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第137話 シュルトから西へ

 数日後、シュルトでの用事を済ませた私たち三人は、エキムとサルディンの見送りを受け、西に向かって馬を進めた。


 シュルトからの道は東西と北に延びており、東の道は私たちが来たイル湖の方に続く道。北の道はシュルトを囲む山脈をかわした後、東へと進路を変え地球では中国の方へ向かう道となっている。私たちが進む西の道は、西へしばらく進んだ後、南へと行くそうで、それまでの間は起伏もないのどかな道を進むことになりそうだ。


「ほんと、忙しかったよね」


 私たちは馬たちを休ませるために、途中見かけた小川に立ち寄ることにした。


「大変だった。でも、サルディンが話を付けてくれたからうまくいきそうだよ」


 シュルトの周りでテンサイの栽培をすることは、サルディンに話をしたその翌々日には決まってしまったのだ。

 サルディンは私たちの話を聞いてすぐに早馬を出していたみたいで、翌々日には付近の村長さんが全員が揃い。すぐさま話し合いが始まった。私たちも事情を説明するために参加させてもらったのだけど、やっぱりサルディンの発言力は高く、ほぼ報告する形であっという間に終わってしまった。


 そのあとは時間が許す限り、ユーリルはテンサイの栽培方法や砂糖の取り方を教え、私とリュザールは市に行って行商人から、この世界のことについての情報収集を行っていた。


「これで、砂糖がこのあたりでも普及するようになるから、交易ももっと盛んになるよね」


「なあリュザール。交易といえば、大豆の目途もたったんだって?」


「うん、昨日会った東からの隊商が、見たことがあるって言っていたよ。次に見かけたら、サルディンに預けてもらうように頼んできた」


 やはりこういう行商人同士のやり取りは、リュザールがいてくれると頼りになる。


「それなら、リュザール達はシュルトにも定期的に隊商を出すことになるの?」


「うーん、荷馬車を使うならコルカ経由になるだろう。それならコルカの隊商に頼むかな。タルブクへの道も荷馬車が使えたらいいんだけどね」


 リュザールは他の隊商に取次ぎを頼むとそれだけコストがかかると言っていた。かといってカインから直接行っても、距離があるから隊員に負担がかかるのだ。

 もし、タルブクまでの道も荷馬車が使えるようになったら、馬に乗っての移動になるし、時間が短くなるので直接行くことも可能だろう。


「それで、昨日地球でも言っていたけど、やっぱり海の情報はなかったんだよね」


 昨日地球でみんなにも話したんだけど、市にいた行商人で海のことを知っている者は一人もいなかった。市にいた中で一番東から来た隊商の人たちも、村のおきてで川を下ったらいけないと言われていて、その先のことは知らないようだった。


「うん、誰も近くに行ってみた者はいないんだって」


「やっぱりテラでは海に行けないのかな……。川魚は食べたから、今度は海の幸も食べてみたい! ウニにアワビに伊勢海老!」


「……高級食材ばかりじゃない。地球でもめったに食べられないよ」


 誰も海に近づかないのは、理由も無くそうなっているわけではないと思う。いくら、おきてで決められていても、きっと試した人がいたはずだ。それでも近づいたらいけないというのは、本当に近づけない可能性が高い。


「そうそう、川魚と言えばこれはあいつらには内緒にしておくんだよな。昨日、凪と海渡に樹たちが言わなかったから、俺も話を合わせていたけど」


 市で魚の燻製を売っている商人を見つけた。種類はマスか何かだと思う。

 これからの道中食べる分と、リムンとルーミンへのお土産にと思ってたくさん買ったけど、どれくらい持つかと聞いてみたら、いつまでも大丈夫と言っていた。さすがにそれはないと思うけど、カインに着くまでもってくれたら、あの二人に食べさせてあげることができる。


