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第135話 シュルトの村長さん

 道の周りには牧草地が広がり、あちらこちらに羊が見える。今の時期は芽吹いたばかりの新芽を食べることができるから、どの羊も丸々と太っているようだ。まあ、毛刈りの時期が来ると、どの子もさっぱりとしちゃうんだけどね。


「カインに雰囲気が似ているね」


 山に沿って川が流れ、その反対側には牧草地が広がって羊や馬がのんびりと草を食べている。山に囲まれた感じといい、カインに戻ってきたのではないかという気さえしてくる。


「このあたりは土地が豊かだから、たくさんの人が住んでいるよ」


「エキムたちはここに移住しようとは思わないの?」


 エキムたちが住むタルブクは、ここよりもはるかに自然が厳しい。冬の寒さは段違いなはずだ。


「確かに中にはそう言って移り住むやつもいるね。でも、戻ってくる者も多いから、結局俺たちはあの場所が好きなんだと思うよ」


 故郷が好きな気持ちに理由なんてないって聞いたことがあるけど、そう言うことなのかな。


「それに、俺の村のカルミル美味しかっただろう。多分あの味は俺の村でしか出せないんだよ。帰って来るやつもきっとあの味が忘れられないんだと思う」


 エキムの村では、羊や馬に栄養豊富な草を食べさせるために、わざわざ遠くの湖まで連れて行くと言っていた。それもあの美味しいカルミルの理由の一つなのかもしれない。


「みんな用心して! また来たみたいだよ」


 のんびりとした雰囲気を突き破るリュザールの叫び声!


 指さす方には、昨日と同じように馬に乗った人影が見え、こちらに近づいてくる。おそらく私たちのことを調べに来たのだろう。


「ねえ、エキム。シュルトはこの近く?」


「うん、あとちょっと行ったところ。シュルトには知り合いも多いから心配しないで」


 私たちはそのままシュルトに向かって歩き、馬に乗った人たちと相対することになった。






「おーい、俺だよー。エキムだよー」


 エキムは私たちの前に立ち、手を振る。どうも馬に乗っている人に見覚えがあるみたいだ。


 そして、やってきたのは男ばかりが五人。みんな馬を降りて、エキムを囲んで話している。


「あれ、もしかして……。この辺だったのかな」


 隣でユーリルが何か呟いているんだけど……。何がこの辺なの?


「どうしたの?」


「うーん、ちょっと行ってくる」


 そう言うとユーリルは、エキムたちのところに行ってしまった。


「もしかしてサルディン兄ちゃん?」


 兄ちゃん?


 ユーリルはエキムの正面に立ち、エキムの肩を叩いている少し小柄な男性に声をかけている。ユーリルって、確か一人っ子だったよね……。


「ん? …………ちょっと待て! お前、ユーリルか! 生きていたんだ!」


 これは、もしかしないでも感動の再会! なのかな?



サルディンと呼ばれた男性とユーリルは二人で話し出した。


「よかった! 俺心配していたんだぜ。お前がいた町は、水が干上がって誰もいなくなったじゃないか。こっちの方に逃げて来るものと思って、結構探したんだけどいないし、てっきり死んだものだと思っていた」


