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第133話 谷を抜けて

 翌朝、というかまだ朝にもなっていない時間。私は隊商の人から起こされて見張りにつくことになった。


「変わりはなかったですか?」


「ええ、静かなものでしたよ。でも気を抜いたらいけませんので、よろしくお願いします」


「わかりました。お疲れさまです。ゆっくり休んでくださいね」


 隊商の人を見送ると、代わりにエキムがこちらにやってきた。


「ふああ、おはようソル。よく眠れた?」


「おはよう。うん、ぐっすり眠っていたよ」


 これまではそこまで危険じゃなかったから、夜の見張りは1人で行っていた。でも、今日からは2人で行うことになっていて、この時間からは私とエキムが担当だ。


「それはよかった。俺はちょっとだけ寝苦しかったかな」


「朝になったら移動でしょ。大丈夫なの?」


「大丈夫、大丈夫。一日くらいなら寝てなくても平気だよ」


 私はエキムに、焚火の上で沸かしてあったお湯を使ってお茶を入れてあげる。


「はい、熱いから気を付けてね。それで、ここを出発してから目的地までどれくらいかかるの?」


「ありがとう。あと4日かな」


 あと4日もあるのか。


「あ、でもこの先の山を越えたら平地に出るんだよね。そこには村があるから隊商宿に泊まれるよ。だから見張りもあと2日やったらいいと思う」


 そっか、それくらいなら何とか頑張れるな。


 そのあとは、宿の周りを警戒しながらエキムに問題を出したりして朝を待った。




「おはようソル、エキム。何もなかったようだね」


 リュザールが起きてきた。少し早いけど、私たちの様子を見に来てくれたのかな。


「おはようリュザール、早いね。大丈夫だったよ。盗賊はいなかったみたい」


「おはよう。お茶入れてあげようか」


 私がリュザールにお茶を入れてあげようとしていると、ユーリルも起きてきた。


「おはようみんな。それでエキム、ソルと二人きりだったけど、どうだった?」


「二人きり……あ、ソルは女の子だった。忘れてた……」


「な、言ったろリュザール、大丈夫だって」


 とりあえずユーリルにゲンコツを落として、朝ごはんの支度をすることにした。





「それじゃリュザールは、私がエキムと二人でいるのが気になって起きてきたんだ」


 私とリュザールは隊商宿のかまどを借りて、いつものようにみんなの朝食を作っている。


「ごめんね。大丈夫だとは思ったんだけど、気になっちゃって」


「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。もし襲われても誰にも触らせるつもりはないから」


 ずっと修業は続けているから、大人数でこられない限り、誰も私たちには触ることもできないと思う。

 ただ、リュザール以外に私を触ろうと思う人がいるかどうかは別だけど……


「どうしたの、ソル。急に暗くなっちゃって」


「な、なんでもない。さあ、急いで作ろう、みんな待っているよ」




 出発の準備を整え、一夜をお世話になった村を後にする。


「結局魚食べられなかったね」


「ボクたちだけじゃ無理だったから仕方がないよ」


 実は、村のはずれの船着き場に使えそうな船は残されていた。でも、私たちの中で地球で船を使ったり、網を使って魚を獲った経験がある者が誰もいなかったので、無謀なことは止めようとなったのだ。


「そんなに魚が食べたいの?」


「うん、カインではまともに食べたことが無いから」


 水が濁って獲りにくいし、山の動物たちの食料を奪ってしまうとクマが村まで下りてくるかもしれないから、余程のことが無いと魚は獲らないんだよね。


「うーん、今度もあまり期待しないでよ。シュルトの町にもしかしたらあるかもしれない」


「「「ホント!」」」


 私たち三人はまた叫んでしまった。


 エキムによるとシュルトの町の北にも大きな湖があって、そこにも魚がいるらしい。運が良ければ市でその魚を売りに来る行商人に会えるかもと言っていた。シュルトに滞在中、リュザールの隊商の人たちは市で行商をするから、見かけた時は買ってもらうようにお願いしよう。





