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第129話 この子の名前は?

「お、ネコちゃん!」


 5月に入ってすぐの平日。学校を終えた僕たちは、バスには乗らずに斜面に作られた階段を下っている。今日の情報交換の集まりは、風花の家で行うことになっているのだ。

 どうしてバスの乗らないのかって? だって、歩いて下りてもバスに乗っても時間はそれほど変わらないし、この時期なら汗もたいしてかかないから、みんなと話しながら歩くのも楽しいんだよね。


「竹下はほんとに動物が好きだね。このあたりは猫が多いよ」


 階段の両脇には家が立ち並び、隠れるところが多いから猫にとっても居心地がいいのだろう。風花と一緒に歩いて帰る時があるんだけど、いつも何匹もの猫を見かける。


「お、遊んで欲しいの?」


 僕はそう言いながら、足元にすり寄ってきた一匹の猫の頭を撫でてあげる。そういえばこの子、初めて見るけど最近この辺に来たのかな。それにかなり人懐っこいみたいだけど、飼い猫かな。でも、そういう目印みたいなものはないな。


「なんかこの子、人に慣れてますね。僕たちが触っても逃げていきませんよ」


 階段の踊り場で、一匹の猫をみんなで撫でまわしている。普通なら嫌がって逃げ出してもおかしくはない。


「ネコちゃんもいいけど、カァルにまた会いたいよー」


 竹下はこっちでも相変わらずだ。


「カァルって、この前一緒に旅したっていうユキヒョウですよね。肉食獣だと思うのですけど、一緒にいて怖くなかったのですか?」


 凪の言う通り、肉食動物と寝食を共にするとか普通では考えられないだろう。


「うーん、トラとかライオンとかというより、大きなネコって感じだったから全く怖くなかった。むしろ慣れてくると甘えてくるから、あの大きさで飛び乗ってこられるのが大変だったかな」


 そうそう、カァルはじゃれついてくるんだよね。竹下は大変だったっていうけど、かなり嬉しそうだったのはそこにいたみんなが知っていることだ。


「なんですかそれ、まんま猫じゃないですか。ほんとに野生に帰れているんですか?」


 昔一緒にいたときも甘えてくることがあったけど、そのあと野生に戻れているから何とかなったんだろう。


「それじゃ、そろそろ行こうか。じゃあね、キミも元気でね」


 僕たちは遊んでくれた猫と別れ、階段を降りていく。





 階段を下まで降りて、博物館近くの道まで出てきた。風花のマンションまでもう少しだ。


「……なんかあの子付いてくるんですけど、ほんとに先輩たちの知らない子なんですか?」


 さっき別れたはずの猫が、なぜか僕たちの後をずっと付いてきているのだ。


「知らない、今日あそこで初めて会った。ねえ風花」


「私もよくこの道通るけど、見たことないよ」


「……どうしよう」


 このままついてこられても困るし、かといって追い返すのもかわいそうだし……


「なあ、樹。このネコちゃんってカァルなんじゃないの?」


「えっ!」


 カァルってそんなことあるの?


「いや、さすがにそれって……」


 僕たちの状況も普通ではありえないことだから、もしかするのかな。

 僕は付いてきている猫の前にしゃがみ込み、名前を読んでみる。


「カァル?」


「ニャ!」


 そう鳴くと、その子は僕の胸元に飛びついてきた。


 本当にカァルなの?


「えっと、どうしよう」


 カァルかもしれない猫は、僕の顔をぺろぺろと舐め始めた。


「とりあえず付いてくるんなら仕方ないじゃん」


「私のマンションは猫を連れていけないよ」


「僕の家も内科医院だから無理だよ。患者さんにアレルギーの人もいるし、海渡たちのところは?」


「僕たちの家は惣菜屋さんだから、動物は難しいです」


「じゃあ、俺の家! 持ち家だから猫飼ってもいいはず。ダメと言われても親を説得する!」


 急遽予定を変更して竹下の家へと向かうことになった。






「この子、行き先がわかっているんですかね」


 出発するときに僕の手から飛び出した猫(カァル?)は、先導してくれるかのように僕たちの前を歩き出した。


「案内してくれるのかもね」


 ふふ、シッポをご機嫌な様子で振っている。確かにこの前のカァルもこんな感じだった。


「それにしてもこの子、珍しい毛並みですけど飼い猫ではないんですか?」


 確かにいつも見かける猫たちとは違うな……ヒョウ柄っぽいのか。


「ねえ、竹下。飼うにしても、勝手に連れ帰っていいものなの?」


 竹下はずっとスマホをいじっている。


「今調べていたんだけど、迷子猫の掲示板にもSNSにもカァルの情報はないね。それに警察にも届けないといけないみたいだから、このまま付いてきてくれる。交番そこだから」