「どれだけ日持ちするかわからないから、期待持たせちゃったら悪いし」


「まあ、多少悪くても、二人もこちらの人間だから腹壊さないんじゃないの」


 こちらには冷蔵庫もないし、普通に飲む水は生水だ。私たちは慣れているから平気だけど、樹の体ならお腹を壊すよなというものだって食べることがある。


「それでも、途中で腐っちゃたら持っていけないよ」


「それもそうか、ニオイがすごいやつを持ち運ぶのはごめんだよな。馬たちも嫌がるし。さてと、そろそろ出発するか」


 馬に乗りさらに西へと進む。


「ところでさ、ユーリルが生まれた場所ってどのあたりになるの? 近くを通ったりするのかな」


 ユーリルがいた隊商宿は、これから行く水が枯れたところにあったと聞いている。そしてユーリルが生まれた場所はそこからさらに北に向かったところと言っていたけど、どの辺りなんだろう。


「俺が隊商宿で働いていたのって、地球だとシムケントって都市の辺りなんだ。そこから北のアラル海の方に行ったところに草原があって、子供の頃はそこで暮らしていた。水が枯れた影響が出てないのなら、おじさんたちが今も暮らしていると思うけど、これからの時期はロシアの近くまで移動していたから探すのは無理かもね」


「ロシア! そんなに遠くまで……」


 タルブクのエキムたちもそうだけど、遊牧民の移動距離は半端ないよね。


「ユーリルがいた町まではどれくらいかかるの?」


「馬に乗っているから一週間くらいかな」


「その間には村があるんだね」


「うん、これから通る場所はね、南の山脈から川が流れているから水には困らないんだ。だから、川の近くには村があるよ」


「水があるなら、どうして水が枯れたところの人達は移住しなかったの?」


「それは、ここから先が乾燥地帯で人が住める土地があまりないからだよ。水があってもたくさんの人を食べさせることができないからね。人を受け入れちゃうと自分たちも飢えることになっちゃう」


 なるほど、それで水があって食べることに苦労しないところを探して、ユーリルたちもコルカまで逃げてきたんだ。


 もしユーリルがシュルトの方に逃げていたとしたら、たとえ竹下と同じように繋がっていたとしても、私たちが今のようにカインで便利な暮らしを送ることはできなかっただろう。


「ユーリルが来てくれてほんとよかったよ」


「何か言った?」


「ううん、なんでもないよ」


「ふふ、ユーリルがいてくれて、ほんとに助かるよね」


 おっと、リュザールに聞かれていた。


「うん、いなかったらお風呂なんて入ることできなかったよ」


 そういえば、もう一か月くらいお風呂入ってないな。サルディンの家で、体は拭かせてもらっていたけど、一度慣れちゃうとそれだけでは足らなくなっちゃうな。


「お風呂か……ねえ、ソル。ボク匂わない?」


 リュザールも気になるんだ。風花もきれい好きだもんね。


「気にしちゃだめだよ。お風呂に入れるまで我慢しないと」


「なあ、お前たちさっきから何の話してんの?」


 ユーリルにお風呂入りたいよねって伝えると


「俺がいた町の先になるんだけど、温泉が湧いているところがあるらしいから、そこ寄ってみようぜ」


 あるのは聞いていたし、いつかは寄りたいなって思っていたけど、これは期待できるかもしれない。


あとがきです。

「ソルです」

「リュザールです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「ようやく、シュルトでの用事も終わったから、やっとカインに戻れるね」

「うん、早く帰ってお風呂に入りたいよ。さっぱりしたい」

「ほんとだね。お風呂といえば、ユーリルは温泉があるって言っていたじゃない。リュザールはその温泉のことは何か知らないの?」

「ボクたちカインの隊商はだいたいコルカ辺りまでが縄張りで、遠くてもカルトゥまでだね。温泉があるところはコルカから北に行ったところだから、あの辺りはコルカの隊商が行くことが多いんだ。だから、話には聞いたことはあるけど、セムトさんも含めて隊商の人間は誰も行ったことは無いと思うよ」

「そうなんだ、それじゃどんな温泉かまでは知らないよね」

「知らないけど、気になるの?」

「うん、日本にはいろんな温泉があるでしょ。白濁した温泉やぬるぬるした温泉、それに熱かったりぬるかったり。こちらの温泉はどうかなって思って」

「あー確かに。いざ入ってみたら水だったっていうのは、嫌だよね」

「誰も知らない温泉。なんだか秘湯じみてきたぞ。ワクワクするかも」

「そういえば、樹もそういう番組よく見ていたよね」

「うん、温泉大好き。どんな温泉か楽しみになってきた」


「「それでは次回もお楽しみに―」」



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