけど、みんなが諦めずにやってくれたおかげでいいものができたと思う。

 早速コペルが羊毛を紡いでいる。「こっちの方が簡単」ジュト兄が作った試作品よりも手直ししてあるので、使い勝手もよくなっているみたい。


 出来上がった物は村人に渡さないといけないのだけど、結局ある程度まとめて一緒に渡した方がいいということになった。というのも、ほとんどの村人が工房の建設や材料の調達に協力してくれているため、渡す順番を決めるのが難しそうだったからだ。その代わり、手伝ってくれた度合いに応じて価格を調整することにし、麦6袋の予定を3袋から5袋としたので、みんなも納得してくれると思う。



 その日の夜になって、おじさんがようやく家にやってきた。


「やっと落ち着いたよ。明後日にはコルカに向かおうと思うが、タリュフ達も大丈夫かい」


 ようやく新人研修が終わったのだろう、おじさんは疲れているみたい。


「兄さん、こちらの準備はできています。いつもお世話になって申し訳ないです」


 父さんとジュト兄はコルカにも定期的に往診に行っていて、隊商のスケジュールと合うときは一緒に同行している。同行すると移動の時間はかかるが、安全だし薬の販売にも都合がいい。


「構わないよ。薬師が同行してくれた方がこちらも助かるからね」


「実はもう1つお願いがあるのですが、今回ジュトの代わりにソルを連れていきたいのですが構わないでしょうか?」


「えっ!」


 思わず声が出た。初耳だ。工房の責任者の時もだけど、今度も父さんはいきなりぶっこんで来る。


「こいつは皆のためにいろいろとやってくれている。一度村の外のことも見せたいんだ。隊商のみんなの迷惑にならんようにさせるからお願いできないだろうか」


 父さん、ちゃんと見ていてくれているんだ。でも、前もって話してほしかったな。


「それは構わないよ。私の姪に手を出すバカもおらんだろう。それにソルとはじっくり話したいと思っていたから願ったりだよ。それよりもソルの方は大丈夫なのかい、聞いてなかったようだけど」


「私は……」


 少し考えるが答えは決まっている。


「よろしくお願いします。お邪魔にならないように頑張ります」


 これまでカイン村の外はバーシ村までしか行ったことがなく、コルカの町についても話でしか聞いたことがない。工房のことは心配だけど、情報がわからなければ決められないこともあるから、これはいい機会なのだと思う。勉強させてもらおう。



「……ところでソルの相談事とはなにかな」


 おじさんから言われて思い出した。急展開な話ですっかり忘れていたよ。


「えっと、おじさんの考えが聞きたくて」


 そう言い、荷馬車についての話をした。途中からジュト兄とユーリルが設計図を出して、どういうものができるかを説明していく。


「ふむ、これがあれば今以上にたくさん荷物が運べて、便利になりそうだね。ただ、行ける場所も限られるかな」


「どのあたりまでなら使えそうでしょうか」


 ジュト兄が聞いてくれた。


「コルカやカルトゥまでなら道が狭いところもないし、バーシの先の川も橋があるからそこを通れるはずだ。あとは道の石や木をなんとかできれば大丈夫だろう。ただ、その先は分からないね」


 おじさんの話によるとコルカやカルトゥまでは問題は無いようだが、カルトゥの先には大きな川があり、橋がないため渡し船を使わないと渡れないらしく、その渡し船も人と馬は乗れるが荷馬車は乗れないみたい。

 また、バーシから南に行くケルシーの町やカイン村の東のタルブクに行くには、途中山道を越えなければならず、道が狭かったり急傾斜だったりして、今のままでは荷馬車では通れない。

 コルカの北の街道はもしかしたら行けるかもしれないけど、途中に砂漠を通らないといけないので、その先は難しいだろうということだった。


 とりあえず、今回のコルカ行きで、本当に荷馬車が使えるかを調べながら行くということになった。このあたりで大きな町のコルカ、カルトゥまで荷馬車で行けるのなら、交易もかなり楽になると思う。


 話が進んでいるけど出発すると、20日くらい帰って来れない。急に決まったことだから、当然何も準備ができてない。明後日の出発までに工房の糸車やジュト兄とユーリルに頼んでいる荷馬車、栽培中の綿花についてもみんなにお願いしていかないといけないから大変だ。



 翌朝、工房に人が集まるのを待って話をする。


「おはようございます。皆さん今日も1日よろしくお願いします。そして、急な話でごめんなさい。私が明日からコルカまで行くことになってしまって、20日ほどいなくなります。そこで、その間はユーリルを代わりの責任者としたいと思いますが、構いませんか?」


「私は賛成」「ユーリルなら大丈夫だよ」


 よかった。反対の意見も無いみたい。


 工房ができて、まだ1週間たたないくらいだけど、ユーリルの真面目さはみんなもよくわかっている。我が家に来ても2週間ほどだけど、ユーリルは信頼して大丈夫だと思う。話を聞くだけでなく、ちゃんと意見も言ってくれ、私たちの間違っているところも指摘してくれる。そしてできないことはできないと断ってくれるので、安心してお願いすることができる。


 ユーリルには糸車がある程度完成したら、ラーレに協力してもらって、カイン村の人たちに糸車を配ってもらうように頼んだ。ラーレなら村人の顔全員知っているので、ユーリルのフォローしてくれるだろう。私が帰るのを待って配ると遅くなりすぎるからね。


 ユーリルには荷馬車もお願いしているので申し訳ない気もするが、本人も大丈夫だと言ってくれているので甘えてしまう。



 工房の件はお願いできたので、コルカ行きの準備を始める。

 ジュト兄によると、父さんから今回は私が行くことになるかもしれないということは聞いてたらしく、どうなるかギリギリまでわからないということだったので、薬や道具の準備は普段通りにやっていたみたい。だから、ジュト兄が準備してくれていた荷物の引継ぎを行い、コルカでの診療の手順を聞いていく。


 夕方近くにようやくコルカに行くための準備が済んだので、薬草畑にも行ってみる。昨日の夜のうちに、綿花と薬草畑の世話はユティ姉とテムスに頼んでいたけど、行く前にちゃんと見ておきたい。


 暖かくなってきて、綿花も急速に成長してきているように見える。これまでの様子では、生育は問題ないようだし、地球と同じようにこの地方でも綿花を育てることはできるということだと思う。



 それにしても、ほんの数か月のうちに色々なことが起こりすぎだよ。


 2つの世界を交互に経験できることを生かして、この世界をよくしたいとは思っていたけど、綿花育てて、工房ができて、人を雇って、コルカに行く。

 誰かの手助けをするつもりでいたけど、中心でやることになろうとは思っていなかった。どうすることが正解かは分からないけど、もちろんこうなったからには、できるところまでやっていくつもりだ。


 ふと山の方を見て思い出す。つい最近まで一緒にいたユキヒョウのカァルを。そう、この先で別れたんだよな。


 山に残されていた子供のカァルを、父さんが見つけてきたのが昨日のことのようだ。何年もの間一緒にいて、私とテムスとカァルはまるで兄弟のような関係だったと思う。山の神の使いであるユキヒョウ。いつかは山に返さないといけないのは分かっていたけど、急にその日が訪れた時、私は涙を堪え、何とかカァルを見送ることができた。


 あの別れを耐えることができたのだから、何とでもなるはずだ。


「カァル。私、頑張るからね」


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