「うん、隊商の人たちに連れて行ってもらって、南のコルカまで逃げたんだ。そこでカインに連れて行ってもらうことができて、生き延びることができた」


 他のみんなも、黙って二人の再会の様子を見ている。


「そうかー。ほんとよかった。それで、カインからわざわざ何しに来たんだ」


 その時のサルディンの目は、これまでと打って変わって鋭い感じがしたのは気のせいだろうか。


「あ、それは俺が話すよ」


「ちょっと待ったエキム。何か事情がありそうだな。ここで話すのもなんだから、俺の家に着いて来てくれ」


 私たちはサルディンの案内でシュルトの町まで向かった。






「それじゃリュザール。俺たちは市を見て隊商宿に行っておくよ」


「みんなありがとう。あとから行くからよろしくね」


 町に入った後、隊商の人たちは本来の目的である、カインの工房の商品を売るために市へと向かって行った。


「それにしてもびっくりしたよ。サルディン兄ちゃんがこの町の村長(むらおさ)をしているだなんて」


 あの後挨拶したときに、エキムから聞かされたサルディンさん肩書は、なんと村長! 私たちが会おうとしていたその人だったのだ。


「それでユーリルは、サルディンさんと仲が良かったの?」


 私とユーリルとリュザールの三人は、前を歩くサルディンさんとエキムの後を付いて、サルディンさんの家まで向かっている。


「うん、サルディン兄ちゃんの隊商が来た時には遊んでもらったりしたよ。弟みたいだって言ってくれて、可愛がってもらっていたんだ」


 そうか、ユーリルは早くに両親を亡くして家族を失っているから、兄弟みたいだって言ってもらうことが嬉しかったはずだ。


「そんなに仲が良かったのなら、今回の話も簡単そうだね」


「リュザールのいうように、簡単にいったらいいんだけどね……」


 ……何か気になることでもあるのかな。




 サルディンさんの家に着いた私たちは居間に案内され、車座になる。


「まず、最初に行っておくけど、たとえユーリルのお願いでも聞けないものは聞けない。その時は済まないけど諦めてくれ」


 なるほど、たとえ知っている人からの頼まれごとでも、聞けないことがあるってことね。無理やりお願いするつもりもないけど、最初からこう言ってくれる人は好感が持てる。


「うん、サルディン兄ちゃんの性格はよく知っているよ。まずは、俺の話を聞いてくれるかな」


 ユーリルは私たちがここに来た理由を()()()()()()話した。




「なるほど、お前たちが砂糖の元になる植物を作らせようとしているのは分かった。でもそれがどうしてタルブクのためになるんだ?」


 そうそう、最初聞いてもわからないよね。タルブクと関係ない村が裕福になるばかりだと思うもん。


 さらにユーリルは説明を行う。


「ここで、テンサイを作るためには畑を使うよね。そして獲れたテンサイを砂糖に加工する人が必要になる。仕事が増えるから人が必要になって、ここに人が集まって来る。人が増えたら食べ物が必要になるから、もっと畑が必要になる。でも、畑はテンサイに使っているから増やせない。そうなると、牧草地を畑に替えるようになると思うんだ。そしたら、羊が減っちゃうからタルブクからも羊を買うようになるでしょう」


「なるほど、それもよくわかった。それで、お前たちはタルブクのためにどうしてそこまでやるんだ」


「これはねタルブクのためじゃないんだ。カインやカインがある地域のためにやってるんだ」


 そういって、ユーリルは干ばつで行き場を失った人たちが増えたことで、悪くなった治安の影響がカインのあたりにも出てきていること、その治安を改善させるにはカインの周りの景気をよくする必要があることを伝え、


「景気がいいところはどんどん人を受け入れて、子供を増やしてほしいんだ。そうしたら盗賊なんかは少なくなって、もっと住みやすくなる」


「……前からユーリルは頭がいいと思っていたけど、こんなに凄かったかな」


 改めて聞いてもよく考え着くものだと思う。

 ユーリルは劇的に景気をよくするためには、これまでにない需要を起こす必要があると言っていた。私が考えた糸車もその一つで、そのおかげでカインとその周りの村々の状態は改善し、どんどん人が増えて行っている。

 今度は砂糖を使って、さらに多くの地域をよくしようと考えていて、そのためにはシュルトの町の協力が必要なのだ。


「この話はすごくいいと思う。でも干ばつ以来このあたりの村は、何事も話し合って決めることにしているんだ。だから、俺だけじゃ決められないから少し待ってくれないか。それにしても、どうしてお前たちは、この場所でテンサイを作らせようと思ったんだ?」


「昔隊商宿にいた時に、このあたりの気候を聞いたことがあったでしょ。それがテンサイを見つけた時に栽培できそうだと思ったことが一つ。そしてもう一つがここは交易の中心になりそうだから、砂糖を普及させるのに都合がいいと思って」


「正直俺は驚いている。なあ、ユーリル。お願いがあるんだが、俺のところに来てくれないか。お前がいたら俺はなんだってできる気がする」


「ごめんねサルディン兄ちゃん。気持ちは嬉しいけど、俺はソルの力になるって決めているんだ」


「え、ソルさんと……」


 サルディンさんにじっと見られているんだけど、目力っていうか意志の強さを感じる気がして、なんかむずむずする。


「ユーリルはソルさんと一緒になるのか?」


「いやいや、俺にはカインに奥さんがいて、二人の子供がいるよ」


「そうだよな。ソルさんとじゃおかしいと思ったんだ。もちろん奥さんは年上だろう」


 ふふ、やっぱり昔からユーリルの年上好きは知られていたんだ。


「うん、よくわかったね。ソルはここにいるリュザールと一緒になることが決まっているんだ」


「そうか、それはめでたい。お前たちの話ももっと聞きたいから、今日は泊って行ってくれ」


 私たち四人はサルディンさんの家に、ご厄介になる事が決まった。





「それじゃ、ボクは市に行って隊商の様子を見て来るよ。それに魚があったら買ってくるね」


 あてがわれた部屋に行く前に、リュザールがそう言って出ていこうとすると


「なんだお前たち、魚が食いたいのか。ちょうどいい、さっき貰って来たんだが食うか?」


「「「是非!」」」


 ようやく魚にありつけるかも。


あとがきです。

「ソルです」

「リュザールです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「ようやく魚を食べられそう。リュザールはどんな魚だと思う」

「このあたりの情報は、麦がどれくらいとれるかとか、どの金属が手に入るかぐらいしかわからないんだよね。どんな魚がいるかすら知らないよ」

「そうなんだ。エキムはイル湖で干した魚って言っていたから、思わずアジの開きを思い浮かべたんだけど……」

「イル湖には海水ほど塩分が無かったからアジはいないよね。獲った魚のいる場所が淡水ならマスやフナ、コイそれにナマズかな」

「な、ナマズか。このあたりにいるのかな」

「さあ、どうだろう」

「干したナマズはちょっと想像できない……」

「美味しいかもよ」

「ドキドキの料理は次回ということで、次回更新のご案内です」

「次回のお話は第136話『魚の感想はみんなと共有しよう』です」

「「次回もお楽しみにー」」


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