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第15話 図書館での調べ物

 いつもの部屋で目覚めた僕は、空を見て散歩をあきらめる。梅雨も終盤で今日も雨だ。テラではこの時期に雨があまり降らないから、本当に気が滅入(めい)る。


 今日は期末試験の最終日。

 試験科目は英語と数学、僕は地球の言葉とテラの言葉と二つの言語を操れるから、バイリンガルと言ってもいいと思う。ただ、誰もテラの言葉を知らないのだけど……


 さて、朝食までの時間、少しだけど勉強しよう。



 学校までの道のり、いつものように竹下が声をかけてくる。


「おはよう。ようやく今日で終わりだな」


「おはよう。やっとだね」


「いつものように楽勝?」


「楽勝じゃないよ。ちゃんと勉強してるって」


「毎回テストの点数いいみたいだけど、医者にならなきゃいけないってわけじゃなかったよね」


「うん、兄貴が家を継ぐ予定だから、好きにしていいって言われてる」


「ふーん、もう何になるか決めてんの」


「まだだけど。竹下は家を継ぐの?」


 竹下の家は呉服屋さんで彼は一人っ子だ。


「俺の夢はサッカー選手!」


「小学生か! てか、お前サッカーしてないじゃん」


「いいツッコミ! さすが立花。俺と一緒にお笑いやろうぜ」


「はは、考えとくわ」


「まあ、それより、試験終わったら、どこか遊びに行かないか」


 少し考え答える。


「ごめん。ちょっと調べ物を頼まれてて、また今度な」


「まじかー。次は頼むぜ」


 ごめんな竹下。次は付き合うからさ。



 試験が終わり帰宅部の僕は、直接市民図書館へと向かった。


 経済学や歴史の本を読みながら、今のテラの状況を考えてみる。


 これから工房で糸車を作り、カイン村だけでなく周辺の町や村にも売っていく。

 今のテラの人たちは、いくら時間がかかっても、自分たちで使う糸を紡ぐために、紡錘車(ぼうすいしゃ)を使っている。もし糸車が使えるようになると、同じ量の糸を紡ぐための時間が少なくなるから、余った時間を機織(はたお)りや農作業などの他の仕事に回すかもしれない。

 すると、より多くの織物や農作物が作られるようになり、余った物は他の人に売ったり、分け与えたりすることになるはずだ。でも、村全体に糸車が普及したら、どの家でも同じように生産が増えてきて、村の中だけでは消費できずに、結果として物がだぶつく。

 余った物を交易に回すことができたらいいけど、荷物の運搬を馬やラクダに頼っている状態では、たくさんの品を一度に運ぶことができない。せっかく作っても捨てることになったのなら、生産する意欲は失われるはずだし、不満も募るかもしれない。

 そうなると、みんなにいい生活をしてもらいたいと思ってのことが、無駄なことになってしまう。


 結局、糸車を普及させるだけではだめで、その先のことも考えないといけないということだろう。


 今のテラの交易は、隊商の人たちが担っている。その方法は馬とラクダに荷物を積んで、自分たちは歩くというものだ。これなら馬が通ることができるところなら、どんな場所でも行くことができるけど、時間がかかるし何より量が運べない。


 糸車の件でせっかく車という物に気付いたのだから、利用しない手はないと思う。車を使って荷物を運べ、テラで実現可能なのは、荷車とか荷馬車とかだろうか。作れたとして、どんなところだと使えなくなるのか考えてみる。


 ・狭い道、ぬかるんでいる道は通れない。

 ・川は渡れない、橋が必要。

 ・砂漠は通れない、たぶん重さで埋まってしまう。

 ・急斜面は登れないし下れない、それを引っ張るだけのパワー(馬がかわいそう)と止めるためのブレーキがない。


 今思い浮かぶのはこんなところかな。

 つまり、カイン村の近くにその条件の場所が無かったら使えるということになる。ということで、図書館にあるフェルガナ盆地辺りの地図を見てみることにした。


 カインからコルカまではなだらかな下りだから行けそう。ただ、川があるな橋はあるのかな? ん、ここさえ越えれたらカルトゥも行けるかもしれない。でも、その先は難しそうだ砂漠になってるみたい。それに山を越える必要があるところは厳しいだろうな。道も狭そうだし、急斜面もありそうだ。


 ふむ、だいぶんわかったぞ。バーシの先にある川を渡れたらコルカやカルトゥまで行けそう。仮に橋が無くてもバーシまでは行けるし、もちろんカイン村の中では使える。ということは、作っても損はないということだ、交易がだめでも畑仕事には使えるからね。


 ならば、実際に荷馬車が作れるかどうかだ。


 関係しそうな棚やパソコンで検索してみても、探し方が悪いのか、作り方の本は見つけることができなかった。


 今の時代に荷馬車を作りたい人もいないか……さすがにニッチすぎるのかな。


 仕方がない、帰ったらネットで探してみよう。設計図が見つかるかもしれない。



 さてと、荷馬車を交易に使い始めた時の影響はどうだろう。


 仮に川が渡れてコルカまで行けるということになれば、これまで以上に物が運べるようになる。

 塩とかの必需品も流通が増え、値段も安くなるかもしれない。うん、塩の値段が安くなるとみんな助かると思う。……でも、そうなると単価が安くなって採掘している人の生活が苦しくなる? 扱う量が増えたら総額は増える?


 ……いくら本を読んでも、専門の勉強をしてないからわからないことが多すぎる。中学生が経済のことを予測するということ自体に無理がある。


 仕方がないけど、出たとこ勝負で行かないといけないかもしれない。


 諦めて帰ろうとして思いだす。


 それにしても、車という言葉があるのに実物がなかったのはどういう理由だろう。

 コルカ、カルトゥより先は砂漠地帯で、それ以外の場所は山に囲まれている地形だから、車が使いにくくて廃れていった可能性もあるけど、他の地域では平坦な場所も多いはずだ。

 他の場所で使われていたのなら、交易をしている人たちの中には話ぐらい聞いたことあってもおかしくない。それが無いってことは、ソルたちのわかる範囲では実物は失われているのかもしれない。

 もしかしたらおじさんたち行商人の人たちが言っている、海の近くには行くことができないことと何か関係があるのかも。


 これについてはいくらここが図書館で、歴史の資料が揃っていると言っても、原因を探すことができない。テラのことまで書いている本なんてないはずだから。


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