 その夜はユーリル、その翌日はリュザールが見張りに行ったけど、無事二人も切り替わることができていた。


 そしてその明くる日、谷を抜けた私たちは、三方を山に囲まれた平地へと出て、西へ向かって歩き出した。少し進んだところに村があって、そこには隊商宿があるらしい。


「その村も襲われているってことは無いのかな」


「大丈夫だよ。このあたりは村々が協力して見回りをしているから治安が安定しているんだ」


 へぇ、村が協力しているんだ。カインや近くの村でもやれないか調べてみてもいいかも。


「なあ、エキム。その見回りって自分たちでやってんの?」


「いや、今から行くシュルトの村長(むらおさ)がやり始めたみたいだよ」


 そうなんだ。シュルトの村長さんは周りの村からも信頼されているって言っていたけど、こういうところからなのかなあ。


「エキムはシュルトの村長のことはよく知っているの?」


「うん、俺がシュルトにいた頃、彼はまだ村長ではなかったんだよね」


 エキムが話してくれたシュルトの村長さんは、次男だから村長になる予定ではなくて元々は隊商に入っていたらしい。でも、お兄さんが病気で亡くなってしまって、代わりに跡継ぎになったということだ。

 年が若いのは、前の村長のお父さんも早くに亡くなってしまい、引き継がないといけなくなったからみたい。


「その頃は彼も隊商から引き上げてきたばかりでさ、俺と一緒に村長の勉強していたんだ。それに年も近いから、時間がある時には一緒に遊んだりしていたよ」


「それで、知らない人の話を聞かないというのはどうして? 隊商の人なら話を聞くのが大切なことくらい知っていると思うけど」


 リュザールのいう通り、隊商の武器は情報だ。些細なことからでも商売につながる可能性があるから、本当ならばできるだけ多くの人と話をしようとするはず。


「なあ、リュザール。このあたりを見てどう思う?」


「いい土地が広がっている。畑にしてもいいし牧草地もたくさんある」


 この平地に入ってから、私たちはなだらかな丘を下りながら西に向かって歩いている。右手には大きな川も流れているし、左手の山脈には万年雪が見えるからそこからも川が流れているのだろう。

 これだけ水があれば畑も牧草地もいくらでも作れるはずだ。


「だからかな、話を聞かなくなったのは」


 村長を引き継いで間もなく、このあたりで一番大きな町であるシュルトに、干ばつで困った村の村長が押し寄せてきたらしい。いくらこのあたりに土地があっても、急に来た人たちを食べさせるには時間が足りない。結局みんなを助けることができないから、最初から話を聞くことを止めてしまったそうだ。


「カインと同じような感じだったんだね」


 ユーリルのいう通り、私たちのところにも一時期周りの村から村長さんが集まってきて大変なことになった。私には助けてくれる仲間がいたから、その人たちの話も聞くことができたんだけど、断ることがわかっているのなら最初から会わなかったかもしれない。


「彼の性格ならみんなを助けたいと思っているはずさ。だからソルたちが持ってきた話は協力してくれると思うよ。あ、ほらあそこ。今日泊まる村だよ」


 エキムが指さす方には、夕日を背にいくつかの建物が見えた。隊商宿に泊まれるのなら見張りは必要ない。今日はゆっくりと休めそうだ。


 あれ? 何か近づいてきているけど大丈夫なの?


あとがきです。

「ソルです」

「ユーリルです」

「「いつもご覧いただきありがとうございます」」


「穏やかな場所だね」

「ほんと、ここまで下りてきたらだいぶん暖かいし、今朝は早く起きたから眠くなってきたよ」

「下りてきたって言ったけど、この辺りの標高はどれくらいなの」

「大体1200メートル」

「1200メートルってカインとそう変わらないね」

「でも、これまでが3000メートルとか2000メートルとかばかりだったから、かなり暖かく感じるよ」

「ん? 同じ標高ならどうしてカイン辺りじゃテンサイを作れないの?」

「あー、作れるかもしれないけど、カインの夏はほんの少し暑いんだよね」

「なるほど、それでカインでは、より標高の高い場所でテンサイの栽培をするようにしたんだね」

「そう言うこと。それに、カインばかりが裕福になってもいけないからね」

「さすがはユーリル。よくわかってる」

「ソルならこうするだろうな、ってことをやっているだけなんだけどね。さて、次回更新のご案内です」

「次回は谷を抜けた後に泊まった村でのお話です」

「次回もお楽しみにー」


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