 もうカァルって呼んでいるし、竹下は本気で飼う気なんだ。


 僕たちは、すぐ近くにあった博物館近くの交番に立ち寄り事情を説明する。


「はい、届け出は受付けました。それで保護は君たちでやるんだね。一応保健所にも連絡入れないといけないから一緒にやっておこうね」


 優しいお巡りさんに教えてもらい、一通りの手続きは終わった。


「それにしても、いつの間におばさんたちに話していたの?」


 さっき、お巡りさんから尋ねられた時、竹下は親の了解はとっていると言って電話をかけてもらったのだ。


「カァルの写真をSNSで送ったら、その子はうちで飼うからすぐに連れて来いって」


 竹下の動物好きは親譲りなのかもしれない。






 竹下の家に付いた僕たちは、まずはおばさんたちの熱烈な歓迎を受けた後、この子をお風呂へと入れた。


「お風呂でもおとなしくて、ほんとにいい子だね。カァル」


 水を嫌がる猫が多いと聞いているけど、竹下の言う通りカァルはおとなしく洗われていた。そういえばユキヒョウのカァルも、沸かしたお湯で体を洗ってあげてた時も嫌がることは無かったな。


 お風呂できれいになったカァルは、竹下の部屋のいつもの場所に座った僕の膝の上でくつろいでいる。


「この子、当たり前のように樹先輩のところに行きましたよ。ソルさんだってわかるんですかね」


「うーん、どうだろう。しゃべってくれたらわかるんだけど、何とも言えないよ。それで竹下、名前はカァルなの?」


 僕が話したカァルという単語に反応したのか、この子はこちらを見上げてにゃあと鳴いた。


「ほら、そうだって言っているじゃん。自分はカァルだし名前もカァルだって」


 そうなのかなぁ。仮にそうだとしても、ここはテラではなくて地球だから一緒にいることはできない。


「ねえカァル、よく聞いて。カァルを僕の家に連れて行けないから、ずっと一緒にはいられないよ。でも、竹下は一緒に居てもいいって言ってくれているけどそれでもいいの?」


 そういうとカァルは僕の膝の上から立ち上がり、竹下のところまでとことこと歩く。そして膝に足をかけ竹下を見上げてニャ! と鳴いた。


「うおー、ありがとうカァル幸せにするからな」


 竹下は感極まってカァルと抱き上げているけど、急にそうしたら……


「ほんとあの時とそっくり」


 風花の言う通り、カァルに抱き着く竹下とそれを嫌がっているカァルの様子は、ユルトの中でユーリルがカァルに嫌がられていたのと瓜二つだ。


「それで、どうしてユキヒョウのカァルとこの子が繋がったんですかね。樹先輩何かしました?」


 何かって、そういえば……


「ユルトの中でカァルのぷにぷにの肉球触っていたら、いつの間にか朝になっていたことがあった。もしかしたらその時かも」


 動物までも繋げちゃうとか、これはほんとにシャレにならないよー


あとがきです。

「樹です」

「竹下です」

「「いつもお読みいただきありがとうございます」」


「ほんとにカァルなのかなあ」

「カァルだって、間違いないって、樹にはわからないの?」

「いや、まあ、そうじゃないかなという気はするけど、ユキヒョウじゃなくて猫だよ」

「まあ、確かにネコだったよな。ヒョウ柄の」

「ユキヒョウならカァルだと思うけど、猫だから何とも……」

「まあ、地球ではユキヒョウが少ないっていうのも関係しているんじゃないの」

「そうかなあ……」

「でもよかったよ、カァルがネコで」

「どうして?」

「だって、ユキヒョウなら家で飼うことなんてできないよ。ネコだからこそ一緒にいれる」

「それもそうか……カァルがカァルかどうかわからないけど、せっかくだから可愛がってあげようね」

「もちろん。それでは次回更新のご案内です」

「もう1話、猫のカァルのお話が続きます」

「それでは次回もお楽しみにー」


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